INTERVIEW / TEMBA 覆面ラッパー・T
EMBAが放つメッセージ。インスタント
な作品ではなく、永く残り続けるよう
な表現を

覆面ラッパー・TEMBAが最新曲「Dip feat. OZworld」のリミックスを本日10月7日(金)にリリースした。
自身にまつわる情報の大部分を遮断し、その表現のみを届けるべく覆面で活動を続けるTEMBA。情報が洪水のように溢れる現代社会においては明らかにカウンター的存在であり、ハイプが蔓延するこの世の中においては茨の道を進むようなスタイルだと言えるだろう。しかし、徐々にではあるがTEMBAの表現の輪は広がっているようだ。近年ではプロデューサー・Ryosuke “Dr.R” Sakai率いる〈MNNF〉と合流し、信念を共有するアーティストらと共にコラボ作も発表。明らかに新たなフェーズに入ったことが窺える。
今回のインタビューではこれまでの足取りを振り返るとともに、沖縄出身のラッパー・OZworldをフィーチャーした最新曲について、そして今後のヴィジョンについてなど、様々な質問を投げかけた。また、本稿と共に、本日公開されたインタビュー映像も合わせてチェックしてみてほしい。覆面を纏った彼の本質に迫ることができるはずだ。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Keigo Sugiyama(https://keigosugiyama.com/)
コロナ禍で見つめ直した自身の活動と、〈MNNF〉チームとの邂逅
――TEMBAさんは2019年から今のスタイルでの活動を開始しました。覆面で活動したことで気づいた点などはありますか?
TEMBA:正直、あまりにも情報が少ないと、強く惹かれたり、より深く掘り下げようという気にならないんじゃないかなって、自分でも思ったりもするんです。でも、実際にTEMBAとして活動してみるとカッコいい表現を求めている人たちや本当にアートが好きな人たちは辿り着いてくれるというか、俺のことを見つけてくれるんですよね。そういう人たちがいるってことがわかっただけでも、すごく希望を感じるし、感動します。以前の活動では諦めていた部分だったので。
――2019年より活動を開始し、1年足らずでコロナ禍になってしまいました。思ったようにいかなかったことも多いのではないでしょうか?
TEMBA:でも、いいように捉えられることもあるんです。例えば、外に出れなくなって色々なスケジュールがリセットされたことで、自分と向き合う時間が増えた。その結果、自分の活動を改めて見つめ直すことで、ミュージシャンとして、表現者として、何を残していくべきかをより大事に考えるようになりました。今は徐々に戻ってきていますけど、当時はライブという選択肢がほぼなくなった状況だったので、そういったときに自分が他の手段で表現するものは、より無駄のないというか、芯を食ったものにしなければなならないなと。
――そういった思考の変化は、実際の活動にはどのような変化をもたらしましたか?
TEMBA:自分は元々音楽以外の表現方法を持っていたんですけど、それをより意識的に行うようにしました。例えば初の個展を開いたこともそうですけど、TEMBAをより多角的に展開してきたいなと。
――今おっしゃった個展『CONDENSE presents “HOW MUCH?” ー天⾺的破壊ー』について、改めてそのコンセプトやテーマなどを教えてもらえますか?
