INTERVIEW / Sincere 新鋭SSWが語る
、過去との向き合い方。「ありのまま
の自分でいるために」

多国籍なアイデンティティを持つSSW、Sincereが1st EP『Time』をリリースした。
昨年末から4ヶ月連続でリリースしたシングルにはChocoholic、Nenashi、Shin Sakiura、VivaOlaなどが参加。それら先行シングルを含む全7曲入りのEP『Time』は、オルタナティブなR&Bを軸とした幅の広いサウンドが展開されつつも、親密な空気感で満たされている。存在感溢れるSincereの歌唱も多様な表情をみせてくれるが、そこにはどこか悲哀の感情が通奏低音として鳴っているように感じる。
今回はそんな新鋭にインタビューを敢行。EPの制作背景を紐解くと同時に、アーティストとしての核に迫る。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Chiaki Oshima
自身のバックグラウンドとSeihoとの出会い
――Sincereさんは幼少期からゴスペルのクワイヤに参加するなど、小さい頃から音楽とは触れ合ってきたそうですね。
Sincere:真剣に勉強してるっていう感じではないんですけど、確かにゴスペル・クワイヤに参加していました。あとは母がよく車で音楽をかけていて。小さい頃はPrinceやArrested DevelopmentMichael JacksonCyndi LauperWham!などの80年代〜90年代の音楽をよく聴いていました。
――日本の音楽はあまり聴いてなかったのでしょうか?
Sincere:そうですね。学校もインターナショナル・スクールだったので、日本の音楽の情報が中々入ってこなくて。家では『ドラえもん』以外のアニメも禁止されていましたし(笑)。高校生になってからは少しずつ聴くようになって、ハナレグミクラムボン、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)などが好きになりました。
――本格的に音楽を学んだり、音楽活動を目指すに至った経緯というのは?
Sincere:高校生のときに、18歳以下の子供限定でジャズをやるっていう企画があって、そこに母が勝手に応募したんです。それまでジャズは全然知らなかったんですけど、そこで初めて生演奏をバックに歌うということを体験できて、後にその企画を主催していた学校にも少し通うようになりました。
――それまで、ご自身では歌うことが好き、もしくは得意だという自覚はありましたか?
Sincere:特に意識したことはなかったのですが、思い返してみると家ではよく歌っていましたね。Beyoncéの「Listen」を歌えるようにお風呂場で練習したり(笑)。
――音楽学校ではどのようなことを学んだのでしょうか。
Sincere:1年しか通えなかったのですが、半年毎に学期が別れていて、1学期目はボーカルについて、2学期目はピアノを学びました。それまでは音楽に対してとても無知だったので、難しい部分もあったのですが、その学校では色々な縁もあったりして。それは今の活動にも繋がっているのかなと思っています。
――なるほど。特に大きい出会いを挙げるとするならば?
Sincere:音楽学校とは関係ないんですけど、ちょうど入学くらいのタイミングで知人を介してSeihoさんを紹介してもらって。彼との出会いはとても大きかったですね。最初に「曲を作ろう」って言ってスタジオに入ったのに、ずっとお話していたりするんですけど、その会話のなかにも気づきや勉強になることがいっぱいあって。意見がすれ違うこともたまにあったんですけど(笑)、レコーディングやライブなど、私が今まで知らなかった音楽の世界をたくさん見せてくれました。
過去の記憶に浸るときの、切なさと心地よさが同居する感情
――東京に出てきたのが2020年。それからすぐにコロナ禍となってしまい、思うように活動ができなくなってしまったそうですが、そのときの体験が1stシングル「Reminder」 に繋がったそうですね。当時の心境について、改めて教えてもらえますか?
Sincere:大学卒業する前から東京に行くことは決めていて、音楽活動ももっと頑張ろうって思っていたんですけど、すぐにコロナ禍になってしまい。ずっと家にいて、時間が有り余っていたので、過去の記憶に浸ることが増えたんです。それってすごく心地よいことなんですけど、ただ同時にとても無気力にもなってしまうんです。何もする気が起きなくなってしまうというか。これはハマったら抜け出せない沼だなと思ったので、曲として昇華しようと思いました。それが「Reminder」です。
Sincere:私はあまり恋をした経験がないんですけど、過去の記憶に浸るときの、切なさと心地よさが同居する感情は恋に似ているんじゃないかなって思って、そのふたつの感情を繋げた作品です。それまでは恋愛の曲が作れないことが自分の課題だと思っていたんですけど、初めて納得のいく形で作れたというか。
――「Reminder」はChocoholicさんがプロデュースを手がけていますが、彼女とはどのようなやり取りを?
