ReoNaが駆け抜けた回り道という名の
最短距離 ツアーファイナル 総括レ
ポート

2022.11.18~19(Sat/Sun)『ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 "De:TOUR』STANDING -歪-"/SEATING -響-@Team Smile - 豊洲PIT
2つの世界はそれぞれ確立しながらも、鏡写しのようにお互いを見つめていたような気がする。
来る来年3月、ReoNa初となる武道館公演への「まわり道」と称したツアー『ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022 "De:TOUR』がその幕を閉じた。自身最長10都市16公演で、STANDING -歪-"、SEATING -響-"という2つのコンセプトで同時に全国を回ったReoNa。
経験値を積みたい、と初日に言っていたが、改めてファイナルとなる豊洲PIT2daysを見る限り、その願いはっていると思えた。両日とも後ろまでしっかり埋まったフロア、響はオールシーティング、歪はオールスタンディングなので密度こそ違えど、面白かったのは環境で観客の熱量が違う形で放出されるというのを肌で感じられたことだ。
両ライブ全16曲を歌い切るも、セットリストのかぶりは僅か4曲。2つのライブツアーを同時に展開していると言っても過言ではない今回。響は開演まで着席して静かに溜め込まれた熱が、ステージに向かって点で放たれるのに対して、歪は熱量が万雷の拍手と共に会場中に放射されるように展開されていたのが興味深かった。どちらも同じReoNaのお歌に対する熱には変わりはないのに、環境がライブそのものを変えて、彩るのだと改めて実感させてもらった。
会場BGMも、同じエド・シーランを使ってはいるが、入場前、響は「The A Team」、歪は「Castle On The Hill」。導入から雰囲気を変えながらも、変わらずReoNaはステージの中心に立つ。
今回は両ライブをあわせてのライブレポとなるので雑感が多めになるのだが、まずツアーを超えて一番感じたのは、ReoNaの存在感だ。数々のホールライブも経験してきた彼女だが、ステージに立った瞬間、今まで以上に全てを「ReoNaの世界」にしてしまう感覚が恐ろしく増していた。声の説得力、踏んできた場数、経験のすべてがReoNaを強いシンガーへと仕立て上げている。
響の一曲目はReoNa楽曲の中で最もポップネスな「ライブ・イズ・ビューティフォー」、歪は最も攻撃的なロックチューン「Independence」。両極端とも言えるこの二曲でライブは幕を開けた。端的に彼女自身の成長を感じることの出来たツアーになったと思うが、そう強く感じられるシーンがいくつかあった。
響ではデビュー曲「SWEET HURT」を前半で披露したが、歌唱力、表現力はそのままだが、いい意味であの時の青臭さも残した歌唱。原点を捨てているわけではないと感じられたと思ったら、「ネリヤカナヤ~美ら奄美(きょらあまみ)~」「まっさら」「生きてるだけでえらいよ」の三曲の畳み掛けは素晴らしかった。地元奄美大島を歌いながらも、広大なスケール感をファンタジックに感じさせる「ネリヤカナヤ~美ら奄美~」、そこからReoNa楽曲の中で屈指の“生”の歌である「まっさら」という生命力を感じるバラードが続く、その後に来る「生きてるだけでえらいよ」は転じてミニマムな世界観を切り取った意欲作だ。
荒幡亮平がキーボードで奏でる不安定な踏切音と「通りゃんせ」の導入から、語るようにとつとつと唄うReoNa。上手く生きられない何処かに居る、何処かの女の子のある日の日記のような言葉は、何処にでもある出来事だからこそ、まるで自分のことのように刺さってくる。
圧倒的なマクロな視点からミクロな心情までをシームレスに展開していく事ができるのが今のReoNaの強みだ。まるで自分のことのように響く音楽が会場を包む。歌い終わったあと拍手の一つもなく、完全な静寂のまま次曲「Lost」に展開していったのは圧巻だった。無言だからこそ感じる共感。稀有なものを見たと心底思う。
転じて歪では「ないない」「生命線」という今のReoNaを形成しているパーツとも言える強力なタイアップ二曲から、ギターの山口隆志とCO-Kによるギターセッションから始まる「step,step」歪バージョンという三曲の躍動感が中盤をボトムアップするように展開されたのが印象深い。
前半が「Believer」「Disorder」などの破壊力のある楽曲たちから、ここでReoNa自身の持っているレンジの広さをちゃんと伝える展開のあるセットリスト。三曲ともライブ感をたっぷりと含んだパフォーマンスは、音源を聴くだけではわからないゆらぎや圧を感じさせてくれた。
この中盤パートのあとに展開された曲たちの中で、響の「Lost」歪の「forget-me-not」というのは、ReoNaというシンガーを紐解くには重要な楽曲たちのような気がする。
ReoNaはデビューから一貫して「絶望系アニソンシンガー」を謳っている。だがReoNaというシンガーはアニソンだけではなく、JPOP、そしてカントリーミュージックを含む大陸系RCOKの三本の軸を持っていると僕は思っている。
「forget-me-not」はTVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のエンディングテーマとして世に放たれた一曲だが、この曲はアニソンとしての流儀を守りながら、実のところかなりReoNa自身のパーソナルに寄り添った割合の多いものだと感じている。
更にこの曲はベースとしてポップス要素が多分に含まれている。だからこそ恐ろしく聴きやすい、耳からすっと情報が入ってくる。このポップネスに裏打ちされたメロディの良さがまずReoNaの武器の一つだ。
