片岡愛之助、歌舞伎の世界に貞子が忍
び寄る『Jホラーかぶき』に「怖いけ
ど感謝」、悪役の美についても言及

10月3日(月)より、大阪松竹座にて『日本怪談歌舞伎(Jホラーかぶき) 貞子✕皿屋敷』と銘打ち、G2脚本・構成による新作歌舞伎「時超輪廻古井処(ときをこえりんねのふるいど)」が幕を開ける。作家の鈴木光司が生み出した『リング』シリーズに登場する怨霊、貞子が歌舞伎の舞台に初登場。「播州皿屋敷」の幽霊お菊とともに、ひとつの井戸が繋ぐ時空を超えた物語を繰り広げる。SPICEでは、片岡愛之助による製作発表と単独インタビューの模様をお届けする。インタビューでは9月8日(木)〜11日(日)に大阪松竹座にて開催される『歌舞伎特別公演』についても話を訊いた。
片岡愛之助
●貞子とのコラボに「全力でかぶく」、海外公演への夢も●
時は室町時代後期。足利幕府は機能不全に陥り、有力守護大名の細川氏と山名氏が国を二分して争い、世情は乱れに乱れていた。細川家の国家老、浅山鉄山(片岡愛之助)はこの機に乗じて、天下を掌握する野望を抱き、邪魔な忠臣の船瀬三平(中村莟玉)とその許嫁のお菊(中村壱太郎)を井戸に沈めて殺害する。しかし、不思議な力に引き寄せられ、鉄山自身もまた、井戸に引きずり込まれてしまう。その500年後の現代。同じ古井戸のそばで、若者たちが謎の死を遂げる。彼らに共通していたのは、古いVHSテープに映っていた同じ映像を観ていたということ。事件の一報を受け、神官の室戸光(今井翼)が調査に乗り出すが……。
製作発表の冒頭、愛之助は次のように挨拶した。「最初にこのお話をいただいたときは、あの貞子との共演は、どういうふうになるのかなと思いました。私ももちろん映画「リング」は拝見していました。企画の話が進むにつれ、「播州皿屋敷」と貞子がコラボすることになり、私が浅山鉄山を勤めさせていただくことになりました。8月は京都の南座で「東海道四谷怪談」を上演して、私は民谷伊右衛門という悪役を勤めました。9月も大阪松竹座の『歌舞伎特別公演』の第三部「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」で団七九郎兵衛と、これも悪い奴なんです(笑)」と、3ヵ月連続で悪役を勤めると笑いを交えて話す。
製作過程にある同公演。「最後はどうなるのかまだわかっておりませんが、何回か台本を読ませていただいて、無理(な提案)をお願いしたところもありました。この無理が通るとさらにおもしろくなるのではないかなと思うので、また時期が来たら発表させていただきたいと思います。初日を迎えてみないとどうなるのかわかりませんけれども、全力でかぶいて、盛り上げていきたいと思います」。
片岡愛之助
そして貞子が世界的な人気を誇るキャラクターであることから、「この歌舞伎もできれば海外公演を……(笑)」と夢を語るも、「まずは10月の松竹座が無事、初日を迎えて、千穐楽まで走り抜けたい」と気合を入れる。また、「千穐楽の3日後、10月28日(金)には映画『貞子DX』もロードショーでございます。共に盛り上げていきたいと思いますので、どうぞ皆様よろしくお願いいたします」と劇場へいざなった。
ひとつの井戸を通して江戸時代と現代とを行き来する物語。井戸は時空を超えて行き来するのに無理のないシステムになっていると話す。「貞子と「播州皿屋敷」は時代が違いますから、どういうふうに出てくるんだろうと思いますが、G2さんが上手いこと書いてくださっています。もちろん歌舞伎の芝居をさせていただきますが、現代の場面も本当にうまく取り入れられています」。
オカルトが好きな愛之助。「初めて『リング』を拝見した時は衝撃でしたね。怖くてしょうがなかったです。びっくりしました。観た後はしばらく、夜中にトイレに行けなくなったり、お風呂で頭を洗って、顔を上げたらそこに貞子いるんじゃないかと思うぐらい、怖かったです。多分、この『Jホラーかぶき』もものすごい怖くなると思います」。
●悪役でも絵になる美しさを意識●
片岡愛之助
――愛之助さんはオカルトが好きなんですね。
結構好きですよ。映画の『リング』も怖かったですね。オカルトやホラーが好きだけど怖い(笑)。今回もどんな感じになるでしょうねー。
――貞子にはどのような印象を持たれていますか?
髪の毛をおろしていて、白いいで立ちで井戸から出てくる。それだけでめちゃくちゃ怖いじゃないですか。製作発表の時も最後に出てこられましたが、普通にいるだけなのに「うおお……」と怖くなりますよね。不思議ですけれども、お化けとか妖怪の類というのは昔からあるじゃないですか。私は好きな方なので、怖いけど感謝ですね(笑)。
「夏祭浪花鑑」 (c)松竹
――若い世代には貞子はポップアイコンのひとつでもあると思うのですが、『Jホラーかぶき』で若い世代を新たに歌舞伎の世界に引き込むには絶好の機会ではないかと思います。愛之助さんも、ファン層のすそ野の広がりなど、考えていらっしゃいますか?
