中川らの余裕の大人で? それともD
a-iCE花村中心のヤンチャボーイズで
? 『ジャージー・ボーイズ』大阪公
演から見えた両チームの違い

ジャージー・ボーイズ 大阪公演 新歌舞伎座
1962年、ラジオから流れたフォー・シーズンズの「シェリー」で、フランキー・ヴァリのあのハイトーン・ボイスに初めて触れた人々は「なんだこの声は! こんな声は唯一無二だ」と驚いたことだろう。しかし2005年に、バンドのドキュメンタリー色の強い、ジュークボックス・ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が誕生し、その独特の高音を再現……とまではいかなくとも「演じるに値する」と認められた俳優たちが、少しずつ誕生している。
中川晃教 写真提供:東宝演劇部
そして我が国では、中川晃教が厳しいオーディションに合格し、2016年に日本人キャスト公演が実現。ミュージカルとしては初めて、『読売演劇大賞 最優秀作品賞』を受賞という快挙を成し遂げた。フランキーが乗り移ったかのような彼の歌声に、誰もが「この役は中川以外考えられない」と思っただろうが、中川をはじめとする本作の関係者たちは、少しでも長く日本版を上演し続けるためにも「第二の和製フランキー・ヴァリ」の出現を望んでいた。そして長い時間をかけて選ばれたのが、ダンス&ボーカルグループ「Da-iCE(ダイス)」のメンバー、花村想太だ。
花村想太 写真提供:東宝演劇部
女性ボーカルの曲でも原曲キーで歌いこなすほど、たぐいまれなる声域を持つ花村。しかもボーカルグループで活動中となれば、フォー・シーズンズの悩みや喜びにシンパシーを覚える部分が、少なからずあるだろう。2020年のコロナ禍による全公演中止という無念を乗り越えて、中川中心の「BLACK」と、花村中心の「GREEN」の、ダブルキャストならぬダブルチームが完成。この体制では初となる公演が、2022年10月から東京で開幕し、花村の休演で中川が代役を務める回が一部あったものの、千秋楽まで無事完走。そして現在は、全国を巡演中だ。
さてそんな『ジャージー・ボーイズ』が大阪にやってきたのは、11月3日(木・祝)~6日(日)。2018年の初大阪公演は、今回の会場と同じ新歌舞伎座で行われ、普段は和のテイストが満載の劇場が、この時ばかりはフォー・シーズンズの音楽の力で、古き良きアメリカのコンサート会場に変貌したように見えたものだ。同作の内容に関しては、すでに東京公演の詳細なレポートが上がっているのでそちらで確認していただくとして、ここでは1ヶ月の東京公演を経て、違いがはっきりとしてきたBLACKとGREENの両チームを比較する視点でレポートしたいと思う。
各チームのレポートはこちら:BLACK、GREEN
チームBLACK 写真提供:東宝演劇部
まずは、安定感に圧倒されたのがBLACKだ。それは初演からフランキーを演じ続けた中川がセンターにいるからというのもあるが、周りを固める3人も2016年版以来の出演で、中川が「藤岡氏なしでこのチームは成立しない」と言うほど信頼を置く藤岡正明に、ともに同作初出演(コンサート版をのぞく)ながらも、数々のミュージカルでキャリアを積んできた東啓介&大山真志という頼もしい布陣だ。
藤岡正明 写真提供:東宝演劇部
フランキー・ヴァリ本人と自分の個性をかけ合わせ、もはや新しい境地の「声」に到達したといえる中川フランキー。4年前の舞台より、年令に応じた声の変化が目に見えて(耳に聴こえて、か)ハッキリし、彼とバンドの成長を巧みに表現する。莫大な借金を背負うほど稚拙ではあるけれど、少年フランキーならずとも「ついていきます、兄貴!」と言いたくなるほどの頼りがいも感じる藤岡トミー。恵まれた体躯も活かして、アーティストとしてもビジネスマンとしても、余裕のある大物感をかもし出す(だからこそ、初体験や刑務所エピソードとのギャップがおかしい)東ボブ。個性の強い3人への不満や後ろめたさを、ユーモアも感じさせるほどひょうひょうと嫌味なく表現する大山ニック。
『ジャージー・ボーイズ』の基礎を作ったり、長年ミュージカルで勝負してきた俳優たちだからこそ生み出せる、大人の自信と落ち着きを全編に感じさせる。 まさに色合いに黒みを感じるほど、熟成した赤ワインを思わせるようなチームだ。
チームGREEN 写真提供:東宝演劇部
対するGREENは、ニック役のspi以外は全員同作初登場(コンサート版をのぞく)。しかも歌手から歌舞伎までと、それぞれの出自もバラバラだし、ミュージカルのキャリアも平均的には浅めだ。正直観劇前は、ほんのちょっと「そんなのもう一方に比べたら分が悪いやん」と思ったのだが、いざフタを開けてみると、その一見弱点に思えるものを、あざやかに個性に変えたステージだった。
