BUCK-TICK、メジャーデビュー35周年
記念ライブ 横浜アリーナ2DAYS公式
レポート

2022年9月23日(金・祝)、24日(土)の2日間に横浜アリーナで開催されたBUCK-TICKのメジャーデビュー35周年記念ライブ『Debut 35th Anniversary LIVE「BUCK-TICK 2022“THE PARADE”~35th anniversary~」』のオフィシャルレポートが到着した。

2022年9月21日に不動のメンバーでメジャーデビュー35周年を迎えたBUCK-TICKが、9月23日・24日に神奈川・横浜アリーナで『Debut 35th Anniversary LIVE「BUCK-TICK 2022“THE PARADE” ~35th anniversary~」』を開催した。
BUCK-TICK(2022.9.23)
今回の35周年公演の特徴は大きく2つ。1つは12台のレーザーと、大型のLEDスクリーンを駆使したダイナミックな光と映像の演出。過去に開催された“PARADE”と冠するアニバーサリーライブは、2007年の横浜みなとみらい 新港埠頭特設野外ステージ、2012年の千葉ポートパーク、2017年のお台場野外特設会場と、すべて野外ステージだったため今回が初のアリーナ公演であった。野外では陽が落ちるまで照明や映像の演出が活きないため、今回はオープニングから世界観をしっかりと作り込むことができる。ステージの左右に1枚ずつ固定されたスクリーンがあり、さらにステージのバックに巨大スクリーンが1枚と、ステージの前にも大きなスクリーンが1枚。このステージ前のスクリーンが可動式になっていて、演奏するメンバーの姿を覆うように映像が前に出るシーンもあれば、ぐっと上がってバックのスクリーンとの奥行きを活かした立体感を生み出した。たとえば両日ともに演奏された楽曲の中から印象的だったシーンをピックアップすると、重厚なグルーヴと陶酔感に引き込むストーリーをもつ2曲目の「BABEL」では、真っ赤な背景に描かれたバベルの塔が映し出されたのだが、それまでメンバーを覆っていたステージ前のスクリーンがゆっくりと上昇することにより、バベルの塔が積み上がっていく不穏な様が表現された。衝撃だったのは中盤に演奏された今井寿(Gt)がメインボーカルを取る気だるいジャングルビートの「相変わらずの「アレ」のカタマリがのさばる反吐の底の吹き溜まり(2022MIX)」。メンバーの前の真っ赤に染まったスクリーンにうごめく無数の手形と、バックスクリーンに映る櫻井敦司(Vo)の顔が合体するシーンはホラー映画のような不気味さがあった。戦争の悲劇をストーリーにしたミディアムナンバー「ゲルニカの夜」では星空の下、時間経過と共に崩れゆく遊園地の様子を表現。アンコールの「惡の華」では赤青緑のレーザーがステージからフロアへ放たれ、Wアンコールで披露された「夢見る宇宙」では、ステージ前のスクリーンが天井近くまでせり上がり、バックスクリーンと一体になってスケール感のある宇宙空間を生み出した。楽曲の世界観を広げるための映像やライティングは、時にメンバーの姿をかき消すこともシルエットにすることもあり、ライブはプレイスタイルや表情を生で楽しむものだと言う人がいたならば、今回の演出はかなり大胆なものに思えたかもしれない。しかし、BUCK-TICKは35年前に“ヴィジュアル・アーティスト”としてビデオデビューしたバンドだということを考えると、今回はその“原点”を意識したステージだったと言える。
櫻井敦司(2022.9.23)
今井寿(2022.9.23)
