「BanG Dream!」をはじめ、アニメ、
ゲーム、音楽、ライブ、プロレス等、
様々な事業を成功させてきたブシロー
ドがコロナ禍でも成長できたのはなぜ
か? 木谷高明社長が語る【インタビ
ュー連載・エンタメの未来を訊く!】

エンタメビジネスの未来について各業界の識者に話を訊くインタビュー連載「エンタメの未来を訊く!」。第11回は、株式会社ブシロードの代表取締役社長・木谷高明氏にインタビューを行った。

トレーディングカード事業から始まり、「BanG Dream!」などのメディアミックスプロジェクトを多数ヒットさせてきたブシロードグループ。アニメ、ゲーム、音楽、ライブイベント、そして新日本プロレスや女子プロレス「スターダム」の運営なども行い、エンタメ企業として急成長を果たしてきた。コロナ禍においても2020年8月にいち早く大規模野外ライブを開催するなど意欲的な動きを見せてきたブシロードは、2022年11月13日、埼玉県・ベルーナドームにて「ブシロード15周年記念ライブ in ベルーナドーム」を開催する。創立15周年を記念し「BanG Dream!」「D4DJ」「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」「アサルトリリィ」「from ARGONAVIS」「ミルキィホームズ」「ラブライブ!」「令和のデ・ジ・キャラット」などブシロードが手掛けてきた作品に登場するグループが出演する大規模なイベントだ。
「コロナ禍の2年半でエンタメを巡る構造がかなり変わった」と語る木谷高明氏に、社会の変化とエンタメの未来について聞いた。
――まず、各地でイベントが開催されるようになった2022年の夏のライブエンタメを巡る状況をどう見ていましたか?
一般論としては復活してよかったなと思いますね。コロナの感染者がどれだけ増えようが、みんな、めげずにやっている。2年前、2020年の夏はもっと感染者が少なかったにもかかわらず、みんな止めちゃっていて、ほとんどウチくらいしかやってなかったわけだから。それはよかったなと思います。ただ、この2年半で構造がかなり変わったと思っています。
――どう変わってきたんでしょうか?
これはプロレスでもライブでもそうなんですけど、やっぱり「現場に客足が少しずつ戻ってきた。ただ、まだ100%にはなってない」みたいな言い方をするんですよ。けれど、客足が戻るんじゃなくて、この2年半で新しいお客さんを作れたかどうかだと思うんです。それをできた強いコンテンツやイベントは100%を上回っているし、できなかったコンテンツはお客さんが半減している。コロナは一つのゲームチェンジャーだったんです。それにちゃんと対応できたところと、その煽りをもろに受けてしまったところでかなり状況が違う。もうコロナのせいにする時代は過ぎたと思います。コロナ以外にも円安や製造費の高騰など、ゲームチェンジャーになる要因は2年半でいっぱいあったと思うんです。それを上手く生かせたところが伸びているし、まともにダメージを受けたところが落ちている。当社の場合はグループ全体としてはプラスが5割、マイナスが5割くらいでした。マイナス面はわかりやすくライブエンタメのダメージが大きかったんですが、プラス面の一つとしては当社にとっては円安のメリットが大きかった。さらに大きかったのは、コロナによって一時期みんなが家にいるようになって、そのことで世界中の人たちが日本のアニメを観るようになったことです。この恩恵で当社の「ヴァイスシュヴァルツ」の英語版の売り上げはこの2年間で10倍以上になりました。グループ全体ではいろんなことをやっているのでメリットとデメリットがあって、トータルの金額ベースではメリットの方がちょっと大きいですね。
――コロナ禍に訪れた構造的な変化に対応し得る多方面なコンテンツ展開がもともとあった、と。
そうですね。ライブエンタメの話とは若干ずれますが、コロナになった当初は、お店に行けないのでカードゲームもダメージを受けると思っていたんです。けれど、コレクション需要は世界的に上がった。これにすぐ気が付いたので、それ以降はカードゲームに力を入れてきました。
――ブシロードはトレーディングカードゲーム事業から始まり様々なジャンルのコンテンツを手掛けてきたわけですが、ライブエンタメに力を入れるようになったのはそもそもどんな戦略だったんでしょうか?
基本的にはアナログとデジタルをミックスしながら盛り上げていくということですね。例えば一つのコンテンツを立ち上げるにしても、ライブや舞台から始めて最初に1万人くらいのコアなユーザーを掴む。インフルエンサーを作って、そこからアニメやゲームを一気に立ち上げるというのが、うちの得意なパターンだったんです。これが使えなくなったのが最大のダメージでした。
■昔に比べて必死にやっているものに惹かれるようになっている
――コロナ以降はどう変わってきましたか?
