東京フィルハーモニー交響楽団のコン
サートマスター三浦章宏が、愛娘の三
浦舞夏と全国5会場でリサイタル「ヴ
ァイオリニストとして更なる高みを目
指す」

東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスター三浦章宏が、2021年に自身の還暦を機に始めたヴァイオリン・リサイタルの2回目が、2022年11~12月に全国5会場で行われる。
昨年(2021年)の第1回目と同様に、ピアノを弾くのは愛娘の三浦舞夏。ベートーヴェンのスプリングソナタやフランクのソナタ、バッハの無伴奏ヴァイオリンの為のソナタ第2番などの名曲を準備して、全国ツアーに臨む三浦章宏に、あんなコトやこんなコトを聞いてみた。
リサイタルでピアノを弾くのは愛娘の三浦舞夏

―― 昨年に続いてヴァイオリン・リサイタルを開催されます。
昨年還暦を迎え、それを記念してリサイタルを開催しました。今年は昨年に続き、リサイタルシリーズの2回目を行います。師匠の徳永二男先生が還暦のタイミングから「10年リサイタル」と銘打って、10年連続でリサイタルをやられました。現在は、別のリサイタルシリーズを継続されていますが、私もそれを見習って、毎年連続でリサイタルを行うことにしました。これまでは、不定期に行って来たリサイタルですが、毎年連続でやると、また違う景色も見えてくると思います。還暦を機に、いちヴァイオリニストとして更なる高みを目指せればと思っています。
「還暦を機に、いちヴァイオリニストとして更なる高みを目指せればと思っています」
―― ピアニストは愛娘の舞夏さんが務められます。
2019年に桐朋学園大学を卒業して、本格的にピアニストとして活動を始めています。ずっと娘の努力を見てきました。手が大きく無かったことも有って、昔はブラームスを弾くのもやっとだったようですが、訓練を重ねて今では何でも弾けるようになりました。子供の頃から良い音楽を奏でると周囲の評価も高かったのですが、兄の文彰と違って、コンクールには不思議と縁が無かったようで、見ていて可哀そうに思った事も有りました。それでも腐らずにコツコツとピアノを弾き続けて来た事で、私が言うのも何ですが、とても魅力的なピアニストになったと思います。
ピアニスト 三浦舞夏

―― 親子という事で、感性などが似ていると思われることは有りますか。
音楽の方向性は同じです。彼女はヴァイオリンの事を良く知っていますし、昔から勘は良かった。例えば楽譜に書かれている演奏記号を巡り、二つの可能性があったとして、試してみた結果どちらを採用するかなどは、まず間違いなく同じ答えです(笑)。こだわりが強く、とことん掘り下げていく姿勢なども、私と似ている所が有って、親子であるが故に、遠慮なくやり合えるのはいいですね。リサイタルのプログラムは、今回取り上げるようなフランクのソナタやベートーヴェンのスプリングソナタのように、ヴァイオリンとピアノが対等にやり合える曲を選ぶようにしています。

「ヴァイオリンとピアノが対等にやり合える曲をプログラムに選ぶようにしています」
―― お二人の活動を文彰さんは何か言われていますか。
ニヤニヤしながら見ています(笑)。昨年の還暦コンサートには、文彰も来てくれました。今年は同じ日に仙台で読響の本番だそうで、行けませんと既に断りが入っています(笑)。
―― 今回は全国5都市でリサイタルが行われます。すべて三浦さんに所縁の有る都市であり、会場だと伺いました。
そうですね。ツアーは東京から始まります。東京はムジカーザという私がお気に入りのホールで、昨年に続き今年もやらせて頂きます。名古屋は、アマチュアオーケストラの指導を長年やっている関係で知り合いも多く、5/R Hall&Galleryを用意していただきました。大阪は、生まれ故郷の池田のマグノリアホールでこれまで同様にお世話になります。山梨は、母校の筑波大学管弦楽団の指導者であり、指揮者でもあった私の師匠白河和治先生が、山梨学院大学で教えておられたことも有って、これまでに100回近くもコンサートを行っています。大好きな八ヶ岳やまびこホールで今回のリサイタルが出来る事を嬉しく思います。そして最後は、宮崎県。毎年春に行われる宮崎国際音楽祭に10年ほど参加している関係で、知り合いが随分増え、今回はSalle Mandjar(サル・マンジャー)でお世話になります。どこも思い入れの強い所ばかりで、今から楽しみです。

