人が地域でつながる『こどもみらいフ
ェスティバル』、3年ぶりに横浜で開

こどものこと、子育て・子育ちのこと、そして、こどもの未来を考える『こどもみらいフェスティバル』が神奈川県横浜市で誕生したのは2014年のこと。

「子どもが主役の子育て」「もっと自由に外遊び」という2大コンセプトをベースに、「Free Children!」「No Play No Life」「Let’ s Play Together」というメッセージを掲げ、地域の子育てネットワークづくりのきっかけとなるフェスを目指し、立ち上げから2019年まで毎年連続で開催されてきたのだが、多くの人やイベントが苦しんだように、このフェスもまた、コロナ禍の煽りを受けて開催できずにいた。
フェスを運営するのは、地元である横浜市内のプレイパークや保育関連団体、地域社会グループが担う実行委員会と、その呼びかけに賛同した約200人の個人サポーター、ほかにも、横浜市都筑区役所、都筑区子育て支援センター・ポポラ、NPO法人・日本冒険遊び場づくり協会といった地域の子育てを担う様々な機関から広く後援されている地元密着型のフェスである。
その希望あるフェスが、3年ぶりに開催されることになった。
立ち上げから2019年までは毎年連続で開催され、センター北駅前の広場に大遊具の竹タワーを組むなどの大がかりな仕掛けを組む出張プレイパークをはじめ、子どもたちが運営する駄菓子屋「こぶたのだがっし〜」、育児世代のサポーターによるバルーンアートの実演配布やベーゴマ大会の開催、子育て悩み相談所や、工作コーナーやミニコンサートなどを開催するWEEK・1と、りんごの木子どもクラブ代表の柴田愛子先生の講演会と保育界のスーパースター・ケロポンズによるコンサートを開催するWEEK・2で、2週にわたって構成されていた。
2019年開催時のセンター北駅前広場にて(撮影:早乙女ゆうこ)
2019年開催時のセンター北駅前広場にて(撮影:早乙女ゆうこ)

復活をとげる今年は、6月18日土曜日の午前10時30分から柴田愛子先生の講演会、午後3時からケロポンズのファミリーコンサートが都筑公会堂で開催される。
ケロポンズ

開催再開に至るまで、フェスは様々な難関に遭遇したという。実行委員長の石飛智紹さんは当時を振り返る。
「2020年の3月からコロナ騒ぎになりましたが、2月には恒例のキックオフのミーティングもやっていたんです。でも『何もできないね、どうしたらいいんだろう』というのは皆同じでしたよね。その直前にも、これまで出張プレイパークを開催してきたセンター北駅前広場が、芝生が張り替えられたことで使わせてもらえないという事態になり、それとどう闘うかという流れの中でコロナが来てしまったので意気消沈でした。だから何もできませんでした。そこから1年が経って、『こうしてみよう、ああしてみよう』という話し合いを重ね、まずは自分たちがフェスを開催しようと思った原点に戻って、オンラインで(柴田)愛子さんの話しを届けようよということになったんです」
こどもみらいフェスティバル実行委員長 石飛智紹さん

柴田愛子先生は「りんごの木子どもクラブ」を率いる保育界のカリスマであり、著書『けんかのきもち』は日本絵本大賞を受賞する作家でもある活動家だ。感涙を流す人続出の心の重荷を解く講演会は、全国の園、学校、役所などの教育機関からの要請は後を絶たず、Eテレの『すくすく子育て』や雑誌『暮らしの手帖』、音楽フェスの『FUJI ROCK FESTIVAL』までもが彼女やりんごの木の特集を組み、その思想を世に伝えようとしている。保育や子どもの教育に興味がある人なら、どこかでその名を耳にしたことがあるだろう。
りんごの木子どもクラブ代表 柴田愛子先生