そして2つ目の特徴は、35周年を記念するライブではあるが、35年の軌跡を網羅する祝祭ムード満載のメニューではなかったということ。今回同様、1日目に“FLY SIDE”、2日目に“HIGH SIDE”と名付けた2017年のお台場公演では、「FLY HIGH」をはじめとするインディーズ時代や初期のナンバーから各時代を比較的満遍なく網羅する楽曲群で30年を振り返ったが、今回は今伝えたいメッセージを組み込んだバンドの現在地と、未来を指し示すメニューになっていたのではないかと思う。というのも、これまで各メンバーからあがった候補曲を元にメニューを組むことが多いBUCK-TICKだが、今回のメニューは9月21日にリリースしたベストアルバム『CATALOGUE THE BEST 35th anniv.』のラインナップも意識しつつ、全面的に櫻井が中心となって舞台演出チームと一緒に構成を組んだという。そのため、彼のメッセージ色が色濃く出る内容となった。特に顕著だったのは、両日共通の「楽園」「REVOLVER」「ゲルニカの夜」と、今回初演奏された新曲「さよならシェルター」(ベストアルバム収録)のゾーン。「楽園」では黒いベールを頭から纏った櫻井が、手にしたティンシャを鳴らしながら戦禍の国を対岸の火事と日和見する状況を皮肉り、攻撃性の高いスピード感のある「REVOLVER」では、こめかみに指を当てて“あの子の未来を 撃て!”とシャウトする。空爆直下の惨状を主人公の少年の視点で歌う「ゲルニカの夜」のラストパート、《そんな夢見て 目覚めた》でほっとしたのも束の間、現在の世界情勢をモチーフにした「さよならシェルター」が、優しいサウンドに乗せてリアルな狂気を描いた。さらに特筆したいのは、1日目に披露した「禁じられた遊び -ADULT CHILDREN-」だ。トラウマを抱えて内へと閉じこもっていたアダルトチルドレンが、《この部屋を 出て行くよ》と外へ足を踏み出す過程を歌う今作では、ステージ前のスクリーンに大きな白い壁が現れ、ちょうど櫻井の立つ位置にぽっかりと黒い出口が描かれたことと、歌い終わりに櫻井が放った「すべてのアダルトチルドレンに捧げます」というメッセージが印象的だった。思想や感情はストーリーに昇華して歌詞世界に落とし込む櫻井が、今回のメニューでここまで強くメッセージを露わにするのには、それなりの覚悟もあっただろう。その眼差しは鋭く、歌声は力強くもあり、慈愛にも満ちていた。
星野英彦(2022.9.23)
樋口豊(2022.9.23)
ヤガミ・トール(2022.9.23)
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BUCK-TICK(2022.9.24)
両日それぞれ21曲のうち約半分の10曲が固定曲だったが、そこに加えた11曲により違う景色を味わうことができた。1日目はインダストリアルなEDMナンバー「ICONOCLASM」からスタート。ステージ前に降りたままのスクリーンの向こうから、硬質なハンマービートとエッジの効いたギターリフ、無機質な低音ボイスがレーザーと共に繰り出される。荘厳な「BABEL」を経て、ヤガミ・トール(Dr)の張り詰めたドラムイントロから骨太なグルーヴで展開する「唄」、メランコリックな「月下麗人」へと流れる。櫻井の「いらっしゃいませ。楽しんでね」とちょっと科を作った短いMCは、「舞夢マイム」の入り口。台湾の九份のような街並みから部屋の中へとクローズアップした映像の中で、黒いつばの広い帽子と椅子、ちらりと見える太ももを使って、なんとも艶やかな男女の駆け引きを一人演じる櫻井。ハイパーな疾走感で駆け抜ける「狂気のデッドヒート」では、ムービーカメラを持ったカメラマンたちがステージにあがり、上手と下手に伸びる花道を闊歩するアグレッシブなメンバーの姿を捉えた。本編終盤は希望に向かうアップチューンを3曲。演出も華やかで、「Go-Go B-T TRAIN」では、ステージ左右に配した大きなミラーボールが光を放ち、CDジャケットを彷彿とさせるカラフルなグラフィックと、蒸気機関車の蒸気のように吹き上がるスモーク、重厚な車体を軋ませながら軽快に駆け抜けていくような賑やかなアンサンブルで会場のボルテージを引き上げる。続く「Memento mori」では炎が灯ったステージに、トライバルなリズムと沖縄音階、「ウッハ!」の掛け声が鳴り響く。そしてラストは闇から光ある未来へと導く「New World」で締め括った。
櫻井敦司(2022.9.24)
今井寿(2022.9.24)
