”絶望系アニソンシンガー”がたどり
着いた、絶望の一歩先の景色 『Reo
Na Acoustic Concert Tour 2022 “N
aked”』レポート

「ReoNa Acoustic Concert Tour 2022 “Naked”」、その千秋楽が2022年6月10日に開催された。場所はZepp Haneda(TOKYO)。“絶望系アニソンシンガー”を掲げ、これまで数々のお歌を紡いできたReoNa。今回のツアーは自身の最新E.P.『Naked』を提げてのツアーとなり、全曲アコースティック編成で届けられる。タイトル通り、“Naked”、剥き出しなReoNaがツアーの千秋楽でどんな歌声を聴かせてくれるのだろうか。

会場であるZepp Haneda(TOKYO)には、心待ちにしていたファンたちで溢れる。舞台上にはアンティーク調の照明がポツリポツリと灯され、その光が無数に並んだ楽器をぼんやりと浮かび上がらせる。開場中に流れるのはThe Beatlesの名盤「Let It Be... Naked」の楽曲たち。まだ何も始まっていないのに、どこか期待感が湧き上がってくる。
開演時間になり、ツアーをReoNaとともに駆け抜けてきたNaked Bandのメンバーが舞台上に現れると、客席はそれを拍手で迎える。そしてReoNaが登場。ライトが照らす舞台中央に到着すると深々と頭をさげる。
アコースティックコンサートというと、しっとりとしたアレンジの楽曲を想像するかもしれないが、その固定概念は開演早々に打ち崩される。一曲目に披露したのは「ANIMA-Naked Style.-」。畳みかけるような、その力強いサウンドは聴くものを圧倒し、まだ開演から数分なのに会場は高揚感に包まれていく。
「魂の色は 何色ですか」
二番までを歌い終え、一度訪れる静寂。ReoNaがポツリと歌うその言葉。力強いサウンドで走り出した本楽曲の中に一瞬の空白。そこに浮かび上がる声は聴くものの心をしっかりと掴む。力強さだけが“Naked”ではなく、静寂にも魂が剥き出しになる瞬間があるのだと気付かされる。その緩急が観客をさらなるReoNaワールドへ引き込む。
照明が青く光り、重低音が響く。会場ごと水の中に潜っているような数秒が流れる。感覚が水底に到着する瞬間、真紅に照らされた世界に切り替わり、始まる「Let it Die」。脱力したかのように、肩を落として歌声を紡ぎ出すReoNaの姿は「ANIMA-Naked Style.-」の時とは異なる魅力を纏っている。同時に、脱力したように声を発しながらも、鼓膜と心を揺らす。
荒幡亮平の鍵盤の音に導かれるように次の曲が始まる「Independence」。その疾走感溢れるナンバーに会場中が体を揺らしていく。楽しげに“お歌”を紡ぐReoNa、その背後には力強い演奏で、彼女の歌声をしっかりと支えるNaked Bandのメンバーたち。一人一人が際立った個性を出しながらも、重なりあえば最高のハーモニーを作り出す。紡がれる音一つ一つと、パフォーマンスが空間を再構成していく。
短いMCタイムを経て明るい楽曲が続く「forget-me-not」。”絶望系アニソンシンガー”をかかげるReoNaが傷つきながらも、見つけた光が歌声と共に運ばれてくる。そのメッセージが聴くものの心を明るくし、祈りが僕らの心を満たす。
ポツリ、ポツリ、ポツリ、雨音のように鍵盤の音が鳴る。その雨音はやがて一つの曲となり、そこにReoNaの声が寄り添っていき紡がれる「虹の彼方に」。荒幡亮平とReoNa。お互いがお互いの出す音を聴き、そこに自分の音を返す、対話するように音楽が繰り広げられる。今この瞬間にしか聴けない対話だ。
次の「カナリア」ではReoNaと、ギター・高慶”CO-K”卓史と山口隆志が対話する。二人の奏でるギターのサウンドはどっしりと、まるで大地のように安定して存在する。その上をReoNaの歌声が自由に、ふわりふわりと舞い踊るように乗っていく。その奔放な歌声に、ただただ酔いしれる。
改めてReoNaから来場者への挨拶から、自身のパーソナリティが語られる。そして、その背後でギターが鳴る、まるで夜の足音のようだ。ライトが作り上げるのは月明かり眩しい夜。薄いヴェールのような空気の向こうからやってくるのは「生命線」だ。
