MUCC 新体制初のアルバム『新世界』
は“ゆったりしたアルバム”? その
真意と制作の舞台裏を訊く

3人体制となったMUCCが、2年ぶり、16枚目のフルアルバム『新世界』を6月9日にリリースした。MUCCらしさとともに、新鮮な驚きも感じることができる今作のテーマは、“ゆったりしたアルバム”だったという。Allenというサポートドラマーを迎えてのレコーディングも含め、新体制となったMUCCはどのようにしてアルバム『新世界』を完成させたのか? 逹瑯(Vo)、ミヤ(Gt)、YUKKE(Ba)に話を訊いた。
――このインタビューが公開される頃には、6月9日にリリースされたアルバム『新世界』を提げてのツアー『MUCC TOUR 2022「新世界」~The Beginning of the 25th Anniversary~』の真っ只中にあると思いますが。このツアーをより楽しんでもらうために、アルバムリリースに至るまでの背景とアルバムのおさらいをしていけたらなと。コロナでライブが止まったり、SATOちの脱退があったり、本当にいろんなことがあり過ぎた中で、SATOちの脱退ライブの直後から3人+Allen(サポートドラマー)で初めて回った前回のツアー辺りから振り返った話を訊かせてもらってもいい?
ミヤ:SATOちの脱退直後から時間を空けずに、新たな体制で回った前回のツアーは、やっぱり最初は探ってる感じはあったんだけど、1ツアー回って帰ってきたときには、明らかな違いを感じた。新木場コースト始まり、新木場コースト終わりで全く同じセットリストだったんだけど、お客さんの反応がそれを現してたなって思った。全然違ったから。同じ曲なのに、始まった瞬間の景色も全く違ったからね。メンバーが変わって、スパッと新しい体制で動けたタイム感も含めたところで、すごく良かったと思ってる。コロナで予定が延期延期になって、そのタイム感になってしまったんだけど、時間が空かなくツアーに出れたことが、逆に良かった。
逹瑯:そうだね、空き方が良かったかもね。延期延期になってのタイム感ではあったけど、SATOちとのツアーのファイナルまでがすごく空いて、ファイナルをやって、そこからが時間を空けずに次に走り出せたことで、気持ちの整理が付いた人もいたんじゃないかなって思うしね。まぁ、そこは一人ひとりそれぞれの心情もあるだろうから、どんな形にしても整理は付かない人もいただろうけど、流れ的には良かったのかなって、今振り返っても思うかな。
ミヤ:時間に空きがなかったことで、SATOちとAllenと同時にリハをしていたからね。違うドラマーで同じ時期にリハをしている時間が続いていたから、そこで時間が変に空いてしまった方が良くなかったと思う。
逹瑯:スムーズにいけた方を経験していないから、そっちと比べようがないんだけど、こうなってしまったことが悪くはなかったんじゃないかなって思えてる。
――なんだかMUCCらしいよね。そういうのも。逆境をプラスに変えていく力がある。YUKKEはどう感じていたの?
YUKKE:今2人が言ってたことと全く同じことを考えてた。そんなに長いツアーではなかったんだけど、Allenも初めてワンマンツアーを一緒に回って、新木場コーストで始まって、新木場コーストで終わるというツアーの中で、初日はすごく緊張してたけど、1ツアー回って同じ場所に帰ってきたときに、すごく馴染んでいたのが分かったから、それもすごく良かったなって思った。始まりと終わりが同じ場所だったから、また特にそれが分かりやすかったからね、自分たち的にも。
ミヤ:もともと1ツアー回ってからアルバムのレコーディングをするつもりだったからね。やっぱりツアーを回ってからじゃないとレコーディングには入れないと思ってたから。
“この人とやったらどんな色になるんだろ?”っていう化学変化を楽しむ作業がすごく楽しかった。違うものが生まれてくる変化を楽しめた。(逹瑯)
――たしかに、そこは大きく違ってくるだろうからね。6月9日にリリースされた『新世界』は、2020年の6月10日にリリースされた『惡』ぶりだから、約2年ぶりのニューアルバムってことになる訳だけど、体感的には“もう2年!?”っていう感じがしているんだけどね。実際、Allenというドラマーを迎えてのアルバムのレコーディングの様子はどうだったの?