TEMBA:アートの本質を伝えたいというTEMBAとして掲げているテーマももちろんあるんですけど、それに加えて、アートの価値について考えたんです。音楽の場合、近年ではCDに代表されるフィジカル作品の価値がどんどん薄まっていますよね。もちろん便利になって、より広い範囲に届くようになったっていうのは俺もいいことだと思っています。ただ、その一方で作り手の立場になると、たくさんの時間をかけて、身を削って生み出した作品の価値を忘れてほしくはない。だから、CDやレコードといったフィジカル・アイテムを用いて来場者にその価値を問いかけるような展示にしました。
――とても一貫したスタンスを感じます。コロナ禍以降だと、クリエイティブ・カンパニー〈MNNF〉に所属したことも大きな転機になったのではないでしょうか。
TEMBA:そうですね。正式に所属する前からSakaiさん(Ryosuke “Dr.R” Sakai)とは一緒に曲を作ってたんですけど、基本的にはひとりで動いているような感じだったんです。それが徐々に知り合いや仲間が増えていって、熱量の高いチームが生まれそうなタイミングでお話をもらったので、自分としては「ここに身を置いてがっつり勝負するぞ」という感じで合流することになりました。
――自然な流れで所属するに至ったと。
TEMBA:はい。言ってしまえばクリエイティブにおいての打ち合わせ、意識のすり合わせって、同じ方向を向いているチームなら少し話すだけで共有できるんですよね。昔は一番苦戦していた部分だったんです。「なんでわかってくれないんだろう」っていつも思ってて。それが解消されて、楽しさだけでクリエイティブに臨めるようになった。「この環境なら勝てるだろ」っていう感じで、自信にも繋がりましたね。
――なるほど。
TEMBA:曲を作るときもスタジオに入って、「今回はどんな曲にしようか」って少し話したらSakaiさんがトラックをババっと組んでくれて、そこに俺がその場で乗っていく。プロフェッショナルなクリエイターと一緒だからこそ、自然体で作ることができる。リリースを重ねる毎に仲間も増えていくし、その仲間たちにも評価してもらえる。そういったいい循環ができているように思います。
――確かにここ最近はOdAkEiさんやCarlo Redlさんといった、いわば“仲間たち”とのコラボが続いています。
TEMBA:彼らも〈MNNF〉のレーベル・メイトなので。やっぱりフレッシュなアーティストと一緒に曲を作るのはすごい刺激になるんですよね。才能溢れるやつらですし、自分も負けてらんないなって思いますし、そうやって切磋琢磨してレーベル全体で成長していきたいっていう思いもあります。
――OdAkEiさんはYouTuberとしても活動されている方なので、これまでとは違った層にまで届いたのでは?
TEMBA:そうですよね。彼のファンの方たちからしたら「このマスク、誰やねん」って感じになるかなって思ってたんですけど、意外と正面から受け入れてもらえた実感があって。今の若い子たちってすごい情報量の多い環境にいるから、俺のような変わったやつでもちゃんと噛み砕いてくれる。……まぁ、OdAkEiも相当ぶっ飛んでるから、そのファンの人たちは鍛えられてるだけかも(笑)。
異星の王子たちが交わる最新曲「Dip」
――最新曲「Dip」はOZworldさんを客演に迎えた1曲です。彼とのコラボはどのような経緯で?
TEMBA:Sakaiさんと曲を作っていくうちに、自然と「フィーチャリングという形で誰かを迎えるのもいいんじゃないか」っていう話が出てきて。そのときに真っ先に思い浮かんだのがオズ(OZworld)なんです。若いけど自分をしっかり持っているし、先のことまで見据えているなって、彼の表現を見て感じていて。それで1回コンタクトを取ってみました。
――では、OZworldさんの参加が決まってから曲も組み上げていったんですね。
TEMBA:そうです。共通の知り合いもたくさんいたし、俺のことも知ってくれていたので、2つ返事でOKしてくれて。一緒にスタジオに入ってからSakaiさん含め3人で話し合って、テーマからサウンドまで作り上げていきました。
――最初はどのような話をしましたか?
TEMBA:最初はそれこそ俺らの共通点であるゲームの話や、メタバースやNFTなどのテクノロジー、あとはアートについてだったり。やっぱり話してみるとすごいおもしろい人間だし、いわゆる“ラッパー”とは少し違う存在だなと思いました。
さっき話したような俺の個展の話もしたんですけど、ちょうどオズも『13歳からのアート思考』 (「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考)() という本を読んだばかりだったらしくて、すごく理解してくれたんですよね。その本にも興味の種を見つけて、そこから花を咲かすことの大事さが書かれているみたいなんです。多くの人は花ばかりに目がいってしまうけど、実はその下にある根っこや種が大事で。俺らにとってみればそれは人には見えない過程だったりするんですけど、そういった見えない部分に一番価値がある。表現者やクリエイターにしかわからない苦悩をテーマにリリックを書くのはどうか、という話に繋がっていきました。何ていうか、導かれてるような気もしたんですよね。
――お互いの思考がリンクしたというか。
TEMBA:なので、アートワークにも植物の根っこを入れました。
――テーマが決まってからはどのように制作を進めましたか?
