フィールドレコーディングの祖
アラン・ロマックスが発掘した、
ふたりのブルースマンの
“原石”のような記録

マディ・ウォーターズ、現る

1941年、8月、アラン・ロマックスはミシシッピー州のクラークスデール周辺をさまよっていた。彼はすでにニューヨークにも噂が伝わってきていた伝説のブルースマン、クロスロードで悪魔と取り引きをして驚異的な演奏能力を身につけたという、あのロバート・ジョンソンの身元を突き止めようとしていた。しかし、住まいさえ見つからない。伝説なのか? 幻か? と途方に暮れていた彼の元にさらに落胆の度を深めるように、同じくジョンソンを捕まえ、カーネギーホールで企画していた催しに彼を出演させようと接触を試みていたジョン・ハモンド(父)から、ジョンソンがすでに3年前に毒殺されているという知らせが届く。愕然とするロマックスに、地元民のひとりが「お前さん、奴(ボブ/ロバート)みたいに歌って弾ける奴なら知ってるぜ」と耳打ちした。破れかぶれな気分で訪ね当てた農場でロマックスの前に現れたのがマッキンレー・モーガンフィールドと名乗る若い男だった。試しに何かやってくれと頼み、男が1節、2節やり始めたのを聴いて、ロマックスは腰を抜かしそうになるくらい驚き、即座に演奏を中断させると「分かった。もう一回、最初からやってくれ、録るから」と告げた。ロマックスは翌年の7月24日にも再びマディのもとを訪れて録音を試み、その記録はアメリカ議会図書館に収録されるのだが、1993年になって『The Complete Plantation Recordings』と題されてその時に録音された音源、インタビュー録音がチェスレコードからリリースされた時は世界中が驚いた。そこにはシカゴへ旅立つ前、まだまだ田舎でくすぶっていた28歳のマディの生々しいカントリー・ブルースと、どういう理由でそのブルースを作ったのか等、あまり知られることのないブルースの発生する状況などが語られる貴重な証言が残されていたのだ。マディがひとりでアコギを弾きながら歌うもの、フィドルや別にギターを加えたものなどからなる音源からは、すでに将来の大物になるのを予感させるような凄味を放っているし、その言動からも、自信のようなものを感じさせる。

OKMusic編集部

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