ミヤ:最高だった。今までやれなかったことができたし、曲に向き合えたという意味では、トオルさん(吉田トオル)とAllenがサポートだから早めに曲を渡して覚えてもらう必要があるから、実際にそうしたんだけど。そうしたことによって、もちろん、曲を覚えてもらうというのが大前提な中で、1からアレンジを逹瑯以外の4人で作っていったから、しっかりプリプロの時間が取れたんだよね。4人でプリプロをやってる時間に、逹瑯は逹瑯で自分の作業をして、歌と向き合う時間が今まで以上にちゃんと取れたし、今までできなかったことができたし、いいことしかなかった。楽しいし。真面目に音楽に向き合ったら、それだけの結果が出るっていう感じだったね。すごく幸せな形だった。
――なるほど。いい意味ですごくシステマティックに向き合えたってことだね。
ミヤ:そうだね。
YUKKE:今までよりも早い段階でデモを上げてみんなに渡すことで、自分自身の作業も早めに整えるから、いつもよりも早く準備ができてたのもあって、その状態で作業に向き合えたのはすごく良かったし、プリプロをすごくしっかりやってた分、本番がすごくスムーズに早く録れたんだよね。だから、“あぁ、きっとこの形がいいんだろうなぁ”って思えた。これまではプリプロも本番も同じくらい時間がかかっていたからね。
――リズム隊にとってドラムは特に重要な存在だと思うけど。
YUKKE:うん。でも、新曲ばっかりで、SATOちと合わせたことのない曲ばっかりだから比べようがないんだけど(笑)、とてもスムーズだったし、勉強にもなったし、引っ張ってもらえるところもあったし、すごくいい環境でできたなって思う。またツアーが始まったら、もちろん5人でだけど、Allenと更に育てていく感じになるんだろうなって思ってる。
逹瑯:なんか、ドラムに関わらず全体的なところなんだけど、レコーディングに関しては、今までかけてきた時間の割合が変化しただけで、こんなにも変わるんだなって改めて思ったし、同じメンバーでずっとやってたときは、メンバーの良いとこも悪いとこもわかった上で作っていってたから。そこはそこの良さがあったと思うんだけど、違う人が入ってきて一緒に音を作っていくところで今回感じたのは、“この人とやったらどんな色になるんだろ?”っていう化学変化を楽しむ作業がすごく楽しかった。違うものが生まれてくる変化を楽しめたというかね。そこに時間をたくさん使えたのは楽しかった。上手く浮いた時間をちゃんと使えた感じというかね。そういう時間を持てたことを幸運だったなって思たし、Allenの練習の時間を自分にも有効に使おうって思って、俺の歌のEQってどの辺なんだろう? ってとこまで追求してみたりもしたし。そうすることでいろんなところでの擦り合わせもできたりもしたし、デモが早くあがってたこともあって、プリプロ前に仮歌入れたりもできたし、流れ的には本当にスムーズだった。
逹瑯
――“新世界”というテーマは最初の方から見えてたの?
