BREIMEN、制約も後悔も血に変えた音
楽人生の分岐点『FICTION』ツアー開
幕へ――「これを曲にしなきゃ音楽家
として、人として先に進めないと思っ
た」

どれだけ時代や環境が移り変わろうと、ピュアな衝動を抱えて人生の最期まで全力疾走できるのか――。生粋のミュージシャンでありミュージックラバーな5人のそんな情熱と溢れんばかりの可能性を宿した前作『Play time isn’ t over』で、ネクストブレイク最右翼としてがぜん見逃せない存在となったミクスチャーファンクバンド、BREIMEN。この春には、岡野昭仁ポルノグラフィティ)✕井口理(King Gnu)のコラボ曲「MELODY(prod.by BREIMEN)」の作詞作曲、プロデュース、演奏までを手掛け話題を呼んだ彼らが、一躍注目を集める中リリースしたのが、約1年ぶりとなる3rdフルアルバム『FICTION』だ。今作では「映画」をテーマに、制作上のさまざまな制限をあえて設けることで自らのクリエイティビティを刺激。数々の現場でサポートワークもこなす確かな実力と音楽的好奇心を兼ね備えたメンバー全員の、既成概念にとらわれない自由な感性を爆発させた一枚となっている。今作を引っ提げ、9月17日(土)大阪・Shangri-Laを皮切りに『BREIMEN 3rd ALBUM “FICTION” RELEASE ONEMAN TOUR “NON FICTION”』も開幕。バンドのソングライターである高木祥太(Vo.Ba)が、いつになくナイーヴな詞世界からも垣間見せる、音楽人生の分岐点を語ってくれた。
BREIMEN 高木祥太
「MELODY」で無理やりエンジンをかけ直してもらった感覚でした
――前作『Play time isn't over』は、それに伴うワンマンライブといい、BREIMENの最高到達点だと思ったのと同時に、「こんなもの作っちゃって、超えるのムズくね?」と心配になったのが正直なところでした。
いやもうまさに、『Play time isn't over』を作り終わった直後は廃人みたいに空っぽになって、2〜3カ月ぐらい全然曲もできなくて。でも、そのタイミングでポルノグラフィティの岡野昭仁(Vo)さんとKing Gnuの井口理(Vo.Key)の「MELODY(prod.by BREIMEN)」の制作の話をもらって。
――タイミング的にはめちゃくちゃ渡りに船で。しかも、プラスだろうがマイナスだろうが、絶対に何か刺激になるのは分かってるから飛び込みやすいですね。
こんな大きなトピックはなかなか降ってこないし、今までにない企画だったから面白かったですね。しかも、「MELODY」は『Play time isn't over』で培った諸々を使う延長線上にあったから、あれで無理やりエンジンをかけ直してもらえた感覚でした。
――やっぱり対象が素晴らしいポップスター2人なので、それにより新しいメロディや展開が引き出されたりもしたみたいですね。
BREIMENの旧体制とか、エドガー・サリヴァンというバンドをやっていた頃はボーカルに対して当て書きみたいなこともしたけど、そもそも外部の人に楽曲提供すること自体が初めてだったし、俺が作った曲だからもちろん自分の感情も入ってるけど、2人が歌うことに意味がある曲ですね。2人はボーカリストだから、基本的には曲を作って歌う人じゃない。それって、自分で書いて自分で歌う、言わばシンガーソングライターでもある俺と根本的に違うところじゃないですか。ある意味、俺が作った曲は俺が歌っちゃえばどうにでもなるけど、2人は新藤晴一(Gt/ポルノグラフィティ)さんや常田大希(Vo.Gt/King Gnu)が作った曲を、自分のものに変換する作業と責任がある。それって本当にすさまじい行為だなと思って。そういうところから「MELODY」というタイトルもできたし。
BREIMEN 高木祥太
――歌だけで全てを納得させなければいけない「すごみ」というか。それにしても、このタイミングでフックアップしてくれた井口くんも粋ですよね。
