羊屋白玉インタビュー~未来へ思いや
夢を届けるダンス作品、Sapporo Dan
ce Collective『カタパルト』

「ダンスの作家を育てたい」「振付家を札幌から輩出したい」というNPO法人コンカリーニョの提案により、ディレクターの羊屋白玉をはじめ札幌在住の6名のダンサーによる小さな試演会とディスカッションからスタートした「Sapporo Dance Collective」。その後もクリエイターが集い、提案、実験、対話を重ねてダンスを創造する場として成長してきたSDCが2年ぶりの新作を上演する。タイトルは『カタパルト/CATAPULT』。札幌、後志(シリベシ)、増毛(マシケ)と、道内3地域をリサーチして抽出した物語――農業、原発、介護、オリンピック、Covid-19……など「降りしきる現代の課題」を踊る! メンバーの一人、羊屋白玉(指輪ホテル芸術監督)に話を聞いた。
羊屋白玉
――「Sapporo Dance Collective」(SDC)としての3年間の感想はいかがですか?
羊屋 「コレクティブ」として長い時間をかけて作品をつくる取り組みは私の中でも、メンバーの中でも大きかったと思います。コンカリーニョのプロジェクトとしてスタートし、こだわったコレクティブという関係性を試行錯誤しながら模索して、私は最初はディレクターとして参加していたけれど今は1メンバーになっていますし、コンカリーニョからも独立しました。『カタパルト/CATAPULT』が新しい体制としての、2番目の公演になります。
――コレクティブというあり方がだんだん皆さんにも浸透したということですね。
羊屋 そうですね。もはや一人の天才振付家がいて、その下にダンサーがいるという垂直関係のチームが成り立つ時代じゃないという思いからスタートしましたので。トップダウンではなくてネットワーク型、水平の人間関係でみんながアイデアを出し合ってつくっていくというようなことができないかと提案し、コレクティブになったんです。とはいえ、最初はどうしても私がコンセプトを提案するところから始めざるを得ませんでした。でも今はタイトル一つ決めるにもみんなと相当に議論しています。