ミヤ:いや、見えてない。
逹瑯:最初なんかねぇ、リーダー(ミヤ)が「WORLD」っていうタイトルがいいかなぁって言ってて、そこから「いきとし」の歌詞ができた辺りから、“新世界”っていうワードがちょこちょこ出始めてきてたね。
ミヤ:なんで“新世界”っていう言葉が出てきたのか、もう覚えてないや。でも、たしかに、メンバーに“新世界”って言った気はする。
YUKKE:ミーティング中にポンって出てきた。
逹瑯:“新世界”っていうワードと、最初に歌詞が付いた「いきとし」から、アルバムの方向性がグッと決まっていった感じだった。
――「いきとし」の歌詞のテーマは、まさにMUCCが昔からテーマとしてきた“生と死”でもあるよね。
逹瑯:うん。軸で「WORLD」が流れの最後に決まって、「いきとし」が入って、タイトルが『新世界』になって、リードトラックの「星に願いを」の歌詞を俺が書くことになって、自分の中で「いきとし」と対になるテーマの詞がいいなぁって思いながら歌詞を書いていたから。俺の中ではその辺りで今回のアルバムの方向性はハッキリと見えた気がしたかな。
ミヤ:俺的には、「星に願いを」も「いきとし」も「HACK」も、ほぼ同時で、5曲くらい同時期に作っていたんだけど、一番最初にできたのは「星に願いを」だった。これはレコーディングの生配信をやる関係上、一番早く上げなくちゃいけなかったっていう事情があったからってのもあったからなんだけど。アルバムの中に入る一番芯になる曲を最初に仕上げられたのも、後々いい流れになったなって思う。それ以外はわりと気楽に書けたからね。
――「HACK」も最初の方にあったの?
ミヤ:うん。「HACK」は最初にあった。
――「いきとし」もそうだけど、6曲目に置かれている「HACK」は、アルバムの流れの中で抜き曲だと感じたんだよね。流れの中ですごくズシンと響くものがあって。
ミヤ:抜き曲が今回一番メインなの。
――あ、そうなの!?
ミヤ:そう。「HACK」「未来」「いきとし」が、今回一番書きたかった曲。その他は、いつもの感じというかね。
​“今回は抜き曲がメインのゆったりしたアルバムです”ってプロモーションしてて、ゆったりした曲から始まったら何の面白みもないじゃん。(ミヤ)
――なるほど。「HACK」「いきとし」ももちろんなんだけど、「未来」にもすごく深くミヤくんの描くMUCC感を感じ取れたから、そこには書きたかったこと、伝えたかった想いがあったからなのかもしれないね。そのテーマは、ミヤくんの中にあったテーマだったの? バンド共通のテーマとしてあったことだったの?
ミヤ:バンドの一貫としてのテーマかな。連れて行く曲よりも、寄り添う曲っていうテーマはあったからね。
逹瑯:気分的にグイッと引っ張っていく感じよりも、聴く感じというか、自然の流れというか、聴いてて心地良い感じのアルバムもいいかもね~って感じの話をしながらアルバム作りが始まったって感じだったかな。
――ここだけ読んでアルバムを聴いたら、「新世界」「星に願いを」「懺把乱(ざんばらん)」「GONER」までのヘヴィな流れには完全に裏切られるよね(笑)。え? どこが抜き曲ですか? 寄り添う曲がテーマじゃないの? 的な。「パーフェクトサークル」はゆったりしてはいるけど、音像的にはヘヴィだし。
逹瑯:そうそう。曲順を決めて並べたら、普通のMUCCのアルバムみたいになって面白かったんだよね(笑)。
ミヤ:そこはそういう狙いよ。“今回は抜き曲がメインのゆったりしたアルバムです”ってプロモーションしてて、ゆったりした曲から始まったら何の面白みもないじゃん。
――たしかに(笑)。にしても、5曲目までの流れを聴いたら“どこが?”って絶対になるよね(笑)。でも、その流れの中にあるからこそ、“寄り添う曲”が際立つのかもしれないなって思うね。
