ドラマ『階段下のゴッホ』を通して展
開された“ドラマ×音楽×アート”─
─ゆうらん船・内村イタル×ROTH BA
RT BARON・三船雅也×絵画担当・木村
美和×小牧桜プロデューサーの座談会
を独占掲載!

現在放送中のドラマ『階段下のゴッホ』(主演・SUMIRE/TBS)のスペシャルイベント「ROTH BART BARON(ロット・バルト・バロン)✕ゆうらん船✕『階段下のゴッホ』- Dear Van Gogh, my own art. -」が11月1日(火)、東京キネマ倶楽部で開催される。

ドラマ『階段下のゴッホ』は、大手化粧品メーカーに勤め、年収1,000万円超えの“高収入女子”である主人公の鏑木都(SUMIRE)が、ある絵画との出会いから画家になるという夢を持ち、働きながら東京藝術大学を目指す姿を描いた作品。イベント当日はドラマ『階段下のゴッホ』オープニングテーマ「春」を手がけたゆうらん船、エンディングテーマ「赤と青」を担当したROTH BART BARONのライブのほか、両アーティストに加えドラマの演出・プロデュースを務める小牧桜やドラマ出演者も登壇するトークショーや劇中で使用された絵画の展示なども行われる。さらに劇中の絵画制作を担当した木村美和(東京藝術大学 大学院在学中)がテーマ曲からインスピレーションを受けて制作した絵画が披露される予定だ。
イベントに先がけ、ゆうらん船・内村イタル、ROTH BART BARON・三船雅也、演出・プロデューサーの小牧桜、絵画を担当した木村美和の座談会が実現。“ドラマ、音楽、絵”を巡るトーク、イベントに向けた思いなどを語ってもらった。
――先ほど、イベント(「ROTH BART BARON✕ゆうらん船✕『階段下のゴッホ』- Dear Van Gogh, my own art. -」)で展示される木村さんの絵の制作に、内村さん、三船さんにも参加していただきました。ちょっと変わった絵の具を使ってましたね。
木村美和:ヴィトラーユ(キャンバス、紙、ガラス、金属などにも描くことができる画材。透明で艶のある仕上がりが特徴)という樹脂系の画材ですね。乾くまでに1日くらいかかって、その間に色が動くので、最終的にどう混ざり合うかわからないんですよ。
内村イタル:時間が経つにつれてどんどん形や色が変わっていくので、難しかったですね(笑)。想像の範囲内に収まらないし、任せるという心持ちでいたほうがいいのかも。
三船雅也:コントロールしようと思わないで、なりゆきに身を任せるというか。最初は「上手くいかないな」と思ったんですけど、そういうことじゃないんだなと。絵の具の気分次第みたいなところがあるから(笑)、そっちの声を聞いたほうがいい。音楽にもそういうところがありますね。
小牧桜:色の選び方や垂らし方にも、お二人の個性が出てましたね。ドラマの制作もそうなんですよ。それぞれに好きな色があって、それが混ざって出来ていくものなので。
――すべてをコントロールすることはできない、と。
小牧:そうですね。登場人物の感情をすべて自分で作るわけではないので。音楽もそうかもしれないですが、参加した人たちがアイデアを持ち寄って作る総合芸術といいますか。
■この作品なら音楽でお手伝いできることがあるかもしれないと思った(三船)
――ドラマ『階段下のゴッホ』のOPテーマはゆうらん船の「春」。そしてEDテーマはROTH BART BARONの「赤と青」です。ドラマのテーマ曲の依頼があったときは、どう思いましたか?
内村:初めてのことだったので、最初は「どうすればいいんだろう?」と。
小牧:困りますよね(笑)。こちらからは、「懐かしい感じの曲がいいです」というくらいで、あまり具体的な話はしなかったので。
――しかも秋のドラマなのに曲名が「春」という。
三船:そういえばそうですね。全然気にしてなかった(笑)。
内村:(笑)。いつもそうなんですけど、タイトルにそんなに深い意味はないんです。曲のテーマとして、“光と闇”や“死と生”といった対立があったので、季節でいえば春かなって。
――なるほど。三船さんはどうでした?