TEMBA:早かったですね。その場でSakaiさんがトラックを作ってくれて、それに合わせて俺らもリリックを書いて。確か2日間でほぼ完成させたと思います。オズのフロウというかメロディ・ラインはすごく独特でおもしろいなと思いましたね。
――タイトルにもなったフックの《Dip in the Pain》というラインが印象的です。
TEMBA:怒りや悲しみといった負の感情がクリエイティブの原動力になることも多いですし、そうじゃなかったとしても、生み出すのには毎回必ず痛みが伴う。だからこそ出てきたラインですね。ただ、根本的には音楽は楽しいものであってほしいし、伝えたいメッセージはあってもシリアスになり過ぎないようにっていうのは意識しています。
――また、先ほどのお話を聞いた後だと、《水与えるBloom 根で歩くガジュマル》というラインも響きます。ガジュマルは沖縄で広く見られる木ですし。
TEMBA:ありがとうございます。そこはオズも反応してくれました。でも、これも「オズが沖縄出身だから沖縄の植物ないかな」って調べたりしたわけではなくて、さっきお話したような興味の種や根っこの話を考えているうちに自然と浮かんできたんです。
――OZworldさんのリリックで印象的なラインなどはありますか?
TEMBA:やっぱり出だしの《I say hello》ですかね。オズの余裕な感じというか、無敵感が一発で伝わってきますよね。Sakaiさんも「耳に残る」って言ってましたね。あと、俺ら2人、テーマは一緒だけどアプローチは全然異なっていて。これはMVにも通ずる話なんですけど、それぞれ違う星の王子たちが交わっている、みたいな感覚なんですよね(笑)。
だから基本的にはお互いのリリックにも意見することもなく、それぞれが思うように書きました。そもそも信頼してるからこそオファーしてるんですけど、それでも期待を超えるものを出してきてくれて嬉しかったですね。
――なるほど。確かにMVもそれぞれかなりテイストの異なるスタイリングになっていますよね。
TEMBA:そう。一枚絵で統一感持たせたりとかは敢えてせずに、意図的にバラバラな感じで撮ってもらいました。
自分が信じているものを繋げていきたい
――今後の活動について、何か計画していることなどがあれば教えて下さい。
TEMBA:実はこの前LAに行って曲を作ってきたんです。もっともっと外に発信していきたいなと思いますし、自分を敢えて厳しい環境に置きたいという気持ちもあって。常に新しいことには挑戦し続けたいですね。日本で活動してきて感じた違和感を払拭するために、TEMBAというプロジェクトがスタートしたわけですけど、それが国外の人にはどのように受け取られるかにも興味がありますし。
――もちろん現地の方とセッションしてきたということですよね。
TEMBA:誰なのかはまだ内緒ですけどね(笑)。ただ、めちゃくちゃ喰らいました。そんなに名前が売れてないやつらでも「マジか」っていう感じで、とにかく向こうはベースのレベルが高い。こういうやつらと戦っていかなければならないっていうヒリヒリとした感覚とか現地の空気とかを吸って、焦る気持ちもあるし絶対大変だと思うんですけど、同時にワクワクする気持ちもあって。
――モチベーションに繋がっていると。
TEMBA:めちゃくちゃモチベーションが上がりました。Sakaiさんにも「定期的に行きましょう」って言いました(笑)。
――コラボレーションは今後も続きそうですか?
TEMBA:他のアーティストと一緒に作品を作るっているのはやっぱり刺激的だし、めちゃくちゃ楽しいことなので今後も積極的にやっていきたいですね。あとは音楽だけじゃない表現方法を持っているというのもTEMBAの強みだとは思うので、今後も制限をかけずにやっていきたいと思っています。TEMBA自身が“自由の象徴”じゃないですけど、周りにも影響を与えていけたら嬉しいですね。
――では、難しい質問になりますが、アーティストとしてのゴールや最終目標みたいなものを敢えて設定するとしたら、どのようなものになるでしょうか?
