【ライヴアルバム傑作選 Vol.1】
1980年代のライヴハウスの
熱を見事に閉じ込めた
ライヴオムニバス盤の傑作
『JUST A BEAT SHOW』

『JUST A BEAT SHOW』('86)/V.A.

『JUST A BEAT SHOW』('86)/V.A.

あけましておめでとうございます。本年も当コラム『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』をよろしくお願いします。2023年からはコーナー内コーナーとして、【ライヴアルバム傑作選】と題し、邦楽アルバムの中から名盤の誉れ高いライヴ盤を紹介したいと思います(不定期ながら、月1作品は取り上げられたらいいなぁと考えています)。第1回は、メジャーデビュー前のTHE BLUE HEARTSが収録されていることでも知られているオムニバス盤『JUST A BEAT SHOW』をピック。

THE JUMPS・島が企画したイベント

歌詞カード内にも“Live Recorded at YANEURA(Shibuya) March 8th.86”とある通り、本作は1986年3月8日に渋谷屋根裏で開催されたライヴの模様が収められたものだ。4バンドがそれぞれ3曲ずつ収録しているので、ライヴオムニバスアルバムということになろう。“JUST A BEAT SHOW”とはライヴのタイトルでもあって、本を正せば、これが初めてではなく、ここに参加しているTHE JUMPSのヴォーカリスト、島掬次郎(現:島キクジロウ)が1982年、前々身バンドの頃に始めたものでもあり、それは[ビートバンドによる新しいムーブメントを起こすべくシリーズギグ]であったという。その後、THE JUMPSを結成するまでの3年間、ロンドンへ留学したり、それによって当時のバンドが活動休止状態となったりと、いろいろとあったようだが、イベントは継続していたということは、[新しいムーブメントを起こす]という精神は失われることがなかったということだろう。

1985年に結成されたTHE JUMPS は、これまた結成間もない時期のTHE BLUE HEARTSと出会い、島と甲本ヒロトらの提案で本作の制作が決定。島の呼びかけで4バンドが集まった。ただ、当初はLÄ-PPISCHではなく、ホルモンズなるバンドが参加し、1985年12月に一旦レコーディングは行なわれたというが、機材トラブルで録音は失敗。再度ライヴレコーディングが計画されるも、ホルモンズが解散してしまい、LÄ-PPISCHが参加することになったらしい。もともとLÄ-PPISCHは他3バンドとは面識もほとんどなかったそうだが、THE JUMPSとLÄ-PPISCHとは練習場所が隣同士であったことから声をかけられたのだとか。

さて、肝心のその中身は…というと──THE JUMPS とTHE BLUE HEARTSは結成から1年経ったばかりの頃。それまでシーンの中で孤立気味だった(らしい)LÄ-PPISCHは動員が伸びてきた頃であったという。その辺りも関係してか、どのバンドも若さ漲る演奏が収められている。以下、楽曲毎に私見を交えて解説していこう。(ここまでの[]はWikipediaからの引用。エピソードは本作のライナーノーツから抜粋させていただいた)

M1「美代ちゃんのハッパ」/LÄ-PPISCH
メジャーデビュー作『LÄ-PPISCH』でも1曲目に収録されていたナンバー(そちらでは曲名が“×××”となっていたが…)。ジャングル→モータウン→8ビートとリズムが目まぐるしく変化しながらも楽曲全体の勢いがまったく損なわれないという、バンドのテンションが見事に収録されている。イントロでのトランペットの響き、ソリッドなエレキギターのプレイも素晴らしいが、フロント3人が声を揃える♪S・M・O・K・I・N・G♪がとにかく最高。

M2「OLD O'CLOCK」/LÄ-PPISCH
「大きな古時計」(原題「Grandfather's Clock」)のカバー。タイムは2分ちょっとだが、LÄ-PPISCHがポップなスカバンドであったことを改めて思い出させてくれる。歌詞カードでは“聞き取り不可能”として歌詞が掲載されていなかったが、ほとんど♪LaLa…〜なのでその辺はあまり問題がないと思う。短い中にもコール&レスポンスの模様が収められているのはライヴアルバムならではといったところだろう。

M3「めがねの日本」/LÄ-PPISCH
ミニアルバム『ANIMAL BEAT』『ANIMAL II』にも収録されているので、初期LÄ-PPISCHを代表するナンバーのひとつと言ってもいいだろう。メジャー版とは歌詞が異なるが、《飛行機事故・疑惑殺人》《毒入りチョコに毒入りジュース》辺りのフレーズは当時の世相を反映していて、こちらのほうがベターな気はする。こちらもスカビートだがテンポは比較的ゆるやかで、こうした若干ダウナーな感じもLÄ-PPISCHの魅力であることが分かる。

