深化したミュージカル『フィスト・オ
ブ・ノーススター〜北斗の拳〜』が開
幕へ!再演ゲネプロレポート

世界中で圧倒的な人気を誇る漫画『北斗の拳』を初めてミュージカル化し、2021年に大きな話題を呼んだ『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』。新キャストが加わるなど、初演から更なる進化を遂げて、2022年9月25日(日)から東京・Bunkamuraオーチャードホールにて再演される。
初日を前にした24日(土)、ゲネプロ(総通し舞台稽古)が行われた。ゲネプロの様子を写真とともにお伝えする。なお、この日のキャストは以下の通り。
ケンシロウ:大貫勇輔
ユリア:平原綾香
トキ:小西遼生
ジュウザ :伊礼彼方
シン:植原卓也
マミヤ :清水美依紗
トウ/トヨ:AKANE LIV
リュウケンほか:宮川浩
レイ:三浦涼介
ラオウ:福井晶一
バット: 渡邉 蒼
リン:山﨑玲奈
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
漫画『北斗の拳』は1983年〜88年まで、原作・武論尊、漫画・原哲夫により連載された作品。最終戦争により文明社会が失われ、暴力が支配する世界となった世紀末を舞台に、北斗神拳の伝承者であるケンシロウが愛と哀しみを背負って、救世主として成長していく姿が描かれており、連載開始から約40年が経った今でも世界中で愛されている。原作漫画の累計発行部数は1億部を突破し、TVアニメや劇場版アニメ、脇役たちをフィーチャーした外伝が作られるなどしている。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
ミュージカル化にあたっては、豪華なクリエイター陣が初演に続き、顔をそろえた。
音楽は『ジキル&ハイド』『マタ・ハリ』など、世界中で大ヒットミュージカルを手がけるアメリカ人作曲家のフランク・ワイルドホーン。振付は、数々の日中共同プロジェクトを成功に導いた中国人演出家・振付家の顔安(ヤン・アン)と、米津玄師など有名アーティストから指名を受けるコレグラファーの辻本知彦(※辻のつじは正しくは一点しんにょう)。そして、演出は新進気鋭の演出家である石丸さち子、脚本は話題のミュージカル脚本や作詞を手がける高橋亜子。
この布陣を見れば、『デスノート THE MUSICAL』や『生きる』といった日本初のオリジナルミュージカル制作に懸けるホリプロの“本気度”が分かるはずだ。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
初演時は「北斗の拳がミュージカル化……?」と半信半疑だった人も多かったように思うが、いざ幕が開けば、SNSで「#アタタミュ」というハッシュタグが生まれたり、普段ミュージカルをあまり見ない人にも作品が届いたり、幅広い年代に愛される作品へと成長した。実際に“ミュージカル”誌『2021年ミュージカル・ベストテン』において総合第4位にランクインし、オリジナルミュージカルとしては第1位に輝く快挙を遂げている。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
まず、原作についてあまり知らない読者のためにも、あらすじを語っておきたい。
二千年の歴史を誇る北斗神拳の伝承者候補として修行に励んでいたケンシロウ、トキ、ラオウの三兄弟。彼らの師父リュウケンが、末弟のケンシロウを第64代伝承者に選ぶところから舞台は始まる。一子相伝の暗殺拳を守るべく、リュウケンは野心に満ちたラオウの拳を封じようと試みるが、逆にラオウに殺害されてしまう。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
折しも最終戦争が起こり、文明社会は崩壊。世界は暴力に支配される時代となる。ケンシロウは婚約者のユリアとともに生きようとしていたが、南斗孤鷲拳伝承者のシンにユリアを強奪され、胸に七つの傷を刻まれる。絶望の中、放浪の旅を続けるケンシロウ。一方で、世紀末覇者・拳王を名乗り、混沌とした世界を恐怖で支配しようとするラオウ。
ケンシロウは次兄トキや、南斗水鳥拳のレイと出会い、共に旅をする中、ユリアがシンの居城から身を投げたことを知らされる。ケンシロウは愛すべき仲間や強敵(とも)たちの哀しみを胸に、ラオウの恐怖に支配された世界に光を取り戻すべく、救世主として立ち上がるのだった――。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
