ミュージカル『コーラスライン』4年
ぶりの来日公演がついに開幕!~フォ
トコールレポート

1975年にブロードウェイで誕生したミュージカル『コーラスライン』。翌年のトニー賞で最優秀ミュージカル賞・演出賞・振付賞・脚本賞・楽曲賞など9部門を制覇し、約15年間のロングラン公演を続けた人気作だ。1985年にはハリウッドでミュージカル映画化がされた他、2006年にはリバイバル版が開幕。2008年にはドキュメンタリー映画『ブロードウェイ♪ブロードウェイコーラスラインにかける夢』も大きな話題を呼んだ。
日本においては1979年に劇団四季で上演されて以来、定期的に公演が行われ、多くのミュージカルファンに愛されている。ブロードウェイでの成功を夢見てオーディションを受ける若者たちにスポットライトを当てた本作。彼らの情熱や生き様、苦悩を真正面から描いたブロードウェイ・ミュージカルの金字塔とも言える傑作のリバイバル版が4年ぶりに来日した。

<あらすじ>
ニューヨーク・ブロードウェイのある劇場で、新作のためのオーディションが行われている。新進気鋭の演出家・ザックの元には、わずか8つの枠を目指して年齢も人種も性別も様々な大勢のダンサーが集まってきていた。成功を求めるダンサーたちの中には、ザックのかつての恋人・キャシーも。彼女はコーラスからスターへと駆け上がり、ハリウッドに進出したものの挫折。もう一度やり直すためにブロードウェイに戻ってきた。ザックは彼女を突っぱねるが、キャシーはチャンスが欲しいと訴える。
最終選考に残った17人のダンサーに、「君たち自身を知りたい」と言うザック。ダンサーたちは戸惑いながらも自らの過去や情熱、悩みなど、自らのことを話していく。厳しいオーディションに合格しても、なれるのは名もない「コーラス」の一人。それでも彼らは8人に入るために自分のすべてを賭ける――。
フォトコールで披露されたのは、「Opening/I Hope I Get It」、「Hello Twelve,Hello Thirteen,Hello Love」、「What I Did for Love」、「One:Reprise /finale」の4曲。『コーラスライン』初演に参加した経験を持ち、来日公演での演出・振付を務めるバーヨーク・リーの解説を挟みながら、お馴染みの名曲たちが披露された。
バーヨーク・リー(右) (c)コーラスライン2022来日公演
バーヨークは本作の上演に関して「初演の前に、私の恩師でもあるマイケル・ベネットから「あなたはこの作品を世界中に届けるんだよ」と言われました。なんと47年経って、またこの日本に来て作品を届けることができています」と感慨深く語る。また、「マイケルが最初に話してくれたのは、観客の皆さんが普段観ているのは舞台上のパフォーマーで、彼らが彼らがどうやってここまで来たかを知る機会がないということ。世界中どこに行っても、暗い舞台上に白いラインが書いてあって、そこでオーディションを行う。その様子を見てもらおうというのがコンセプト」と、華やかなショーの裏側やダンサーを取り巻く実態を描きたいという思いから作品が生まれた経緯を話した。
さらに「舞台の構造もとてもシンプル。この白いラインの前で行われることは現実。内側で行われることは誰かの記憶や考えていること」と、舞台上に引かれたコーラスラインの説明をした上で「Opening / I Hope I Get It」が披露された。セットらしいセットはほぼないが、美しいダンスと照明によって非常に華やかでカラフルな印象を受ける。練習着の個性や踊り方からそれぞれのキャラクターの性格が見えてくるのも楽しい。
(c)コーラスライン2022来日公演
(c)コーラスライン2022来日公演
(c)コーラスライン2022来日公演
続いて「演出家はここで最終選考のメンバーを選び、一人ひとりに出身地や年齢を聞きます。それぞれが順番に生い立ちや思いを語ることになり、ダンスを始めた幼少期から17歳まで話が進む。それが次に披露する『モンタージュ4』です」という説明の後で「Hello Twelve,Hello Thirteen,Hello Love」がスタート。思春期の若者らしい夢や自信、将来への不安といった誰もが通る道がポップな曲調とエネルギッシュなパフォーマンスで表現され、青春の思い出が蘇ってくる。