M4「無気力な時代に生きている」/THE LONDON TIMES
軽快なビートに乗せたギターのカッティングとオルガンの音色が如何にもモッズ。中盤の♪Lan Lan Lan Lan〜のポップさもとてもいい。ブリティッシュビートの不変性を感じるナンバーということも出来るだろうか。彼らのアルバム『無気力な時代』(1986年)にも収録されている(以下2曲も同様)。メロディー、サウンドもさることながら、《やりたくもない仕事さ/なのに何故/作り笑いばかりしてるんだ俺》という歌詞は現代でも十分通用するはず。

M5「SUNSHINE GIRL」/THE LONDON TIMES
こちらもポップなロックンロールで、終始、鳴り続けているオルガンがちょいとサイケな匂いをさせていて何とも良い感じ。このタイトルで、メロディーも明るいにもかかわらず、歌詞が《いつも彼女は一人で/この暗い部屋の中で/物思いにふけっている/まるで死人のようさ》といい意味でギャップがあるわけだが、そこにロックを感じるところでもある。《俺達の世代は/何をやればいいのか?》というフレーズからは彼らの主張が一貫していたことも分かる。

M6「MONDAY TO FRIDAY」/THE LONDON TIMES
頭打ちドラムの勢いのあるビートが楽曲全体を引っ張る。若干リズムが走り気味な感じがしなくもないが、それもライヴならでの良さと好意的に受け止めたい。フェードインで始まりつつ、カットアウトしたように終わるのは何か理由があったのだろうけど、それにしてもここに収められたというのは、この楽曲のテンションが素晴らしかったから…に他ならないのではなかろうか。録音状態は粗いものの、アンサンブルの良さが十分に伝わってくる。

M7「ハンマー(48億のブルース)」/THE BLUE HEARTS
こちらとM8はTHE BLUE HEARTSがメジャーデビュー前に発表したシングル曲であり、本作にも収録されているということは、ともにバンドにとっては思い入れの強い曲であったのだろう。決して音がいいとは言えないけれど、ギターのカッティングが完全にマーシーの演奏であることを認識できるのがいい。《外は春の雨が降って/僕は部屋で一人ぼっち/夏を告げる雨が降って/僕は部屋で一人ぼっち》でのマーシーの歌声もやっぱりアガる。

M8「人にやさしく」/THE BLUE HEARTS
THE BLUE HEARTSを代表するナンバーであるだけでなく、日本ロック史における最重要曲のひとつと言っても過言ではない名曲中の名曲。やはり録音状態は決していいとは言えないけれど、そんなことはまったくお構いなしで、このテイクにも聴く人にビンビンに伝わってくる“何か”が確実にある。ヒロトがこの曲を作ったのは1984年で、自主制作盤の発表が1987年だから、公式に初めて「人にやさしく」を音源化したのは本作だったのである。

M9「未来は僕等の手の中」/THE BLUE HEARTS
こちらもいい意味でアルバム『THE BLUE HEARTS』の1曲目に収録されたバージョンと印象が変わらない。THE BLUE HEARTSの本質を再確認できると言えるかもしれない(M7、M8を含む)。《あまりにも突然に 昨日は砕けていく》辺りのフレーズは2020年代になっても通用することを思うと、普遍性を通り越して哲学を感じるところではなかろうか。同曲の初披露は1985年12月24日だったらしく、これはそこからわずか3カ月後の収録。

M10「NOTHIN' TO DO」/THE JUMPS
ビートロックというよりは、リズムやギターのカッティング、サックスの入れ方などすると、バンドの臨み方はニューロマ辺りに近かったと思わせるナンバー。そうかと思えば、Aメロでは日本的なメロディーラインも感じることができてなかなか面白い。個人的には《いらだちとあきらめだけが身体をしめつる》というフレーズに注目した。いつの時代も若者は憤りと焦燥感を抱き、それがロックの原動力となっていることを感じさせる。

M11「JUMPIN' STRAY ROCKER」/THE JUMPS
イントロから鳴るファンキーなベースラインが面白い。しっかりと疾走感はあるものの、この楽曲もまた単なるビートロックに分類されないことが分かる。ギターもシャープでいい。ボーカルやサックス、そして《走り続けるぜ》《叫び続けるぜ》という歌詞からはTHE JUMPSの身上だという“男臭さ、泥臭さ、人間臭さ”を感じるところではあるけれども、全体としてはそこまでどぎついものではなく、サウンドは案外洗練された印象もある。

M12「COOL NIGHT」/THE JUMPS
ベースもドラムも、そしてギターもM10、M11以上にファンキー。ある意味で、このアルバムの中で最も異彩を放つナンバーと言えるかもしれないけれど、個人的にはベストテイクに推したいほどの秀曲であると思う。勢いだけで迫るのでなく、哀愁感漂うメロディーを聴かせているところもいい。歌詞カードに掲載されているTHE JUMPSの紹介文に“早すぎたバンドであったかもしれない”とあるが、良くも悪くもそれに納得してしまう楽曲ではある。

OKMusic編集部

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