歌×踊り×殺陣満載のフレンチロック
ミュージカル『キングアーサー』日本
版の上演迫る~主演・浦井健治「もが
き続ける」役者の覚悟

フレンチロックミュージカル『キングアーサー』が、2023年1月12日(木)に東京・新国立劇場 中劇場で初日を迎える。
本作は中世の騎士物語として語り継がれてきたアーサー王伝説を基に、ドーヴ・アチアが音楽・脚本・歌詞を手掛けてフランスで誕生したミュージカル作品。世界各国での上演を経て、今回がついに日本初演となる。日本版には韓国の新進気鋭の演出家オ・ルピナを迎え、錚々たるキャスト陣が顔を揃えた。
その中で主演のアーサーをシングルキャストで担うのが、浦井健治だ。浦井は終始穏やかな表情で、本作に挑むひとりの役者としての想いを真摯に語ってくれた。
キラキラとドロドロの両面 誰もが憧れる物語が群像劇に
――最初に台本を手にされて感じた作品の魅力を教えてください。
エクスカリバー(剣)を引き抜いたがために王になるという、幅広く知られている騎士物語をフレンチロックの楽曲でミュージカルとして、今回ルピナさん演出のもと、日本初演をやらせていただく。そのメンバーに選んでいただいたことが光栄です。ミュージカル界でそれぞれの経験を持ち寄って集結したようなメンバーと一緒にできるのも、僕はすごく嬉しくて。自分たちの世代、先輩方、後輩たちも含め各々が持っているものを活かしながら、群像劇としてキャラクターに息を吹き込んでいくことになると思います。人間のリアルさのようなものが、キャスト一人ひとりの経験と重なって見える瞬間がきっとあるんじゃないかな、と。
――フランス版のミュージカルの映像をご覧になった感想は?
アクロバットがすごいです! もちろん殺陣もものすごい量がありますし、台本のト書きにも「死闘の末」とか「剣を交え」 とか書いてあって(笑)。そこにしっかり立ち向かえるような経験を積んだキャストが集結している中でアーサーを演じさせていただくのは、やはり光栄ですね。
――物語としてはどのような面白さがあると思いますか?
アーサーは王であると同時に、ひとりの普通の青年として描かれていると思うんです。王剣エクスカリバーの恐ろしさ、それによって影響を受けて崩壊する人々の様、人間のおぞましさや愚かさ、群衆の怖さ……今の時代に通ずるものが感覚的に描かれているので、共感することやハッとさせられることがあるかもしれません。人生一筋縄ではいかないけれど、でも人間ってきっと……という希望も感じられるような作品になれば。何よりもファンタジーであることがミュージカルの醍醐味だと思うんですよね。だからお客様にはキラキラしたものを観てもらって、でもそれだけじゃなくて人間のドロドロしているところも歴史劇として感じていただけるよう挑みたいです。
フレンチロック✕歌✕踊り✕殺陣「エンタメとして絶対に面白い」
――8月には製作発表が開催され、浦井さんは「♪魔法に導かれて」という楽曲を歌われました。実際に楽曲に触れて感じたことがあれば教えてください。
(キーが)高い!(笑) (伊礼)彼方と(加藤)和樹が歌った「♪奪われた光」なんて、かなりの高音でしたよね。日本語は滑舌的に異母音が多いので、どうしても口を開きづらい発声なんですね。それでのめちゃくちゃ高い音というのは、ハードルも高いなあと思いました。そういったことも各々の個性で乗り越えていけるキャストですが、自分はシングルキャストでもあるので、いかにその中を渡り歩くかが勝負でもあります。歌っていて楽しいし、フレンチロックは自分の声質に音色的には挑みやすい感触がありました。
――フレンチロックといえば、浦井さんは過去に『ロミオ&ジュリエット』に出演されていました。そのときに通ずるものもありますか?
重唱が特徴的だと思います。ギターサウンドの中でみんなで奏でていくので、荘厳さもありつつ現代的な音色です。とても耳馴染みのあるサウンド。派手な楽曲の中でアクロバットや殺陣が繰り広げられていくので、老若男女楽しめるミュージカルになるんじゃないでしょうか。題材もある意味オーソドックスなのでわかりやすいですし、お客様には観やすい作品だと思います。
これもひとつの日本のブームというか、時代なのかもしれませんが、『刀剣乱舞』を筆頭に、ビジュアルもこだわって歌も踊りも殺陣もあるような作品が増えていると感じます。今回のプロデューサーさんは『デスノート THE MUSICAL』からご一緒している方なのですが、『キングアーサー』という作品が新しい切り口のチャレンジになることを望んでいる気がするんです。日本が誇る文化である漫画やアニメを原作とした作品が増えてきている中、『キングアーサー』がひとつの起爆剤となれるように頑張りたいです。
韓国の気鋭演出家 オ・ルピナの演出は「リアリズム」
――演出のオ・ルピナさんとはどのように作品作りをしていきたいと思いますか? 