TEMBA:それこそ昔は大金を稼いでいい暮らしを〜とか考えたりもしたんですけど、表現することの楽しさみたいな部分を知れば知るほどに、自分がカッコいいと思うもの、自分が信じているものを繋げていきたい、残していきたいと思うようになりました。もちろんそういった価値観は人それぞれで正解/不正解はないですけど、自分の表現や活動を通して、音楽やアートを取り巻く環境がより良くなったら理想ですよね。そうやって次の世代へとバトンを渡していきたいです。
……あとは自分の表現や思考が全て集約された美術館とかを建てて死ねたら最高ですよね(笑)
――美術館を建てたラッパーって、おそらくまだいないですよね。
TEMBA:いないんじゃないですかね。でも、それも支持してくれる人がいなかったらすぐに潰れてなくなってしまいますよね。やっぱりやるからには多くの人に支持され、永く残り続けるような表現を目指したいです。
この情報化社会は今後もますます加速し続けると思うし、そうなるとより物事の本質が見えづらくなりますよね。表現やクリエイティブの本質がわからないとダメなわけじゃないけど、やっぱりそれがわかった方がより楽しめると思うんです。だから、作品単体というよりかは、自分の活動や存在全部を使ってそういうメッセージを発信していきたいですね。
――情報が氾濫した今の時代、インスタントに注目を集める表現も多いですが、それとは逆の道を行くと。
TEMBA:そうですね。音楽だけでなくアートなどに様々な仕掛けを巡らせて、そこに気づいてくれる人を増やしていきたいです。俺はよく“テロリスト”って言われるんですけど(笑)、受け手と共犯関係を築き上げていきたいんですよね。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://orcd.co/temba_dip)
==
■ 配信リンク(https://orcd.co/dip_remix)
■ TEMBA オフィシャル・サイト(https://www.temba.jp/)
覆面ラッパー・TEMBAが最新曲「Dip feat. OZworld」のリミックスを本日10月7日(金)にリリースした。
自身にまつわる情報の大部分を遮断し、その表現のみを届けるべく覆面で活動を続けるTEMBA。情報が洪水のように溢れる現代社会においては明らかにカウンター的存在であり、ハイプが蔓延するこの世の中においては茨の道を進むようなスタイルだと言えるだろう。しかし、徐々にではあるがTEMBAの表現の輪は広がっているようだ。近年ではプロデューサー・Ryosuke “Dr.R” Sakai率いる〈MNNF〉と合流し、信念を共有するアーティストらと共にコラボ作も発表。明らかに新たなフェーズに入ったことが窺える。
今回のインタビューではこれまでの足取りを振り返るとともに、沖縄出身のラッパー・OZworldをフィーチャーした最新曲について、そして今後のヴィジョンについてなど、様々な質問を投げかけた。また、本稿と共に、本日公開されたインタビュー映像も合わせてチェックしてみてほしい。覆面を纏った彼の本質に迫ることができるはずだ。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Keigo Sugiyama(https://keigosugiyama.com/)
コロナ禍で見つめ直した自身の活動と、〈MNNF〉チームとの邂逅
――TEMBAさんは2019年から今のスタイルでの活動を開始しました。覆面で活動したことで気づいた点などはありますか?
TEMBA:正直、あまりにも情報が少ないと、強く惹かれたり、より深く掘り下げようという気にならないんじゃないかなって、自分でも思ったりもするんです。でも、実際にTEMBAとして活動してみるとカッコいい表現を求めている人たちや本当にアートが好きな人たちは辿り着いてくれるというか、俺のことを見つけてくれるんですよね。そういう人たちがいるってことがわかっただけでも、すごく希望を感じるし、感動します。以前の活動では諦めていた部分だったので。
――2019年より活動を開始し、1年足らずでコロナ禍になってしまいました。思ったようにいかなかったことも多いのではないでしょうか?