技の名前や人物の関係性など、原作を知らない観客のためにも、最低限の説明はなされている印象だ。セリフをちゃんと聞いていれば、だいたいのストーリーは理解できるだろうし、置いておかれることはまずないと思う。ただ、ミュージカル版はそれぞれのキャラクターのエピソードがギュッと凝縮されていることには違いないので、原作を知っていた方がより本作を楽しめるかもしれない。
再演にあたって、演出や脚本のマニアックな変更はあれど、大幅な変更は見受けられなかった。ただ、明確に変わったと感じたのは、レイのくだり。なぜ彼が旅をしているのか、初演では想像するしかなかった彼の心情や背景が新しくシーンを追加したことで、より分かりやすく伝わるようになったと思う。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
キャストについても軽く触れておきたい。
ケンシロウ役の大貫勇輔。『ロミオ&ジュリエット』の死のダンサー、『メリー・ポピンズ』のバート役や『ビリーエリオット〜リトル・ダンサー〜』のオールダービリー役など、類まれな身体能力を生かして、確実に役幅を広げてきた大貫だが、今までの経験のすべてをこの役にぶつけたと言っても過言ではない。初演時も「大貫さんにしかケンシロウはできない……」と思わされ、圧倒的な存在感を放っていたが、再演では芝居に深みが生まれ、より愛と哀しみを背負う姿が生々しく見えた。
特に1幕終わりのソロダンスは、大貫自身が振付をブラッシュアップしたという。ケンシロウの〈苦悩〉と、自らではコントロールできない何か大きな力を感じさせる〈救世主としての目覚め〉。それらを肉体の動きで表現しきった。どこか『ビリーエリオット』のアングリーダンスを彷彿とさせるような身体表現で、作品の中でも見どころと言っていい。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
ユリア役の平原綾香。ユリアの役自体、そこまで出番が多いわけではないのだが、劇場全体を包み込むような慈愛に満ちた歌声が忘れられない。失意の中で歌う「死兆星の下で」や、本作の代表曲とも言える「氷と炎」は必聴。オーチャードホールいっぱいに響き渡る彼女の歌声に酔いしれたい。
再演からの参加となる、トキ役の小西遼生。キャスティングの時点で「絶対ハマるだろう」と思っていたが、その期待に見事に応えてくれた。初演でトキを演じた加藤和樹や小野田龍之介とはまた違い、石丸の言葉を借りれば「情の深いトキ」。変わり果てた兄ラオウにかつての優しさを取り戻してほしいという思いを込めた「願いを託して」をはじめ、聴きどころや見どころが多い役どころだ。
同じく再演からの参加となる、レイ役の三浦涼介。他のキャストに比べてかなり線が細いのだが、女と見紛うほどの美男という設定を聞けば納得だし、何よりその芝居のパワーには驚かされた。新キャストのマミヤ(清水美依紗)とのやりとりも含め、レイの生き様には心打たれる。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
主に2幕に登場する、ジュウザ役の伊礼彼方。陽気なラテンのリズムを刻む作品の中でも異色なナンバーで、初演でも非常に人気が高かった「ヴィーナスの森」をはじめ、なかなかおいしい役どころ。ゲネプロでちょっと遊びすぎていたが(笑)、気ままに自由に生きるジュウザはハマり役。再演でも伊礼のジュウザが見られるのは嬉しい。
シン役の植原卓也。ユリアへの愛を最後の最後まで貫き、その狂気も無様な姿もひっくるめて、魅力的。ラオウ役の福井晶一は、その圧倒的な歌声で世紀末覇者・拳王としての説得力を醸し出す。
青年期のラオウ(一色洋平)とトキ(百名ヒロキ)は、ここまでの三兄弟の絆を思わせる大事な回想シーンを全力で演じ、胸を熱くさせる。リン(山﨑玲奈)は透明感のある声に磨きがかかり、バット(渡邉 蒼)はやや喉が心配だったが、全力の演技で、成長していく過程を見せる。トウとトヨという全く異なる女性像を演じるAKANE LIVは、大人の女性の強さを滲ませる。
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』ゲネプロの様子
上演時間は、1幕90分、休憩20分、2幕75分の計3時間5分(予定)。初演のあの熱気を忘れられない方も、評判を聞きつけ初めてご覧になる方も、ぜひ食わず嫌いをせず、この世界観を体感してほしい。
取材・文・撮影=五月女菜穂

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