当社のグループですごく伸びたのは女子プロレスの「スターダム」ですね。売り上げはこの2年半で5倍ぐらいになりました。なぜ伸びたのかと言うと、やっぱり常にチャレンジし続けてきたのが大きい。無観客試合も2020年3月に最初にやったし、いろんなチャレンジングなことをしてきた。若い人が頑張って、さらにブレイクしようとしている。逆に新日本プロレスは2019年にものすごく盛り上がったので、昨年、一昨年で少し落ち込みました。今年は少し良くなったものの、勢い的にはまだまだです。今は若い外国人がすごく活躍していて、ここ最近の盛り上がりはその人たちの頑張りが大きいなと思います。やっぱり若い人が活躍しないと若いファンは減っていく。たいていの人は、自分より20歳以上年上の人には感情移入できないんですよね。大体10歳年上ぐらいまでです。だから、10代、20代のファンを作ろうと思ったら、20代の人が活躍しなきゃいけない。40代が活躍しても、10代の人から見たら自分の親父と同じ年齢じゃないですか。いつも仕事で疲れた親父を見てるわけです。その人たちのファンにはなかなかなれない。僕は昔からこの“20歳の法則”を重視しています。若いファンを作りたいと思ったら、若い人が活躍しなきゃダメだと思っています。
――先ほど仰ったアナログとデジタルをミックスしながら盛り上げていくということについては、コロナによる社会の変化をどう見てらっしゃいましたか。
コロナの期間中にすごく伸びた一群がいるんですよ。それが何かと言うとVTuberですね。なぜVTuberが伸びたかと言えば、毎日配信してるじゃないですか。家にいて暇な時に観る癖がついたと思うんです。あともう一つは、昔に比べてお客さんが必死にやっているものに惹かれるようになってると思うんです。仕事でやってる感が見えた段階で難しい。例えば、仕事としてやってる風に見える生放送なんて、感情移入できないですよね。それより、VTuberが一生懸命必死に生き残るために頑張ってる方が共感できる。個人に報酬をあげたいという時代にもなってきている。「アーティストは応援したい、声優は応援したい、けれどブシロードは?」という人がいる。ネットやSNSと接している時間がものすごく長くなったので、より近くなったような気持ちになるんでしょうね。とはいうものの、グループとしても起死回生の策を考えてます。現在の「BanG Dream!」プロジェクトの音楽については、僕は全く関わってないです。音楽は若い人のものだから、若い人がやるべきだと思うので。ただ、やはり新しいことをやらないと盛り返していけないので、「BanG Dream!」は音声合成ソフトの「CeVIO AI」とのコラボプロジェクトを始めました。あとはスマホ向けゲーム「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」(以下、「ガルパ」)の大幅バージョンアップも進めています。やっぱり「BanG Dream!」プロジェクトって、「ガルパ」とリアルバンドの両軸なんですよね。片方がダメージ受けると、もう片方もダメージを受ける。その悪循環の繰り返しだったので、それを「CeVIO AI」を使った新しい試みと「ガルパ」のバージョンアップで盛り上げつつ、現場レベルで新しいバンドもいろんな展開をしていきます。あと、僕は今、ボーイズバンドプロジェクトの「from ARGONAVIS」に力を入れているのですが、そこで現場に言ってるのは、徹底的なアナログ戦略です。
――徹底的なアナログ戦略というと?
