ニューソウルを代表するレジェンド、
ビル・ウィザースの傑作ライヴ盤
『ライヴ・アット・
カーネギー・ホール』

鉄壁のバック陣とともに
熱唱するウィザース

クラシックからポピュラー、フォークやカントリー、ブルース、ジャズ、ブルーグラスまで、優れた音響効果で数々の名盤の録音現場にもなっているカーネギー・ホールだが、筆者も一度だけチーフタンズの公演で会場を訪れたことがある。内部はオペラハウスのようなボックス席も備えた美しく、素晴らしい音のホールだったことを覚えている。1972年10月6日の雨の夜、ウィザースは万来の拍手の中、舞台に登場する。ジャケット写真に見られるように、座ってアコースティック・ギターを弾くウィザースのバックに、シンプルにバック陣が控えている。メンバーはBill Withers(Vo、Gt、Pf)以下、Benorce Blackmon(Gt)、Melvin Dunlap(Dr)、Ray Jackson(Pf)、James Gadson(Dr)、Bobbye Hall(Per)という、『Still Bill』(’72)と同じラインナップで、他にホーン&ストリングスが控えている。

ちなみに、核となる5人のメンバーは「ワッツ103rdストリート・リズム・バンド」という8人からなるファンクバンドからの精鋭部隊で、バンドにはのちのアース・ウィンド&ファイアのメンバー、ギタリストのアル・マッケイ、ドラマーのジェイムス・ギャドソンが在籍したことでもその筋で知られる。そこから5人がウィザースを盛り立てるべくバックを務めている。ホーン&ストリングスのアレンジやピアノ、他で活躍しているレイ・ジャクソンは異色のキャリアの持ち主で、このバンドに加わる一方で英国スコットランド(ニューキャッスル)の人気フォークロックバンド「リンディスファーン」の創設メンバーのひとりで、「Meet Me On The Corner」「Fog On The Tyne」等のヒット曲でリードヴォーカルもつとめた人物である(ウィザースの本作と同年、しかも来日公演も行なっている!)。フォークロックとファンク、まるで対極の音楽ではないか。それはともかく、彼らの演奏がいい。ハジけるようなファンクビートを繰り出す中にもブルージーで、ウィザースのヴォーカルにピッタリと寄り添う、とてもあたたかな演奏なのだ。
※リンディスファーンのアルバムは以前この連載コラムで紹介しています。
■『フォグ・オン・ザ・タイン』(’71)/リンディスファーン
https://okmusic.jp/news/423415
アルバム/ライヴはいきなりヒット曲「Use Me」で幕を開ける。一度聴いたら忘れられないイントロのクラビネットと小刻みにリムショットを打つドラム、ベース、ギターのコンビネーションが生むグルーブのカッコ良さ! ライヴならではのメンバーの一体感。このクールさにまず打たれる。続いてホーン&ストリングス入りのファンキーなナンバー「Friend of Mine」で盛り上げたところで3曲目には出し惜しみすることなく、早くも「Ain’t No Sunshine」が披露される。盛り上がる聴衆の様子が手に取るように伝わってくる。

シングルカットされ、名曲の誉れ高い「Grandmas’s Hands」もストリングスを効果的に使い、ぐっと聴かせるナンバーだ。ファンキーにキメる「World Keeps Going Around」、ウィザースの歌のうまさ、心象表現の巧みさが際立つ「Let Me in Your Life」、ウィザースのアコギをバックにクールとしか言いようのないファンキーなバックがビシビシ決まる「Better Off Dead」、ブルージーなウィザースの歌唱に絶妙なテンポとタメを利かすバック陣のセンスが光る「For My Friend」、「I Can’t Write Left Handed」はベトナム戦争で右腕を失った帰還兵を描いたスポークンスタイルの反戦ソングだそうだ。

OKMusic編集部

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