逹瑯:5曲目の「パーフェクトサークル」がすげぇいい位置にあるんだよね。この曲って、単体で聴くとゆったりした空気感だしイメージなんだけど、サウンド感がヘヴィというか、ゴリッとしてるから、前半と中盤をつなぐには、つなぎ目としてすごい良い味を出してるなぁって感じなんだよね。すんなり流れていく感じがする。
――分かる分かる。4曲目の「GONER」までは“MUCCキタッ!”って感じの、いつもの感じがあるんだけど、「パーフェクトサークル」でちょっと新しい感じがあって、そこからまさに“新世界”に突入していく感覚なんだよね。「懺把乱」は光と闇の共存を感じさせるザッツMUCCを感じる1曲だから、変わらないMUCCに安心する感じもあって。作詞逹瑯、作曲ミヤの「HACK」は、根底にある“ミヤのMUCC感”があるし、ワード使いは完全なる逹瑯節を感じた、新しくもMUCCの変わらない軸を感じた。激しい側のMUCCではなく、踊れる側のMUCC。
ミヤ:今回のアルバムで一貫してあった音楽的なテーマとしては、ブルース、ゴスペル、サイケデリック、80's、90'sだったの。そこに向かって全てを作っていたから。そこのミクスチャーだったんだよね。
――なるほど、納得。全ての要素が散りばめられているね。
ミヤ:俺的にはわりと、今回ギターってどうでもよかったんだよね。
――そうなの? でも、各曲に持ってきているギターの音色のチョイスは最高だったけどね。
ミヤ:ボーカルのメロディとかの方が重要だった。メロディの動きが今までやってこなかった感じの動きが多いから、そうなることによってギターが変わってくるから、呼ばれるままに弾いた感じだった。だから、正直、何やったか覚えてないくらい。「零」とかみたいな曲のギターはちゃんと考えたけどね。
逹瑯:俺も今回のアルバムのギターの音色すごく好きだけどね。「NEED」のギターのフレーズも音もすげぇ好きなんだよ。何とも言えないシンプルな感じがすごく好きで。
――そうそう。ギターの音色良いよね。それはところどころ、いろんな楽曲の中で感じるんだよね。「NEED」は楽曲的にもこのアルバムの中で一際キャッチーに輝くよね。作詞逹瑯、作曲逹瑯YUKKEの新しい感じだよね。これはライブでも人気曲になること間違いなしというか。曲調的にもノリ的にも夢烏(※ムッカー=MUCCファンの呼称)好きそうだなって思った。こう、なんていうか、ダラダラノレる感じがいい。
逹瑯:そうだね。曲を作ってるときから、ライブのイメージしかなかった。この曲は俺の曲とYUKKEの曲を合体させたの。
ミヤ:そう。今回2曲合体させてる曲が多いんだよね。「COLOR」もだし、「NEED」もだし。
YUKKE:「WORLD」もそうだもんね。
ミヤ:そう。「WORLD」は逹瑯と俺の曲を合体させたからね。
逹瑯:「NEED」は前半が俺で、サビがYUKKE。ぐっちゃ(ミヤ)の叫んでる感じと、俺のグーッと落ち着いて歌う感じの掛け合いをライブでやったら盛り上がるんじゃないかなぁ~って思って作り始めたんだよ。最初、俺だけで作ってるときは、もっと行きっぱなしの曲だったんだけど、YUKKEの曲と合体させて、YUKKEの持ってきた抑えめなサビを付けて、俺が作ってた曲調のテンポ感よりも落としたら、いい感じになったんだよね。気分的にすごく上がる曲なんだけど、その上がってる感じをサビで“まぁまぁ落ち着けよ”って感じで落として、その流れでギターソロに行くっていう。その流れがすごく気に入ってるんだよね。ライブでやりたくてしょうがない。力入れるとこは入れて、抜くとこは抜くっていう感じがすごく好き。
ミヤ:俺、初めてかも。
――何が(笑)?
