“最高のリアル”を見せたDannie Ma
yが“ファンタジーを創るバンド”ク
ジラ夜の街を迎えた『Welcome Home!
』 2マンライブならではの化学反応
が生まれた一夜をレポート

Dannie May Presents「Welcome Home!」

2022.10.26 渋谷・CLUB QUATTRO
自分達のファンが家のように帰ってこられる場所を作りたい――。
ボーカルワーク・バンドのDannie Mayがそんなテーマのもと開催している2マンライブ・イベント『Welcome Home!』。1回目のYONA YONA WEEKENDERS、2回目の小林私と、面識のあるなしにかかわらず、音楽を聴き純粋に良いと思ったアーティストを誘ってきたDannie Mayが3回目となる今回招いたのは、“ファンタジーを創るバンド”と自ら掲げる17年結成の5人組・クジラ夜の街だ。
クジラ夜の街
「皆様、大変お待たせしました!」
宮崎一晴(Gt/Vo)による、開会を告げるような挨拶から、クジラ夜の街の演奏はスタート。アイリッシュ音楽の影響を感じるシンフォニックな音色が印象的な1曲目の「オロカモノ美学」、3曲目の「ラフマジック」の導入部とも言えるワルツのリズムの2曲目「詠唱(inst)」、そしてその「ラフマジック」と立て続けに披露した3曲が印象づけたのは、各楽器の音色が絶妙に絡み合うオーケストラルとも言えるバンド・アンサンブルと、そんなアンサンブルに熱を加えるメンバーそれぞれのプレイだった。
「舞台劇を見るような感覚で楽しんでいってください」(宮崎)
その言葉通り観客を楽曲の世界に導くナレーションとして、宮崎が語るMCを曲間に挟みながら、それぞれ個性的なファッションに身を包んだステージの5人は熱演を繰り広げる。
クジラ夜の街
ファンキーな「裏終電・敵前逃亡同盟」、宮崎の弾き語りにバンドが演奏を重ね、最後には山本薫(Gt)がシューゲイザーばりに轟音のギターを鳴らした「言葉より」、秦愛翔(Dr)によるシンバルワークから、オーケストラ・サウンドをメンバー5人だけで作り上げた「再会の街」など、楽曲の振り幅もなかなかのもの。その魅力を誰かに伝えるとしたら、シアトリカルなステージングも含め、プログレの感性を持ったポップ・ロック・バンドなんて言ってみるのはどうだろう?
秦によるパワフルなドラムソロのあと「夜間飛行(inst)」の演奏が始まり、「僕らがロック・バンドだってことを証明します!」と宮崎が声をあげ、なだれこんだ代表曲の「夜間飛行少年」は、宮崎がかき鳴らすギターに山本がエフェクティブなフレーズをからめるエモーショナルなロック・ナンバーだ。演奏が一気に白熱した瞬発力と、観客を圧倒した渾身の演奏がライブ・バンドとしてのポテンシャルをアピールしたことに加え、独特の世界観を作り上げてきた中で見せた激しさが、あまりにも鮮烈だった。
クジラ夜の街
そして、まさにハイライトという言葉がふさわしい盛り上がりを作ったバンドがラスト・ナンバーに選んだのは、佐伯隼也(Ba)が奏でるリフと、それに応える山本のアドリブっぽいプレイともにジャジーな魅力があるファンキーなポップ・ナンバー「Golden Night」。宮崎の歌も含め、リラックスした演奏は1時間のステージをやりきったという安堵の表れ……と思いきや、佐伯と山本がソロを繋げた曲の終盤、全員の音数が増え、演奏が再び白熱! ステージのみならず、フロアも照らす眩いライトの下、熱演に手拍子で応える観客とともにバンドが作り上げたのは歓喜の感情に満ち溢れた景色だった。
それが刺激になったのか、それとも激励になったのか。そこが対バン・イベントのおもしろさだと思うのだが、登場のSEを流さずにステージに出てきたマサ(Vo/Gt)、田中タリラ(Vo/Key)、Yuno(Vo/Kantoku)の3人は何の前置きもなく、いきなり「玄ノ歌」でライブをスタート! 一瞬面食らった観客が、煽るようなYunoの言葉に我に返ったようにバウンスしながら手拍子を始める。3人がシームレスに繋げるボーカルおよびハーモニーワークはもちろん、同期で流した、うねるようなベースラインの低音も心地いい。そして、「1-2-3!」というメンバーの掛け声からなだれこんだサビでの観客のバウンスはさらに大きなものに。

Dannie May
「最高のファンタジーをありがとう! ここから最高のリアルをお見せします!」
マサが声を上げ、R&B調のポップスの「灰々」、タリラとYunoによるディスコっぽいHoo Wooコーラスに思わずニヤリとなった歌謡ファンクの「針よ墜とせぬ、暮夜の息」とノンストップで繋げながら、3人は観客にぐいぐいと迫るようなエネルギッシュなパフォーマンスを繰り広げ、序盤からスタンディングのフロアを揺らしていく。

