この濃密さ、まさに泥浴び。『ドロヘ
ドロ原画展FINAL 〜林田球の世界〜
』内覧会レポート 

東京ドームシティのGallery AaMoにて、漫画家・林田球の大規模展覧会『ドロヘドロ原画展FINAL 〜林田球の世界〜』が開催される。会期は2022年9月17日(土)から10月16日(日)までの30日間だ。開幕前日に実施されたメディア向け内覧会、正直言って驚いた……! ものすごい濃度と質量である。本記事ではその魅力の一部でもお伝えできたらと思う。
黒い壁に原画が並ぶストイックな展示空間 (c)林田球/小学館
「ドロヘドロ」(全23巻)は、2000年に「月刊IKKI」で連載を開始し、以降18年にわたって人気を博したダークファンタジー。林田氏の紡ぐ独特の世界観から、完結後の現在でも国内外に多くの熱狂的なファンを有している。この『ドロヘドロ原画展FINAL 〜林田球の世界〜』は、2020年から全国5会場を巡回してきた『ドロヘドロ原画展』に追加展示をこれでもかと投入し、大幅なスケールアップを果たした東京凱旋展である。
作者の林田球よりメッセージ
林田球先生コメント・描き下ろしイラスト (c)林田球/小学館
ーーこの度『ドロヘドロ原画展』が東京ドームでFINALを迎える事について、率直なお気持ちをお聞かせください。
※「ドロヘドロ原画展FINAL」の開催地は、東京ドームシティ Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)となります。
阪神ファンの私の原画展が巨人の本拠地東京ドームで! ありがとうございます。とにかくうれしいです。会場も広くなり、展示物もさらに増やしてもらいました。仕事場のカラー原画保管箱はカラッポです。
ーー『ドロヘドロ原画展』は2020年2月に渋谷でスタートし、これまで全国5会場で計3万人以上の方が来場されましたが、その事についてどう思われますか。
こんなにたくさんの人が見にきてくれて、原画展をやってよかった!と心の底から思います。
ーー会場では来場者から先生へのメッセージコーナーがありますが、これまでの会場で印象に残っているメッセージはありますか。
全て大事に読ませてもらってます。メッセージを書いてくれた方々にはあらためてお礼を伝えたいです。ありがとうございます! ドロヘドロのカバー背景絵を見て驚いてくれた人が多かったですね。2回以上来てくれた方もたくさんいたようです。
ーー今回は新たに追加されたものを含めて300点以上の原画が展示されていますが、特に思い入れの強い原画やシーンはありますか。
やはり描いた本人としては苦労した、時間のかかった絵に思い入れがあります。ドロヘドロ17巻と20巻のカバーはサイズが大きいので本当に大変でした。それと各話扉絵は毎回時間をかけているので一枚一枚思い出があります。
ーー最後に先生から、原画展を楽しみにしているファンの方々へメッセージをお願いします。
今回ラストということで、ポスター絵をまた新しく描きました。制作過程動画もあります。今連載中の大ダークのカラー原画も増えてます。2年前にはゆっくり見れなかったという方も、今回は一ヶ月という長い期間やってますのでぜひ見に来てください!
画伯、入魂のキービジュアル
スケールアップした凱旋展と聞けば、じゃあ例えば何が増えたの? というのが気になるところ。その答えは会場の冒頭にて、ドーンと惜しみなく展示されている。
『ドロヘドロ原画展FINAL 〜林田球の世界〜』描き下ろしキービジュアル (c)林田球/小学館
鑑賞者を迎えてくれるのは、本展のために描き下ろされたキービジュアルと、その制作過程をまとめた約7分のオリジナル映像である。
『ドロヘドロ原画展FINAL 〜林田球の世界〜』キービジュアル制作過程 (c)林田球/小学館
制作過程を見つめていると、鉛筆、ペン、細い絵筆にパレットナイフ……と、次々に得物が変化していくので目が離せない。イラストというよりも絵画が生み出されていく過程のようだ。完成作でただ黒く見えていた部分が、何度も何度も執拗に画材を変えて重ねられて出来た“黒”だったと知り、改めて目を凝らしてみて衝撃を受けた。
『ドロヘドロ原画展FINAL 〜林田球の世界〜』描き下ろしキービジュアル(部分) (c)林田球/小学館
最前面の茶色い液溜まり(?)は、べっとりと盛り上げて描かれている。濡れたような質感でグッと目を引きつけて……からの、カワイイ餃子の妖精、からの、唯一のアクセントとなっている鮮やかな赤のスニーカーのライン! 痺れる視線の誘導だ。
こんなにいいんですか?
さて、冒頭の展示で制作過程のイメージができた上で先へ進むと、度肝を抜かれる。
展示風景 (c)林田球/小学館
お、多い。
会場には「ドロヘドロ」と現在「ゲッサン」にて連載中の「大ダーク」の両作品から、原稿や原画、合わせて413点が一挙に展示されている。その中でカラー原画約60点、モノクロ原稿約80点がこのたびの『FINAL』で新たに加わったものだ。「ドロヘドロ」の1巻からスタートして、順を追って展示は進んでいく。さながら連載18年分のスライドショーである。
13巻・魔の78 ネーム (c)林田球/小学館
ガラスケース内にはネームの展示も。
展示風景 (c)林田球/小学館
驚くべきことに、展示されている原画の大部分に、制作背景や思い入れなどを語る作者のコメントが添えられている。これも、多い。全てを味わい尽くすにはなかなかの時間が必要そうだ。それにしても、作者自身が一枚一枚をデフォルトで解説してくれる展覧会だなんて、かなり贅沢である。
カラー原画を眺めているうち、ふと目が止まった。
2巻・描き下ろしカラーぺージより (c)林田球/小学館
……これは、絆創膏?
もはや現代アートなのでは
展示風景 (c)林田球/小学館
続いて、作者のコラージュ技法について少し触れたい。「ドロヘドロ」単行本の表紙は、人物と背景で別に制作されたのだという。背景部分はさまざまな素材を組み合わせた大胆なデザインで、どちらかというとアートの畑に近い仕上がりである。