ミヤ:YUKKEが持ってきたギターフレーズをそのまま完コピしたの。
YUKKE:んふふ。そうだね(笑)。初めてかもね(笑)。初めてでしたよ。
ミヤ:それが良かったんだよ。
YUKKE:マニピュレーターの人が一緒に作ってくれたんだけど、そのフレーズがすごく良くて。
逹瑯:良いよね。「NEED」のギターソロ本当に好き。
アルバム『新世界』【通常盤】
――トオルさんの鍵盤も最高にロックンロールでカッコイイよね。ということで、「R&R darling」。これには裏切られたなと。全く曲調とかは違うんだけど、「死んでほしい人」(2014年6月発売アルバム『THE END OF THE WORLD』収録)と並ぶ裏切られ具合。
逹瑯:あははは。全然ロックンロールじゃねぇじゃんって感じだったでしょ(笑)。
――そう。
逹瑯:Aメロで《Hey! R&R darling》っていうのをデモの段階でなんとなく付けてたら、そこのハマりが良すぎて、そこが頭から離れなくなっちゃって。そこから抜け出せなくなっちゃったの。何の意味も考えずに付けてたんだけどね。でも、歌詞をちゃんと書くときに、そこに意味を持たせて書いていこうって思って書き始めた感じだったんで、ロックンロールでも何でもないのに、そうなっちゃったんだよね(笑)。
――でも、そこがちょっと甘酸っぱい感じになって良かったんじゃないかな。全然ニュアンス的なものなんだけど、『ママレード・ボーイ』って漫画知ってる?
逹瑯:知ってる(笑)。俺、あのオープニングテーマ大好きなんだよ。
――なんかあの世界観というか、キラキラした感じの空気感があったなと思って。
逹瑯:あははは。なんか言いたいことはめっちゃ分かる(笑)。ゆったりと自然に委ねる感じの曲が欲しいね~っていう打ち合わせをして、その後すぐに作った曲がこの曲だった。
ミヤ:俺的には、くるりなんだよね、この曲。なんかさ、たまに無性にくるりを聴きたくなる気分になるときってあるんだよ。そういう曲調ないなぁと思ったから、すごく良かったなって思う。
ミヤ
――なるほど。ギターソロのドラマティックさもいいよね。
逹瑯:そう。いいよね。
――フェードアウトにしたんだね、ラスト。
逹瑯:ゆったりとしただけじゃなくて、サビとかちょっとエモくしようって植え付けていって、アウトロどうしようかなって考えたときに、スパンッと終わるのもいいけど、頭の中に広がっている風景が広がりながら、余韻に浸りつつ終われたらいいなぁと思ってフェードアウトにしたんだよね。俺的には「未来」からの曲の流れがすごく良かったなって思ってんだよね。
――「未来」はすごく深く心地良く沈んでいくイメージの気持ち良さがあるからね。「未来」の後半部分の少し鮮やかな景色になるところから、静かに優しく柔らかな感じで「R&R darling」に繋がっていくのは美しい流れだよね。
ミヤ:本当はこの辺りに入れたかった曲もあったんだけどね。一番シンプルでゆっくりな曲。
YUKKE:一番ゆっくりだったね、あの曲は。
――YUKKE作詞作曲の「COLOR」も、リズムの難しさや、曲中の展開や、いろんな要素がふんだんに詰め込まれている、MUCCにとってもYUKKEにとっても新世界だったのでは?
YUKKE:そうかも。一番ビックリした曲だったって言われることも多くて。今回最初から2回曲出しが設定されていたのね。自分の中で、最近ミディアムな曲調を作っていない気がしたのもあって、今回はそっち系の曲ばっかり持っていった気がする。そんな中の2曲の良いところを合体させたのが「COLOR」。子供が合唱してる英詞の部分がサビなんだけど、もともとはラップの曲を作ってみたいなってとこから始まったのね。歌詞を書く前からずっと子供が合唱してるイメージが頭の中にあったんだけど、仮歌ではもっと壮大なイメージで、そこを自分で歌ってデモを作っていたんです。それをリーダーに聴かせたら、“これだったら子供が合唱してる感じも似合うんじゃない?”って言われて、そこからちょっとメロディを作り直して、煮詰めていった感じ。
――「COLOR」はギターのアプローチも素敵だよね。アコースティックで魅せる部分もすごく魅力的で。こそはYUKKEからのリクエストで?
ミヤ:もともと原曲の雰囲気がそういう感じだったから、それをなぞっているところはあるし、シンセだった部分をエレキに変えたりはしたけど、2曲を1曲にくっつける作業に一番力を注いだかな。
――リズムに関しては?