まず花村フランキーの歌声は、私が不勉強ながら彼の歌声を聴き込んでないということもあるだろうけど、まさにピュア! という印象。何色にも染まってないキラキラした声が、特にグループデビュー前にマフィアのボスに聞かせる「My Mother’ s Eye」で生きる。彼が今後もフランキー・ヴァリ役を続けていけば、中川のように自分なりの色が付いてくるのだろうが、このままの白さでいてほしいという葛藤が起こるぐらい、得がたい歌声だ。
尾上右近 写真提供:東宝演劇部
そして女形の品の良さが出るためか? イキがってるけど何だか悪に染まり切れない感じがむしろ愛しい(尾上)右近トミー。才能と野心を隠そうともしない、若者の無鉄砲さがフッと香ってくるような有澤(樟太郎)ボブ。彼ら3人に共通するのは、いろんな点で「青臭い」ということだ。そんな彼らを、同作の経験値も年齢も上のspiニックが、まさに彼がプレイするベースのように、底辺でしっかりと支えているのが感じられる。彼が脱退したらグループが実質崩壊するのも、納得という存在感だ。
私は本作の2018年キャスト版「BLUE」、「WHITE」チームも拝見したが、これほどタイトルの「ボーイズ」感……殿堂入りするほどの年齢を重ねても、良くも悪くも拭いきれないヤンチャさが垣間見える関係性を強く感じたチームは、ほかになかったと思う。そんなわけでBLACKが渋味の効いた赤ワインだとしたら、GREENは爽快なスパークリングワインのようなものだろうか。中川も取材で「(花村が休演した日に)GREENの俳優と組んだら、思った以上に違った」ということを語っていたのが納得できるほど、同じ脚本、同じ演出、同じ音楽でも、こんなに舞台の印象は変わるのか! と、改めて驚かされた。この両チームの俳優たちの個性を見極め、ビビッドな色分けをしてみせた、演出家・藤田俊太郎の采配にも感服する。
そんなわけで、時間とか資金の都合上で、どちらかひとつしか選べないという方に向けて、両チームを比較してみたわけだが、「これぞミュージカル」な安定感のBLACKか、無類の新鮮さとケミストリーにドキドキさせられるGREENか、個人の好みで判断していただけたらと思う……とは言っても、片方のチームを観ると、まず確実に「もう一つのチームも観たい!」ともだえることになると思われるので、どうかいろいろと頑張って、2チーム分のチケットを取っていただきたいとも願っている。
大阪公演を終えた二人のフランキーは、舞台上でこのような挨拶をした。
チームGREEN 写真提供:東宝演劇部
【花村想太】
東京ではお休みをしてしまいましたが、大阪公演はすべて、体調や喉の調子も整えて、万全で挑むことができました。この大阪公演でひとつレベルアップしたというか……調子に乗ってるわけじゃないですよ(笑)! 何かつかんだ気がします。人間としてひと段階上がりました! アッキー(中川)さんにもたくさん教えていただき、アッキーさんの音源を聴いて取り入れられるところは取り入れてきました。もう二度と、この会場にいらっしゃるみなさんがそろうことはありません。一期一会を大切にしていきたいと思っています。
チームBLACK 写真提供:東宝演劇部
【中川晃教】
新歌舞伎座に4年ぶりに帰って来ることができました! この物語は、4人のメンバーそれぞれの視点で物語が進み、最後の殿堂入りの楽屋のシーンは、台本に「フィナーレ」と書かれています。当たり前ですがこの作品を通して、人生も始まりがあれば終わりがあると感じています。僕は11月5日(金)、(千秋楽前日の)昨日が誕生日で、40歳を迎えました。本家のフランキーさんは、今も御年88歳で歌い続けられています。このメンバーとともに、僕も88歳まで続けていきたいと思います! これからも全国ツアーは続きますので、引き続き応援の程よろしくお願いいたします。
ちなみに中川の誕生日の11月5日(金)公演では、バースデーのスペシャルカーテンコールが行われた。自分の誕生日を「最高の当たり役」と言われる役で出演中の舞台上で迎えられるとは、なんと幸運なことなのだろう。20年前のミュージカルデビュー当時から彼を観ていた身としては、なんとも感慨深いものを感じていたのだけど、そのしんみり感を即興で作った「食べよー食べよー、たこ焼き食べよー!」の歌で自ら破壊していくスタイル、さすがアッキーやで! と感心したことを、蛇足ながら記しておく。
取材・文=吉永美和子

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