戸田恵子×松尾貴史インタビュー~ニ
ール・サイモンの名作『裸足で散歩』
で舞台初共演「ほっこり気楽に見ても
らいたい」

2022年9月~10月、東京ほか全国にて舞台『裸足で散歩』が上演される。
今作は、新婚夫婦と新居のアパートに暮らす変わり者の住民たちが繰り広げるニール・サイモンによるコメディの名作で、1963年にブロードウェイで初演。1967年にはニール・サイモン自身による脚色、舞台演出を担当したジーン・サックスの監督で、主演にロバート・レッドフォードとジェーン・フォンダを迎えて映画化された。
時代を超えて世界中の人から愛されている今作について、真面目な新米弁護士のポール(加藤和樹)と結婚したばかりの明るく自由奔放な若妻のコリー(高田夏帆)の母、バンクス夫人を演じる戸田恵子と、新婚夫婦の新居のアパートに住む少し風変りな住人、ヴィクター・ヴェラスコを演じる松尾貴史に話を聞いた。
戸田はかつてコリー役を経験「新たな一歩を踏み出すきっかけになった作品」
――お2人は今作をこれまでに舞台や映画でご覧になったことはありましたか?
松尾:僕は子どものときに映画を、多分日曜洋画劇場か何かで親と一緒に見たという遠い記憶があります。戸田さんはもっと深いご縁があるんですよね。
戸田:私は80年代にこの作品のコリー役を長きに渡り舞台で演じさせていただきました。もう40年近く前ですけれども、下北沢のロングランシアターで上演しまして、それが私のストレートプレイデビューだったんです。
――戸田さんはこの作品にご出演されていたときに、どんな印象を持たれましたか。
戸田:台本をいただいたとき、台本の隙間が少ないな、と思ったんです。それがすごく印象に残っています。ミュージカルだと、歌のシークエンスのところがちょっと段が下がって上に空白があったり、セリフもそんな膨大にはないから、台本にほどよく隙間がある感じなのですが、この作品の台本はちょっと憎たらしいと思えるくらいセリフがみっしり入っていることにまず衝撃を受けました。初めてのストレートプレイということもあって、これまでそういう作品の経験がなかったので「これは戦いだな」と思いながら、この作品のよさとか偉大さとかを考えもせずに、ちょっと不貞腐れながらただひたすらに取り組んでいましたね(笑)。

