16本目・『死の谷間』:杉作J太郎のD
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映画…連載41
DVDレンタル屋の棚に残したい100本の映画
「半年後でよろしくおねがいします」
とかいうものではない。
「こころの準備が必要ですのでね、喪失感で潰れてしまわないように、なにか支えになる趣味とか、いや、もっと打ち込めるものを。茫然自失せずにすむなにかをいまから用意しておきたいので半年間、時間をください」
というわけにはいかない。
一瞬一秒も関係していたくないほど嫌いになってるのかもしれない。
人間の気持ちというのは不思議なものだ。大好きだったものが大嫌いになる。その逆で大嫌いが大好きになることもある。
そしてもうひとつ。新しい別の人を好きになってしまったときにもひとつの別れが用意される。
二人、三人、四人、五人。同時になんにんもの人を愛せる人もいるだろう。ただ、相手がそれをよしとするかどうかはわからない。
出会い自体も不思議な感じだった。
核戦争かなにかで大気汚染された地球上に、もう人類はほとんどいなかった。
いや、もう、ひとりしかいない感じであった。
そのひとりというのが山間の町でたったひとり、暮らしている、というより、生きている、という言葉のほうがあっている。
ひとりぼっちで生きているマーゴット・ロビーであった。
画面の中にいるのはマーゴット・ロビーただひとり。
回想シーンもない。
なにか犬か猫かヤギみたいな動物と暮らしていたがすみません。記憶にない。私的にはマーゴット・ロビーだけを見ていた。
できれば声も聞きたいが話す相手がいないのでマーゴット・ロビーは朝から晩まで黙っている。なにも喋らない。
夜が更けたらレコードを聴く。
そして眠る。
犬だったかな。犬だったような気がしてきた。ま、犬すらも私にとっては邪魔もの。恋敵であった。
そんな私(観客、あるいはビデオを借りてきて家で見ている私またはあなた)の幸せな時間はひとりの闖入者によって壊される。
科学者だったかな。キウェテル・イジョフォーだ。
他の映画で見るキウェテル・イジョフォーはすっきりした現代青年だったがこの映画ではヒゲづらのヤボテンだ。たったひとりで放浪してきたので若い頃の山城新伍がヒゲぼうぼうになってるかんじだ。
当然警戒するマーゴット・ロビーであったが地上にたったふたりしかいないかもしれない雰囲気である。
親密にはなる。ま、そんなにいやなやつでもないのだ。ヤボテンで気が利かないだけで若干、陰気で生真面目なやつなのだ。見た目的にも観客のヒートは買ってない。
触れるのが遅くなったが、マーゴット・ロビーは当然素晴らしい!
彼女の出演作で彼女は常にすてきであり、かわいらしかったり、きれいだったりするが、この作品はそういう意味で最高傑作である。
なんといっても彼女しか出ない時間が冒頭からしばらく続くのだ。私は画面に向かって言ったかもしれない。
「大好きです」
だが目の前にしたら私には言えないだろう。臆してしまいそう。いや、それよりなにより、ふたりぼっちという状況に甘えてアタックするのはみっともない。
若干陰気で生真面目な山城新伍もまた、そうは言わなかった。ま、この男ならいいでしょう。許す。私ら観客サイドがそう思った瞬間、もうひとりの生き残りが現れる。
イケメンである。
爽やか。
陽気。
ハンサム。
おまけに最初からもうセックスを視野に入れている。
この映画にはたった三人しか人間は出てこないが、世の中、こんなものだ。男女を逆にすれば女性にも共感は呼べるだろう。いるんだよなー、いつの世にもすべてをかっさらっていくどあつかましいいやなやつが!
はたしてこの恋の終わりはどう展開するか?
ご期待ください。
出演/マーゴット・ロビー、キウェテル・イジョフォー、クリス・パイン
脚本/ニッサー・モディ
撮影/ティム・オアー
音楽/ヘザー・マッキントッシュ
監督/クレイグ・ゾベル
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すぎさく・じぇいたろう
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める(男の墓場改め)狼の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
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