「今回は、私に所縁の有る全国5都市でリサイタルを行います」

「毎回、5都市でリサイタルが出来るわけではありません。この機会にお越しください」
―― 三浦さんは一般大学のご出身です。音大の出身では無い方が、どのような形で東京フィルのコンサートマスターになられたのか、キャリア形成を教えてください。ヴァイオリンは幼少の頃からされていたのですか?
音楽家としては、ちょっと変わった人生を歩んで来たかもしれませんね(笑)。ヴァイオリンは4歳から、スズキ・メソードで始めました。母親が鈴木鎮一先生の才能教育のシステムに賛同して、ヴァイオリンを習わせたようです。両親ともに教育者で、クラシック音楽はいつも家に流れているような環境でした。ヴァイオリンを弾くのは嫌いではありませんでしたが、それ以上に野球やスポーツ全般が好きでした。小学校の時は地区の大会を勝ち上がって、甲子園球場で野球をやるくらいで、中学は野球部でした。スズキ・メソードの先生が絶対に止めるなと言われるので、中学まではヴァイオリンを続けましたが、高校に入るタイミングで止めてしまいました。
―― ご両親は、音楽に対してどういうスタンスだったのでしょうか。
父親は苦労人で、「一般的に、音楽家として生計を立てることは難しいし、楽器にもお金がかかるために家庭を支えていくことは厳しい」と、職業としてヴァイオリンをやることにはずっと反対の立場だったので、私自身、音楽で進むという考えはありませんでした。高校はテニス部で、全国大会には惜しくも出場出来ませんでしたが、スポーツは性に合っていると思いました。勝ち負けや、努力が報われるプロセスが分かりやすくて好きです。
「スポーツは性に合っています。勝ち負けや、努力が報われるプロセスが明快です」
―― 音楽大学では無く、筑波大学の人間学群に進まれました。
親からは、国立大学に行って欲しいと言われていましたので勉強も頑張って、筑波を受験して合格しました。しかし入学してから、あまり勉強が面白いとは思えませんでした。そこでクラブ活動を何かやろうかなと思い、迷ったのがテニス部とオーケストラでした。オーケストラで4歳からヴァイオリンをやっていると正直に話したところ、先輩方から強く勧誘を受け、何回か練習に参加した時にお会いしたのが、後に影響を受ける事になる白河和治先生でした。豪快で情熱的な白河先生に影響を受けて、本格的にオーケストラをやってみたいなと思うようになりました。
―― そこからクラシックの世界に目標が向くのですね。
あまり興味の湧かない勉強をやるよりも、今更ですが、音楽を一からやり直して、プロとして食べていけないものか。よし、チャレンジしてみよう!と、スイッチが入った感じですね。20歳からは、当時NHK交響楽団のコンサートマスターだった徳永二男先生に教わる事が出来ました。最初のレッスンで先生に何か弾いてみろと言われて、弾いた後に「僕、プロになりたいです!」と言うと、思いっきり笑われました(笑)。しかしそこからレッスンを重ね、大学を卒業した翌年にN響のオーディションに受かり、晴れて入団が決まりました。23歳の時です。

「20歳の時から徳永二男先生に師事しています」  (c)Yoshinori Kurosawa
―― 凄いですね、プロの音楽家になりたい発言、有言実行です(笑)。N響に入団された三浦さんが、還暦を超えられた現在は東京フィルのコンサートマスターです。
N響には13年間在籍し、トゥッティで入団してフォアシュピーラーまでやらせて頂きました。途中の5年目には、ドイツのミュンヘンに1年間の留学も経験しましたし、国際コンクールを受験したりもしました。日本を代表するオーケストラでの経験はかけがえのないものでしたが、36歳の時に新星日本交響楽団からコンサートマスターとして来て欲しいとお誘いがあり、受ける事にしたのです。

