L→R 沖井礼二(Ba)、清浦夏実(Vo)

L→R 沖井礼二(Ba)、清浦夏実(Vo)

【TWEEDEES インタビュー】
どんなポップスを作ればいいかを
深く考えさせられた結果のアルバム

アルバムに必要な何かが
まだ足りていない感じがあった

お話ししていただいた切実さが、この『World Record』には詰まっていますよね。甘美で夢心地な印象を受けたと最初にお伝えしたのですが、現実逃避できるみたいな意味で言ったわけでは決してなくて、むしろ信じがたい恐慌が続いている世界と向き合って、それをまるで空想のようだととらえたからこそ、こういうドリーミーかつリアリティーのある不思議なバランスの作風になったのかもしれないとか。いろいろと想像力を掻き立てられました。

沖井
ありがとうございます。最初におっしゃってくださった感想って、まさに我が意を得たりで嬉しかったんですよ。さっき話したとおり、もっと夢を信じられる音楽を僕らはお届けしたかった。すなわち、今までよりもさらに強い気持ちのもと、かなり意図的に甘美なサウンドを作ったんです。それがちゃんと伝わっていたのは本当に良かったなって。

そう言っていただけてホッとしました(笑)。「Day Dream」はタイトルの印象に反して現実味がすごく染みてきます。《朝の喧騒 改札を抜けて》《突然 目が覚めるような/喜びがあると信じて生きていく》《愛してるよ/どこにいても》と歌っていたりするので、自分たちが生きているこの世界に想いを馳せられる曲だなと。

清浦
特に「Day Dream」はリアリティーを持たせた曲にしたくて、バンド内コンペみたいな作り方で沖井さんと私が別で歌詞を書きつつ、バチバチやり合って仕上げました。やっぱり“今書かなきゃいけないことってあるよな”と思っていて。シリアスな日々にも寄り添える内容にしたかったし、それ以前の置き去りになってしまった夢の存在もちゃんと記録しておきたかったんです。「meta meta love」の《瓦礫の戦場》も戦争を受けて出てきた言葉だし。この4年で起こった世界の動きに対する自分の想いは歌詞に反映させたので、そこを感じ取ってもらえたら嬉しいですね。

コラボ曲においても、そういう意思をしっかり表現されている?

清浦
コラボのテーマからはみ出ないように、自分たちの思っていること、感じていることを混ぜ込んでいきたいっていうのは、今回の制作ではすごく意識しました。
沖井
楽曲提供という感覚ではなく、僕らが参加するような意識でコラボはやっています。完全に寄せてしまったら期待に沿えないと思うので、TWEEDEESとしての軸足は絶対に離しちゃいけないんです。
清浦
お題に対してバットを振っていく作業がこのアルバムは多かっただけに、振りきろうと思えばいくらでも振りきれたと思っていて。作品に寄ってしまうような心配も当初は少しあったんですけど、私が歌って沖井さんが曲を作れば意外とどんな世界にも飛び込んでいけるんだなと。そう再確認できたのは大きかったですね。
沖井
いろんな気づきがありました。
清浦
この4年はそうですよね。サブスクの反応も徐々に盛り上がり出して、リリースの考え方みたいなものが変わってきてもいて。「ルーフトップ・ラプソディ」は以前だったらシングルを切るような曲ではなかったけど、今は配信で思ったより聴いてもらえる感じがあったりもするので。ワルツ調の曲がいろんなプレイリストに入ったのは、すごく新鮮で不思議な現象だったなー。
沖井
いろんなタイプの曲をフラットに受け入れてもらえる感じだよね。もしかしたら、サブスクというサービスが本来あるべき音楽の楽しみ方に戻してくれつつ、聴き手の自由をより解放してくれているのかもしれないです。

「ルーフトップ・ラプソディ」と「二気筒の相棒」は、TWEEDEESがマンガの中にも登場したという『国境のエミーリャ』とのコラボ曲ですが、これもまさに参加型の面白い仕上がりですね。