Sincere:不思議な感じというか、浮遊感のあるサウンドにしたくて。あとは私のこの曲に対する思いもお伝えして、アレンジして頂きました。
――「Reminder」に続く第2弾シングルとして、「All I See」では客演にNenashiさんを迎えています。この作品はどのようにして生まれたのでしょうか。
Sincere:「Reminder」で描いた記憶を、より具体的に表現したのが「All I See」なんですけど、やっぱり恋愛がモチーフになっているので、男性のシンガーさんとデュエット的な作品にしたくて。私が個人的によく聴いていたNenashiさんにオファーさせて頂きました。
――「All I See」は男女のすれ違いを歌う1曲ですよね。こういったストーリーはどこから出てきたのでしょうか。
Sincere:友だちの話を聞くのが好きで、過去に聞いた話と、自分の曲で表現したい気持ちとリンクする部分を探し出して、ストーリーに反映させたりもしています。Nenashiさんは私のリリックの内容を汲んで書いてくれたんですけど、「Drag & drop」みたいなユニークな言葉使いはすごく勉強になりましたね。
――次にリリースされた「Miss the Light」はプロデュースはShin Sakiuraさん。共同作曲には「Reminder」と同じく友人のMizu Asobiさんがクレジットされています。
Sincere:Mizu Asobiはメキシコに住んでいる友人で、よくトラック作ってもらったり、一緒に曲作りをしています。「Miss the Light」は元々は幻想的な感じというか、色でいうと紫色っていう感じだったんです。それがShin Sakiuraさんのアレンジが加わると、全然印象が変わって。ギターも入っていて、黄色っぽいイメージに生まれ変わりました(笑)。
――少し脱線してしまうかも知れませんが、今お話されたように、Sincereさんは音楽やサウンドを色で感じることが多いですか?
Sincere:多いですね。色と、エレメンツ――風とか水、風景など、そういった要素を感じることがよくあります。「Miss the Light」のオフィシャル・オーディオに使っている絵は私が描いたんですけど、あれはMizu Asobiと一緒に作っていたときの感覚が表れていると思います。
――抽象的で、様々な解釈ができそうなリリックも印象的です。
Sincere:私はこの世界にあまり価値はないと思っていて。自分にとって本当に大事なものを勘違いしたくないなっていう気持ちで書きました。私が描いた絵の中にも平面な地球があるんですけど、私たちは自分たちの生きている世界のこともよく知らないし、与えられた情報の範囲内だけで生きてるなって感じることが多くて。そういうところに、あまり価値を置きたくないんです。
――そう感じるのはなぜですか?
Sincere:なんでだろう……。毎晩、思ったことを日記のように書き留めているんですけど、この曲はそこに書いてあったことから着想を得ています。私は結構ロマンに生きている人間で、自分が思い描く理想の世界があるんですけど、そこに辿り着くためのヒントを現実世界から見つけるというか。そういった考えから生まれた曲のひとつです。
「自分の過去と向き合って、それを乗り越える」
――1st EP『Time』のタイトルにはどのような意味、思いが込められているのでしょうか。
Sincere:EP収録曲が全て時間と関係している作品で。「Reminder」のように過去を振り返った曲から未来を思い描いた曲、今のことを描いた曲など。今回、EPを制作するにあたって、自分の過去と向き合って、それを乗り越えるという過程がすごく大事だったなと思って。制作中もよくタイムリープしてたんです(笑)。だから、タイトルはもう『Time』しかないかなと。
――過去と向き合い、乗り越えるという部分について、もう少し詳しく教えてもらえますか?