TEMBA:でも、いいように捉えられることもあるんです。例えば、外に出れなくなって色々なスケジュールがリセットされたことで、自分と向き合う時間が増えた。その結果、自分の活動を改めて見つめ直すことで、ミュージシャンとして、表現者として、何を残していくべきかをより大事に考えるようになりました。今は徐々に戻ってきていますけど、当時はライブという選択肢がほぼなくなった状況だったので、そういったときに自分が他の手段で表現するものは、より無駄のないというか、芯を食ったものにしなければなならないなと。
――そういった思考の変化は、実際の活動にはどのような変化をもたらしましたか?
TEMBA:自分は元々音楽以外の表現方法を持っていたんですけど、それをより意識的に行うようにしました。例えば初の個展を開いたこともそうですけど、TEMBAをより多角的に展開してきたいなと。
――今おっしゃった個展『CONDENSE presents “HOW MUCH?” ー天⾺的破壊ー』について、改めてそのコンセプトやテーマなどを教えてもらえますか?
TEMBA:アートの本質を伝えたいというTEMBAとして掲げているテーマももちろんあるんですけど、それに加えて、アートの価値について考えたんです。音楽の場合、近年ではCDに代表されるフィジカル作品の価値がどんどん薄まっていますよね。もちろん便利になって、より広い範囲に届くようになったっていうのは俺もいいことだと思っています。ただ、その一方で作り手の立場になると、たくさんの時間をかけて、身を削って生み出した作品の価値を忘れてほしくはない。だから、CDやレコードといったフィジカル・アイテムを用いて来場者にその価値を問いかけるような展示にしました。
――とても一貫したスタンスを感じます。コロナ禍以降だと、クリエイティブ・カンパニー〈MNNF〉に所属したことも大きな転機になったのではないでしょうか。
TEMBA:そうですね。正式に所属する前からSakaiさん(Ryosuke “Dr.R” Sakai)とは一緒に曲を作ってたんですけど、基本的にはひとりで動いているような感じだったんです。それが徐々に知り合いや仲間が増えていって、熱量の高いチームが生まれそうなタイミングでお話をもらったので、自分としては「ここに身を置いてがっつり勝負するぞ」という感じで合流することになりました。
――自然な流れで所属するに至ったと。
TEMBA:はい。言ってしまえばクリエイティブにおいての打ち合わせ、意識のすり合わせって、同じ方向を向いているチームなら少し話すだけで共有できるんですよね。昔は一番苦戦していた部分だったんです。「なんでわかってくれないんだろう」っていつも思ってて。それが解消されて、楽しさだけでクリエイティブに臨めるようになった。「この環境なら勝てるだろ」っていう感じで、自信にも繋がりましたね。
――なるほど。
TEMBA:曲を作るときもスタジオに入って、「今回はどんな曲にしようか」って少し話したらSakaiさんがトラックをババっと組んでくれて、そこに俺がその場で乗っていく。プロフェッショナルなクリエイターと一緒だからこそ、自然体で作ることができる。リリースを重ねる毎に仲間も増えていくし、その仲間たちにも評価してもらえる。そういったいい循環ができているように思います。
――確かにここ最近はOdAkEiさんやCarlo Redlさんといった、いわば“仲間たち”とのコラボが続いています。
TEMBA:彼らも〈MNNF〉のレーベル・メイトなので。やっぱりフレッシュなアーティストと一緒に曲を作るのはすごい刺激になるんですよね。才能溢れるやつらですし、自分も負けてらんないなって思いますし、そうやって切磋琢磨してレーベル全体で成長していきたいっていう思いもあります。
――OdAkEiさんはYouTuberとしても活動されている方なので、これまでとは違った層にまで届いたのでは?
