趣里、じろう(シソンヌ)初参加で話
題、KAAT×城山羊の会『温暖化の秋
-hot autumn-』作・演出の山内ケンジ
にインタビュー

KAAT✕城山羊の会『温暖化の秋 -hot autumn-』(企画制作・主催:KAAT神奈川芸術劇場)が、2022年11月13日(日)~2022年11月27日(日)、KAAT神奈川芸術劇場 大ホールにて上演される。
作・演出をつとめるのは、CMディレクター・演劇作家・映画監督と、ジャンルの垣根を超えて活躍する山内ケンジ。演劇ユニット“城山羊の会”を2004年から主宰している。そんな彼に、KAAT神奈川芸術劇場 芸術監督の長塚圭史が「神奈川県でも山内ケンジさんの作品を観たい」とラブコールを送ったことで、今回の書きおろし新作公演が実現した。
長塚がKAATの2022-2023シーズンのテーマに選んだタイトルは<忘(ぼう)>。「人間は忘れる生き物。忘れるという罪を背負っているのかもしれません。時に自ら目を逸らし、積極的に忘れることもあります。(以下、略)」と述べる長塚は、山内作品の魅力について「我々が普段忘れかけている、あるいは忘れようとしている本能、本来隠しておくべき欲望、人間の負の部分を絶妙なユーモアで包んでいる」と説明、今シーズンとの親和性を強調する。
出演は、城山羊の会のファンであり、舞台はもちろん、テレビ・映画と幅広い活躍で存在感を示す女優・趣里、山内作品へは3度目の出演となる橋本淳、城山羊の会作品になくてはならない岡部たかし・岩谷健司、オーディションで選ばれた東野絢香・笠島智、そして俳優としても活躍する、お笑いコンビ「シソンヌ」のじろう。この7人が、人間の本能や欲望を絶妙なユーモアで描写する大人の会話劇を繰り広げる。
本作について、山内に話を聞いた。なお、取材には、城山羊の会プロデューサーの城島和加乃も同席した。(2022年9月/オンライン取材)

■<忘>を地で行く山内ケンジ
ー- KAATの芸術監督・長塚圭史さんからは、いつ頃、どんな状況で、何とオファーされたのでしょうか。
山内ケンジ(以下、山内) 2年ぐらい前じゃなかったかな? たしか2021年の春ですよね。長塚さんとKAATスタッフの方に、東中野のポレポレ坐カフェに来ていただきました。その時に時期などの具体的な話をしました。そして、城山羊の会『ワクチンの夜』(2021年12月)の頃には、もう2022年11月にKAATで上演することが決まっていました。だから僕に最初のオファーが来たのは(2021年の春よりも)もっと前ですね。長塚圭史さんがKAATの芸術監督に決まってから(2020年12月発表/2021年4月から就任)、すぐに連絡をいただいたのだと思います。
ー- オファーを受けられたのは何故ですか。
山内 長塚さんからのたってのオファー、ということに加え、僕自身も「KAATでやりたい」と何年も前から言っていたからです。城島さんとKAATへ観劇に行った際に劇場のスタッフの人を紹介され、その時にも「ぜひぜひ(KAATで上演を)」と言われていました。その後、僕が大きなホールでやることに興味をなくしていたこともあって、すっかり忘れていたのです。でも、忘れた頃に長塚さんが芸術監督になり、オファーしていただいたので、「じゃあ、やりましょうか」となりました。
ー- 長塚さんとは以前から面識がおありでしたか。