そして「Lost」全編英語詞で歌われるこの曲は繰り返すピアノの展開にかぶるしっかりとしたドラムとギターサウンドが心に残る一曲。以前ツアータイトルに「These Days」を冠したこともあるし、ReoNa自身も洋楽のカバーを行ったり、洋楽的なアプローチは常々行っている。骨太なサウンドも歌いこなせるのがもう一つの武器、これにアニソンという彼女自身がメインフィールドとしているもの、この3つをアンバランスにさせずに届けることが出来るのは、「絶望系」というReoNaにしか持てない信念があるからなのだろう。
デビュー当時から歌われている「トウシンダイ」のやりきれない絶望も、「猫失格」で歌われる猫の一生になぞらえた軽やかな日々の絶望も、ReoNaはその身にまとった過去と現在をふんだんに使ってお歌として僕らに伝えてくれる。
それを自分の経験に重ねて思いに馳せるも、他人の言葉として考える要素にするも、単純にメロディと歌の魅力に酔いしれるでも、それは自由でいいのだ。「ALONE」で彼女は「どこにいたっていいだろう」と歌っている。そういえば響で奏でられた「ALONE」はアコースティックギターを奏でながら伸びやかに歌っていたReoNaがとても印象的だった。今まで歌われてきた中で、一番自由な「ALONE」だったような気がする。ハードなツアーを超えてきた経験だろうか、それとも少しの安堵だろうか。
ここからの三曲は両ライブ共のセットリスト、「Someday」「Alive」「シャル・ウィ・ダンス?」。傘村トータによる珠玉の一曲「Someday」は日々まとわりつく絶望を描いた曲。「夜明けが綺麗だって震えたことは結局一度もなかったけど」という歌詞で表される、抱えてしまったものを打ち明けられない辛さをとても美しく描いている。ReoNaは言葉言葉一つをしっかり捉えながらこの曲を歌い上げてきた。共感を感じさせるからこそ、自身の大一番となる武道館のサブタイトルに、この歌の最後の歌詞「逃げて逢おうね」を用いているのではないだろうか、今ReoNaから一番伝えたい言葉がこの一言だと強く感じた。
「Alive」はTVアニメ『アークナイツ【黎明前奏 / PRELUDE TO DAWN】』の主題歌。圧倒的なスケール感のバラードだが、アークナイツという作品に触れていれば居るほど、この曲が世界観そのものを描いている曲だと感じられる一曲だ。アニソンであり、大陸的なサウンドで奏でられる珠玉のポップス。先に話したReoNaを形成する3つの軸が高次元で組み上げられたお歌をReoNaは全身を使って歌い上げる。
深く身をかがめ、溜め込むように、そこから伸び上がるように手を広げ歌うReoNa。初めて彼女のライブを見たときとは別人のようなパフォーマンスに感嘆する。あの時「ガラスの槍のようだ」と形容詞した彼女の歌を、今なんと言って表したらいいのだろう?考える間もなく繰り広げられるお歌にただ身を任せる。
「シャル・ウィ・ダンス?」もTVアニメ『シャドーハウス』セカンドシーズンOPテーマ曲だが、ReoNaが初めて踊ることを選んだ曲。「最後まであなたと一対一、この長く続いたDe:TOURももうすぐ終わり、せっかくだから、一緒に踊りませんか?」と語りかけ、シャドーダンサー二人を横に従えて歌い出す。
ビックバンド的なリズムに乗せて軽やかに踊りだした瞬間、観客席も合わせて踊りだす。響では着席したまま手振りを、歪では軽く体を弾ませながら客席全体と一緒に踊る姿は、ツアー初日以上の勢いを感じた。
ツアーを越えて、歌い続け、踊り続けたことで浸透したこの楽曲のパフォーマンスを見て、ReoNaが紡ぎ続けてきた共感というものが、形になったと実感した。みんなReoNaが好きなのだ、つらい思いを代弁してくれる、素晴らしいお歌を届けてくれる、どこか儚げで美しい女の子のことを好きだと誰もが伝えたいと思っているのだ。共に踊ることで、空間と時間を共有することで、思いを伝える。感動的な瞬間だった。
ライブも最後半。アンコールのないReoNaのライブでは出し惜しみをしている余裕はない、それを伝えるように、響では「Scar/let」歪では「JAMMER」と強力なチューンを持ってきたのはReoNaからの強いメッセージを感じた。
最後の一曲はツアー通して「ANIMA」。ReoNaの現時点最強の一曲。満員の観客が強く高く突き上げた拳を見て、改めて自分の魂の色は何色なのだろうと思う。広く果てしない荒野に一人立っているかのように、何も残さないように歌い上げる彼女をバンドも全力の演奏で後押しする。歪のラストではシャドーダンサーズの二人もステージに戻ってきてフロアを煽り、熱狂の中長いツアーが幕を閉じた。
今回は客席最後方、PA席後ろの関係者席でライブを見させてもらったが、終わった瞬間スタッフたちがハイタッチをして嬉しそうに笑い合っていたのが今でも心に残っている。やりきった充実感を持っているのはステージ上だけではない、スタッフも、客席も全員だ。
このツアーでReoNaが得たものは何なのだろうか。詳しくは本人に聞かなければならないだろうが、大きく成長したことだけはライブを見て感じられた。歌唱力、ステージでの存在感、MCの説得力、全てが4年前とは別人のようなReoNaが全国を回って歩んできたのは、回り道という名の最短距離、駆け抜けたReoNaに次に会えるのは日本武道館だ。あの大きな日の丸の下で歌われる絶望は何色に見えるのだろうか? 歪む響きを携えて、誰も見たことのない場所を目指して、巡礼者は行く。

レポート・文=加東岳史 photo by Viola Kam (V'z Twinkle)

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