2年ぶりの新作、実験中のサッポロダンスコレクティヴ

――新作『カタパルト/CATAPULT』について教えてください。
羊屋 本当は3月に劇場公演するつもりでしたが、オミクロンが広がってしまったため映像配信した『My Foolish Mind』をベースにした作品です。
 北海道には、氷や雪を使って作品をつくるアーティストが結構いるんです。その中の造形作家タケナカヒロヒコさんが主宰する「THE ICEMANS」とSDCが出会ったことがきっかけでした。大きなバルーンに水を吹きかけると、1日でカチカチに凍って、雪が降っても壊れないほど頑丈になるんです。そうなったところでバルーンを閉じると「タマゴタケ」というキノコのような形になるんですけど、THE ICEMANSはそこにチェーンソーでデザインしてゆく。2021年の冬は道内30カ所くらいでこのプロジェクトを実施していて、私もいくつか拝見するうち、彼らの活動とダンスを合わせたいと思ったんです。
THE ICEMANSが手がけた「雪きのこ」。雪の状態によって様相が変わる
 『My Foolish Mind』では、SDCは札幌市南区、増毛町、後志町の3チームにわかれて、THE ICEMANSの作品を通して、地域の人にリサーチをし、そこから物語を抽出して、ダンス作品をつくりました。『カタパルト/CATAPULT』では、新たに春と夏にもリサーチを続け、増毛、後志で出会った人たちとのドキュメントも混ぜて、改めて舞台を創作しています。THE ICEMANSはこの時期ですので氷の作品ができないから、いろいろな形のスクリーンをつくってくれたので、映像を投影したり、舞台美術として使っていく予定です。
――THE ICEMANSとの出会いが刺激になったんですね。
羊屋 彼らとは、「雪かきは大変な作業だけれど、もう少し面白く考えられないか」という話をしながら、冬の暮らしとダンスみたいなことをテーマに、雪かきからダンスをつくったりしたんです。雪が降るのは楽しいけど、「除雪」「排雪」というネガティブな言い方もされてしまうように冬の大きな課題ではあります。でももっと雪をテーマに何かできないかということは、この先も一緒に考えていくことになると思います。
蘭越町リサーチの面々と街の人と
増毛町リサーチの案内人、嘉門さんの田んぼにて
札幌川沿地区リサーチ。飛び込みで獅子舞登場
――カタパルトとはどんな意味ですか?
羊屋 レオナルド・ダ・ヴィンチも絵に残しているんですが、戦争の兵器なんですよ。死を遠くへ飛ばす装置。もともとは石などを乗せて放り投げるなど用途はさまざまだったけれど、時代とともに武器になっていったわけです。去年、京都の美術館で、ピピロッティ・リストというスイスのアーティストの展示がありました。その展示はアーティストが美術館に来て、キュレーターと一緒に展示空間をつくるというやり方ではなく、ピピロッティは自宅にいながらやりとりをしたものです。ピピロッティは、コロナ禍で飛行機に乗らなくていいし、お互い初めての挑戦で不安もあるけれど、美術館の協力があればできるかもしれないと提案したんだそう。そのことを話したインタビューの中で「これから時代どんなことが起こるかわからないし、自分がそういう展示の仕方をやったことが将来に向けてのカタパルトになるかもしれない」と言ったんです。それは、遠くへ未来へ放り投げるという意味を含んでいるんじゃないかと思い、私は感銘を受けました。彼女は映像のインスタレーションのアーティストですが、映像やオンラインの技術によって今いろいろなアーティストが多様な表現ができるようになっているけれど、これから先、女性が科学者を目指したり、もっともっと女性が実現することが増えてほしいと言っていて。私の中では、コロナに翻弄されながら何かに挑戦してきたSDCに重なったんです。みんなに「カタパルトってこういう意味なんだけど」と伝えて、THE ICEMANSが放り投げる絵を出してくれたりしながら「何かが落下したところにみんなが集まるっていいよね」とか話したりしました。
――農業、原発、介護、オリンピック、Covid-19など生活されている方のリサーチから出てきたものをダンスで披露するのもユニークですね。
羊屋 社会学者の岸政彦さんが聞き取りをもとに書いた小説で芥川賞を取ったり、普通の人たちが普通の人にインタビューした「東京の生活史」という本がすごく売れている。それを筆頭に今、聞き取りがブームになっているんですね。私自身は聞き取りは以前から行っていましたが、コロナのせいなのか人と話したいとか、今の生活を後世に伝えたいとか、あるいは社会学に注目が集まったりと、世の中のマインドが変わってきていることに興味を持ったわけです。
――ところで羊屋さんはHAUS(Hokkaido Artists Union Studies)のメンバーとして、コロナ禍でのアーティストの動きを調査したり、勉強会も開いたりされていましたよね。
羊屋 はい。風潮としては東京だと作品をつくってなんぼなところがあって、フルタイムアーティストを目指して頑張るでしょ。でも地方都市はワーキングアーティストが多いから時間の使い方とかスタンスがみんな違う。ほかにもクリエーションの中でハラスメントの名残が見えたり、なかなか一人一人がモノが言えない現状を見たりして、作品を前提にするだけじゃなくて、もっと根っこの困ったことを話すだけでもいいんじゃないかと思っていた。それが気になって周りに話していったらいろいろな人が集まってきてHAUSになった。HAUSではまず自分たちで電話をかけまくってコロナ禍でどれだけのアーティストやスタッフが仕事を失ったか調査したんです。
――その活動が認められた、「もう一つの声 The Other Voices」というプロジェクトが札幌市文化芸術創造活動支援事業でもっとも高い評価を得て、その企画の一つである「サバイバル・アワード」で現在、アーティストのプレゼンを募集されているんですよね
羊屋 「サバイバル・アワード」では、活動の根っこを左右してしまうようなことから些細なことまで、いろいろな困りごとをサバイブしてゆくアーティストの支援を目的にしています。一昨年、HAUSの企画した講座の一つに、ニューヨークにはいろんなタイプのアーティストがいることを、市民が当たり前のように知っていて、その中でも違う仕事をしながら作品をつくっているアーティストをワーキングアーティストと呼んでいるってことを伝えました。日本だと別の仕事をしながら活動することに引け目を感じる人が多いと思うけど、そうじゃないんだ、誇りを持っているんだという観点です。HAUSは、札幌のワーキングアーティストにも誇りを感じてもらいたくて、彼らがどんな活動をしているかインタビューなどもしました。
 音楽家のジョン・ケージもずっと幼稚園のスクールバスの運転手をしていた。バスの運転手をしながら活動を続けてきたのです。1960年代、マース・カニングハムがダンス公演の資金繰りに困っていたとき、ジャスパー・ジョーンズやジョン・ケージたちが自分の作品をオークションにかけてお金をつくって彼女に渡しているんです。公演後、残ったお金を、次の人に渡そうということになって、今でもその活動が続いているんです。”Foundation For Contemporary Arts”と言います。彼らはこのたびのコロナ禍でも、緊急助成として、いち早くお金を集めて配っていました。
羊屋白玉
――HAUSが中間支援の役割を担って、作品づくりと助成金というだけではない、新たな仕組みを構築してきているんですね。
羊屋 そうだといいです。私も振り返ってみて、東京でアーティストとはなんぞや?と引っかかりながらもずっと創作をしてきたことは、アーティスト当事者でいることを経験する時間そのものでした。父のお見舞いで札幌に頻繁に通うようになり、その傍らで、友達が札幌のホームレスの夜回りの団体を紹介してくれたのがきっかけなんですけど、困窮者支援の仕事についたことで、今までと違う人びとと出会うことができました。その中で支援する先をアーティストに置き換えることで、HAUSにたどり着いたわけです。そこでの経験から、一世帯の、そのご近所の、そして社会の問題が見えきて、それを作品へと翻訳してゆく。そういう双方向な思考の中で活動するシーズンに入ってきたと感じています。さっき言ったジョン・ケージたちが設立した”Foundation For Contemporary Arts”のような支援の循環をつくりたかったんだよなって。
 またジョン・ケージの話になっちゃいますけど、ケージはニューヨーク菌類研究会の創始者でもあり、私は勝手に、支援の循環をキノコから学んだと想像しています。キノコの地下のネットワークってものすごい。私も北海道でキノコの研究会に入っています。ひっそりと、森のバランスと循環を保たせているのもキノコ。菌類だから植物でもないし動物でもない、小さくて目立たないけど、森のバランスを保つなんて、膨大なネットワークと自然との応答を通して生態系に働きかけているのだと思います。HAUSは、アーティスト支援を続ける中で、森におけるキノコの役割を果たしたい。HAUSがひっそりとアーティストとアーティストの間に入って、やがて、アーティスト同士が支援し合う循環をつくり出したいなと思っています。そしてそれが社会を変えるきっかけになるのではないかと考えてみます。馬鹿みたいに聞こえるかもしれないけど。
取材・文:いまいこういち

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