平方元基、ソニン、あべこうじ、小松
利昌が4人で139役以上を熱演 『THE
39 STEPS ザ・サーティーナイン・
ステップス』ゲネプロレポート

イギリスにおける冒険小説の先駆者ジョン・バカンの小説「三十九階段」(1915年)と、サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督「三十九夜」(1935年)。『THE 39 STEPS ザ・サーティーナイン・ステップス』はこの2作を元に、イギリスで生み出された舞台作品だ。2006年にローレンス・オリヴィエ賞最優秀コメディー賞を受賞し、ブロードウェイにも進出。トニー賞にもノミネートされた。日本においては2010年に石丸幹二主演にてシアタークリエで初めて上演され、大好評を博した。シリアスなサスペンスからユーモアに溢れたコメディーへ、大胆に脚色した本作の上演台本・演出を手掛けるのは、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』(演出・脚本)、シアタークリエ『SHOW BOY』(原案・演出)など多彩な作品を生み出してきたウォーリー木下。
そして主演は2022年にミュージカルデビュー10周年を迎え、本作が単独初主演となる平方元基。3人のヒロインをソニン、135役を演じながらセット転換なども担うクラウンをあべこうじと小松利昌が務める。アコーディオン、チェロ、ギターのトリオによるインストゥルメントバンド、ザッハトルテの生演奏も加わり、生の演劇の魅力を存分に味わうことができる。
まずは平方元基、ソニン、あべこうじ、小松利昌、ウォーリー木下による会見の様子からお伝えしよう。
――皆さん大変そうな作品ですが、ゲネプロを終えてみていかがでしょう。
平方:ご想像の通り大変ですが、始まるとあっという間に終わってしまうので、一つひとつ丁寧に演じたいです。今日のゲネプロで、皆さんがいてくださって初めて完成する作品だなと思いました。お客さまのパワーをもらってとても励みになりました。
ソニン:今日はじめて、段取りや着替えを全部間違えずにできました!自分で段取りを組んで動かないといけないので、芝居以外のところでも楽しんでいただけるんじゃないかと。役者がすごいことをしていると感じてもらえたら嬉しいです。
あべ:僕と小松さんで135役以上やってると思うんですよね。スピード感と終わった時の開放感がすごい。集中力が半端なく必要です。その割に今日は絶対しないような間違いもし、グダグダだったと思われるかもしれないですが……(笑)。それもまたライブ感。毎回違うあべこうじを見ていただけると思います。噂が噂を呼んで、この作品が多くの方に支持されたら嬉しいですね。
小松:相方のあべさんがとてもポジティブなので、「あっ」ってなっても2人で持ち直しています。本番中でもコミュニケーションをとってやっている、なかなかない経験ですね。あとは、4人での舞台といいつつ、お客さんが入ったことですごく立体的になり、奥深さが出たと感じています。
――ウォーリーさんが演出でこだわった部分はどこでしょうか。
ウォーリー:一つはライブ感。こういうご時世ですから、劇場に来てくださるお客さんを120%楽しませたいと思っています。もちろん残るものもありますが、その瞬間ごとを面白いと思ってもらえる作品にしたいと考えながら作りました。あとは、僕の20年以上の演出の全てを注ぎ込んだので悔いはありません。キャストの皆さんに関しては、すごくバランスがいいんですよね。座長の平方さんはすごく心が広くて安心感の塊。ソニンさんは全体を把握して裏の演出家のような感じですし、小松・あべコンビはずっと場を楽しくしてくれています。劇団のようなカンパニーの雰囲気が伝わったらいいと思いますね。
――稽古場のエピソードは何かありますか?
ソニン:とにかくやることが多いので、稽古が終わったあと、みんな疲れ切っていて帰れないんです。そこで誰かが台詞を言うと、みんな乗っかって読み合わせが始まったり。みんな真面目で、ウォーリーさんも言ったようにバランスが取れています。何かうまくいかなくてもあべさんが笑わせてくれるし、元基は座長としてスタッフさんのことまで把握しているし、小松さんは実は誰より真面目で。すごくバランスが取れていて、困った時は助け合ってここまで来たので、本当に感無量です。
――あべさんと小松さんはセット転換まで全部やられていますよね。
あべ:4人で全部と言いつつ、本当は裏でスタッフさんたちも動いてくださっています。ここにお客さんも入って、一つになったらすごい空間が作れるんじゃないかと思っています。
小松:セット転換をしている時と役を演じるときの境目まで見せる芝居。そこがシームレスなので、上手いこと見せられたら面白いと思います。
あべ:今回、キッチンの役があるんですが小松さん全部自分で小道具作ったんですよ。この間の休みで。
小松:元基くんに相談したら「タケコプターくらいの蛇口でいいんじゃない?」って(笑)。
平方:優しいんです。みんな大変だから自分で作るって。
あべ:小松さん「NO」がないんですよ。あれもこれもやるって言って断らないけど、最終的にテンパって忘れる。NO言えよと(笑)!
小松:あべさんに「なんでもできますって言うんじゃないよ」って怒られました(笑)。
――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
平方:今まで見たことのないようなスタイルの作品になっていると思います。初めて見ると分からない部分もあるかもしれませんが、そこにあるものが全てなので、ぜひ劇場に観に来てほしいですね。どうぞ皆さん見守ってください。
※以下、舞台写真あり。