三船:まず、小牧さんをはじめ、制作陣のみなさんとお話をする機会を作っていただいて。どうしてこのドラマを作ろうと思ったのか、いろいろと聞かせてもらって、ストーリーにすごく感動したんですよね。自分も10代の終わりごろ、美術大学でいろいろな思いを抱えて過ごしていたし、ドラマの主人公や浪人して美大を目指す登場人物たちの気持ちもわかるところがあって。この作品なら音楽でお手伝いできることがあるかもしれないと思ったんですよね。アルバムを作り終えたばかりだったんですけど、急遽メンバーを招集して、「赤と青」を制作しました。
小牧:依頼の仕方がまったく違う方向性だったんです。内村さんには大まかなことだけをお伝えしたんですが、三船さんには「こういうストーリーで最後はこうなる」というところまでお話ししました。オープニングは開けていくイメージというか、「何かがはじまる」という雰囲気だったり、淡い色の曲にしたくて。エンディングはドラマのすべてを内包して、「こういうところに通じていくんだな」というのがわかる曲にしていただきたかったので。
ゆうらん船・内村イタル
■撮影のときに俳優のみなさんに手を加えていただいて、さらに絵がよくなった(木村)
――そして木村さんは、ドラマのなかで使用される絵画、登場人物たちが描く絵を担当されました。普段の制作とはいろいろと違っていたと思いますが、いかがでした?
木村:その違いが顕著に表れていたのが、ドラマ内で美大の予備校で5人の生徒が描くブドウの絵でした。5人それぞれの人生や性格がわからないと描けないと思って。これまでどうやって生きてきたのか、何浪しているのか、どういう性格なのか、何度もお聞きしたんです。たぶん迷惑だったと思いますが……。
小牧:いえいえ、むしろ楽しかったです。そもそも難しいオーダーをさせてもらっているので。
――それぞれのキャラクターに合わせて、「この人はこういうブドウの絵を描きそう」と想定しながら描いた、と。
木村:そうですね。自分とは違うキャラクターを絵に投影しながら。撮影のときに俳優のみなさんに手を加えていただいて、さらによくなったと思います。
――ドラマ自体の感想はいかがですか?
内村:兄ちゃんが美大に行っていたので、「こんな感じだったのかな?」と(笑)。美大のための予備校も楽しそうだなって思ったりしましたね。主人公の都(SUMIRE)と真太郎(神尾楓珠)には表現に対する熱い思いがあって。そのなかに“光と影”みたいなものを感じましたね。第2話で真太郎くんが、どうして絵を描いているかを話すシーンがあって。自分もそうですけど、表現に向かう動機にはコンプレックスの裏写しだったり、それを解放したいという部分があるっていう。
三船:経済的に満たされていても何かが足りない、幸せを感じられないという人もいれば、経済的には不安定でも得意なことを早々に見つけて頑張っている人もいる。いろんな出会いのなかで、大人になっても何者にもなれていないと気づいたり、心の揺れみたいなものが丁寧に描かれているドラマだと思います。それはたぶん、日本中の人たち──世界中かもしれないですね──が抱えている問題でもあるんだろうなと。
木村:私も3回受験しているので、多浪の怖さや不安を経験していて。このドラマを見ていると、あの時期のドキドキ感が蘇ってきますね。私の知り合いにも真太郎くんと同じように、6浪、7浪している人がいるんですけど。みんな面白くて個性的な人ばかりなので、真太郎くんとリンクするんですよ(笑)。撮影現場も見させていただいて。大勢のスタッフに囲まれて出演者のみなさんが演技している雰囲気は、美大受験の時期のピリッとした空気に似ているなと思いました。
ROTH BART BARON・三船雅也
■ゆうらん船、ROTH BART BARONがテーマ曲を担当すると発表して、「このドラマ、何なんだ?」みたいな反応があった(小牧)
――そして11月1日(火)には、東京キネマ倶楽部で「ROTH BART BARON ✕ ゆうらん船 ✕『階段下のゴッホ』- Dear Van Gogh, my own art. -」が開催されます。ドラマ、音楽、絵画が結びつくイベントになりそうですね。
小牧:イベントの開催に関しては、私も驚いています(笑)。まったく白紙の状態から立ち上げた深夜ドラマですし、テーマ曲を作ってくださった2バンドとドラマがコラボするなんて、まったくの予想外だったので。ただ、“挑戦”もドラマのテーマの一つなので、こういう新しい試みができるのはすごく嬉しくて。「春」「赤と青」を生で聴けるのも楽しみですね。
内村:僕らにとっても初めての体験ですね(笑)。やってみないとわからないですけど、すごく楽しみです。
――ROTH BART BARON、ゆうらん船の対バンも今回が初めてだとか。
内村:そうですね。以前、個人的にROTH BART BARONのライブを見に行ったことはあるんですけど。あと、ゆうらん船のドラム(砂井慧)はWanna-Gonnaというバンドもやっていて、ROTHと対バンしたこともあるんですよ。