それは常々、考えています。今回は『Jホラーかぶき』とネーミングしてくださったんですけれども、怪談のような歌舞伎もあれば、古典歌舞伎もございますし、また三谷幸喜さんが作った『三谷かぶき』、漫画を題材にした『ONE PIECE』や『NARUTO』、『風の谷のナウシカ』など、いろんな歌舞伎があります。いろんな歌舞伎を観て、「こういうジャンルもあるんだ」と楽しんでいただけると、すごく広がると思うんです。そうして、最後には古典歌舞伎の魅力に気付いていただけると思っています。そう思っていただく自信があります。そういう意味でもいろんな歌舞伎を幅広く観ていただきたいと思います。9月の『歌舞伎特別公演』の第三部「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」も古典ですからね。こちらは上方、大阪ならではのお芝居ですから、これを観ていただくだけでも、ずいぶん印象が違うと思います。
片岡愛之助
――時期的にも、古典から新作まで幅広く観られるのはいいですね。
そうでしょう。だからぜひ、9月は「夏祭浪花鑑」をやらせていただきたいと思い、実現することができました。​
――「時超輪廻古井処」の配役に貞子さん役をされる方のお名前がないのは……?
誰が貞子をするのか、発表されるまでのお楽しみです!
――G2さんは新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』や『NARUTO』などを手掛けていらっしゃいいますが、G2さんがお作りになる歌舞伎の印象を教えてください。
お稽古場でもこちらの意見を聞いてくださって、すごく細かく、丁寧に作ってくださるという印象でしたね。今回は脚本、構成がG2さんで、演出は、普段から歌舞伎の演出をやっていらっしゃる今井豊茂さんにお願いしています。
『日本怪談歌舞伎(Jホラーかぶき) 貞子×皿屋敷』
――製作発表では、「鉄山はちょっと愛嬌のあるような、人間らしさがより濃く描かれてるのでは」とおっしゃっていましたが、それはG2さんが描くからこそでしょうか。
そうだと思います。元々の鉄山はすごく悪い人なのですが、今回は少し人間味の部分をエッセンスとして加えていく予定です。
――よく、悪役にも美学があると聞きます。
お役にもよりますけれども、やっぱり歌舞伎ですから、どこか一枚の写真のような、絵になる美しさは必要だと思います。たとえば、泥だらけになってもその中に美しさがなきゃだめ。人を殺める場面でも、一時停止した時に形になっていなきゃいけない。そういう美しさを意識しないと素敵に見えないですよね。悪の花ではないですけれども、やっぱり「その一瞬」が歌舞伎じゃないかなと思います。あと、どのお役も品を大事にと先輩に教わりました。下品の中にも品があるわけですからね。
――9月、10月に出演される中村壱太郎さんは、『システィーナ歌舞伎』や永楽館での歌舞伎をはじめ、ご一緒にされる機会が多いと思います。壱太郎さんの印象を教えてください。
ずっと相手役をしてくださっているので、あうんの呼吸と言うのでしょうか。言わずともわかってもらえる。踊りを踊ってもぴったり合うんです。「連獅子」でも一発で「はい、やりましょう」みたいな。お稽古いらずと言っても過言ではありません。永楽館でもずっと一緒でしたから、私は助かっています。彼と一緒にお芝居しているとすごく楽ですね。彼も歌舞伎だけじゃなく、いろんな外部の作品に出たりとか、さまざまな経験をされているので、そういう意味でも引き出しが増えて、すごく素敵な役者さんだと思います。
――今井翼さんも含め『GOEMON』のお三方ですね。
翼さんも本当に真面目で熱心で、気持ちがいいですね。清々しい方です。
――では、9月の『歌舞伎特別公演』ですが、今回は上方の歌舞伎役者さんが大勢出られる中に、市川猿之助さんもいらっしゃいます。
ゲストで出演していただきます。猿之助さんとは昔から『新春浅草歌舞伎』でご一緒させていただくなど共演も多く​、それこそ「封印切」で猿之助さんは忠兵衛や八右衛門をされていたり、上方のお芝居もたくさんなさっています。
――先ほどもお話にありましたが、「夏祭浪花鑑」で愛之助さんが演じられる団七九郎兵衛も悪役ですね。
団七というお役は松嶋屋がとても大切にされているもので、叔父の我當や仁左衛門からも教わりました。​今回で4回目ですけれども、私の強みはネイティブな関西弁がしゃべれること。色の濃い古典歌舞伎をぜひ皆さんに観ていただいて、楽しんでいただきたいと思います。今回、私はお辰という徳兵衛の女房の役との二役を、早替わりで勤めさせていただきます。いつかやってみたいなと思っていたことに、今回初めて挑戦させていただきます。
――大阪松竹座での『歌舞伎特別公演』も恒例になるといいですね。
できれば毎年、やっていただけたらと願っております。一回でも多く上方で歌舞伎の幕が開くということがやっぱり大事ですから、続けていただけたらありがたいなと思っております。
片岡愛之助
取材・文=Iwamoto.K 撮影=田浦ボン

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