アジカンのジャケットや「四畳半」「
謎ディ」の表紙を手がける人気イラス
トレーターの歩みを原画等600点以上
でたどる 『中村佑介20周年展』レポ
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イラストレーター・中村佑介の活動20周年を記念した『中村佑介20周年展』が、東京・文京区の東京ドームシティ Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)で開催中だ。2023年1月9日(月・祝)まで行われる本展では、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットや森見登美彦作品の表紙イラストなどで知られる中村佑介の足跡を606点もの資料を通じて紹介。完成イラストだけでなく、着色前の原画やアイデアスケッチなども見られ、彼のここまでの歩みを網羅した充実の内容になっている。
人気イラストレーター・中村佑介の20年を辿る記念展
2002年のデビューから今年で20周年を迎えた中村佑介。透明感のある少女を中心にノスタルジーとファンタジーが入り混じったカラフルな世界が広がる彼のスタイルは、たとえ作家の名前までは知らなくとも、「あのアーティストの作品だ」と誰もが分かるような唯一無二の個性を放っている。
会場入り口
入り口では、イラストレーター・中村佑介の名を一躍世に知らしめることになった、ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)の名盤『ソルファ』のジャケットイラストをアレンジした本展のメインビジュアルが迎えてくれる。
中村とアジカンは、二人三脚のようにスターダムを築いてきた関係だ。1978年に兵庫県で生まれた中村は、大阪芸術大学デザイン学科で学んだ後にイラストレーターとしての活動をスタート。そして、同じ時代、神戸の小さなライブハウスに出演していたメジャーデビュー前のアジカンの手に、中村の作ったポストカードが偶然渡ったことがきっかけで両者の間につながりが生まれた。
「アジカン」の展示風景
そのイラストに何かを感じたアジカンの後藤正文は、2002年に発売された初の正式音源『崩壊アンプリファー』のジャケットを中村に依頼。その後のアジカンの活躍はここで語るまでもないが、中村は一貫して彼らの音源のジャケットを手がけてきた。一人のイラストレーターが同じミュージシャンのジャケットを20年以上も手がけるというのも珍しいケースで、両者は切っても切れない関係にある。
「アジカン」の展示風景
初期作から最新作までのジャケットが一堂に揃って展示された光景はなかなか壮観だ。中村やアジカンより少し下の年代である私には「学生の頃、よく先輩がカラオケで『リライト』歌ってたなぁ」とか、「社会に出て落ち込んだ時、『ソラニン』を聴いて肩を押されたな」とか、ついでにいえば友達からCD貸してもらったな……なんて、今ではあまり見られなくなったであろう景色も浮かんできたりして、疾走感あるメロディとともに“あの時代”の記憶がよみがってくる。
「アジカン」の展示風景
また、着色前の原画と完成したイラストを並べて見られることも本展のポイントだ。原画では完成版では色付けされて見えないような細かな線を確認できたり、特徴的な色彩が作品に与える力を確かめることができる。展示数もさることながら、途中にはアジカンの4人も描かれた『マジックディスク』の巨大イラストの展示もあり、そのスケールにも驚かされる。
「中村佑介先生の仕事部屋」の漫画
そこからベスト盤のジャケットを手がけたさだまさしの作品ほか、アジカン以外のミュージシャンとの仕事の紹介を経て、次のコーナーへ。その間にはイラストレーターのキリによる「中村佑介先生の仕事部屋」をテーマにした漫画も展示されており、中村の仕事の裏側を楽しく伝えてくれている。
中村作品の中に隠された「謎解き」展示も
続いて見られるのは、小説関連の展示だ。
中村といえば、森見登美彦作品の書籍カバーを手がけていることでも知られる。アニメ化された『夜は短し歩けよ乙女』と『四畳半神話大系』では、キャラクター原案も担当。表紙のイメージがそのままアニメに結びつくことも珍しく、小説家とイラストレーターの世界観が絶妙なマリアージュに至った例といえる。
『四畳半神話大系』の関連展示
こちらも関連商品のパッケージイラストや着色前原画、キャラクターの設定資料などが展示されていてファンにはたまらない内容になっている。また、今年9月に公開されたばかりの映画『四畳半タイムマシンブルース』の関連エリアには、作中に登場するタイムマシンの再現展示もある。場内は一部を除いて撮影OKなので、スマホの中に思い出を残すことも可能だ。
『夜は短し歩けよ乙女』の関連展示

『四畳半タイムマシンブルース』の立体展示

また、『謎解きはディナーのあとで』の書籍カバーを手がけた東川篤哉の展示では、「謎解きは中村佑介展のなかで」と題して、中村作品の知られざるこだわりに迫っている。「なぜ横顔の絵は左を向いているのか」「影の付け方にも隠れたオマージュがある?」といった気になる“謎”の答えは、ぜひ会場にて確認を。
著名人や人気キャラとのコラボ作も まだまだ続く中村佑介の世界
最初から代表作の展示がドドドッと続いたが、実はまだここで全体の半分程度。ここからも雑誌の表紙や企業ポスターなど、多彩な展示を見ることができる。なかには一般に広く出回っていない作品もあるので、コアなファンにとっては、むしろこちらの方が興味をひく内容かもしれない。
「きらら」の関連展示
一部を抜粋していくと、「コラボレーション」と「ポートレーション」のコーナーでは、中村が敬愛する作品や人物を描いたイラストが見られる。例えば『オールナイトニッポン「タイムテーブル」』の展示には、岡村隆史、星野源菅田将暉ら、2019年2月当時の番組パーソナリティーたちのイラストが勢揃いしている。
「オールナイトニッポン『タイムテーブル』2019年2月号」
一方で、その近くには、中村がリスペクトするビックリマンやサンリオキャラクターとのコラボ作品も。中村の手によって美少年・美少女化した「リトルツインスターズ(キキとララ)」や「ヘッドロココ」は必見だ。
「ビックリマン30周年記念『ビックリマン原画展』寄稿イラスト(ヘッドロココ)」
そして、学生時代の作品が展示された「ヒストリー」や思春期の体験が反映された「コンプレックス」のコーナーでは、初期に描かれた作品を通じて中村の原点的な部分を知ることができる。さらに、中村のイラストの世界に没入できるVR作品「Birth」もあり、体験的な要素も用意されている。
「コンプレックス」の展示風景
本展を鑑賞して感じたのは、アジカンの音楽や森見登美彦の小説をはじめ、世の中のほとんどの人が青春時代にふれる“何かしら”の中には、きっと中村の作品が存在しているということ。彼の作品には一人一人の甘酸っぱい思い出に刺さる力がある。そして、デビューから20年という時を経ても、人々に変わらずそういう感動を与え続ける、中村佑介というアーティストに尊敬に近い感情を覚えた。
「中村佑介20周年展」は、東京ドームシティ Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)で2023年1月9日(月・祝)まで開催中。なお、展示総数600点以上と見るべきものは尽きないので、訪れる際は十分な時間の確保を!

文・撮影=Sho Suzuki

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