TEMBA:そうですよね。彼のファンの方たちからしたら「このマスク、誰やねん」って感じになるかなって思ってたんですけど、意外と正面から受け入れてもらえた実感があって。今の若い子たちってすごい情報量の多い環境にいるから、俺のような変わったやつでもちゃんと噛み砕いてくれる。……まぁ、OdAkEiも相当ぶっ飛んでるから、そのファンの人たちは鍛えられてるだけかも(笑)。
異星の王子たちが交わる最新曲「Dip」
――最新曲「Dip」はOZworldさんを客演に迎えた1曲です。彼とのコラボはどのような経緯で?
TEMBA:Sakaiさんと曲を作っていくうちに、自然と「フィーチャリングという形で誰かを迎えるのもいいんじゃないか」っていう話が出てきて。そのときに真っ先に思い浮かんだのがオズ(OZworld)なんです。若いけど自分をしっかり持っているし、先のことまで見据えているなって、彼の表現を見て感じていて。それで1回コンタクトを取ってみました。
――では、OZworldさんの参加が決まってから曲も組み上げていったんですね。
TEMBA:そうです。共通の知り合いもたくさんいたし、俺のことも知ってくれていたので、2つ返事でOKしてくれて。一緒にスタジオに入ってからSakaiさん含め3人で話し合って、テーマからサウンドまで作り上げていきました。
――最初はどのような話をしましたか?
TEMBA:最初はそれこそ俺らの共通点であるゲームの話や、メタバースやNFTなどのテクノロジー、あとはアートについてだったり。やっぱり話してみるとすごいおもしろい人間だし、いわゆる“ラッパー”とは少し違う存在だなと思いました。
さっき話したような俺の個展の話もしたんですけど、ちょうどオズも『13歳からのアート思考』 (「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考)() という本を読んだばかりだったらしくて、すごく理解してくれたんですよね。その本にも興味の種を見つけて、そこから花を咲かすことの大事さが書かれているみたいなんです。多くの人は花ばかりに目がいってしまうけど、実はその下にある根っこや種が大事で。俺らにとってみればそれは人には見えない過程だったりするんですけど、そういった見えない部分に一番価値がある。表現者やクリエイターにしかわからない苦悩をテーマにリリックを書くのはどうか、という話に繋がっていきました。何ていうか、導かれてるような気もしたんですよね。
――お互いの思考がリンクしたというか。
TEMBA:なので、アートワークにも植物の根っこを入れました。
――テーマが決まってからはどのように制作を進めましたか?
TEMBA:早かったですね。その場でSakaiさんがトラックを作ってくれて、それに合わせて俺らもリリックを書いて。確か2日間でほぼ完成させたと思います。オズのフロウというかメロディ・ラインはすごく独特でおもしろいなと思いましたね。
――タイトルにもなったフックの《Dip in the Pain》というラインが印象的です。
TEMBA:怒りや悲しみといった負の感情がクリエイティブの原動力になることも多いですし、そうじゃなかったとしても、生み出すのには毎回必ず痛みが伴う。だからこそ出てきたラインですね。ただ、根本的には音楽は楽しいものであってほしいし、伝えたいメッセージはあってもシリアスになり過ぎないようにっていうのは意識しています。
――また、先ほどのお話を聞いた後だと、《水与えるBloom 根で歩くガジュマル》というラインも響きます。ガジュマルは沖縄で広く見られる木ですし。
TEMBA:ありがとうございます。そこはオズも反応してくれました。でも、これも「オズが沖縄出身だから沖縄の植物ないかな」って調べたりしたわけではなくて、さっきお話したような興味の種や根っこの話を考えているうちに自然と浮かんできたんです。
――OZworldさんのリリックで印象的なラインなどはありますか?