山内 いや、全くないですね。ただ、長塚さんの主宰する阿佐ヶ谷スパイダースは観ていました。また、長塚さんがずいぶん前から(城山羊の会を)観に来てくれていることも知っていました。けれど、城山羊の会の物販のところで一回、軽く挨拶を交わした程度で、本格的に話をしたことはありませんでした。ただ、お父様(長塚京三氏)の方は、僕が若い頃に監督したCM(風邪薬のコンタック)に一度だけ出てもらったことがあるのですが。
ー- 長塚圭史さんに本作への出演依頼をされたそうですね。
山内 最初に会った時にお願いしたんですよ。そうしたら長塚さんも、まんざらでもない感じだったんです。ところが長塚さんのスケジュール上、物理的に無理だということが判って、諦めました。とにかく長塚さんはお忙しいですからね。特に、KAATの芸術監督になってからは、演出やら出演やらで。
ー- 山内作品の中で長塚さんが演じたら、と想像すると興味深いものがあります。
山内 そうなんです。「出ませんか」と言ったのは、長塚さんなら(当て書きで)台本が書ける感じがしたからなんですよね。長塚さんのことは、作・演出としても、俳優としても、こちらは一方的にずっと観てきてますからね。長塚さんは(2008年9月から1年間)文化庁の海外研修プログラムでイギリスへ行きましたでしょ? そのことも知っている。だから、渡英前も、帰ってきてからも観ています。何といっても感心したのは、映画『スリー・ビルボード』でおなじみの、マーティン・マクドナーの作品をやった時です。『ウィー・トーマス』とか3本ぐらい観て*、本当に素晴らしいと思いました。現代海外戯曲の翻訳上演で初めて面白いと思ったかな。ちょっと驚きましたね。
(*長塚圭史は株式会社パルコの企画製作で、『ウィー・トーマス』(2003年・2006年)、『ピローマン』(2004年)、『ビューティ・クイーン・オブ・リナーン』(2007年)、『ハングマン』(2018年)を演出。『ハングマン』には出演も。)
ー- 長塚さんとは、<忘>というテーマについて、打ち合わせなどされましたか?
山内 オファーの際、「シーズンテーマは<忘>です」と聞きました。その前のシーズンテーマが<冒(ぼう)>ということで、<ぼう>シリーズなんですね。だけど今回僕は、そこまで<忘>にこだわって書いているわけではありません。
ー- 山内さんはあまり過去に執着しないというか、いつも「忘れちゃった」とおっしゃっているイメージがあります。
山内 そう、過去のことをどんどん忘れていく。認知症かしら、って心配になるくらい……。
ー- 今回は失恋の話だ、ということをKAATの媒体へのコメントで書かれていましたが?
山内 そんなこと書いたっけ? 忘れました。
ー- 失恋と乳酸は似ている、と書いていました。聞いたことないですよ、失恋と乳酸が似ているなんて(笑)。どういうことなのでしょう。
山内 (忘)
ー- 山内さんご自身、失恋の経験はおありですか?
山内 ない人はいないでしょう。不倫だって、どっちか諦めたらもう終わりですから。

■『温暖化の秋』ってどんな秋?
ー- 『温暖化の秋 -hot autumn-』というタイトルをつけた経緯を教えてください。
山内 最初の仮タイトルがもう一つ別にあったんです。それはもう忘れちゃったんですけど……何だったかな、『何とか何とかで別れる』とか……。ただ、それにしてしまうと、台本をまだ書けていないのに具体的な内容を指すようなタイトルだったので、そこはどうにでもできるタイトルに変えました。
ー- タイトルで使われている「秋」について、「季節の秋ではなく、心の秋の温暖化」と山内さんが書いた文章がありますね。「心の秋」とは? あるいは、山内さんご自身の今の心のありようとは?