もうずっとBREIMENを好きでいてくれて、インスタのストーリーでシェアとかもしてくれていたけど、こういう実質的な形にしてくれたのは本当にありがたかったですね。だって、におわせただけでYahoo!ニュースに載りましたから(笑)。
――前作のリリース時にも、「もし俺が井口くんならもっといろんなことができると思う」と、彼の歌の技術が圧倒的だからこそ名指しで例えていて。ということは、実際に一緒に作業したことで、自ずと自分の歌についても今一度考えさせられたと思うんですけど。
言われてみれば、結構そうかも……。意外と他のインタビューでは言ってこなかったけど、俺は元々ボーカルをやっていたわけじゃないし、半ばたまたまみたいな形で始めたから、ボーカリストとしての自覚がそんなにない状態でここまでやってきて、それでいいと思ってたんです。けど、今回の『FICTION』で「ボーカリストとしての自分とは」みたいな感覚がちょっと見つかったというか。それはやっぱり「MELODY」の制作で、影響を受けるとかそういう次元でまねできるものじゃないけど、あの2人の歌の偉大さを感じたからで。
――最近、德永英明さんのライブレポートをしたんですけど、もうめちゃくちゃ良くて。技術だけじゃないエモーションも含めて、「こういう人が歌うべくして歌い続けている人なんだ……」と思わされたんですよね。
いや~いますよね、そういう人って。TENDREのドラムのたいちゃん(=松浦大樹)がsaccharin(サッカリン)というソロプロジェクトをやっていて、俺がベースを弾いてるんですけど、イベントで奇妙礼太郎さんをシットインして一緒にやったとき、変な言い方ですけどめっちゃ疲れたんですよ。魂を持っていかれるというか……あの人も本当にすごいなと。
――同時に、そんな偉大なる歌い手の一人である岡野さんが、BREIMENの演奏を前に「音楽が楽しくてたまらなかった頃を思い出した」みたいに言ってくれたのはうれしいですよね。MV撮影の規模もデカいし、「MELODY」の制作は本当にいい刺激になって。
これが『FICTION』のリリースと全然関係のないタイミングだったら、やっぱり注目度もすごく高いし、「MELODY」という台風にただただ飲み込まれていたかもしれない。でも、それを受けてちゃんとBREIMENの曲を聴いてもらえる状況はよかったなと思いますね。
できないことがある方がクリエイティブとしては面白い
BREIMEN 高木祥太
――「MELODY」を経て、『FICTION』にはどうやって向かっていったんですか?
今回はとにかく時間をかけようと思ったんですよ。ドラムの音作りに1日かけたり、そうこうしてる間に制作途中の段階で、「あ、これはもう『Play time isn't over』を超えてるな」と思った。多分、俺以外のメンバーもみんなもそう思ったんじゃないかな? あと、俺は「制約」を設けるのが好きで、今はどんな楽器の音もソフトウェアで再現できる便利な世の中だからこそ、今回はあえて実機を使うとか、クリックなしとか、俺が事前にデモを作らないとか、いろんな縛りを設けてみたんです。それがかなり功を奏しましたね。『Play time isn't over』はすごくレイヤーが多いアルバムで、そもそもメンバー以外のコーラスとかホーンも入ってる。逆に『FICTION』はメンバー5人以外の音を入れないという制約を設けていたから、結果、音数も減って一つ一つの音がより強く前に出せた。それによって単純に音がいいという体感もあったし。
――高木祥太を語る上で欠かせないキーワードがまさに「制約」ですね。もう常に「制約」と言ってますよ、どのインタビューでも(笑)。
むしろ日常生活では「制約」が好きじゃないのに(笑)。結局、俺は完璧なものが好きじゃないというか、整い過ぎてるものとか予想できちゃうものが好きじゃないんでしょうね。BREIMENのみんなはサポートもやってるから何でも演奏できると思われてるし、実際、割といろいろできるんですよ。だからこそ、できることをフルレンジでやってたら「ぽく」なっていっちゃうだけなので。そこにあえて制約を設けることで、今までになかった引き出しが増えたりもして。できないことがある方がクリエイティブとしては面白いし、誰のiPhoneでも曲が作れるような、便利過ぎる時代に対してのアンチテーゼみたいなところはあるかもしれないですね。ただ、「制約」とか「ルール」という言葉自体は全然好きじゃないんで、もう少しいい言い方はないんですかね(笑)。もっとポジティブなイメージなんですけどね。
