『爆裂都市(BURST CITY)
オリジナルサウンドトラック』は、
陣内孝則、大江慎也らが
自ら音をかき鳴らした規格外の劇伴

過激さはありつつも陽気でポップ

バトル・ロッカーズ名義の楽曲は全7曲(M14「セル ナンバー 8(第8病棟) リプリーズ」はM2「セル ナンバー 8(第8病棟)」と曲そのものは同じなので実質6曲)。サントラは全14曲でその半分をバトル・ロッカーズが占めているわけで、音楽的にも立派に主役を務めていると言っていい。断然、注目なのはM2「セル ナンバー 8(第8病棟)」だろう。それというのも、M3「ワイルド・スーパーマーケット」、M7「シスター・ダークネス」、M11「バチラス ボンブ(細菌爆弾)」は大江の作詞作曲。M12「フラストレーション」は陣内の作詞作曲。で、M13「ボロボロ」は陣内の作詞でザ・ロッカーズの谷信雄(Gu)の作曲であって、それぞれ、ザ・ルースターズ、ザ・ロッカーズのナンバーをバトル・ロッカーズで演奏したものという見立てが出来なくもないけれど、M2は作詞:陣内孝則、作曲:大江慎也という、文字通り『爆裂都市 BURST CITY』で生まれた楽曲なのだ。元ネタはどう聴いてもオランダのビートバンド、The Outsidersの「Won't You Listen」(邦題:「聞いておくれよ」)。だが、《注射器の味忘れられないぜ》や《カプセルの味忘れられない》といった映画の世界観にも似た歌詞と、池畑が刻むソリッドなビート、大江のギターのエッジーなカッティングが彩る当楽曲のほうが俄然スリリング。緊張感がバリバリある。ザ・ルースターズ、ザ・ロッカーズとはまた違った、バンドならではのケミストリーが発揮されたナンバーと言える。ちなみに、グループ魂の「グループ魂のテーマ」はこの「セル ナンバー 8(第8病棟)」が元ネタ。作詞作曲は宮藤官九郎。さすがクドカン、よく分かってる。

M2以外にも『爆裂都市 BURST CITY』サウンドトラック収録曲はシャープなロックチューンが連なっている。これは今回、映画を観直して、そこで披露されていたザ・スターリンのいくつかのナンバーとの違いを確認して、ハタと気付いたことなのだが、ダークで退廃と呼ぶに相応しいザ・スターリン楽曲に比べて、バトル・ロッカーズの楽曲は跳ねるようなポップさがあるように思う。不健全な匂いは間違いなくあるのだが、どこか陽気さを払しょくし切れないところを秘めているように感じるのだ。パンクというよりもロックンロール。個人的には1960年代のTHE WHOのような、危ない匂いはしつつも、楽曲の中心となっているメロディーはキャッチーであったりメロディアスであったりするというところは見出せるのではないかと思う。映画そのものも、バンドやそのオーディエンスが騒いでいるシーンが7~8割と言っていいような代物だが、バトル・ロッカーズを中心に捉えた箇所では完全にギャグと言えるシーンもある。バトルポリスとのいざこざ、バトル・ロッカーズのメンバー同士の喧嘩などがそうだろう。こうした場面があることで、過激は過激でも、目を覆いたくなるような凄惨さもないし、アンダーグラウンドにありがちな陰気さを薄くしているような気がする。無論、M8「視界ゼロの女(マチ)」ではっきりと確認出来る陣内の歌の艶っぽさ、グラマラスさもその辺と無関係ではあるまい。

あと、これも個人的な感想だが、最後にひとつ。『爆裂都市 BURST CITY』にはこんな逸話がある。[映画公開当時、ザ・スターリンが起用されたことに関して、パンク・ロックバンドのアナーキーのヴォーカル仲野茂が「なぜ自分たちを起用しなかったのか」と不服を表明し、映画の打ち上げに殴りこみをかけるなどの騒ぎを起こした。のちに泉谷しげるの仲裁により、両バンドは和解している]という話だ([]はWikipediaからの引用)。アナーキー(現:亜無亜危異)と映画スタッフとの間に何があったのかは定かではないけど、映画を観てサントラを聴く限り、もしザ・スターリンではなくアナーキーだったとしたら、映画内において、サウンドの陰陽においてバトル・ロッカーズとの差異があまり感じられなくなったのではないかと思う。パンクはパンクでもアナーキーは陽だ。ユーモアセンスもある。代わるならバトル・アナーキーとしてバトル・ロッカーズとチェンジするならアリだったように考える(40年も経ってから想像することでもないか…)。

TEXT:帆苅智之

アルバム『爆裂都市(BURST CITY)オリジナルサウンドトラック』1982年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.ソルジャー/1984
    • 2.セル ナンバー 8/バトル・ロッカーズ
    • 3.ワイルド・スーパーマーケット/バトル・ロッカーズ
    • 4.シャープシューズでケリ上げろ!/ザ・ロッカーズ
    • 5.プア ボーイ/ザ・ロッカーズ
    • 6.ソロー/1984
    • 7.シスターダークネス/バトル・ロッカーズ
    • 8.視界ゼロの女/陣内孝則
    • 9.キックス/1984
    • 10.マイト ガイ/ザ・ロッカーズ
    • 11.バチラス ボンブ(細菌爆弾)/バトル・ロッカーズ
    • 12.フラストレーション/バトル・ロッカーズ
    • 13.ボロボロ/バトル・ロッカーズ
    • 14.セル ナンバー 8(第8病棟) リプリーズ/バトル・ロッカーズ
『爆裂都市(BURST CITY)オリジナルサウンドトラック』('82)/V.A.

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着