巧みな表現力で
私小説のように名曲を紡いだ
シンガー・ソングライター、
ジャニス・イアンの名作『スターズ』

アレンジャーとしての才能も示した、
生まれ変わったジャニスの傑作

レコーディングはロサンゼルスとニューヨークで1972年から1年ほどかけて行なわれている。アルバムが1974年2月にリリースされると、“これが「Society’s Child」を歌ったあのジャニスなのか?”“いや、紛れもなくジャニスだ!”と、反響は予想以上に大きかった。が、共通するのはアルバムが素晴らしいものであり、後世まで聴かれ続けられるべき傑作であると絶賛したのだ。

かつてのジャニスとの違いに驚いた人はその大人びたサウンドに対してだったのだろう。ヒュー・マケセラやジョン・トロペイ、リチャード・デイヴィスといった著名なプレイヤーを含む、バック陣はジャズ系の面々が固めている。結果、サウンドはこの時代においては非常に洗練されたものになっている。ことさら比較するわけではないが、やはりジョニ・ミッチェルがトム・スコットやラリー・カールトン、クルセイダーズのメンバーとジャズ路線に舵を切ったアルバム『Court and Spark(邦題:コート&スパーク)』(‘73)を出している。時期的にほぼ同時期、あるいはジャニスのほうが若干早いと思えるが、ここで先見性を競わせるつもりなどない。ローラ・ニーロやジェームズ・テイラーもそうだったように、今思えばフォーク系アーティストのジャズ、フュージョン指向が表れた時代だったことが浮かび上がってくるわけである。

ジャニスに話を戻すと全曲オリジナルで、ジャズメンのセッション、それ以外のオーケストラを導入した曲についてもジャニス自身がアレンジにも関わっている。質の高い楽曲が揃うなか、「Jesse」と並ぶジャニスの代表曲となるタイトルチューン「Stars」の素晴らしさには口うるさい評論家筋も脱帽だった。

この歌は華やかなショービジネスの世界で生きることの苦しみと悲しみを切々と歌われるという内容だ。それは若くして成功と苦難を知ったジャニス自身の体験が投影されているのだろうか。同時にジュディ・ガーランドやビリー・ホリディ、ベッシー・スミスなど、彼女以外の何人もの女性アーティストの顔も自然と浮かぶ。そして、あの女性も…。

ジャニスは本作をきっかけにブレイクする。以降、翌年、1975年にはさらにジャズとストリングスを生かしたアルバム『Between the Lines(邦題:愛の回想録)』も全米No.1になり世界的にヒット。グラミー賞も獲得し、時の人になる。同作からのシングル「At Seventeen(邦題:17才の頃)」が全米キャッシュボックス誌でNo.1になる。とりわけ日本での人気はちょっとしたものだった。1976年にシングル「LOVE IS BLIND (邦題:恋は盲目)」がドラマ『グッドバイ・ママ』に使用され、日本のオリコン洋楽シングルチャートで1976年9月13日付から8週連続1位を獲得する。同曲の収録されたアルバム『Aftertones(邦題:愛の余韻)』は日本の洋楽アルバムチャートで半年間に渡って首位を記録する。1977年にはシングル曲「Will You Dance?」が、TBSドラマ『岸辺のアルバム』の主題歌に使われ、同曲を収録したアルバム『Miracle Row(邦題:奇跡の街)』は日本だけで100万枚を超えるセールスを記録するという、前例のないほどのヒットだった。

そんな彼女でさえ、80年代に入るとまた低迷する。2度めの結婚に失敗、病気等も重なり、コンスタントに活動ができなかったらしい。

OKMusic編集部

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