かりゆし58のツアーファイナルには“
この先も音楽を奏で、リスナーとつな
がっていく”という決意があった

2022.07.09 かりゆし58全国ツアー『ハイサイロード2022-再々会会-』最終公演@沖縄・ミュージックタウン音市場
かりゆし58が7月9日(土)、全国ツアー『ハイサイロード2022-再々会会-』の最終公演を沖縄・ミュージックタウン音市場で開催した。最新アルバム「七色とかげ」を携えた今回のツアーで彼らは、紆余曲折を乗り越えてきたこの数年間の軌跡、そして、“この先も音楽を奏で、リスナーとつながっていく”という決意を示してみせた。
「アンマー」「オワリはじまり」「さよなら」などで知られる沖縄出身の4人組バンド、かりゆし58。ロック、レゲエ、パンク、沖縄民謡などをチャンプルーしたバンドサウンド、生活や人生に根差した感情豊かな歌によって、確固たるポジションを得ているのは周知の通りだ。
しかし、彼らのキャリアは決して順風満帆ではなかった。2015年にはドラマーの中村洋貴が局所ジストニアを発症。2020年2月にリリースされたアルバム『バンドワゴン』で復帰を果たすも、その直後からコロナ禍になり、(すべてのアーティストやバンドと同様)活動の停滞を余儀なくされた。
それでも彼らは逆境にめげず、自分たちのペースでバンド活動を繋いできた。そのなかで作り上げられたのが、前身バンド時代の自主制作盤の題名を冠したニューアルバム『七色とかげ』。沖縄県糸満市の中学生から歌詞の断片を集めて制作された「再々会会」、本土復帰50周年の節目を迎える沖縄への思いを描いた「群青」などを収めた本作は、今回のツアーでも大きな感動と開放的な盛り上がりを生み出した。
かりゆし58
ライブのSEはもちろん、「そろそろ、かりゆし」。沖縄の雰囲気が広がるなか、前川真悟(Vo,Ba)、新屋行裕(Gt)、中村洋貴(Per)、宮平直樹(Gt)。サポートドラマーの柳原和也が登場し、大きな拍手が巻き起こる。オープニングは、新屋、中村、宮平、柳原のコーラスからはじまった「HeartBeat」。心地よいバンドグルーヴのなかで新屋、前川がメロディを描き、宮平のラップ、柳原の歌、中村のボーカルへとつながる。最後のサビでは観客がハンドクラップで参加し、早くも気持ちいい一体感が生まれた。
「“ハイサイロード”という冠を掲げて回ってきたツアーが、ついに今日ここでファイナルを迎えました!」「今日は世の中がいい方向に変わっていく予感をあなたと感じるために、このライブを開いております」という前川の宣言に導かれたのは、「風のように」。自由なラインを描き出すサウンドとというフレーズが響き合い、オーディエンスの心と身体を気持ちよく揺らした。
かりゆし58/前川真悟(Vo,Ba)
思春期の親友との思い出を紡いだ「言葉にできないこと 言葉がいらないとき」、拾った子猫とを重ねたレゲエ・チューン「ミルクと包帯」の後は、「ミュージックタウン音市場にお越しの皆様、ハイサイ! 今日、今回のツアーでいちばん人が入ってないですか!?」と中村が挨拶。この日のライブはスタンディング形式。もともとは椅子席の予定だったが、コロナの状況が改善されたため、スタンディングにして観客数を増やしたのだとか。「ホントの意味でライブハウスが戻ってきたような、いい景色だなと思います」(前川)という言葉にも嬉しさが滲んでいた。
かりゆし58/新屋行裕(Gt)
この後も、色彩豊かな音楽性と深いメッセージを内包した楽曲が次々と披露された。メロコアとダンスホールレゲエを融合させたサウンド、愛に溢れた歌詞がぶつかり合う「愛と呼ぶ」では、観客の拳やタオルが掲げられ、会場のテンションはさらにアップ。「ラバーソウル」では、シンプルな8ビートのなかで新屋、宮平のツインギターが炸裂、切なくも愛らしい夏の恋を描いた歌詞が広がった。そして、“ツアーのなかで沖縄のことを伝えてきました”という前川の言葉とともに演奏された「ウージの唄」では、というフレーズが響き、会場は奥深い感動で包み込まれた。