「あちっ、あちっ。ちょっとずつライブの空気が戻ってきた感じで、うれしいと思いながら(ステージに)出てきました!」(マサ)
「(そしたら)1曲目から盛り上がってくれるから!」(Yuno)
思っていた以上の手応えを感じたのか、メンバー達は観客の反応に対する歓びと興奮を隠さない。そんなところも前述した“最高のリアル”なのかもしれないが、その直後、ちょうど1週間前に配信リリースした新曲「めいびー」を早速、披露するにあたって、「今日、楽しみにしていた人がいたら残念。まだデータができてないんですよ」(Yuno)といったん観客をがっかりさせてから、「実は!」と驚かせようとしたにもかかわらず、グダグダになってしまい、「サプライズが下手!」(マサ)と自ら突っ込んで、笑いを誘うところも彼らの人柄を物語っているという意味で、1つのリアルだったのかもと思ったりも。
明るい曲調も含め、夏をイメージさせるその「めいびー」は、ファンキーな魅力を落とし込んだ王道のJ-POPナンバー。ワイプで応える観客の姿からは、今後、この曲がライブの定番になっていくことが窺えた。
Dannie May
そこからミッドテンポのリラックスした「白ノ歌」、「軽く踊りましょう」とマサが語りかけ、タリラがエレピの音色でコードを刻んだポップなR&Bナンバー「一生あなたと生きていくなら」と繋げたところで、「いやあ、でもクジラさん達、かっこよかった。最高でした。これぞライブ・バンド」とクジラ夜の街を称えると、マサは『Welcome Home! #3』と大阪でOchunismと対バンする『Welcome Home #4』の開催を記念して、実現した3組のフロントマンによる鼎談で思うように喋ることができなかったことをカミングアウト。
「そういう時、バランサーになっちゃって、思ったことがあっても言えなくなっちゃう。その帰り道、ライブで負けるよりも悔しかった」(マサ)
しかし、その悔しさが「自分を超えていかないと」と改めて思うきっかけになったことを語ったマサは、キーが高くて、実は歌うのが苦手だったという初期ナンバー「アサヤケ」を、「バンドを組んだ時の気持ちに立ち返って、このライブでやることに意味がある」と披露。クジラ夜の街の“ファタンジー”に対して、自分達は“リアル”を矜持に今日のステージに挑むとDannie Mayの3人が意識していたかどうか。それはさておき、そんなふうに自分を曝け出したこともまた“リアル”なのだと思う。
Dannie May
Dannie May
Dannie May
そして、ハイトーンで歌い上げるマサにタリラとYunoが重ねるハーモニーも含め、じっくりとバラードの「アサヤケ」を聴かせると、3人はこの日のセットリストの中でもダークな魅力が際立つバラード「If you イフユー」、メランコリーとシンセ・オリエンテッドなサウンドが印象的なダンス・ポップ・ナンバー「適切でいたい」と繋げ、アッパーなだけじゃないDannie Mayの魅力もアピールしていった。
もちろん、その後に最大のクライマックスが待っていたことは言うまでもない。
「クアトロ、ここのままでいいんですか!?」とマサが声を上げ、ラストスパートを掛けるように披露したのが「ええじゃないか」。昨年7月の配信リリース以来、MVの再生回数がいまだ伸びつづけ、170万回を超えた話題のロック・ナンバーに「待ってました!」とばかりにフロアが沸騰。
「一緒に行けるか、東京!」
Yunoの掛け声を合図に観客が一斉にタオルを振り回す。会場が1つになったことを感じながら、マサが言ったように以前のライブの感じが確かに戻ってきたと誰もが改めて思ったことだろう。
Dannie May
「まだまだこんなもんじゃないって!」(マサ)
その言葉通り、「ぐーぐーぐー」のダンサブルなポップ・サウンドで、さらにフロアを揺らすと、「こんな楽しい夜にこれ以上言うことはあるまい!」(マサ)と本編ラストは、「ユートピア」で締めくくる。観客を踊らせながら、曲の終盤、スキャットのリレーで盛り上げるところは、ボーカルワーク・バンドならではだ。
そして、最後の最後に会場を再び1つにしたのは、Dannie Mayの真骨頂と言える3人の見事なハーモニーだった。観客全員のワイプに見送られるように「またねー!!」と笑顔でステージを降りた3人の姿からも、観客の拍手に応え、ステージに戻ってきた3人のリラックスした様子からも、クジラ夜の街との対バンに大きな手応えを感じていることが窺えた。
Dannie May
「クリスマスの夜、ヒマだ。涙が出そうだ。そうだ、Dannie Mayに会いにいこう!(笑)」(マサ)と12月25日に恵比寿LIQUIDROOMで開催されるイベント『Merry Music Nights』に出演することと、それが今年のライブ納めになることをアナウンスしてから、この日、3人がアンコールで演奏したのはゴスペル調のバラード「御蘇-Gosu-」。その選曲には、さらなる前進と再会の約束という思いが込められていたように思うのだが、この日のライブを見て、これから5回、6回と続いていくに違いない『Welcome Home!』に期待が高まったのは、ホーム感という言葉で言い表せる居心地のよさもさることながら、2マンライブならではの化学反応が思っていた以上に見どころになっていたからだ。
Dannie May、クジラ夜の街
10月30日にOchunismと対バンした『Welcome Home! #4』では、この日とはまた違う化学反応が生まれたと想像する。Dannie Mayの3人がこの先、どんなバンド/アーティストを選び、そして、その選択がどんな化学反応を生んでいくのか、とても楽しみになった。

文=山口智男 撮影=Ryohey(クジラ夜の街)、Ayato(Dannie May)

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