堂島孝平が
GO GO KING RECORDERSとともに
作り上げた
『サンキューミュージック』は
解放の歓びを感じる大傑作
解き放たれた精神を感じる名盤
続く、M4「恋はふたりで」では若干テンポが落ち着き、サビはM1~3以上にスウィートで、ポップさも増しているようにも思うが、そう簡単には終わらない。アウトロでバンドサウンドが暴れている。残り30秒。それまでのポップな雰囲気とは打って変わって、アッパーなサウンドが披露される。恋はスウィートなままで終わらないという暗示だろうか。いい意味で聴き手の予想を裏切ることもポップミュージックの手法のひとつだろう。その意図はともかくとして、こういうことをやって来る辺りにDJKH×GGKRが本作の楽曲作りを楽しんでやっていたことが伺える。その辺りは、スロー~ミドルのM5「だんまり」も同様で、メロディーも全体的にゆったりまったりとしたナンバーでありつつ、後半では鍵盤を中心としたバンドアンサンブルが続く。凡そ2分40秒。全体のタイムが約6分なので実に1/3以上がそれに当たる。ボーカルパートが少ないから「だんまり」というタイトルになったわけでもなかろうが、この辺りにも本作がバンドを基調にして作られたアルバムであることがありありと伝わってくる。
シングル「ルーザー」のカップリング曲であったM6「ハートビート シンフォニー」はポップロックといった印象。Cメロではリバースも聴こえてきて、サイケな色合いを見せているのも興味深い。M7「CHOCO ME BABY」は4つ打ちのリズムでダンサブルなナンバー。イントロや間奏ではノイジーで凶暴なエレキギターが鳴っている一方、それ以外ではボサノヴァタッチのクリアトーンのギターが聴こえてくるというコントラストが面白い。この他、幻想的なエレピ。ウイスパーなヴォーカル。フェードアウト前のベースの暴れっぷり。等々、聴きどころは多い。
さわやかで、歌詞を加味するとファンタジックにすら感じるM8「空は水色」。派手さはないけれど、これもなかなか素敵なバンドアンサンブルである。間奏ではフルート(シンセかも)が聴こえてきたと思ったら、パーカッションを加えて楽曲の推進力を上げているところも聴きどころではあろう。ここもまたアレンジの妙味が伺える。M9「TONE RIVER」はデジタル寄り。リズムは打ち込みだろう。歌メロも比較的淡々した感じではあって、それらによってM7とはまた違った幻想感を醸し出しているような印象だ。アウトロではページをめくる音や鐘の音など、いろんな音が聴こえてくるところも不思議な感覚を与えてくる。
一転、M10「夜間飛行」はアコースティックな音も取り込んだラテン調のファンクチューン。疾走するバンドサウンドがM9のあとだとさらにカッコ良く聴こえるようではある。後半のかなりワイルドにドライヴしていくギターとベースは特に聴きどころではなかろうか。M11「サンキューミュージック」は他に比較してアンサンブルは落ち着いた感じではあるが、それだけに歌詞のテーマが際立っているようにも思う。楽曲の背後で終始印象的に鳴り続けている電子音のリフレインがクール。ここまである意味でイケイケだったサウンドとは赴きを異にしているところに、DJKH×GGKRの懐の深さを感じる。派手さはないけれど、流石にタイトルチューン。いいナンバーである。
アルバムのラスト、M12「マーブル サンデー」はドラムのカウントから始まるので、もしかすると所謂一発録りかもしれない。ソウルでファンキー。そして、ポップ。このバンドでの愉楽を感じさせる。歌詞はロストラブソングで、どっぷり暗くはないが、ほんのちょっぴり暗いというところも絶妙で、豊かなバンドサウンドに乗せることで余韻が増しているような気がする。その意味ではアルバムの締め括りに相応しいナンバーと言えると思う。
と、ザッとアルバムのサウンドを振り返ってみたが、楽曲がバラエティーに富んでいるところと、バンドアンサンブルの豊かさが少しでも伝われば幸いである。が、それ以前に、本作『サンキューミュージック』の充実さは収録曲の歌詞からも十二分にうかがうことができる。
《高速道路を降りる頃には 少しずつ今日ははじまっているんだ/フロントガラスに映る朝焼け ステキな夢をみせて》(M1「高速の男」)。
《ずっと心が先走ってるんだ すりきれそうで 迷いばかりで/きっと心で想像してた未来に 辿り着けなくても 走るしかないのさ》(M2「ルーザー」)。
《永遠に続くはずさ この道はいつも/まばゆい風でいっぱい/時間に果てが来ても 影を落としても/夢見たんです 翼が生えればいいって/空を自由に飛んで そして気流に乗って…/あの曇りの日 今も胸に残る》(M6「ハートビート シンフォニー」)。
《遠く そうずっと遠く続く 空は水色/泳ぐ 空を泳ぐ 白い雲はジェラート》《このまま とじこめたい瞬間/美しい魔法をかける 鐘の音が響いている》(M8「空は水色」)。
《夜空に 僕達にだけ 輝くミルキーウェイ/胸を躍らせて 月の環をくぐろう》(M10「夜間飛行」)。
解放(あるいは開放)のキーワードが此処其処にある。これ以て堂島孝平の精神がまさに解き放たれたものだとするのは決して邪推ではあるまい。冒頭の引用にある“自分の中で何か新しいエンジンが動き始めたような気がしたんです”という台詞とも符合する。「高速の男」「夜間飛行」とタイトルが乗り物を想起させるものになっているのも偶然ではなかろう。作者自身に確かな手応えがあり、しかもリスナーを飽きさせない音楽的な仕掛けが全編に施されている。こういうアルバムを紛うことなき名盤と言うのだろう。ちなみに、その翌年、彼はレコード会社を移籍し、再び堂島孝平 × GO-GO KING RECORDERS名義で再びオリジナルアルバムを発表している。そのタイトルは『ファースト ビギニング -FIRST BEGINNING-』(2004年)。ここでもまた完全に突き抜けた精神を示していたことも忘れてはならない。
TEXT:帆苅智之