沖井
池田邦彦先生の作品は昔から好きで読んでいたんです。それでSNSを通してちょっとしたやりとりをさせていただくようになった中、僕が“押しかけサントラみたいなものを作らせてもらってもいいですか?”と訊いたら、向こうも快いお返事をくださって、コンセプトミニアルバム『国境のエミーリャ』(2021年12月に配信リリース)につながったっていう。なので、コロムビアと小学館の間でスタートした話ではないんですよ。
清浦
大人の都合とかじゃなくて作家同士が純粋に好きという感情で生まれた、本当に幸福なコラボで。
沖井
先生もおっしゃっていたんですけど、『国境のエミーリャ』という漫画は偶然にもコロナとともにあるような位置づけの物語になっていて。そうした作品と密接にかかわれたことも、なんだか不思議な感じがしてますね。
清浦
世界の分断を描いた作品が、期せずしてコロナ禍に連載されているんです。

「二気筒の相棒」の歌詞には、『国境のエミーリャ』作中の固有名詞がかなり大胆に使われていると感じました。

清浦
この曲は沖井さんがかなり攻めたアプローチの作詞をしましたよね。
沖井
コンセプトミニアルバムの一曲でもあるし、現実世界と重ね合わせられる部分が多々あるマンガですから、「二気筒の相棒」はあえて作品の要素を満載にした方向で行こうと思って。
清浦
漫画を読んでいない方はどんなふうに感じるんだろう?
沖井
知らない単語を検索しながら聴いてくれたりするのかも!?

曲がきっかけで漫画を読んでみたくなるんじゃないですかね。

清浦
そう思ってくれたら嬉しいです。TWEEDEESも聴いてほしいし、『国境のエミーリャ』も読んでほしい!

アルバムの印象を決定づけたような曲はありますか?

沖井
名刺代わりになるのはリード曲の「Victoria」ですね。アルバムの1曲目は毎回とても気をつけて作りますし、これは制作の最後に作った曲なので、4年間でさまざまな経験をした末の心象が曲にも歌詞にも分かりやすく出ていると思います。紆余曲折あってここに辿り着いた感じが。
清浦
沖井さんがひたすら曲を作ってくれていたんですけど、どうも暗い方向に行きがちで。“今出すべきものはこうじゃない!”と私が伝え続けていたので、完成するまでにわりと時間はかかりましたね。制作の終盤において、アルバムに必要な何かがまだ足りていない感じがあったんですよ。“これじゃダメなの?”みたいな言い合いもしながら粘っていて。
沖井
この人が譲らないわけですよ(笑)。
清浦
でも、粘って良かったと思います。そう訴えた末に作ってもらえたのが「Victoria」なので。

「Victoria」は《喜びの歌で満たせよ空を》と締め括られますけど、そうやって希望に向かうような言葉や曲調が清浦さんの欲していた要素だったのかもしれないですね。

清浦
おっしゃるとおりで、音楽って相手がいてのことじゃないですか。聴いてもらったり、共鳴し合ったり。私はきっとそれを訴えたかったんですよね。沖井さんは箱庭をひとりで楽しく作り上げるのが得意な人だと思うんですけど、今必要なのはもっと一対一の意識なんじゃないかなって。うまく言えなかった気もしますが(笑)。
沖井
僕は暗い曲だと思って作っていなかったりするし、知らず知らずのうちにそういうモードになってしまっていたのかもしれないし、もしくはピアノのメロディーだけでリズムも入っていない簡素なデモがしっとりと聴こえたとか。自分ではよく分からない部分ですけど、どうにかお互いに納得のいく曲ができました。

アルバムを締め括るバラード「Hello Hello」はどんなことを考えながら作った曲ですか?