例えばVTuberはお見送りできないですよね。ライブをやったとしても、ステージから客席に降りて行って汗や熱気を感じることはできない。デジタルではやれないことって沢山あるんですよ。3次元の方では徹底的にそういう差別化をやっていく。それは女性キャストより男性キャストの方がやりやすいわけですよ。たとえば、今度「ヴァイスシュヴァルツブラウ」というカードゲームのタイトルをリリースするんですけど、その講習会に先生役としてARGONAVISのカード好きなメンバーが参加します。そういった現場レベルでアナログ的な試みをやっていますね。他方で、2次元の方は徹底的に絵面にこだわってます。
――コロナの行動制限が解けた先でどうやってライブの熱量を上げていくかということを見据えて、いろんなことを考えていらっしゃったわけですね。
そうですね。あとは声出しの問題もあると思います。なので、9月5日、6日の新日本プロレスの後楽園ホール大会では、席を半分にして、もちろんマスクをしながらですが、声出しを解禁しました。そういうことも試していますね。ただ、僕は一番大きいのは、癖だと思います。例えば雑誌を買うとしても、毎月購入する癖がつくと、最初はウキウキしながら買っていたとしても、だいだい途中から惰性になる。それでどこかでやめちゃうわけです。ウキウキして買ってる時よりも癖で買ってた期間の方がよっぽど長い。この癖が無くなっちゃうのが一番まずい。だからイベントって、毎年同じ場所で同じ日に同じ内容でやるのがいいんですよ。例えば新日本プロレスの「1・4東京ドーム」(「WRESTLE KINGDOM」)は毎年1月4日に東京ドームで開催していますが、コミケとかも何十年と同じ場所で同じ日にやっている。10年ぐらい続けて行ったら「今年は行かないでおこう」にはなかなかならないと思います。惰性とか癖で行ってる部分が大きいんですよね。コロナで一番大きかったダメージは、この癖を一度断ち切られたことです。すぐにお客さんが戻ると思ってる人も多いけど、癖がなくなった人がいる分、お客さんを戻すのには何年もかかる。同じ場所で同じようなことをやっていたとしたら、仮にコロナのことが一切気にならない社会の状況になったとしても、完全回復するには真っ当なやり方でも3年はかかります。なのに一気に戻ると思っている人が多いのは感じますね。
■日本は格差が広がってるように見えるけど変わってない
――最初のお話と重なるところもあると思うんですが、習慣がなくなったことで苦戦しているコンテンツと、新しいお客さんが着実に増えているコンテンツの差はどういうところにあると思いますか?
もちろん個々のIPやコンテンツの新規性とか努力の部分もありますけど、大きいのは時代の流れ、空気です。それがやっぱりコロナによって変わっちゃったというのはありますね。エンタメ業界の人って、エンタメの中のことしか考えないんですよ。でも、やっぱり経済あってのエンタメだし、いろんなことに左右される。風がちょっと吹いただけで、雰囲気が変わっちゃう。例えば今はVTuberが全盛だと思うんですけど、これも飽きられる可能性がある。家でいつも配信を見ているけど、やっぱ外ではっちゃけるのもいいねとなってくる可能性は大いにあると思います。
――ここ2年半は、たとえば音楽にしても家で楽しむことのできるものが流行ったり、どちらかというと内向的なコンテンツがトレンドになっていたと思います。そこからの揺り戻しは感じてらっしゃいますか?
まだ感じてないですよね。例えばアニメの配信サイトでも異世界ものばかりが上位になっています。しかもアメリカとか中国の人たちが異世界ものを好きなんですよ。うちのカードも以前はアメリカで全然売れなかった異世界ものが売れるようになっている。それは何故かと言うと、僕は格差社会が進んだからだと思います。日本は格差が広がっているように見えるけど、むしろ変わってない。金持ちがいなくなって、みんな貧乏に近づいている。むしろ海外のほうが格差が広がっています。だから、異世界ものの日本のアニメやコミックは、まだまだ海外に広がると思います。異世界ものがウケるのは、現実逃避も理由の一つですから。
――コロナだけでなく、社会や経済の状況を背景にした時代の流れにコンテンツやエンターテイメントのトレンドが影響されているということですね。その先行きについては、どんな風に考えていらっしゃいますか?