山内 そう、心のありようなんです。やはり現代劇を上演する者として、「今」の気持ち、「今年」の気持ちの話を書きたい。だって、昨年の段階では、今年の秋にコロナの状況がどうなってるのか全然わからなかったし、ウクライナであんな戦争が起こることも、安倍元首相が殺されることも、誰も想像していませんでしたからね。そうした、いろいろなことが起きて、大きな事件もいっぱいあった。けれど、今、とりわけ僕の中で印象的なことは、SNSでの暴力ですね。以前から異常ではあったけれど、まずます分断化が進んで、非常に嫌な世の中になっている。今年は特に「嫌だな~~~」という気分になっていて、作家としてはその気分で書かないといけないな、と思っているのです。
ー- 山内さんの心のありようとしては常に社会の現在進行形を反映していると。
山内 はい。僕が再演を積極的におこなわないのも、やはり「今」の気分を作品に映し出したいと考えているからです。そもそも僕自身、作品を再演する世代の観客ではありませんでしたしね。僕が観てきた80年代演劇ブームの人達は、とにかくどんどん突き進んで、倒れるまで新しいものを生み続けていた。だから「再演をどんどんして、その作品をブラッシュアップする」という思考自体がないですね。
城島和加乃 城山羊の会唯一の再演作である『自己紹介読本』のパンフレットの挨拶文で、山内さんが「再演にあまり興味がない理由がわかった」みたいことを書いていました。その理由というのが「脚本はその時の出演者に対するラブレターみたいなものだ」とあったんです。それがすごく印象的で、以降は再演を積極的に勧めるのはやめようと思いました。

■出演者とは相思相愛でありたい
ー- 今回出演の趣里さんとシソンヌのじろうさんは山内作品に初登場です。趣里さんは城山羊の会のファンだそうで……。
山内 そもそも僕は、全然知らない人にはオファーできないし、初めて一緒にやる人でも、少しでも僕の作品や城山羊の会を観て気に入ってくれているということがわかっていないとオファーできない。その点、趣里さんは以前からうちを観に来てくれて、ファンだと言ってくれているということも人づてに聞いて知っていました。もちろん、僕自身も趣里さんのことをずっと注目していたので、頼んだら受けてくれるかな、と思いまして、今回お願いしたわけです。
ー- 両思いじゃないとできない?
山内 まあ極端に言うと相思相愛だからお願いするという風になっています。先に物語を作って、この役はこの人がとにかく適役だ、ってオファーする作家もいますし、僕もそういうことを死ぬまでに一度ぐらいやってみたい。ですが、できている物語自体がないので、残念ながらそれはまだ実現した試しがありません。
ー- シソンヌじろうさんについては?
山内 じろうさんもそう(両思い)なんですよ。城山羊の会を観に来てコメントもくれたり、城山羊の会『埋める女』(2018年12月)の時には居酒屋で話しをして、意気投合しました。ただ、じろうさんは毎週レギュラー番組があってすごく忙しい人だから、出演を頼むのはどうかな、と逡巡していました。ところが、KAATに下見に行った時、僕は上演会場をてっきり中スタジオだと思い込んでいたのですが、実は大スタジオのほうだったことが判明しました。それがまた想像以上に大きくて、「こんなに大きかったら客席埋まらないよね」「どうしよう」「人気者に頼まないと」となり、思い切ってじろうさんにオファーをすることに……。
ー- 現時点で趣里さんやじろうさんとは、今回の作品を巡って何か話はされましたか?