沖井
これは2年くらい前の春、コロナ禍が始まって間もない時期に散歩をしていたことがきっかけでできた曲なんです。だんだん温かくなってきた頃で、ロックダウン的な状況であろうと散歩の楽しさは変わらず。で、近所の公園に行ったら、2歳くらいの子供とその親が砂遊びをしていたっていう。あるべき風景がそこにはあって、なんだか日常の喜びを見た感じがして嬉しくて。そこで出だしの《Hello, Hello, Dear World》までのメロディーが言葉ごと出てきました。Bメロが生まれるまでは苦労したけど、シンプルゆえに強い曲になったと思っています。
清浦
やっぱりアルバムの最後の曲も希望であり、未来に対して余韻を残せる終わり方にしたかったんですね。“この先に楽しいことがあるかもしれないよ”“部屋の中で窮屈にしている場合じゃないよ”っていうメッセージも伝えたかった。沖井さんもそうでしたけど、塞ぎ込んでしまった方は本当に多かったはずだから。光のような温かみを言葉で紡げたらと思って歌いました。
沖井
確かにそうだよね。この流れで思い出したけど、僕は作詞のやり方が今回変わったんですよ。iPhoneだけ持っていって、深夜の公園で作るようになりました。
清浦
こ、怖いんですけど(笑)。
沖井
「Victoria」も「GIRLS MIGHTY」もそうやって書いたよ(笑)。
清浦
そうだったんですか!? 窮屈な部屋を抜け出したんですね。
沖井
今までで一番いいやり方かもしれない。すごく集中できるんだよね。一日かけて考えてたのが2時間で書けたりするから。

作り方の変化もたくさんあって、本当に濃厚なアルバムができましたね。

清浦
これまでとは違う質感のアルバムが作れたのは間違いないですね。
沖井
“俺の魂を聴いてくれ”という音楽もひとつの在り方ですけど、TWEEDEESがすべきこと、自分たちがTWEEDEESに求めていることはそれじゃないわけで。以前のエンタメがリアリティーを奪われてしまったコロナ禍において、我々がどんなポップスを作っていけばいいのか、どんなエンタメを発信していけばいいのか、どんなふうに物事を楽しんでいけばいいのかを深く考えさせられた結果の作品だと思います。

そして、年明け1月9日にはアルバムを引っさげた新春ワンマンショーが、TWEEDEES初となるBillboard Live TOKYOで開催されますね。

清浦
TWEEDEESの結成当初からライヴをやってみたいと思っていた会場のひとつだったんです。
沖井
“やりたいハコってどこだろう?”って話をした時に名前が挙がっていたんだよね。
清浦
7年かけてそのステージに立てるようになったのは純粋に嬉しいことですね。食事もお酒も美味しいところですし、我々の新曲もかなり熱々な状態に仕上がっているので、楽しいライヴができるんじゃないかと思います。
沖井
空間としても素晴らしくて、どの席からもステージがすごく近いんですよ。お客さんは視覚的に楽しいだろうし、僕もそういった場所でライヴをやれることが非常に嬉しいです。

取材:田山雄士

アルバム『World Record』2022年12月3日発売 日本コロムビア
    • 【CD】
    • COCP-41930
    • ¥3,300(税込)
    • 【アナログ】
    • COJA-9477
    • ¥4,620(税込)

ライヴ情報

『おしゃべりTWEEDEES vol.3』
12/17(土) 東京・LOFT9 Shibuya
第一部:開場11:30/開演12:00
第二部:開場14:30/開演15:00

『TWEEDEES World Record Revue』
[2023年]
1/09(月) 東京・ビルボードライブ東京
1stステージ:開場15:30/開演16:30
2ndステージ:開場18:30/開演19:30

TWEEDEES プロフィール

トゥイーディーズ:2015年に結成され、同年3月に1stアルバム『The Sound Sounds.』を発表。16年7月には2ndアルバム『The Second Time Around』、17年6月にはミニアルバム『à la mode』をリリースした。ポップスとロックの王道を貫く高い音楽性とファッション性を持ち、等身大のフレンドリーなキャラクターで臨むライヴにも定評がある。TWEEDEES オフィシャルHP

ビルボードLIVE東京お座席見学ツアー

アルバム『World Record』ティザー

OKMusic編集部

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