やっぱり、ライブというのはアーティストの生き様を見るものだと思うんです。流れとしてはそこへの揺り戻しの方向に行くんじゃないかと思っていますけれど、まだそっちの方向には行ってないですね。デジタルというフィルターをかけた方が見やすい、みたいなことにもなっている。ただ、デジタルはオンラインになって、オンラインはすぐにグローバルになる時代ですから、ライブエンタメはグローバルの方向に行ったものが勝つんだと思います。そうなると、やっぱり言葉の問題が大きい。そこをどう乗り越えるかを考えています。例えば、うちのグループ会社に劇団飛行船というマスクプレイミュージカルをやっている劇団があって、もともと「3匹の子豚」や「アラジン」のような子供向けのぬいぐるみ人形劇をやっていたんですけども、「プリキュア」のようなキャラクターものをこれから増やしていこうと思っているんです。これにはすごくメリットがあって、喜怒哀楽を身振り手振りで表現できちゃうので、言葉を吹き替えにすれば世界中でやれるわけです。ここにはすごく可能性を感じています。音楽でいうと、「BanG Dream!」のRAISE A SUILENには期待しています。あんな身長差があって可愛い子たちのバンドは日本にしかない。技術とビジュアルで世界に行けるんですよ。特に今は、オンラインによって技術が伝わりやすくなって、上手いということがものすごく大事になってきている。だから、本物じゃないとなかなか売れづらいようにもなっている。実力が大事になってきているとも思います。
■オンリーワンに持っていけるかどうかが大事
――オンラインライブについてはどんな考えをお持ちでしょうか? 有観客ライブが開催されるようになった現在、リアルとオンラインをハイブリッドにしたイベントの開催もあれば、一方ではオンラインライブは徐々に下火になっているという捉え方もある。このあたりについてはどうでしょうか。
これも、強いものがより強くなるという話だと思います。強いものにとっては可能性が広がったし、弱いものにとっては不確かになった。たとえば日本でやったライブを海外からでも観られるようになったし、東京でやったライブを地方でも観られるようになった。何が何でも見たいと思わせるような強いコンテンツにとってはすごく有利な話ですし、リアルもやって、ライブビューイングもやって、配信もやるみたいなライブもある。とはいえ、全く無名の人がオンラインライブをやったからって、そこに視聴が集まるわけではない。強いところの収益機会とコンテンツの拡散の機会が増えて、強いものがより強くなるということだと思いますね。
――長期的な話で言うと、デジタル化とグローバル化によって、いわば世界中で勝者総取りのような状況が訪れるという見通しがあるということですね。そこにおいてやっていくべきこととしては、どんな考えがありますか。
やっぱり、勝者総取りにさせないためにアナログなゲリラ戦というのがあったんです。けれど、それがコロナによって使えなくなったここ2年半で、なおさら勝者総取りになった。だから、これからはどう差別化するか、オンリーワンに持っていけるかどうかが大事だと思いますね。今の時代は前とスピード感が違う。結果が早く出る時代なんです。昔に5年10年経たないと実現しなかったことが、今は1年2年で結果が出る。デジタルでオンラインということは、結果が早く出るということなんですよ。だから、ビジネスにしてもIT企業はすぐに大きくなる。デジタル中心に世の中が回っているということは、結果を早く出さないとお客さんが付いてこないということです。あとは、世の中全体が非常に短尺思考になっている。なのでうちのコンテンツもTikTokやYouTube Shorts に力を入れようという話になっています。それも、作品を見せようとするのは違う。現場の担当者はちゃんとした起承転結のあるものを見せなきゃいけないと考えがちなので、そうじゃなくて「え、ここで終わっちゃうの?」というくらいにしなきゃダメだと言っています。時間をどんどん細切れにする時代なので、フルコースはそんなに望まれない。たまにはフルコースもいいけれど、基本は前菜だけで終わりみたいな感じになっている。30分の動画を見せるというのも、すごく大変になっているので、そう考えるとアニメも非常に難しいですよね。若い人がテレビを観なくなって、プロモーション手段が難しくなっているというのもあります。それに対する答えはあまりないんです。だから、すでにみんなが知ってることが、より有利になってしまう。新規のコンテンツを広めるのがすごく大変になっているので、会社の規模感自体も大事になっている。自社IPを頑張らないとその会社にファンができないですから。
――まさにそこに関わる話ですが、11月13日には「ブシロード15周年記念ライブ in ベルーナドーム」が開催されます。このイベントについてはどんな思いをもって進めていますか?
今まで7周年と10周年のライブをやってきたんですが、15周年というのは、区切りを作るためにも是非やりたいなと思っていました。やっぱりこれは盛り上げたいですよね。かなりアーティストも出るし、全部で50曲以上披露する大きなライブなので。そして、なるべくみんなが知っている曲をやってほしいとは思ってます。15周年なので、お客さんもやっぱり何らかの思い出がある曲をお客さんも歌ってほしいだろうし。あとは、11月には感染者数も減って、コロナの終盤戦に入ってると思いますしね。
――ブシロートは2020年の8月に先陣を切って有観客の大規模ライブを開催に挑んだわけで、そういう意味においてもライブの意味合いを感じてきた2年半なのではないかと思います。
そうですね。やめるのも一番早かったですし、その時に一番早く再開しようと思ってやってきたんです。それは性格もありますよね。リスクを恐れてやらないというのは、あんまり好きじゃない。常にチャレンジしている姿を見せたい。リスクばっかり考えたら、エンタメじゃないと思うんですよね。会社やお役所と同じことをしていたら、そこには夢も何もない。そういう意味でも、コロナ禍の区切りにしたいと思ってるので、その集大成のライブにぜひ来ていただきたいなと思います。
取材・文=柴那典
この取材は8月23日に行われました。

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