「ドロヘドロ」単行本カバー背景絵 (c)林田球/小学館
「ドロヘドロ」単行本カバー背景絵 (c)林田球/小学館

これらのコラージュをスキャンしたり撮影したりして、単行本の背景絵が出来上がっていたというわけだ。自由な質感の組み合わせから、作者が楽しみながら制作しているのが伝わってくる。見どころの多い本展の中でも、とりわけ生で鑑賞する意義が大きい展示なのではないだろうか。
筆触七変化から目が離せない
そして異素材をミックスした変化球だけではなく、直球の絵の力もまたすごい。目を逸らしたくなるモノから目を逸らせないモノまでが活き活きと描かれ、413点がひしめく会場内は濃密な空気に包まれている。
14巻・魔の80より (c)林田球/小学館
例えばこちらは、作者がゲームをプレイしていて抱いた「こんなふうに血を描いてみたい」という思いからできたシーンなのだそう。うわっというグロテスクさの中に、液体の粘り気やツヤへのこだわりが見える。
23巻・魔の160より (c)林田球/小学館
その一方で、鉛筆と薄墨を使って仕上げた静かな画面にも目を奪われる。見開きで描かれた死体の山だ。「今までやったことのない大胆なもの」を描いて最終決戦のクライマックス感を出したかった、とのコメントが添えられていた。
「ヒバナ」2015年9月号裏表紙 (c)林田球/小学館
もちろん、会場には死体の絵ばかりがあるわけではない。主人公の親友・ニカイドウの強烈に可愛い一枚を紹介しておこう。こちらは編集部からの細かい指示(露出の高さ・お尻の向きなど!)を受けて、その通りに制作されたのだそう。プロフェッショナルぶりが冴え渡る一枚である。
創造と制作に迫る
展示風景 (c)林田球/小学館
展示室の奥へ進むと、制作風景の動画がもう一本放映されている。2020年にスタートした『ドロヘドロ展』のメインビジュアル制作過程を収めたもので、こちらは約15分の映像だ。
展示風景 (c)林田球/小学館
『林田球先生 お仕事道具』のコーナーも。「ドロヘドロ」の作品プロットや設定メモなどが記されたスケッチブックは、20冊以上にわたる。会場ではその一部が展示されているほか、内容を編集した書籍「ドロヘドロ原画展スケッチブック」「ドロヘドロスケッチブック2」が物販コーナーにて販売されているので要チェックだ。
「大ダーク」を大サービス
展示風景 (c)林田球/小学館
最後の展示エリアでは、現在連載中の「大ダーク」の原画や原稿を見ることができる。中でも、第1話を原稿で通読できるという企画が面白い。
「大ダーク」第1話 (c)林田球/小学館
原稿の状態でまるごと1話を読むのは初めての体験だったが、やっぱり“生”だけあって、力強さやスピード感がダイレクトに伝わってきて、脳の処理が追いつくのが大変だった。
「ゲッサン」2021年5月号表紙イラスト (c)林田球/小学館
今回新たに追加された「大ダーク」のカラー原画も。4人が手のひらを前に突き出しているポーズは、“5”月号の表紙絵だから、だそう。
ご馳走様でした
展示風景 (c)林田球/小学館
会場の出口付近には、作者へ感想を伝えるためのメッセージノートが用意されている。「来てくれてありがとね!」と見送ってくれる壁の色紙に、ちょっとほっこり。
物販コーナー (c)林田球/小学館
驚くべき物量の多さ、一枚一枚の画面の濃密さ、そして展示のストイックさが胸を打つ展覧会だ。本展には記念撮影用のフォトスポットは無い。それでも間違いなく、会場を訪れた多くの人の心に残る展覧会なのではないだろうか。
『ドロヘドロ原画展FINAL 〜林田球の世界〜』は、東京ドームシティのGallery AaMoにて、2022年10月16日(日)まで開催中。

文・撮影=小杉美香

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