山内 じろうさんとはこの間、城山羊の会常連の岡部たかしさん、岩谷健司さんと東中野で会いました。じろうさんて、女性役もやるし変幻自在でしょう? 素がわからないから、なるべく素のじろうさんと話してみたくてね。チラシ写真撮影の時も、僕が写真を撮るのでちょっと話したんですが、そういう時の姿を見ている限り、彼は全く普通の人なんですね。だから今回はそこを出して、彼女のいる、でもちょっとイヤな男性役をやってもらおうと思っています。橋本淳くんの今のフィアンセが趣里さんで、その前の彼女が東野絢香さん。東野さんは今、じろうさんと付き合っている、というお話です。
ー- 今お名前が出た東野絢香さんは、オーディションで選ばれたそうですね。
山内 そう、東野さんは本当にうまかったんですよ。ダントツに、飛び抜けて上手かった。素晴らしかった。
ー- 東野さんは『おちょやん』(NHK「連続テレビ小説」/2020年11月~2021年5月)も良かったですよね。先日の『六本木クラス』でも目立っていました。東野さん、そしてもう一人オーディションで選ばれた笠島智さんへの期待や役柄を教えてください。
山内 橋本淳さんの今のフィアンセが趣里さんで、そこに敵対する役割の女性が欲しい、と思って東野絢香さんを選びました。一方、笠島智さんは、岩谷健司さんの奥さんの役です。もう少し年上の人を採るつもりだったのですが、笠島さんは実際には若いけれども、もう少し年上の役になれるんじゃないかな、後妻でもいいかもしれないな、と閃きました。
ー- 橋本淳さんは、『トロワグロ』(2014年11月~12月/2016年には舞台と同じキャストで映画化)、『相談者たち』(2017年11月~12月)に続いて山内さんの舞台には3度目の登場です。いずれも「添島」という役でしたね。
山内 橋本くんは最近、劇団た組を主宰する加藤拓也さんの作品によく出ているから、別に僕がお願いしなくてもいいのかな、という気持ちもあったのですが、でもお久しぶりだし、今回も「添島」として、どこか裏がある感じの役をやってもらいたいなと。で、橋本くんの伯父さん、橋本くんのお母さんのお兄さんとして出てもらうのが岡部たかしさんになります。……と言いつつ、相変わらず現時点でまだ台本は書けていませんけどね。
【上段】趣里 橋本淳 岡部たかし 岩谷健司 【下段】東野絢香 笠島智 じろう(シソンヌ)
ー- KAAT大スタジオの空間の使い方(三方囲み客席)にはどのような効果を期待していますか?
山内 KAATの大スタジオは横がとても長いんですよ。それに合わせて客席も通常は長いんです。でも、それはすごくやりにくいので、左右を縮めて、でもキャパは確保したいから舞台周りに客席を作ることにしました。(城山羊の会が何度か上演している)三鷹市芸術文化センター 星のホールだって、本来はあんなに小さい空間じゃないんだけど、僕らは広いところを小さくして上演しているんです。それは声の音量(の小ささ)に係わる問題だからなのですが。
ー- 声、今回は聴こえますか。小さすぎて、初めて観る神奈川の皆さんがビックリしませんかね。
山内 ……聴こえないと思います。聴こえた方がいいんでしょうけれど、どうしようかな(笑)。ただ、いちおうあれでも、マイクはいつも仕込んでいるんですよ。さらにDVD用の撮影となると、録音用のマイクも仕込んでいます。特に最近の録音機は高性能だから、今年の7月に、城山羊の会『ワクチンの夜』(2021年12月)の映像上映会をした際、(声がものすごく小さくて聴こえない演技をする)朝比奈竜生くんの声がきちんと拾えていて、あれには僕もビックリしましたね。
ー- 最後に、観劇をされる方々に、楽しみにしてほしいポイントを教えてください。
山内 僕がKAATでお芝居を上演するのは初めてですし、趣里さん、橋本さん、じろうさんといった人気者に出演をお願いするのも初めてのことです。今までで最も芸能界に片足突っ込んでいる公演だといえるでしょう。値段も商業演劇価格(6,000円/各種割引あり)ですし、とにかく、いろんなことが初めてづくしとなります。また、先ほども言いましたように、僕自身は大きな劇場でやる気持ちがなくなってきているので、今回のような広い劇場でやるのは非常に珍しいことです。多分最初で最後なんじゃないかな。その意味では、なかなか貴重な機会ではないかと思います。だから皆さまには、ぜひ来ていただきたいたいです。東京の人もね、遠いですけれどもぜひ。神奈川の方はお近くですので……神奈川県は広いから遠い人は無理かもしれませんが、ぜひ観に来てください。
取材・文:ヨコウチ会長
写真提供:KAAT

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