(c)コーラスライン2022来日公演
(c)コーラスライン2022来日公演
(c)コーラスライン2022来日公演
次に披露されたのは「What I Did for Love」。バーヨークは「ザックはダンサーたちに“もし、もう踊れなくなったらどうするか”と聞きます。この作品を作っていた時、マイケルにも同じことを聞かれました」と話し、当時はまだキャストがダンサー・シンガー・役者という専門分野ごとに分かれていたことを説明する。
「ダンサーたちはスターの後ろで踊っているけど、彼らが声を持っていることを皆さんは知らない。だから、改めてこのシーンを作品に入れることにしました。“踊れなくなったらどうする”という問いに対する答えは様々です。例えば私が演じたコニーは田舎に行って食べることを楽しんで太って、赤ちゃんを産むと話しますし、ヴァルというキャラクターはハリウッドに行ってスターになると言います。この作品でお客様に伝えたいのは、ダンサーにもそれぞれの人生があるということ。「What I Did for Love」という曲は私たちのアンセムだと思っています。ダンスを始めた時は、これを職業にしていくら稼げるのかなんて考えませんよね。愛しているから踊る。そういうナンバーです」という、ダンサーとしてのプライドを感じさせるコメントのもと、ザックの問いに対するアンサーが歌われた。彼らが舞台にかけるひたむきな情熱はすべて“Love”という言葉で表現されており、そのまっすぐで深い思いに胸を打たれる。自らが全力で取り組んだことに対する誇り、人生をかけて取り組んだ物事への愛情は多くの人の心に届き、共感を呼ぶのではないだろうか。
(c)コーラスライン2022来日公演
(c)コーラスライン2022来日公演
続いてバーヨークは「ワークショップ当初、この作品は4時間あったんです。なぜなら、ダンサー全員が自分の人生をしっかり話したいという思いを持っていたから」と裏話を明かし、「そこで、天才的な作曲家であるマーヴィン・ハムリッシュがいくつかのストーリーを組み合わせて届けることを思いついたんです。そして先ほど披露したモンタージュ1〜4が登場しました」と、名曲たちが生まれた過程を話す。作品のラストについては「もちろんカーテンコールをしないといけないね」という話になったそうで、「私が演じる背の低いキャラクターが梯子の上で4人のボーイズに囲まれて長いドレスを着てお辞儀をするとか、歌の苦手なキャラクターがピアノの上に出てきて大ナンバーを歌うとか、全員が何か特別なことをお見せできるようなアイデアを考えました」と、様々な意見が出た中から現在の形に落ち着いたと語った。そんな経緯を経て生まれたラストナンバー「One:Reprise /finale」では、ダンサーたちが同じ衣装に身を包み、見事なユニゾンを披露する様子は圧巻。しかし、集団であると同時に一人ひとりが魅力あふれるダンサーとして存在している。夢のために一途に努力する姿勢、スターを支える彼らのドラマ、個性が集まって一つのチームとなっていく過程、――様々なシーンから感動や励ましを受け取ることができるはずだ。
(c)コーラスライン2022来日公演
最後にバーヨークは、「今まで通りこの作品が大成功を収めることを願っています。日本で初めて『コーラスライン』が上演されたのは1979年。当時はマイケルが来日しました。2022年、私がその伝統を引き継いでいきたいと思います」と締めくくった。
(c)コーラスライン2022来日公演
ダンサーたちの姿から多くの勇気をもらい、自分自身の人生や情熱に改めて向き合うこともできる本作。日本でも長年にわたって愛されているブロードウェイ・ミュージカルに、この機会に触れてみてはどうだろうか。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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