<あらすじ>
ロンドンで退屈な日々を送っていたリチャード・ハネイ(平方元基)。ある日、彼はあらゆる物事を記憶しているというミスター・メモリー(あべこうじ)のショーを観る。そんな中、劇場で発砲騒ぎが起こり、ハネイはそこで出会ったドイツ訛りの話し方をする美女・アナベラ(ソニン)に、自宅に連れて行ってほしいと頼まれる。彼女はハネイに自分がスパイであること、某国の諜報部員がイギリスの防空体制に関わる極秘情報を狙っていることと、自分はそれを守るために追われていることを打ち明ける。
その夜、アナベラは何者かに殺されてしまう。彼女追っていた男たちから逃れたハネイだったが、アナベラ殺害の容疑者として指名手配されることに。容疑を晴らすため、ハネイはアナベラの任務の謎を解くことを決意する。
スコットランドのアルト・ナ・シュラッハ、小指のない男、39のステップ……。謎の言葉を手掛かりに、息つく暇もないハネイの大逃亡劇が幕を開ける――。

幕が開くと、クラウンを演じる2人が観劇に関する注意事項の説明を始める。ユーモアを交えた語りで客席を巻き込むあべと小松のペースに乗せられ、『THE 39 STEPS』の世界にぐいぐい引き込まれていく。
あべと小松はハネイが訪れる劇場で行われているショーの司会とミスター・メモリー、アナベラを追う男たち、家電や風景など、様々な人物や小物、セットを演じていく。時折クラウンとして客席にも話しかけながら次々にシーンを変える2人は見るからに忙しいのだが、そう感じさせない安定感が頼もしい。また、演じる役の多くがユニーク。強烈な個性を持つ人物やアイテムが次々に出てくる上、自らが演じる役と会話をするシーンもあり、声音を変えて演じ分ける2人の切り替えの速さやユーモアに、ゲネプロでも多くの笑いが起こっていた。
ソニンは、ハネイを事件に巻き込む妖艶で怪しい美女・アナベラと世間知らずで規模強いお嬢様・パメラ、田舎で暮らす素朴で気弱なマーガレットという3人のヒロインを好演。全く違う個性をそれぞれ魅力的に演じており、ハネイが恋に落ちてしまうのも納得させられる。全体を通してコメディ色が強くなっているが、映画の印象的なシーンが踏襲されている部分も。ソニンの演技によってヒロインの魅力が鮮やかに表現され、ハネイとのロマンスがますます瑞々しく描き出されている。ヒロインの出番がないシーンではソニンもセット転換などを担当しているため、その奮闘ぶりも見どころと言えるだろう。
そして、唯一主人公・ハネイのみを演じる平方。出ずっぱりなのに加え物語の軸を1人で担っているため、他3人よりも遊びが少ない。だが、その様子と熱量が作中で追い詰められるハネイと絶妙にリンクし、物語に大きな説得力と臨場感を与えている。個性溢れる登場人物たちの中においてどちらかというと平凡なタイプのハネイだが、埋もれることなく一貫して存在感を放っているのも魅力。追い詰められていてもどこか爽やかで、美女に弱く、思い切りが良い癖にキャパシティは小さめ。そんな人間くさい主人公を平方は愛嬌たっぷりに演じ、実にチャーミングに見せている。歌唱シーンがあるほか、2幕では台本8ページにわたるという長台詞も。コメディーではあるものの、ハネイのふとした言葉や表情が胸に迫ってくることもあり、役者・平方元基の多彩な魅力を味わうことができる。
本作の魅力はキャスト陣の奮闘だけではない。ザッハトルテはケルト風の音楽で物語を盛り上げているほか、動物の鳴き声や雨風といった効果音も担当。時折クラウンをはじめとする舞台上のキャラクターとも絡み、作品を完成させるピースの一つとして大きな役割を果たしている。
また、映画『三十九夜』の監督・ヒッチコックの様々な作品を彷彿とさせるワードやアイテムなど、分かるとニヤッとしてしまうシーンも。ウォーリーらしい遊び心とオマージュも楽しい。会見で「僕の演出の全てを注ぎ込んだ」という言葉があった通り、本作では映像や影絵、鏡や人形を使った演出、セットをうまく活用したスピーディーな場面転換など、彼がこれまでに手がけた数々の作品を思い出す手法が随所に散りばめられている。
キャスト、バンド、演出とスタッフ陣が全力で挑んでいるライブ感が楽しい本作。シリアスながら笑えるハネイの冒険と彼が掴み取る舞台版ならではの結末を、ぜひ劇場で見届けてほしい。

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着