そんな柴田愛子先生の話を子育てに悩む人に届けようという子どもの保護者の思いが結集して発足したのが『こどもみらいフェスティバル』なのだ。『悩めるすべての親へ、心が軽くなる子育てアドバイス』と題され、2021年6月に配信された柴田愛子先生のオンライン講演会のYouTube再生回数は1万回を超えている。
「あんな長い、2時間以上のものが1万回を超えて見られている。みんな悩みを抱えながら子育てしていて、誰かの話を聞きたい悩みを共有したいというニーズがあるんだと強く再確認できました」(石飛氏)
リアルな開催ができない中でも活動形態を模索し、オンライン講演会を実施した結果、それが今年の開催へ向けた一歩となって本格的な活動を再開したという。
この3年、フェスとしての活動は中止せざるを得ない状況だったが、フェス実行団体それぞれの活動は止めることも続けることも苦労の連続だった。実行団体のひとつである保育ルーム・学童保育「APどろんここぶた」代表の片岡恵美子さんとチャイルドマインダーの比嘉香里さんは、コロナ禍での活動について訊くとそこには特殊な悩みがあった。
「『どろんこぶた』はゼロ歳から小学生まで、様々な園や学校から異年齢が集う場所。マスクをしていても感情は伝わるし、目を見て話しはできるので大人側は特に困ったことはありませんが、子どもにとっては苦しい子もいて。マスク対応ひとつとっても小学生は完全にマスク着用ですが、幼稚園や保育園ではそれぞれの園ごとで違う対応をされている。さらに、各家庭の考え方がある中で、指針は自分たちで決めなければいけない。だからこそ親御さんと密に話をしました」(比嘉氏)
「APどろんここぶた」チャイルドマインダー 比嘉香里さん
「手洗いも習慣として必要ですが、私たち人間は世の中の菌と共存して生きている。それに子どもは汚くするのが当たり前で、それでいいと思っていたので、過度な除菌に対して個人的には思うところがあります。『こどもみらいフェス』は、子どもたちが子どもらしく伸び伸び育つように見守りたいという、遊ぶ力とかを地域で育てていこうという気持ちから始まった。それがコロナで自粛になって、集まりができない間に地域の子どもたちが窮屈になっていくのはすごく心配ですが、これからまた再開して、来年はもっと「外で遊ぼう」というのを改めて伝え直したいと思います」(片岡氏)
「APどろんここぶた」代表 片岡恵美子さん

「りんごの木」の保育者である佐藤清美さんは、コロナ禍における子ども同士のつながりについてはこう考えていたという。
「『改めてつながる』とか言っているけど、そうじゃないと子どもは生きられない。つながることに喜びを感じたり、つながることで幸福感を得る。だから、子どもたちがつながれる環境を安全に守れるよう大人が動くだけ。子どもは素のままでいいんです。例えば、マスクをすることは“苦しいこと”ではなくて、楽しいことに大人がしてしまえばいいんですよ。マスクを好きな子はいいけれど、苦しいという子どもたちに対しては、学校ならば先生たちが工夫して「マスクを外して、思いっきり息を吸っておいで!」という時間を作ってもいいんじゃないかなって思います」
同じ保育者の中でも意見が違うことも多々あったそうだ。
「子どもの守り方は様々ありますし、訳の分からないものに対する意見はみな違うので、『りんごの木』も閉鎖すべきという人もいました。でも、『りんごの木』では来ている子どもが幸せに、そして安全に過ごしてもらうというのが基本ですし、子どもがいて、私たち保育者がいる。子どもたちが笑って幸せに生活してもらうのが一番だから何度も話し合いました。その点では、『こどもみらいフェス』も同じです。フェスの根っこには子どもがいる。子どもを楽しませようとか、そんな上から目線のおごった大人の意見は要らなくて、見守りでいい。そこに流れる空気を子どもたちと共有することが大切なんです」(佐藤氏)
「りんごの木こどもクラブ」まつもこと佐藤清美さん