BREIMEN 高木祥太
――最近はリファレンス(=参照、参考)を明確に示すことで制作上の会話がしやすくなったという話にもなるんですけど、逆にそんなにハッキリと元ネタが分かってる状態で作ったときに余白とか、いい意味での誤差が生まれないんじゃないかと思ったりもします。
しかも今はそれをソフトウェアで再現できちゃいますからね。だからこそ、今回はウーリッツァー(=エレクトリックピアノ)とかオルガンとか、楽器もいろいろ借りてきて。ただ、ソフトウェアでもぶっちゃけ音はいいし、後から調節できるから何なら扱いやすいんです。結局、実機の良さは「扱いにくさ」にあると思っていて。例えば、「綺麗事」では実際にウーリッツァーを使ってるんですけど雑味がめっちゃあって、ダンパーペダルの音とかも入っちゃうところがすごくいいなと。さっきのリファレンスの話も、そうですよね。今はすぐに再現できちゃうからこそ、逆に今回のアルバムではリファレンスを明確には言わず、むしろ曲とか歌詞のテーマをみんなに伝えて作っていったんですよね。
BREIMEN 高木祥太
――あと、今作では「映画」がテーマであるということですけど、そうなったのは何か理由があるんですか? あるコンセプトに向かって書く、それも一つの「制約」ですけど。
今回は全曲ドキュメンタリーな内容なんですけど、それを音楽にパッケージして出すこと自体がフィクションだし、それというのは映画もそうだなと。そこに脚色が入ったり、美しい瞬間だけを切り取ったりする中で、絶対にフィクションになってしまう。そこから『FICTION』というタイトルにして。あと、(先行配信された)「CATWALK」のMVは(チャールズ・)チャップリンのオマージュで、あれを公開したときに「映画」というテーマをアルバムに設けてもいいかもと思い付いて、だんだんとそういう曲を増やしていった感じですね。
ミュージシャンとして、この時期を切り取らなきゃダメだと思った
BREIMEN 高木祥太
――今作は山梨県の山中湖で合宿レコーディングをしたそうですが、今やほぼほぼ自宅でもレコーディングができて、ドラムだけスタジオで録ることも多いのに、珍しいですね。
遊びたがりですよね(笑)。でも、時間をかけようと思ったのもあって合宿レコーディングは割と最初から、っていうかもう「CATWALK」の制作の段階からしてました。しかも今回は、曲作り自体も全部合宿で。歌詞の内容が今まで以上に個人的だったので、俺が一人でデモを作って今までみたいに制作しちゃうと、『FICTION』=俺みたいなアルバムになっちゃうなと思って。それをバンドとして作ることを考えたとき、今回は0→1からみんなでやってみようと。
――結果、今回もめちゃくちゃ面白いアルバムになったし、「苦楽ララ」の歌詞とかはもうポエトリーリーディングでもないし、ラップとも違うし、メロディへのハメ方が独特過ぎて発明ですね。
うれしいですね。本当にこの歌詞の頃が一番、精神的にヤバい時期で……。だから俺もあんまり記憶にないというか、どうやってこの歌詞を思い付いたのか思い出せない(笑)。
――確かにこれは、ぶっ飛んでる野郎の歌詞です(笑)。でも、これを形にできたのがすごいなと思ったんですよ。
ミュージシャンとして、この時期を切り取らなきゃダメだと思ったんですよ。去年、俺は大切な人を傷付けるようなことをしたんです。そこからもう本当に内省していって……俺はこれを曲にしなきゃ音楽家として、人として先に進めないと思った。この曲を書いてる時期も人間関係でいろんなフェーズがあったんですけど、今回のアルバムではとにかくそこをずっと書き続けた感じでしたね。
――「MUSICA」にも大切な人の存在を感じます。前作の音楽がもたらす高揚感や無敵感から一転、今作はとてもナイーヴな世界観ですね。