TEMBA:やっぱり出だしの《I say hello》ですかね。オズの余裕な感じというか、無敵感が一発で伝わってきますよね。Sakaiさんも「耳に残る」って言ってましたね。あと、俺ら2人、テーマは一緒だけどアプローチは全然異なっていて。これはMVにも通ずる話なんですけど、それぞれ違う星の王子たちが交わっている、みたいな感覚なんですよね(笑)。
だから基本的にはお互いのリリックにも意見することもなく、それぞれが思うように書きました。そもそも信頼してるからこそオファーしてるんですけど、それでも期待を超えるものを出してきてくれて嬉しかったですね。
――なるほど。確かにMVもそれぞれかなりテイストの異なるスタイリングになっていますよね。
TEMBA:そう。一枚絵で統一感持たせたりとかは敢えてせずに、意図的にバラバラな感じで撮ってもらいました。
自分が信じているものを繋げていきたい
――今後の活動について、何か計画していることなどがあれば教えて下さい。
TEMBA:実はこの前LAに行って曲を作ってきたんです。もっともっと外に発信していきたいなと思いますし、自分を敢えて厳しい環境に置きたいという気持ちもあって。常に新しいことには挑戦し続けたいですね。日本で活動してきて感じた違和感を払拭するために、TEMBAというプロジェクトがスタートしたわけですけど、それが国外の人にはどのように受け取られるかにも興味がありますし。
――もちろん現地の方とセッションしてきたということですよね。
TEMBA:誰なのかはまだ内緒ですけどね(笑)。ただ、めちゃくちゃ喰らいました。そんなに名前が売れてないやつらでも「マジか」っていう感じで、とにかく向こうはベースのレベルが高い。こういうやつらと戦っていかなければならないっていうヒリヒリとした感覚とか現地の空気とかを吸って、焦る気持ちもあるし絶対大変だと思うんですけど、同時にワクワクする気持ちもあって。
――モチベーションに繋がっていると。
TEMBA:めちゃくちゃモチベーションが上がりました。Sakaiさんにも「定期的に行きましょう」って言いました(笑)。
――コラボレーションは今後も続きそうですか?
TEMBA:他のアーティストと一緒に作品を作るっているのはやっぱり刺激的だし、めちゃくちゃ楽しいことなので今後も積極的にやっていきたいですね。あとは音楽だけじゃない表現方法を持っているというのもTEMBAの強みだとは思うので、今後も制限をかけずにやっていきたいと思っています。TEMBA自身が“自由の象徴”じゃないですけど、周りにも影響を与えていけたら嬉しいですね。
――では、難しい質問になりますが、アーティストとしてのゴールや最終目標みたいなものを敢えて設定するとしたら、どのようなものになるでしょうか?
TEMBA:それこそ昔は大金を稼いでいい暮らしを〜とか考えたりもしたんですけど、表現することの楽しさみたいな部分を知れば知るほどに、自分がカッコいいと思うもの、自分が信じているものを繋げていきたい、残していきたいと思うようになりました。もちろんそういった価値観は人それぞれで正解/不正解はないですけど、自分の表現や活動を通して、音楽やアートを取り巻く環境がより良くなったら理想ですよね。そうやって次の世代へとバトンを渡していきたいです。
……あとは自分の表現や思考が全て集約された美術館とかを建てて死ねたら最高ですよね(笑)
――美術館を建てたラッパーって、おそらくまだいないですよね。
TEMBA:いないんじゃないですかね。でも、それも支持してくれる人がいなかったらすぐに潰れてなくなってしまいますよね。やっぱりやるからには多くの人に支持され、永く残り続けるような表現を目指したいです。
この情報化社会は今後もますます加速し続けると思うし、そうなるとより物事の本質が見えづらくなりますよね。表現やクリエイティブの本質がわからないとダメなわけじゃないけど、やっぱりそれがわかった方がより楽しめると思うんです。だから、作品単体というよりかは、自分の活動や存在全部を使ってそういうメッセージを発信していきたいですね。
――情報が氾濫した今の時代、インスタントに注目を集める表現も多いですが、それとは逆の道を行くと。
TEMBA:そうですね。音楽だけでなくアートなどに様々な仕掛けを巡らせて、そこに気づいてくれる人を増やしていきたいです。俺はよく“テロリスト”って言われるんですけど(笑)、受け手と共犯関係を築き上げていきたいんですよね。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://orcd.co/temba_dip)
==
■ 配信リンク(https://orcd.co/dip_remix)
■ TEMBA オフィシャル・サイト(https://www.temba.jp/)

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