かりゆし58/前川真悟(Vo,Ba)
そしてライブ中盤のハイライトはやはり、「アンマー」だった。16年前にリリースされた楽曲だが、すべてを許し、包み込んでくれた母親に対する真摯な思いをリアルに刻んだ歌は、時を重ねるごとに深みを増している。そのことを改めて実感できる、心のこもった演奏だった。
かりゆし58/宮平直樹(Gt)
「5月から7月にかけて、MONGOL800BEGIN、HYもライブをやってて。芸能の島、沖縄の有志たちが音楽を全国に届けているし、いい兆しが見えてきました」(前川)というMC、そして、アルバム『七色とかげ』に収録されたカントリーソング「あいをくらえ」(メインボーカルは新屋)からライブの高揚感はさらに増していく。
モータウン系のリズムと“真夏のビーチで仲間とビール!”な歌詞が観客のテンションを引き上げた「オリオンビーチ」、疾走感に貫かれたビート、ハードロック系のギター、切ない恋の歌が絡み合う「恋人よ」、沖縄民謡とラテン、レゲエを混ぜ合わせたサウンド、“イーヤーサーサー”の掛け声に合わせて観客が飛び跳ねた「JUMP UP!」。この問答無用の楽しさも、かりゆし58のライブの魅力だ。ツアー最終日とあって、バンドの一体感、演奏の精度も最高潮。中村が繰り出すデジタル・ハンド・パーカッションの音も、楽曲に彩りを与えていた。
かりゆし58/中村洋貴(Per)
この日、個人的にもっとも印象的だったのは、ライブ後半で披露された「群青」。この曲の背景にあるのは、大国の動向に翻弄され、多くの犠牲を伴ってきた沖縄の姿だ。島の形が変わるほどの戦いを強いられた人々は、それでも一生懸命に生き続け、歴史をつなぎ、今日に至っている。エモーショナルなロックサウンドとともに奏でられた「遥か空は高くて 故郷が泣いても/また君のこと愛せると信じたいから」という一節は、このバンドの存在意義そのものだったと思う。
柳原和也(Dr)
「寂しいってことは、楽しかったったことですね」(新屋)
「ロス感、勝手に漂ってるけど、今年の後半残ってるから。それぞれのタイミングで会えたらいいなと思ってます」(宮平)
「ライブ終わるのは寂しいけど、この後も沖縄を存分に楽しんでくださいね」(柳原)
とツアーに対する思いを口にするメンバー。最後に中村が「(療養を経て)やっと復帰できると思ったら、コロナになって。でも、この日のために苦労してきたんだなと思ったら、グッと来るものがあります」というコメントに、会場からは大きな拍手が送られた。
別れの寂しさ、再会への期待を情緒豊かなメロディに乗せた「再々会会」、そして本編ラストは、「証」。曲中に「2022年7月9日、沖縄ミュージックタウン音市場。音楽で彩られたこの空間には今日も、限りない可能性が翳ることなく輝き続ける」からはじまる前川の言葉が挟まれ、というラインが観客ひとりひとりに手渡された。
アンコールでは「電照菊」「オワリはじまり」などキャリアを代表する名曲を披露し、全国ツアー『ハイサイロード2022-再々会会-』は大団円を迎えた。『ハイサイロード2022-再々会会-』ツアーファイナル沖縄公演は現在、ストリーミング・サービス「Streaming+」で配信中(視聴券は7月24日(日)22時まで発売)。アルバム『七色とかげ』を中心に代表曲、名曲を交えた、かりゆし58の“今”をぜひ体感してほしい。
かりゆし58
取材・文:森朋之 Photo byG-KEN

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