ロイヤル・オペラ《蝶々夫人》は日本
人リスペクトの改訂版~『英国ロイヤ
ル・オペラ・ハウス シネマシーズン
2022/23』開幕へ

英国はロンドンのコヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)で上演された、ロイヤル・バレエ団、ロイヤル・オペラによる世界最高峰のバレエとオペラを、東宝東和株式会社配給によって、TOHOシネマズ系列を中心とした日本全国の映画館で鑑賞できる人気シリーズ、その新章『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23』がまもなく開幕する。
このシリーズの魅力は、すべての上映作品に、人気の高い案内人による舞台裏でのインタビューや特別映像等が追加されており、そのボリューム感のある内容や迫力ある音響により、まるでライブ鑑賞しているような臨場感を味わえること。さらに、大スクリーンに映し出される細やかな表情や美しい映像を通して、ライブ以上の醍醐味さえ堪能できることだ。
今回の最新シーズンのオープニング第1作目は、2022年12月9日(金)~12月15日(木)に全国公開される、ご存じ《蝶々夫人》だ。プッチーニ作曲。明治時代の長崎を舞台に、アメリカ海軍士官ピンカートンの現地妻となった蝶々さんが、夫に捨てられ日本の社会から孤立し、ついには愛する息子まで奪われ……という悲劇を、イタリア・オペラならではの旋律美で余す所なく描き出した《蝶々夫人》。
ロイヤル・オペラ《蝶々夫人》 (c)2022 ROH. Photograph by Tristram Kenton
ただし今回の《蝶々夫人》は、私たちがこれまで見せられてきた代物と同じものだと考えてはいけない。というのも、ROHでは2021年から、レパートリー作品における人種差別的な要素を徹底的に見直す方針を打ち出したからだ。その一環として《蝶々夫人》も、近年の芸術分野に求められるアジア文化への尊重という課題を反映し、一年がかりで既存演出をアップデートを施し、改訂版が作られることとなった。そのために日本側代表のコンサルタントとして招集されたのが、舞台のムーヴメントを指導する上村苑子氏、衣裳デザイナーの半田悦子氏、ロンドン大学で日本近現代史の博士である鈴木里奈氏、そして、演出家・翻訳家の家田 淳氏(洗足学園音楽大学ミュージカルコース准教授)だった。
ロイヤル・オペラ《蝶々夫人》 (c)2022 ROH. Photograph by Tristram Kenton
この意義深いプロジェクトチームに参画した家田氏はこのほど、配給の東宝東和株式会社の公式サイトに「多様性の時代におけるオペラ」と題する、《蝶々夫人》の解説を寄稿(http://tohotowa.co.jp/roh/news/2022/12/06/kaisetsu_madama_butterfly/ )。その中で<劇場側の真摯な姿勢は、差別されてきた側の日本人の方が頭が下がる>と述べている。また、現場での様子は、<「20世紀初頭の西洋優位の価値観で書かれたこのオペラを、レパートリーに残しておくべきなのか?」というそもそも論に始まり、「バタフライ(蝶々さん)の家の使用人たちの姿勢や態度が卑屈すぎる。日本人を格下に置くような演技を修正すべき」「衣裳、メイクはできるだけリアルにしたい」といった提案が次々となされた>と当時を振り返っている。
その結果、時代的に間違った描写である“白塗りにチョンマゲ”や“長く引きずった着物”などは排除され、人々の所作も日本人から見て違和感のない自然で美しいものに仕上げられることに。家田氏曰く<こういった問題認識がなされ、劇場をあげて解決に取り組もうという姿勢、オペラ・ハウスもまた現代社会を担う一端であり、発信する作品は社会に対して責任があるという信条は学ぶべきことが多く、心から敬意を表したいと思う>。
ロイヤル・オペラ《蝶々夫人》 (c)2022 ROH. Photograph by Tristram Kenton
なお、『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23』での上映では、ムーヴメントの専門家・上村苑子氏が現地で稽古に参加し、歌手に和の所作を指導した様子や、鈴木里奈博士が当時の日本のバックグラウンドなどを解説する特別映像を見ることができる。
ともあれ、ROHが日本人をリスペクトし、日本人と共に丁寧に“アップデート”した日本人の物語を、どうして日本人として無関心でいられようか。リアルな全貌をあらわした《蝶々夫人》と、今こそしっかりと向き合うべき時ではないだろうか。
ロイヤル・オペラ《蝶々夫人》 (c)Bill Cooper, 2007

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