三船:そうですね。「春」も本当にいい曲で、ゆうらん船と対バンできるのもすごく楽しみです。
小牧:ゆうらん船、ROTH BART BARONがテーマ曲を担当すると発表したときも、すごい反響があったんですよ。「このドラマ、何なんだ?」みたいな反応もあって、両バンドのファンの方もかなり見ていただいているようで、ありがたいです。
――イベントには、先ほど内村さん、三船さんも一緒に制作した絵画も展示されます。木村さんが「春」「赤と青」をイメージして描いた作品ですね。
木村:はい。先に「赤と青」を聴かせてもらって。夜道を歩きながら聴いたんですが、短いイントロがあって、歌が聴こえてきた瞬間に体がフワッと浮いて、夜の世界に透過する、透明になるような感覚があって。そのときに自分のなかで絵のイメージが見えてきたんです。その後「春」を聴いて、最後の「昨日がとける音」という歌詞がすごく印象に残って。私は夜中に絵を描くことが多いんですが、昨日の存在を意識することがあるんですよ。「昨日がとける音」という歌詞が入ってきて、「そうか、私はこの音を聴きながら絵を描いてきたんだな」と思ったんです。「赤と青」は場を支配する色で、「春」は周囲をフワッと溶かすようなイメージがあって。意気込んで臨むというより、2曲が自分に染み入った状態で描いていました。
木村美和
演出・プロデュース担当・小牧桜/ROTH BART BARON・三船雅也/絵画担当・木村美和/ゆうらん船・内村イタル
■あまり気負わずやることで、自由なクリエイティブにつながる(内村)
――ドラマ「階段下のゴッホ」の公式HPには、「“好き”を見つけるのも、“好き”で一番になるのも難しい。けれど“好き”を続けることが、何より難しく、誰より美しい」という文があります。音楽、絵画、ドラマを制作していくなかで、“好き”を継続するために意識していることはありますか?
小牧:すごい質問がきましたね。内村さん、どうですか?
内村:(笑)。難しいですね……。フラットに聴きたいものを聴いて、やりたいことをやるというか。心地いい状態のなかで、その感覚を掴むようにしてるかも。バンドも楽しくやることが大事だし、あまり気負わずやることで、自由なクリエイティブにつながるのかなと。
三船:音楽や作ることはずっと好きだし、維持しようと思ったことはないかも。ただ、壁にぶつかったときはギターを弾かないようにしてます。以前、書いても書いてもダメという状態になったことがあって。あえて得意じゃないピアノを弾いたり、ロシアを放浪したり、ジタバタしているうちに直りました(笑)。あとは、音楽をやっていると今日みたいにいろんな人と繋がれることも大きくて。ジャンルは違っても「こんなに素敵なものを作ってる人がいるんだ」という出会いがあると「負けてられない」と思うし、感動がエナジーになるんですよ。
木村:私も毎日のように壁にぶち当たってるし、毎日「もう辞めたい」と思ってます(笑)。でも、結局は絵が好きなんですよ。たとえばディズニーランドに行ったり、友達と遊んだりするのも楽しいですけど、絵を描いているとそれとはまったく違う興奮があるんです。そのときのゾワッとするような感覚は絵以外では味わえないし、やめられないですね。
小牧:みなさん、素晴らしいですね。私は好きだけではなく、ずっと嫌いでもあるというか。そこまで追い詰められたり、上手くいかなくてイライラすることは、日常のなかにはそんなにない気がして。それでも続けているということは、結局好きなんだろうなと思ったりもします。
――ネガティブな側面も大事なのかも。
小牧:制作に入ると、壁打ちノックしているような状態なんですよ(笑)。『階段下のゴッホ』は“絵は言葉のない手紙”と“好き”という言葉からスタートしたんですが、その後は「それってどういうことだろう?」「何でこんなことやってるんだろう?」という感じでした。もちろん楽しい瞬間もあるんですけど。
三船:物事をちゃんと嫌いになるって、誠実ですよね。
小牧:そうだといいんですが(笑)。言い方はよくないですけど、マゾの集まりですよ(笑)。
木村:ほんとですよね(笑)。
内村:あははは。
三船:しかも本人は気づいてないからタチが悪い(笑)。
――いえいえ、表現に向き合う真摯な姿勢が伝ってきました。「階段下のゴッホ」の今後も楽しみです。
小牧:第6話くらいから、話が大きく展開し始めるんですよ。「ごゆるりとお楽しみください」という感じではじまったんですが、そうではなくなってくるというか。テーマ曲に例えると、「春」のリズムに乗って心地よく広がってきたストーリーが、「赤と青」みたいに人と人がぶつかり合って。最終的にはすべてブレンドされていくはずなので、ぜひ楽しみにしていてください。
取材・文=森朋之 撮影=高田梓

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