それはちゃんと歌詞を読み込んでくれているからですね。でも、一聴したときの印象は、そうじゃないと思っていて。そのバランス感覚は、デモを作らなかったことも効いている気がします。
BREIMEN 高木祥太
――「あんたがたどこさ」のカオスな音像なんかは強烈ですもんね。
今回は、いろんな部分でタガが外れたところがあります(笑)。例えば、クリックを使わないという制約は、クリックという縦の線に縛られないから結果的に自由になってる。だから「CATWALK」みたいな曲ができたし、「ドキュメンタリ」ではテンポがガラッと変わったり。「チャプター」の途中でテンポダウンするアイデアも、DTMでクリックの縦の線がある状態だと思いついてない。だから、俺の中では制約≒自由なんですよね。
――確かに「何をしてもいいよ」と言われたときって案外、自由じゃないかもしれない。それはある種の生きるヒントというか、処世術かもしれないですね。「チャプター」の予測不能なフリーズ、ジャストよりちょっとしたズレがもたらすグルーヴも、独自のダンスミュージックを生み出しています。
しかも全部生演奏ですからね。今ってうまいバンドはめっちゃ増えてるけど、俺らは技術がありながらそこにあらがってるんで(笑)。ただ演奏がうまいバンドと思われたくないというか、俺らの売りは腕じゃなくて脳みそにある。
――近年のBREIMENの「ミクスチャーファンクバンド」という称号だけでは、どんどんくくれなくなってきていますね。
ファンクの魂は持ってるけど、もはや銘打ち方が難しいなと思って。何か新しいものを考えないとですね(笑)。今回のアルバムの出来にはすごく納得していて。今までの延長線上にあるけど、置きにもいってないし、ちゃんと進化もできているので。
ある意味、「モノ作り」の限界みたいなところを思ってタイトルを付けた
BREIMEN 高木祥太
――9月17日(土)大阪・Shangri-Laを皮切りに東名阪リリースツアーも始まりますが、改めて何がフィクションでノンフィクションか分からない時代に、あえて『FICTION』と音楽で世に問い掛けたのは意味深いなと思います。
このタイトルにいくつか意味はあるんですけど、一つはやっぱり「お互いに自分が見たいと思う相手の姿しか見えない」というか……それを悲観するわけでもなく、ただ前提にある事実。自分以外のことは分からないから対話をするし、想像力を働かせる。『Play time isn't over』には明確なメッセージがタイトルにありますけど、『FICTION』は自分が作った曲をある程度並べたとき、どれだけ本当のことを書いても音楽にする時点で脚色されてるし、うそはついてないけど、どうしてもフィクションになる。ある意味、「モノ作り」の限界みたいなところを思ってタイトルを付けたので。
――でも、音楽とかアートって、というか人付き合いですらも、元来そういうものだろうという話かも。
逆に言えば、だからこそ、限界はあるにせよ、それこそ対話を持って、赤裸々に話して、なるべく相手のことを知りたいですよね。昨日、マネージャーと珍しく政治の話をしてたんですけど、思ったより思想が違ったことに気付けたのが面白くて。みんながみんな普段から思ったことを全部口にしてるわけじゃないから、そういうことを知れたときに人としての喜びがあるし、自分が思っていた人物像と違ったときにショックを受けたりもするけど、それにはやっぱり知ることに限界があるよという前提がないと。前提があるから優しくできるかもしれないし。でも、『FICTION』を作ってしまった今、本当に今度こそ次のアルバムをどうしたらいいのか思いつかないですけどね(笑)。
――じゃあ次の取材で、「そうは言ってたけど、やっぱりできました(笑)」と、またすごいアルバムを作ってくるBREIMENに話を聞くのを楽しみにしていますよ。
BREIMEN 高木祥太
取材・文:奥“ボウイ”昌史 撮影:ハヤシマコ

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