“Naked”な「生命線」のアレンジは、元来この楽曲が持つ夜を走り抜けるイメージが、今コンサートでは夜の中に佇む曲のよう。そこに「ないない」が続き、舞台上をパープルのライトが照らす中、ゴシックなサウンドが会場を包む。不安定な空気感をはらんだこの曲も、ツアーを超えてきたメンバーが作り上げるグルーヴでドラマティックに展開されていく。
そしてMCを挟み、続いての「Lotus」では、まるで語りかけるように歌うReoNa。歌にしてメッセージを伝えるとはこういうことなのか、と感じる時間。そのメッセージは、確かに聴くものの心に響く。
ここまでほぼノンストップ。最低限のMCで進んできたが、改めて時間をかけてのバンドメンバー紹介が行われる。バンドメンバーとのツアーの思い出も語るReoNa。ここまで見せてこなかった表情に等身大の彼女を感じ、ハッとする。そうか、彼女はアーティストであると同時に、一人の人間なんだ、と。その一人の人間が、この圧倒的な歌声を僕らに届けているのだ。
一度息を置いてから、今回のツアー初披露となる「猫失格」へ。うまく生きられない、そんな自身を不器用な猫に喩えて歌ったこの楽曲。うまく生きられなくても、ちゃんと居場所はある、そんなメッセージをReoNa自身が伸びやかに、笑顔で歌う。
「ついていない1日にそっと寄り添ってくれる、そんな曲です。」そう紹介したのはカバー曲、Daniel Powterの「Bad Day」。前向きで力強い歌声に呼応するように、舞台上の照明が煌々と灯っていく。
”絶望系アニソンシンガー”、彼女の“お歌”は、その大きさなど関係なく、聴く人の絶望に寄り添ってくれているんだ、そう感じているところに、次の曲が運ばれてくる。「テディ」。「僕は手を引かない 僕は背中を押さない 僕は隣にいるだけ」ReoNaは、今絶望している人に自分が何ができるかの答えを既に持っていた。優しい、なんて優しいのだろう。
ここで一つの疑問が生まれる。果たして今のReoNaは何故、絶望系アニソンシンガーを掲げ、絶望に寄り添う“お歌”を届けようとしているのか? その答えを彼女は次の曲でしっかり見せてくれることとなる。
ReoNaがトイピアノでメロディを奏でる。次は「絶望年表」だ、会場中がそう思ったであろう。ReoNa自身がギターを持ち、弾き語りを見せる。照明は彼女をくっきりと照らし出し、舞台上、いや、世界には彼女しかいないかのように錯覚する。独りぼっちのReoNa、“今”に近づいていく「絶望年表」、時の経過に合わせてバンド隊の演奏が合流、照明は舞台全体を明るく照らし、ReoNaの背後には心強い仲間が現れる。彼女がステージでこの「絶望年表」を届けることができる様になったのはできたのは、音楽と、一緒に音楽を作ってきた仲間たちのおかげなのかもしれない、そう感じる瞬間だった。
ライブも締めくくりに向かう。E.P.『Naked』に収録されている楽曲「Someday」を披露。そこから「初めてアニメに寄り添わせていただいた曲です」と続いたのはもちろん「SWEET HURT」。エモーショナル、この言葉がこんなにもしっくりくる瞬間もそうないだろう。のびやかに歌い上げる彼女の姿ははっきりと見るものの胸に刻まれた。
様々な感情を与えてくれた今日のライブも締めくくり。エモーショナルな空気の中、最後を飾ったのはもちろん「ライフ・イズ・ビューティフォー」。このライブを「生きてりゃいいのよ」というメッセージを込めた歌で締めくくった。
人は時に絶望する、希望なんてどこにもないように感じさせる。そんな時は逃げていい。逃げて、逃げて、逃げた先にも光がある。素晴らしい世界は広がっている。それを誰よりもよく知っているのがReoNaだと思う。だから彼女は、”絶望系アニソンシンガー”を掲げて、聴く人の絶望に寄り添う“お歌”を紡ぐ。それはきっと、ReoNaにしかできないことなのだ。
ここがReoNaの終着点ではない。もっと逃げて、もっと先で、次の素晴らしい景色を見せてくれる場所、それが日本武道館なのだろう。「武道館で会おうね。」そういった彼女に、僕らは必ず武道館に会いに行く。
ReoNa、SPICE先行受付コメント映像
取材・文:一野大悟 撮影:Viola Kam (V'z Twinkle)

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