フェス立ち上げメンバーでもある実行委員の石飛美郷さんは小学生、中学生、高校生の3人の子どもを育てながら、実行委員会の運営する「こどもみらいカフェ」というコミュニティを創り、サポーターとの絆を紡いできた人物だ。これまで行動を共にしてきたママ友を中心とするサポーターたちとつながれない現状を「難しいなということを今すごく痛感している」という。
「8年前のフェス立ち上げ当時、小学校2年生だった長女がもう高校生1年。サポーターのママたちも幼稚園だった子どもたちが小学生、中学生、高校生になり、それぞれが我が子の次のステージへと移る中、コロナ禍になってさらにつながれなくなりました」
子どもが通う学校も変化した。
「学校とのつながりもバサッと切れてなくなってしまった。子どもは宿題も配布されたものをやるという一方通行。小学校で毎週水曜朝にやっていた読み聞かせボランティアもコロナでなくなってしまい、それまでは何かあれば顔を出していましたが、感染予防で「来ないでください」という状況になってしまいました」
気軽に子育てについての悩みを相談できるコミュニティはそれほど多くは存在しない。貴重な存在だった「こどもみらいカフェ」もコロナに奪われたことは、カフェを運営する側にとっても立ち寄る側にとっても様々な思いがあったのではないだろうか。

「その声すら届いてこないんです。コロナ禍にならなければ顔を合わせてホッとするカフェという場で相互のやり取りができていたけれど、そのつながりが分断されているのを今まさに実感しています。『こどもみらいフェス』は本番当日も大事ですが、カフェで話しながら創っていくもの。どうしてそこに今まで気づかなかったの?と自分に思うほど、“カフェがフェス”だったんだなと」
それでも今年開催するのは、コロナ禍で出産し、子育てをしているママやパパの存在にあるという。
「学校も、在校生は基本の流れはわかっているけど、コロナ禍で入った今の3年生までは、子どもたちはもちろんお母さんたちも心配だらけだろうなって思いました。それにステイホームになって以降、ポポラなどの乳児サロンがとても混んでいると聞き、コロナ禍で出産して子育てしているママやパパは密なんて気にしていられないくらいしんどいんだということを知って、『こどもみらいフェス』でもできることをしようと話し合って、愛子さんの話をオンラインで届けよう、ゼロじゃないところでやろうと」
そうして、オンライン講演会開催へとつながった。そんな難しい中でも、横浜私立幼稚園協会が協力し、全13園でチラシを初めて配布できたご縁もあったそうだ。
「このフェスは、愛子さんのお話会を開催したくて立ち上げて。愛子さんの講演を聴いて外へ出て、外遊びをするという流れがあり、そこから『プレイパークもあるよね』『外遊びはこうだよね』と広がっていったんです。頭や心が動いて、実際に体験するという構成で様々なものが連動していたフェスですが、コロナを経て、今はできることをコツコツとやっています」(美郷氏)
実行委員 石飛美郷さん
民生委員主任児童員都筑区代表、おやこの広場「ぷらっとカフェ」と親と子のつどいの広場「つづき」を運営するNPO法人りんぐ りんく理事長、特定非営利活動法人川和小キッズ理事長をつとめ、多角的に保育現場を知る『こどもみらいフェス』副委員長木村博子さんは、コロナ禍で受ける子育て世代からの「相談内容」が変わってきたという。
「それまでは子どもの食事や成長、発達のことなどが主だったのが、家族のことや自分の生き方、自分を見直す時期、今後子どもをどう育てていくかなどの重くてしんどい相談が増えてきました。一時預かりも、今まではリフレッシュで預かっていたのに、子どもを連れて病院に行けない、買い物に行けないなどの緊急性のある理由に変化していて、これはただごとじゃないなと」
「コロナ禍は初めての経験だったので、親も子も窮屈で大変だったと思うんです。子どもはいろんな規制があって、どこにも行かれない。乳幼児のお母さんに関しては親にも会えないから、孤立しての育児が大変だという声が多くありました。そんなとき、電話、メール、LINE、SNSとかで仲間を集うだけだと皆で負のループにはまってしまう。そこでエンジンやブレーキをかけて、違う方向へ持っていく人がいないとすごく大変なんだなと。それが私たちの役目だと思っていて、ちょっと年齢が上だったり、同学年じゃないお母さんが話してくれるのが元気になれるのではないかなと。ネット上でつながることも良いことで大事ですが、顔を合わせてつながることは今まで以上に大事になってくると思っています」
コロナ禍を家族で乗り切れるものだろうかという話に及ぶと「家族がいるからと言っても8割の方が大変だと言っています。家にいる旦那さんから『子どもを連れて外にいてくれ』と言われ、おにぎりを持って自転車で外にいたという人や、相談も旦那さんがそばにいるところで愚痴は言えないという人も。家族がバランス良く取れていないとすごく大変になってしまいますよね」。
また、コロナ禍を過ぎてから小中学校で不登校が増え、経済的困窮者が増えていることについては、「都筑区に住む人にはとてもリッチなイメージがありますが、コロナ禍で仕事が減ってしまったりとで、フードバンクへの需要がものすごく増えたんです。お金はなんとか回るんだけど、今、今日、明日食べるお弁当がないっていう人が多くいる。また、外国籍の方やひとり親家庭が多いので何か支援できたらと思っているんです。そんなとき、『こどもみらいフェス』の何がいいかというと、来場者だけでなく、いろんな支援者がいることです。いろんな人がつながっていられることで問題を一緒に解決することができると私は考えています」
さらに、「余談なんですけど…」と話してくれたのは子どもたちのことだ。
「小学生でもマスクをするとか黙食とか、嫌なことだらけのことを強いられているのに、子どもたちはそれを理解してちゃんと適応している。反対に、大人の方がぐずぐず言っていますよね(笑)。子どもの適応力は大人以上あるんじゃないかと私は思っています。ただ、子どもは黙って我慢してしまうところがあるので、私たち大人が感知してあげなきゃいけませんよね」
こどもみらいフェスティバル副実行委員長 木村博子さん

