グラムロック、
キワモノ的な扱いとは裏腹に
英国を代表する文学、
演劇性を備えた実力派
コックニー・レベルの1st&2nd

より音楽性を高めた
2ndアルバム『The Psychomodo』

ジャケット写真に見られる中性的なメイクアップを施し、アンダーグラウンドの支配者のように中央に座するハーレイを囲み、これまた奇妙なコスチュームを身につけたメンバーがしもべのように付き従う構図…きっと、これも所属レーベルEMIのイメージ戦略だったのだろう。続く2ndアルバム『The Psychomodo』もより倒錯的なイメージのジャケットになっている。しかも邦題は“さかしま”と、これは強烈なインパクトだった。この2ndの出来も1作目に勝るとも劣らない内容で彼らの評価を高めるものになる(プロデュースはピンク・フロイド、ビートルズとも関わりがあったアラン・パーソンズが担当)。ちなみに“さかしま”はフランスの作家ジョリス=カルル・ユイスマンスによる小説のタイトルで、1884年に刊行され、象徴主義、デカダンスの作品として知られる。日本でも澁澤龍彦訳で1962年に刊行されている。ちなみに副題には“美と頽廢の人工楽園”とある。バンドのデビュー作の邦題、コピーは個人的には安っぽすぎて共感できないが、2ndの邦題はちゃんとこのバンドの音楽性を理解して付けられたものだろう。まぁ、ジャケットのイメージはともかくとして、『The Psychomodo』はバンドの真価を発揮した傑作で、シングル「Mr. Soft(邦題:ミスター・ソフト)」は全英8位のヒットを記録するほか、どの曲も粒ぞろい、好き嫌いは分かれるとは思うが、独特のねじれたポップセンスは評価されて然るべきものであったと言える。

話をデビュー作に戻すと、シングルカットされた「Sebastian(邦題:悲しみのセバスチャン)」は発表当時、日本でもラジオでオンエアされるほど話題になった(ヒットには程遠いが)。演劇的というかドラマチックな構成で、クラシカルなピアノのイントロに始まり次第に盛り上がり、劇的な転調も用意されている。この構成、ハーレイの表現力。これはロックの枠を越えたものになっている。

余談だが、この曲やハーレイのキャラクターにインスパイアされたと思しき小説がある。作家、松浦理英子さんが1981年に刊行した小説『セバスチャン』がそれである。というわけで、間接的ではあるが、ユイスマンといい、松浦理英子さんといい、文学と何かと縁があるバンドだった。

傑作と言える2作を発表後、メンバーチェンジがあったり、ハーレイのソロ活動、俳優業など、バンドとして解散状態の時期もあるが、2022年現在もコックニー・レベルは活動継続中だそうだ。それに日本にいては伺いしれないが、英国では彼らの音楽は再評価され、英国ロックを代表するバンドのひとつであるとして人気を保っているようだ。ハーレイの書く文学的な詞が大学の講義で取り上げられる、なんてこともあって本人を戸惑わせているとも聞く。

今でも思うのだが、もうちょっとセンスのいいアートディレクターが付き、デヴィッド・ボウイのような人が手を貸していたらもっと状況は違っていたかもしれないが、1973年はボウイもあの“ジギー・スターダスト”を演じている真っ只中にあって、そんな余裕はなかっただろう。ワンマンで自己主張も強そうなハーレイとボウイが気の合う関係を持てたかどうかも疑問ではあるのだが…。ニューウェイヴ期に先駆けること10年、この早過ぎたポップセンスを惜しまないではいられない。というわけで、日本では長続きしなかったグラム人気、中性的、倒錯したイメージ等の紹介のされ方が相まってか、今一歩、人気が出なかったコックニー・レベルだが、ぜひ一度聴いてみてほしい。

TEXT:片山 明

アルバム『The Human Menagerie/美しき野獣の群れ』1973年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. 真夏の秘め事/Hideaway
    • 2. ルーシーのことば/What Ruthy Said
    • 3. ロレッタはプレイガール/Loretta's Tale
    • 4. クレイジー・レイヴァー/Crazy Raver
    • 5. 悲しみのセバスチャン/Sebastian
    • 6. 嘆きのピエロ/Mirror Freak
    • 7. 美しき悪徳/My Only Vice
    • 8. 俳優ミューリエル/Muriel The Actor
    • 9. カメレオン/Chameleon
    • 10. 死の旅/Death Trip
アルバム『The Psychomodo/さかしま』1974年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. 甘い悪夢/Sweet Dreams
    • 2. さかしま/Psychomodo
    • 3. ミスター・ソフト/Mr. Soft
    • 4. 奇妙なバンド (みせかけの真実はどこに)/Singular Band
    • 5. パステル・カラーのデカダンス/Ritz
    • 6. 偏執的ノスタルジー/Cavaliers
    • 7. かなわぬ情事/Bed in the Corner
    • 8. 矛盾の人生/Sling It!
    • 9. 転落/Tumbling Down
『The Human Menagerie』('73)/Cockney Rebel
『The Psychomodo』('74)/Cockney Rebel

OKMusic編集部

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