ミヤ:Allen的に普段はやらないビートだし、レガートはジャズドラムですごく奥が深いから難しいとは言ってたけど、結構自分のものにしてたと思う。
――Allenはメタルドラマーだって言ってたのもあって、「零」のドラムを聴いたときは“なるほど”って感じがしたけど、「COLOR」は1曲を通して難しさを感じたから。
ミヤ:いや、今回のアルバムの中でAllenが一番苦戦してたのは「零」だったんだよ。
――そうなの?
ミヤ:そう。(ツーバスが)全然踏めなくて。「零」はスラッシュメタルだから、長いんだよ。Allenは速いのを短く踏むタイプだから。速くて長いのは苦手みたい。
――おぉ、それは意外。すごく綺麗なツーバスだな、さすが! って感じだった。アルバムの流れとしては、「Paralysis」「零」で、アルバム冒頭のMUCC色に戻っていく感じがあるよね。「Paralysis」はAllen曲なんだね。
ミヤ:そう。2曲作ってきたんだけど、もう1曲はドラムトラックだけ作ってきてた感じだったから、この曲は完全なデモがあってセレニティ・イン・マーダーのメンバーに手伝ってもらってMUCCっぽいトラックを仕上げてもらって、俺がメロを付けて完成させたんだけど。Allenの場合、すごく思考が分かりやすくて、作りたい曲が明確に分かるから、すごく作りやすかった。アイツ、メタル野郎だから、本当に分かりやすいの。絶対にツーバスにしたいでしょ、っていう分かりやすさもあったし、ギターもすっごいクサいソロにしたの。恥ずかしいくらいツインリードのイナタイ、クサいソロにしたら、Allenが、最初に“あそこがすごい良かったです! めちゃくちゃ熱いですね!”って言ってきて。
逹瑯:あははは(大爆笑)!
ミヤ:コイツ、ちょろいなって思った。
YUKKE:あははは(大爆笑)。
ミヤ:“ギターソロの後にシャウトが入ったことによって、よりエモさが増しましたね!”とかも言ってたなぁ。
逹瑯:あははは(大爆笑)! 分かりやすいのが好きなんだな、Allen(笑)。
ミヤ:でも、そうやって想像力を掻き立てる曲を書いてくれたから、すごく楽しくやれたし、そこに昔からあるMUCCのメロディ感や歌詞の世界観が意外とマッチしたなって思った発見もあったしね。
――そうだね。不思議だったのは、「Paralysis」はすごくヘヴィでスピード感もあるのに、歌は結構ゆったりと歌い上げているよね。
逹瑯:「Paralysis」は速く感じるけど、メロだけで言ったら、歌謡曲っぽくて意外とゆったりしてるんだよね。すごいMUCCっぽいメロだから、めちゃくちゃ歌いやすかった。
ミヤ:この曲はアコースティックライブでやったら、“あ、こんなにしっとりした曲なんだ”って思うと思うんだよね。
YUKKE
――すごいMUCCっぽいっていうのはめちゃくちゃ分かる。しっとりした曲なんだなって感じる要因として、YUKKEのベースラインも大きいのかも。
YUKKE:「Paralysis」のイントロとか前半部分とかは、これまでのMUCCにない風が吹いてるのを感じたんだよね。でも、サビでちょっと懐かしいMUCCメロがくるとこで、“あぁ、MUCCの曲だわぁ”って思った。なんかね、カップリング曲の逹瑯曲で弾くベースフレーズっていうイメージだったんだよね、俺としては。
――なるほどね。「零」も今までのMUCC感を強く感じた1曲だったな。
逹瑯:「零」は最初アウトテイクだったんだけど、どうしてもやっぱり「零」はアルバムの中に欲しいよね、って話になってリーダーが戻したんだよね。
ミヤ:今回、アルバムの流れも最初から決めないようにしてたんだよね。曲が全部できるまで、“(アルバムの流れとか)知らねっ”って思って、全くそこを考えずに曲作りだけに集中した感じだったから。でも、「零」だけは入れた方がいいなって、直感で思った。入れると入れないとだと、アルバムの印象も変わるし、「零」が無いとライブが作れないなって思ったんだよね。実際、アルバムに入りきらなかった新曲が3、4曲あって。それはライブではやっていこうかなって思ってる。「零」もその内の1曲になってたんだけど、いや、これは入れた方がいいなと思って入れたんだよね。