最後に、実行委員長の石飛さんに今年の『こどもみらいフェスティバル』が目指すもの、未来への展望について訊くと、この記事を読んでいるであろう貴方に向けて、ひとりの父親として語りはじめた。
「こんなに大変な時期を経て子育てをしている皆さん、本当にお疲れさまです。リアルで集まって、愛子さんのお話を聞いて、少しホッとして帰ってくださいっていう意味でのオアシス感を提供できれば意義があると思っています。団体に限らず、元々親同士のつながりができるきっかけを提供しようというのがこのフェスの目的のひとつ。その意味では“リスタート”です。丸2年以上のコロナ禍を経て、リアルに集える・つながれるチャンスがあるってことは本当にありがたいこと。『こどもみらいフェス』が“もう一回つながりあおう”というきっかけになれれば、とってもいいなと思っています」
大自然の中で子どもたちと遊ぶ石飛智紹さん

柴田愛子先生のリアル講演会『「悩み多きパパママへ、心が軽くなる子育てアドバイス」〜子育てみんな大変!でも、子どもは元気に育っています〜』は、6月18日土曜日10時半から都筑公会堂にて開催される。入場は無料、ただし入場券(無料チケット・自由席)が必要となる。チケットは、ファミリーマート店内「Famiポート」もしくは「マルチコピー機」、イープラスのスマチケで発券できる。また、同日15時半からは、ケロポンズのファミリーコンサートが開催される。こちらは有料チケットが必要。詳しくは公式サイト、または、イープラス内『こどもみらいフェスティバル』のページで確認しよう。
そして、リアル講演会に参加できない人には『こどもみらいフェスティバル』公式YouTubeで公開されている柴田愛子先生のオンライン講演会がお薦めだ。長時間だが何度でも視聴できるので、子育て、家事、仕事の合間に少しずつ見ることができる。コロナ禍の難しい中で初めて赤ちゃんを産んだ人や親になった人たちの話や愛子先生の愛ある話を聞いて、心を軽くして生きていこう。
取材・文=早乙女‘dorami’ ゆうこ

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