ルピナさんはエンターテインメントの中にリアリズムを徹底的に落とし込みたいようなんです。ビジュアル撮影でもウィッグは使わず、群像劇らしく一人ひとりの生き様として立つ姿を表現したり、なかなか攻めたビジュアルだと感じました。作品としても、人間の機微や変化していく様を大切に描きたいんだろうなと思います。
今日の歌稽古のとき、ボーカルの先生や音楽監督の方たちが台本を見て「薄くない?」と言ったんです。歌、歌、歌、ダンス、アクションという感じなので、実は文字量(台詞量)は決して多くはないんですね。だからエンターテインメントとしては絶対に面白いんです。そこをルピナさんはショーアップされたエンターテインメントとしてだけではなく、お芝居を重視することを目指していて、台本に書かれていないようなことを徹底的に落とし込んでくるんじゃないかなと。
実はルピナさんは『デスノート THE MUSICAL』の初演、再演のときに稽古場で僕を見てくださっていたんです。当時「あなたの二面性の演技が好き」とおっしゃってくださったので、彼女の持つ浦井のイメージを裏切りたいですし、超えていきたいですね。
――浦井さんは舞台作品でこれまでに王子や王の役を多く演じてこられています。演じてきたからこそ感じる、王座につく人たちに共通するものとは?
全員が通ずるのは、孤独であること、周りが全員敵になること、利用されてしまうこと。トップになると「王って何なの?」という疑問になっていくんです。それ程までに追い詰められるし、自分というものもままならない。王は人間として扱われないし、周りの人や自分の家族ですら変わってしまう。そういう状況になると、最終的には「何のために生きているんだろう」という問いに必ず行き着くんです。シェイクスピア作品の戯曲などを通じて、自分はそういうことをよく感じています。みんなが熱中する権力のおぞましさと同時に、王冠はもしかしたらハリボテなのかもしれないな、とか。今回の『キングアーサー』という作品でも、そういったことを感じると思います。富や権力を手に入れるとなぜ人は不幸になるのか、という問いかけをお客様に感じていただける人物構成ができたらいいなと思います。
舞台に立つからには「自分がやれることは徹底してやりたい」
――話は変わりますが、雑誌『悲劇喜劇』22年11月号でエッセイを寄稿されていましたね。
嬉しい反面、恥ずかしさや難しさ、そして文字で伝えることの素晴らしさを感じました。
――「仕事とプライベートは地続きでかけがえのないものだ」というお話が、浦井さんならではだと感じました。日常のふとした瞬間や出会いを大切にされていて、それが舞台上の浦井さんに繋がっているのだなと。
ありがとうございます。もう20年以上ミュージカルを中心にエンターテインメントに関わらせていただいています。仮面ライダーでデビューしたあとは、ほとんど舞台ですが、これまでに出会った人たちの存在は、僕にとってとても大きなものなんです。特に連絡をし合うわけではないけれど、何をやっているか情報を耳にしたり、お互いに刺激を受け合ったり称え合ったり、もはや当たり前にいてくれる存在なんですね。20年という年月は、今は世にいない先輩方と過ごした時間も含め今の自分を作っているものだった、ということもすごく感じます。そういう意味でも地続きにならざるを得ないんです。
よく「生まれ変わってもまた自分になりたい」と言う人がいますが、それちょっとわかるなあって。こんなに楽しいことをやらせていただいていいのだろうかって思うんです。そりゃあ舞台上では必死にもがいているんですけど、でもやりたいという意思だけでできることでもなくて、一生懸命役者を目指す人たち全員が舞台に立てるのかというと、残念ながら難しいですよね。なかなか舞台のお仕事に結びつくのが難しい世界で、なぜ自分が舞台に立てているのかと言われたら、支えてくださる周りの方達と応援してくださるファンの方にただただ感謝だなと思います。自分がやれることは徹底してやりたい。そう思いながら、舞台の上に立たせていただいています。
――2022年は『笑う男』、『ガイズ&ドールズ』、『COLOR』とミュージカル中心の1年でした。今年の振り返りとこれからに向けた意気込みをお願いします。
時には公演中止になることもありましたが、いろいろな経験をさせていただいた1年でした。その中で課題もいっぱい見つかったので、自分の目の前に「これをクリアするぞ」という次に繋がるハードルを置けたなと思うんです。それをクリアしたら「さあ次へ」と歩みを進められる気がするので、これからが楽しみでもあります。みなさまの期待に応えられるよう頑張っていきたいです。
◆ブルゾン(meagratia) 59,400円・パンツ(meagratia) 57,200円・シャツ(Et baas) 18,150円・シューズ(meagratia) 55,000円/Sian PR 03-6662-5525
◆スタイリスト:吉田ナオキ
◆ヘアメイク:山崎順子

取材・文=松村 蘭(らんねえ) 撮影=荒川潤

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