矢井田 瞳

矢井田 瞳

【矢井田 瞳 インタビュー】
隙間の美学みたいなものを
楽しめる年齢になった

虚しさとか影と向き合うことで
外の誰かとつながれる感覚がある

アルバム前半はそうしたテーマがまとまっていて、起承転結の“起”といった印象があります。サウンドも先ほど話したように圧力が強くなく、まさに“さらり”としていますし、作品の入口としてスムーズだと思います。そして、4曲目「ずっとそばで見守っているよ」から若干サウンドの圧が強めになっていって、ここからは“承”といった印象もありますし、アルバムの流れもお見事だと思って聴かせていただきました。

ありがとうございます。「ずっとそばで見守っているよ」は井村屋さんの『あずきバー』のCMの絵コンテを見せてもらって、そこをきっかけに書いた曲だったので、最初はサビしかなかったんですね。それを…こんなことを言っていいのかどうか分からないですが、ただのCMソングにはしたくなくて、CMをきっかけに聴いてくれた人が満足してくれるように、びっくりしてくれるような仕掛けをサビまでにたくさん作りたいと。なので、実はサビに行くまではマイナー調だったりとか、エレキギターのサウンドに気合いが入っていたりとか(笑)、オルガンもそうですし、その“重みを持たせるぞーっ!”という気概が伝わったのかもしれないですね。

「ずっとそばで見守っているよ」に関して特に素晴らしいと思ったのは、身近な思考が実は世界とつながっているという内容でして。これは実に奥行きのある歌詞ですよね。

それはここ最近、生きている中ですごく感じることで。テレビの中で起きていること、ニュース番組で観る世界のことって、すごく遠くに感じるんだけど、実は自分自身に関係のないことなんてひとつもなくて、いろんなことが地続きにあると思うんですよ。そのことに気づいてからは、やっぱりそこが分かった上での歌詞しか書けなくなりましたね。

「ずっとそばで見守っているよ」という半径50センチくらいのことを綴ったようなタイトルではあるんですけど、《その諦めない心 世界が見つける時まで》辺りから、決して身近な話だけではないことが分かります。そこがお見事ですし、サウンドと相俟ってアルバム自体が深いところへ入っていく感じがありますよね。で、5曲目「オンナジコトノクリカエシ」、6曲目「shadow/alone」を迎えるという。ここでアルバムがちょっとダークサイドへと入っていきます。サウンドもめちゃくちゃ面白いです。特に「オンナジコトノクリカエシ」は西川さんが大暴れしてますね(笑)。

あははは。この曲はリズムパターンとド頭の♪ズジャジャ、ズジャジャ、ズジャ〜というのが頭にこびりついて離れなくて、そこから作っていったんですけど、たぶんその時にアコースティックな曲を同時に書いていたと思うんですね。だから、全然違うタイプのエレキで疾走する曲を書きたくなって、まさに勢い良く書いた曲ですね(笑)。

「shadow/alone」もかなり興味深くて。ダークなんですけど、リズムはグイグイと引っ張っていくという不思議なサウンドですね。

そうなんです。ダークでリズムは細かくチキチキというイメージで。あとは、怪しさですね。私がタンドラムを買ったばかりで、それを使いたいというのもあって(笑)、そこからいろいろと派生していったみたいな。ただ、自分が作ったデモではサビのコードを普通にしていたんですけど、もうちょっと癖が強いほうがいいというか…チーズで言ったら山羊チーズくらいの癖が欲しいと(笑)。

なんとなく分かります(笑)。

カビっぽいウォッシュタイプ。ちょっと遠くまで買いに行かないといけないくらいの癖が欲しいと思っていたら(笑)、アレンジをしてくださった松本 径さんがサビのコードをディミニッシュ(一般的なメジャーコードやマイナーコードとは異なる特殊な構造のコード)からスタートするという発明をしまして、もう“これだ!”と。癖や世界観がある時って振りきっちゃったほうがいいと思ったし、この曲は振りきれる曲だと思ったので、見事にハマってくれましたね。

そして、「オンナジコトノクリカエシ」と「shadow/alone」の歌詞ですが、先ほど少し話に出ましたけど、この2曲は外向きではなく、内向的でダークな内容になっていますね。

そうですね。でも、自分につきまとっていると感じる、虚しさとか影はずっとあるんですけど、そういったものときちんと向き合うことによって外の誰かとつながれるような、何か不思議な感覚はあって。まぁ、そこと向き合うことって楽な作業ではないけれども、そうすることによって、もしカッコ悪い言葉が出てきたとしても、そのまま表現することが誰かとつながれるきっかけになるんじゃないかと思いながら掘り下げる作業をしてました。

ここまでほとんど楽曲のメロディーの話をほとんどしてこなかったですが、今回のメロディーは全て問題ないと思います。どれをシングルにしてもイケるんじゃないでしょうか?

ありがとうございます。私は全曲シングルだと思ってこれまでも作ってるんですが、シングルというか、全曲が推し曲ですね(笑)。

アルバムって10曲くらいあると2曲くらいは“これはシングルでは無理かな?”となるものが入りがちだと思うんですが、『オールライト』はどれもメロディーが立っていますし、そこは前作以上ではないかと思います。

おー! そこはなかなかコントロールできる部分じゃないので、そう言ってもらえてラッキーです。ありがとうございます(笑)。

そのメロディーで言ったら今作はどれもいいんですけど、白眉は「Everybody needs a smile」ではないかと。こんなに分かりやすく耳馴染みのいいメロディーってそうないと思いますよ。

ありがとうございます! この曲は一発芸にしたくて(笑)。それこそ散歩している時とかお風呂に入っている時の鼻歌って最強だと思っていて、本能的に出てきたメロディーだと思うんで、それを集めた感じのサビなんですね。まずそれがあって、サビまでのパートを子供たちのコーラスやかけ合いだけで作っちゃおうというアイディアが出てきて。私はもっと短くしてもいいかなと思ったんですけど(笑)、そのくらい分かりやすさに振りきりたかったというか、そういう曲ですね。

子供たちのコーラスやかけ合いというアイディアが出てきたというのも、メロディーが柔らかく、温かいものだからでしょうね。

そうですね。子供たちの声って周りにいる人たちの気持ちを明るくさせるというか、キラキラした気持ちにさせるというか、そんなパワーを持っているので、この曲には入れたいと思いました。

OKMusic編集部

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