戸田恵子

――戸田さんにとっては忘れられない大事な作品でもあるのでしょうね。
戸田:そうなんですよ。結果的にその後再演もやり、初めての旅公演も回ることになりました。当時は劇団に所属していて外部出演という形だったので、劇団のお客さん以外の方々にたくさん見ていただく機会になって、その方たちが劇団の公演も見に来てくださったりといった嬉しい効果もありました。私自身、それから外部の舞台に出ることが多くなりましたので、新たな一歩を踏み出すきっかけになった作品でもあります。
――松尾さんは今作への出演が決まって台本をお読みになって、どのような印象を持たれましたか。
松尾:今回、翻訳を担当されたのが22歳の福田響志さんなんですが、言葉の持っているニュアンスとかフレッシュさみたいなものがこの作品のストーリーにうまい具合に絡んでいて、古い名作を読んでいるという感じではなく生き生きとした作品だと感じながら触れることができた、というのが正直なところです。
>(NEXT)舞台では初共演。「この人となら何やっても大丈夫」
舞台では初共演の2人「この人となら何やっても大丈夫」
戸田恵子、松尾貴史
――戸田さんはコリーの母・バンクス夫人、松尾さんはアパートの住人であるヴィクター・ヴェラスコという役です。それぞれどんな役か教えてください。
戸田:私が演じるのは、はつらつとしたポジティブな女の子・コリーのお母さんです。過去にコリー役を演じたときはお母さんのことをよく考える余裕がなかったのですが、今回この役をやることになって、お母さんはとても保守的な人なんだなということを改めて感じています。私自身はこれまで保守的な役はほとんどやったことがなくて、いつもなんだか“イケイケGOGO!”みたいな感じの役が多いので(笑)、私もとても楽しくチャレンジをさせていただいています。そんな中で松尾さん演じるヴェラスコさんとの出会いがあるのですが、リアルに考えてお母さんみたいな人はヴェラスコさんみたいな人と一緒になった方がいいんだろうな、なんて思いながらやっています。
松尾:まず最初に、ヴィクター・ヴェラスコって名前が本当に怪しいんでね(笑)。昔、国際スパイでヴェラスコっていう人がいたんですよ(注:第二次世界大戦中に活躍した秘密諜報員にアンヘル・A・デ・ヴェラスコという人物がいた)。ヴィクターというのも、これは本当に個人的な印象ですけど、昔やった芝居でヴァンパイアの名前がヴィクターだったんですよ。だから僕の中ではすごい怪しい人の名前というイメージで。実際に台本の中でも怪しい人で、何を考えているかわからなくて最初は警戒されるけれども、発展家のコリーが彼に興味を持って行くプロセスがあって、そこに僕がどうなじんで流れを作っていけるか、というのはやりがいがあるところだなと思っています。
松尾貴史
――お2人はこれまで共演されたことはありましたか?
戸田:舞台での共演は今回が初めてです。過去に、それこそ何十年も前なんですけど、NHKの歌のバラエティ番組でご一緒していたので(注:1989年~91年にNHK総合で放送されていた「音楽・夢コレクション」)、かれこれ付き合いは長いです。キッチュ(松尾の愛称)は、ここ十何年の間は舞台にもよく出演していて、これがまた達者でお上手なんですよ。だから「困ります。私たちの場所を荒らさないでください」と脅しのメールを送っています(笑)。
松尾:絶対に同じ役を取り合うことはないので心配いらないと思うんですけどね(笑)。
戸田:それがついに一緒の舞台に立つのか、という感じですね。私もキッチュも舞台にはいろいろ出演しているのになかなか一緒にできなかったというのは、それだけ世の中にたくさん舞台の数があるってことですよね。共通の知人もすごく多いですし、圧倒的に土台がわかっていて信頼できるので、この人となら何やっても大丈夫だな、どうにでもなるな、って本当に安心してやれますね。
松尾:右に同じです(笑)。
>(NEXT)作品を楽しむポイントは、描かれる「時代」にもあり
「描かれている時代の持っていた空気や背景も楽しんでもらえれば」(松尾)
――今作を楽しむポイントはどんなところにあると思われますか。
松尾:描かれている時代が、もちろん携帯電話なんてないから、誰かの姿が見えなくなると「どうしたんだろう?」って気をもんだりするんですよね。待ち合わせも今は「とりあえず〇〇駅の周辺で待ち合わせ」って言ったらあとは近くに着いたら「今どこにいる?」って携帯で連絡取りあって会える世の中ですけど、そういうことができない時代はそのときなりの質の違うときめきみたいなものがあったんですよね。人との出会いのときめきの度合いが違うというのかな。マッチングアプリみたいなものもないから、誰と出会って何にときめくかっていうことが本当に人それぞれだったり、運命の出会いだって感じる度合いも高い中でコリーとポールは出会っているんじゃないかな。描かれている時代の持っていた空気みたいなものも楽しんでいただくといいかなと思います。
松尾貴史
――確かに、今はインターネットやSNSなどで新たな出会い、新たな人脈を広げたりすることが比較的容易にできるけれども、この時代ではそう簡単ではないということを念頭に置いて今作を見ると、コリーがおせっかいなくらいお母さんにヴェラスコさんを紹介しようとしている、という気持ちが理解できる部分もあるような気がします。
松尾:ニューヨークから川一本渡るって結構な距離がありますし、場所にもよりますけどニュージャージーって田舎町じゃないですか。そこでお母さんが一人暮らしをしているから出会いもないだろうな、ということが余計に一人娘としては心配だったりもするのかもしれないですよね。そこらへんの背景なんかも併せて楽しんでいただけるといいですね。
――今作の翻訳の福田響志さんは22歳、演出の元吉庸泰さんは40歳で、お2人ともこれからますますの活躍が期待されている存在ですが、お2人への印象などあれば教えてください。
松尾:僕は年齢的なものは稽古場ではまだそんなに感じていないです。この作品の時代のことをとにかく把握しよう、という姿勢が非常にあって、若い人たちの情報収集能力は素晴らしいので、すごくよく調べていらっしゃるなということは感じます。時代背景についての裏付けがあっていろいろ説明されると、ものすごく納得ができるところがありますよね。
戸田:私も普段からいろんな年代の人と仕事をするので、年齢は全く気にしていないんですけど、この間改めて福田さんは22歳です、と数字を突き付けられて、ああ私はもう終わってるな、と思っちゃいましたね(笑)。これからは一緒に仕事をするスタッフさんもどんどん若い方たちが増えていくんだろうな、ということは肌身にしみました。長く上演されてきた作品をまたリフレッシュしてやるという作業に関われることで、とても勉強熱心な若い人たちの新たな息吹を感じながら、今回私たちがやるバージョンが色褪せない新しいものとしてできたらいいなと思います。
戸田恵子
――最後に、今作を楽しみにしている皆様へのメッセージをお願いします。
戸田:基本コメディなので、皆さんには気楽に見てもらいたいですね。当時のニューヨークの雰囲気も味わっていただきたいですし、特に何か激しくドラマチックな展開があるような話ではないので、いろんな性格のキャラクターを取り揃えている中から、誰かに自分を合わせて見ていただければいいですね。そしてほっこりした気分でお帰りいただけたらと思っています。
松尾:特に今、この国はいろんな閉塞感を感じている人が多いと思うんですよね。もちろんコロナもあるし、不景気とか生活環境が苦しくなっているっていうこともあるし。この作品では冒険だったり、イメージの切り替えだったり、別の価値観を認めるということだったりが描かれていて、今作を見ることで何か新しい道が開けるかも、という期待めいたものを抱いていただけるんじゃないかな。もちろんそんな劇的に変わらなくてもいいんですけど、劇場から帰る時には来るときよりもちょっと足が軽やかになっているような、そういう実感をしていただけたら嬉しいです。
取材・文=久田絢子 撮影=福岡諒祠

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