アンコールは、「Django!!!-眩惑のジャンゴ-」からスタート。エキゾチックな今井のギターに、星野英彦(Gt)の軽やかなアコースティックギター、間奏からは樋口豊(Ba)のベースも前面に出てきて濃密なグルーヴを生み出す。櫻井はというと、頭にはシルクハット、首には黒い羽根を纏い、ホットパンツにニーハイで太ももを露わにしたバーレスクスタイルで腰をくねらせながら歌い上げる。ヘヴィネスな「惡の華」の後、「35年前デビューした時のアルバムから懐かしい曲を聴いてください」と、バラードナンバー「ILLUSION」へ。今作がこの2日間で演奏された曲の中では一番古い楽曲で、思い出をなぞるような歌詞と相まって郷愁を誘う。Wアンコールでは、儚さと力強さを併せ持つレクイエム「恋」をしなやかに聴かせた後、宇宙広がるステージで「夢見る宇宙」を披露。そして大ラスは「Solaris」。マクロの世界である宇宙と、ミクロの世界であるヒトの細胞。その繋がりを感じさせるような感動的な映像に乗せた、楽器陣が描く美しいサウンドスケープと、櫻井によるうっとりするようなファルセットが、大きな余韻を残した。
星野英彦(2022.9.24)
ストレートなロックチューン「エリーゼのために」でオープニングから一体感を生んだ2日目は、1日目よりも歌も演奏も肩の力が抜け、リラックスしているように見えた。櫻井のゆらゆらと綱を渡るようなパフォーマンスで浮遊感を表現した「Tight Rope」や、ずっしりとしたベースリフにギターの硬質なカッティングが映える「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」、月へと抜けるほど伸びやかなヴォーカルで聴かせた「MOONLIGHT ESCAPE」では、アウトロで今井が寝転がったままギターをかき鳴らすエモーショナルな場面も。「ダンス天国」では演奏の前に「Let’ s Dance~」とデヴィッド・ボウイの声真似で1フレーズ歌ってみせたり、今井のギターによるインタールードから始まった「BOY septem peccata mortalia」ではステージ上のカメラクルーとの追いつ追われつの攻防を繰り広げたり、這いつくばってカメラを睨みつけたりと、自由なステージングを展開するメンバーに、こちらの目も追いつかなくなる。ステージに炎が揺らめいた「ROMANCE」では美しいファルセットを響かせ、ラストは1日目と同じく「New World」。光を湛えたようなクリーントーンのリフ、4つ打ちのパワフルなリズムと、前へと突き進む力強いボーカル。ここからまた新しい一歩を踏み出した彼らのステージのエンディングに相応しいナンバーだ。
樋口豊(2022.9.24)
一度目のアンコールは、ベストアルバムで新たにリミックスした「ANGELIC CONVERSATION(2022MIX)」、「惡の華」、そしてドラマティックなポップチューン「HEAVEN」の3曲。Wアンコールは、深遠なバラードナンバー「忘却」、「夢見る宇宙」、そしてラストは「鼓動(2022MIX)」。すべての生命に捧げるBUCK-TICKの壮大な人間讃歌を高らかに歌い上げ、2日間にわたり行なわれた祝祭の幕を閉じた。
ヤガミ・トール(2022.9.24)
35周年を記念する大舞台にありながら、BUCK-TICKはすでに新しいフェーズの中にいた。しかもどうやらすでに追い込まれている様子だ。「35周年始まったばかりなので、いろいろやることがたくさん幸せなことにあります。今日が終わりましたら、明日からアニイとユータはツアーのリハーサルに入ってもらいます。そして今井さんとヒデは新曲を作ってもらいます。私は……寝ます(笑)」という櫻井のMCを聞きながら、3rdアルバムのレコーディングの後に2ndアルバムのツアーに出ていたという激務だった初期のエピソードを思い出し、当時とあまり変わっていないところを見つけて少し笑ってしまった。だけど、そんな5人のドキュメンタリーをこれからも見せてほしいのだ。来春発売予定の新作は、これまでにない新しいコンセプトに基づいた作品になると聞いている。35周年を迎えてもなお、貪欲に進化し続けるBUCK-TICKの未来に期待したい。
文=大窪由香 撮影=田中聖太郎
BUCK-TICK(2022.9.24)

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