―― やはりコンサートマスターは魅力的なポジションでしょうか。
オーケストラのサウンドは指揮者によって変わると言われますが、コンサートマスターによっても大きく変わります。だからこそ遣り甲斐がある。オーケストラでヴァイオリンを弾くのであれば、自分の力を発揮できるコンサートマスターにチャレンジしたかったですね。このあたりは、音楽大学に行ってなかったから表明出来たのかもしれません。音楽大学に行っていたら、何となく先輩後輩の序列などが有って、誰々がどこのポジションだから、自分はこれ以上を望んではいけないといった、余計なコトを考えていたかもしれません。
「オーケストラは指揮者同様に、コンサートマスターでもサウンドは変わります」
―― 実力に見合うだけの高みを目指したいという、それこそがスポーツで培われた感覚の最たるものでは無いですか。やるからには極めたい!という思いの表れではないのでしょうか。
確かにそうかもしれませんね(笑)。1999年に新星日響の首席コンサートマスターに就任しましたが、楽団が2001年に東京フィルハーモニー交響楽団と合併したために、そのタイミングから東京フィルのコンサートマスターとして、現在へと続きます。昨年の還暦を機に始めたリサイタルシリーズも、まだまだヴァイオリニストとしてチャレンジしたいという思いが強く有ったので、期限を決めずに始めてみる事にしました。
「昨年の還暦を機に始めたリサイタルシリーズ、期限を決めずにスタートしました」
―― 最近の若い人の活躍は目を見張るものが有ります。国際コンクールに入賞したくらいでは、驚かれなくなりました。最近の傾向として、彼らの多くがオーケストラでコンサートマスターを務めるケースも増えて来ましたね。
海外でもそういうケースが増えているようですね。国内でこれだけ優秀な若手ヴァイオリニストが増えてくれば、なかなかソロだけでは食べていけない状況だと思います。アンサンブルの経験を積む意味でも、コンマスの経験は凄く活かせるのでチャンスが有ればチャレンジをしてみれば良いとは思いますが、以前はこういったキャリアの積み方は無かったかも知れませんね。
―― 三浦さんのように一般大学を出られ、音楽以外の事も色々と経験されて来られた方のハナシは貴重だと思います。後進の指導に関してはどのように考えておられますか。
音大などでも教えて来ましたが、ずっと続けているジュニアオケの指導はとても遣り甲斐が有り、大切にしていきたい活動だと思っています。人の出会いは人生を変えます。私も大学時代に白河和治先生にお会いしていなければ、今音楽をやっていたかどうかわかりません。そんな思いをしっかり語って行きたいです。
「人の出会いは人生を変えます。ジュニアオケの指導はとても遣り甲斐がああります」  (c)Yoshinori Kurosawa
―― これから先のヴァイオリン・リサイタルで、取り上げたい曲など、具体的に有りますか。
娘の舞夏と一緒にやりたい曲は沢山ありますよ。考えるだけで、楽しみは広がりますね。モーツァルト、シューベルト、シューマン、ブラームスなどのドイツ物は外せないでしょうし、プロコフィエフ、ドビュッシー、ラヴェルなど、やりたい曲は沢山あります。しかしベートーヴェンのソナタと、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータは自分にとってバイブルのような存在なので、これからも弾き続けていきたいと思っています。

「ベートーヴェンのソナタと、バッハの無伴奏はバイブルのような存在。いつまでも弾き続けていきます」
―― では最後に「SPICE」の読者にメッセージをお願いします。

23歳の楽壇デビュー以降も、幸せな音楽家人生を歩んできました。これまで自分なりに一生懸命に取り組んできた音楽を、娘の舞夏のピアノと一緒に皆様にお聴きいただける事が、本当に幸せです。今回、所縁の地を5か所回るツアーをやらせて頂きますが、毎年ツアーが出来る訳ではございません。ぜひ、この機会にお越しください。お待ちしています。
「今回のリサイタルツアーに、ぜひお越しください!」
ピアニストの三浦舞夏さんからもメッセージが届いているので、ご覧いただこう。
ピアニスト 三浦舞夏
父の還暦を節目に始まったリサイタルシリーズ、昨年の第1回では沢山のお客様にお越し頂き、温かく見守って下さったおかげで無事良いスタートとなりました。
毎年父とリサイタルをさせて頂ける事は本当に嬉しく、このような機会を頂き感謝の気持ちでいっぱいです。歳を重ねる毎に表現の仕方やアイディア、音色、もちろん見た目も(笑)変わっていくと思いますが、その変化を自分たちも楽しみながら取り組んでいけたらと思っております。
親子だからか、父とは音楽の方向性が同じだと感じています。おかげでリハーサルもスムーズですが、父はオーケストラのコンサートマスターという事もあり、様々な視点からアドバイスをくれるのでとても勉強になります。プログラムも毎回こだわり、皆様の心に残るリサイタルになるよう1回1回大切にしていきたいです。今年はベートーヴェンのスプリングソナタ、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番、フランクのヴァイオリン・ソナタというプログラムでお届けいたします。私はフランクのヴァイオリン・ソナタを全楽章演奏するのは今回が初めてでドキドキしておりますが、大変幻想的で美しい作品なので本番で父とどんな音の対話が出来るか今からとても楽しみです。ベートーヴェンのスプリングソナタは父とも何回か演奏していますが、魅力溢れる素晴らしい曲で、今も沢山の発見があり、これからもずっと大切にしていきたい作品です。
第2回となる今回リサイタルもぜひ沢山の方々にお越し頂きたいです!この先皆様の毎年の楽しみの1つとして頂けるよう力を入れていきますのでどうぞよろしくお願いいたします。
三浦舞夏

取材・文=磯島浩彰

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着