布袋寅泰、渡邉貢、
高橋まことらとGENETが創り出した
AUTO-MODの1st『REQUIEM』に遺る
新たな音楽潮流
BOØWYとPERSONZとのアンサンブル
SEに続いては、ややファンキーな印象のベース。そこに、単なる8ビートではなく、そのベースラインに呼応するドラミング。ど頭のリズム隊からして、旋律といいリズムといい、ポジティブパンク、ゴシックロックの匂いだ。そこへ徐々にディレイが深めのギターが重なっていき、その匂いが楽曲全体に強く解き放たれていく。わずかにブルージーなコード進行であって、メロディアスというよりは奔放に“かき鳴らしている”という印象のギターだが、乱暴な印象は薄く、ポップさすら漂っている。そして、歌。個性的なサウンドに負けない存在感と言ったらいいだろうか。シアトリカルな歌唱という印象であり、楽曲の世界観をリードしているのは間違いなく、GENETのヴォーカリゼーションだ。歌詞と相俟って退廃的であり耽美な世界を創り上げている。ヴォーカルが主線で、サウンドが色付けしている感じだろうか。前半は比較的淡々と進行していくのに対して、案外(と言っていいかどうか分からないが)サビメロはキャッチーで、間奏のギターソロはメロディアス。前衛的ではあるものの、決して難解でも奇抜でもない。それもそのはず…と言うか、ここまで当時のメンバーを紹介してこなかったけれど、ご存知の方も多かろうが、その名を聞けば納得していただけるだろう。布袋寅泰(Gu)、渡邉 貢(Ba)、高橋まこと(Dr)である。布袋、高橋はこの時期BOØWYと並行してAUTO-MODのメンバーとして活動しており、渡邉もこの直後にPERSONZの前身バンドであるNOTHING PERSONALへ参加している。皆、元来の大衆性を隠すことなどできなかったということではなかろうか。もしくは、GENETが彼らのポップさを上手くハンドリングしたか。いずれにしても、最初期のAUTO-MODにしっかりとポップセンスが注入されていたことが確認できるM1である。
M2「Friend」は、布袋のキリキリと鳴るギターを8ビートのリズム隊が支える疾走感あるナンバー。歌の背後ではアルペジオになるギターは幻想的であって、のちのいわゆるV系バンドへの影響をうかがわせるところである。サビメロは開放的でありつつ、ドライヴ感も損なわれておらず、全体的にはパンクな印象。サビにはコーラスがダビングされているようで、特に後半の当該箇所は楽曲のスリリングさを増すに十分な効果を上げているように思う。
M3「破壊へ」は冒頭にオルガンやサックスの音色の背後に(おそらく)ヒットラーの演説の音源を重ねている。ミドルテンポで、とりわけ前半は楽器演奏が少なめで歌が前面に出ていることから、M2からの繋ぎを考えてもこのSEは正解であろう。各楽器の演奏は、ベースを除き、全体を通してフリーキーで、そこが楽曲全体のダークな雰囲気に上手く呼応している。ベースは淡々とした同じフレーズを繰り返していくが、そこがまた暗澹たる空気を演出しているようではある。
そこから一転、M4「Identical Nightmare」は4つ打ちナンバー。ポストパンク、ニューウエイブの中でも、ニューロマンティックに近いかもしれない。ポップだし、AUTO-MODの多彩さを示す好例と言えるだろう。とりわけ歌の絡むサックスがいい。David Bowieの『Let's Dance』の辺りにも似た雰囲気で、ダンサブルさに拍車をかけているように思う。この辺にもGENETが渡英した影響があるのだろうか。また、間奏でのギターのカッティングは実に布袋らしいシャープさでカッコ良い。布袋のカッティングというとBOØWYの「BAD FEELING」が有名だが、「Identical Nightmare」にその原型があったと考えるのは穿った見方だろうか。
続く、M5「戦場」はさらにテンポがアップするが、布袋がかき鳴らすギターも健在。サックスも活き活きと鳴っていく。印象的なのはドラム。タムを多用するジャングルビートと言ってもいいドラミングがイントロ~Aメロの背後を支えている。この辺もポジティブパンク、ゴシックロックっぽい。それでいて、Bメロ(というかサビ?)で8ビートに展開する辺りは、その歌メロをキャッチーに聴かせる工夫が施されているような気がして、この辺にも隠し通せないポップセンスを感じるところである(別に彼らはポップさを隠そうとはしていなかったのかもしれないけれど…)。
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