――「零」はライブを作る上でも必要だけど、この曲調に《泣きじゃくって笑えよ》っていう歌詞が載るところがMUCCだし、それを待ってるからね、夢烏は。「いきとし」の前っていう位置もベストだったと思う。
ミヤ:今までの流れだと、SATOちの曲の“曲”に引っ張られて消化していくっていうライブの流れが多かったんだよね。もうSATOちが作る新たな曲はこの先出てこない訳だから、その流れを変えたいなっていう思いもあって。別の魅せ方、流れを作りたくて。そこに変わるものが「Paralysis」とか「零」だったんだよ。SATOちの曲って、いい意味でも悪い意味でもSATOちの曲なのよ。何と何の要素がくっ付いてそれになってるっていうタイプじゃなくて、“SATOちの曲”でしかない。だから名曲が多いんだけど。だけど、もっとMUCCらしさを別のテイストに注入した曲をやりたいなと思っていて。それが分かりやすくできたのが、「零」だったのかなって思う。「零」は、最初“何何っぽく始まる”んだけど、サビですごくMUCCになるっていう感じ。曲調とかコード感とかじゃなく、それ以外のメッセージ性とか雰囲気でね。トータルでそういう曲ってあんまりなかったから。SATOちの曲だとそういう歌詞が書けないんだよね。今回「零」ではそれができて。そこは新しい発見だったのかなって思う。
リハーサルでもすごく良いツアーになる想像ができてるのもあって、実際のライブで見えるもっといい形が想像できないから、そこも本当に楽しみ。(YUKKE)
――なるほど。いやぁ、今までもいつもアルバムが出る度に“今度はどんな感じのMUCCが来るの?”っていうドキドキがあったけど、今回もいろんな意味で期待を裏切りつつ、また夢中にしてくれるアルバムを作ってくれたなと思います。『MUCC TOUR 2022「新世界」~The Beginning of the 25th Anniversary~』は、どんなツアーになっていく感じ?
ミヤ:このメンツでのツアーは2回目になるんだけど、今回は全くどうなっていくか想像が付いてない。
――どういう意味で?
ミヤ:ライブに対して気分が違い過ぎて。どうなるか分からないっていうのが本音だね、正直。今までツアーに向かうときって、本番に対して不安しかなかったとこがあったんだけど、今回はリハーサルの段階でOKで、その時点で満足感を得ているから、ライブになったらどうなっちゃうの? って感じ。やっぱりライブって、会場にお客さんがいて何倍にも広がっていく感じなんだけど、もうこの時点で最高に楽しいから、ここからどうなっちゃうんだろう? っていう。演者が楽しんでいることが一番で、それってお客さんに伝わるから、今回いつもよりも楽しんでたら、それがもっと伝わる訳でしょ。どう伝わるんだろうっていう楽しみがあるね。
YUKKE:本当にここまで長いツアー自体が久しぶりだから、やっと行ける場所もあるから本当に楽しみでもあるし。リハーサルをやってる感覚だと俺もすごく良いツアーになる想像ができてるのもあって、そっちもすごく楽しみなんだけど、実際のライブで見えるもっといい形が、どんなものになるのかが想像できないから、そこも本当に楽しみだし、期待してます。お客さんも、前よりはライブに対していろんな不安要素も少なくなっていると思うから、純粋に楽しみに来てもらえるんじゃないかなと思うと、嬉しい。
逹瑯:新しい楽しみ方を発見できそうな新譜だから、これまでライブで感じたことのなかった高揚感や楽しみ方があるんじゃないかなっていう期待が大きいかな。こんな楽しみ方知らなかった! こういうライブの形もあるんだ! っていう楽しみ方を探せたらいいなって思ってます。
取材・文=武市尚子

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