Sincere:例えばネガティブな記憶も、ありのままに受け止めるというか、認識する。それがあったから、今があることを改めて確認するというか。思い出したくもない記憶とかもあるじゃないですか。でも、そういう記憶がゴチャゴチャと散らかったまま前に進むのも違うなと思いますし、かといって美化するのも嫌なので。
――そうやって過去と向き合うことは、Sinereさんにとってはどのような効果がある行為だと思いますか?
Sincere:簡単に言うと、自分らしくいられるようになる。過去の過ちやよくないことも受け止めることで、より自然体の自分でいられるというか。あと、アーティストとしての表現力にも繋がるのかなって思いますね。
――では、Sincereさんの楽曲は自分をさらけ出しているという感覚が強いですか?
Sincere:『Time』に収録されている楽曲は、その過程で生まれた曲という感覚で、この作品を作ったことで、より自分をさらけ出せるようになった気がします。
――なるほどです。EPはVivaOlaさんをフィーチャーした「Lucky」で幕を開けますが、彼とのコラボの経緯は?
Sincere:Nenashiさんと同じく、VivaOlaさんも私が元々作品を聴いていて、彼にオファーさせてもらいました。セッションのような形で、一緒に話し合いながらトラックを汲んでもらって、私はフックから作っていきました。そこで自然と出てきたのが《Whoops-a-daisy》というワードで。これは“あらまぁ”という感じの意味なのですが、そこから全体を膨らませていきました。人生における過ちやミスも、深刻に受け止め過ぎないことが大事だなと。
――Sincereさんのラップ調のフロウも新鮮です。
Sincere:あのフロウは自然と出てきたものなんです。セッションのときはフックだけ作って、後は持ち帰ってそれぞれで制作したんですけど、VivaOlaさんのトラックに引き出してもらったというか。自分でもビックリしました。
――EP新録曲についてもお聞きします。「月夜」はオーガニックなサウンドが心地よい1曲で、作編曲を手がけたJazztronikさんの色も強く出ていますよね。
Sincere:この曲はトラックもメロディもJazztronikさんに作って頂きました。他の曲とはちょっと違う、大人っぽいというか、陰な雰囲気を出したくて。ボサノバっぽさもありつつ、現代的なポップスにできたのかなって。
――リリックは一聴すると恋愛における別れのようにも解釈できそうですが、資料によると“幼少からの思いをのせた”とあります。差し支えなければ、その幼少時の思いについて教えてもらえますか?
Sincere:そうですね……この曲は私の母へ向けて書いた曲なんです。うちは母子家庭だったので、母はいつも忙しくしていて。小さい頃は自分はあまり構ってもらえないという気持ちを抱いていました。自分はこの先どう生きていけばいいのか、どこへ向かえばいいのかっていうことを示してもらったこともあまりなくて。本当は自分で考えるべきなんですけど、「月夜」ではそういったことを綴っています。
――親と子の関係性でいうと、「ああしなさい」「こうしなさい」と言われることへの反発を抱く人が多いと思いますが、Sincereさんの場合は逆だったと。
Sincere:忙しい母に対して、自分を見てほしい、振り向いてほしいっていう気持ちが強かったんだと思います。でも、今振り返ってみると、母も自分自身の進むべき道で精一杯だったんだろうなって思うんです。
――ちなみに、現在の音楽活動について、お母さんはどのように受け止めているのでしょうか。
Sincere:応援してくれてます。東京に来て、物理的に離れたことで、以前よりも仲が良くなった気もしていて。ただ、曲に関しては「いいんちゃうん?」みたいなドライな感想でした(笑)。たぶん、母は不器用なんだと思います。
――レーベル・メイトのThe Burning Deadwoodsと共作した「You’re Always Right」はアッパーでダンサブルな1曲です。
Sincere:この曲はよく一緒に曲を作ったりするKiyomaroと作っていて、The Burning Deadwoodsのふたりに編曲というか、フックを作ってもらいました。トラックはガチャガチャしたオモチャっぽいイメージで作って。そこに変わったメロディを乗っけたかったんです。
――リリックは全編英語で、ちょっと皮肉を感じさせるような内容ですよね。
Sincere:これはとある先輩とのことを歌っていて。その人と話していると、いつも言い負かされちゃうんです。その人に対する、私の反発を描いています(笑)。自分が成長するためにも、鵜呑みにせずに抵抗することも大事なのかなって。
――最後の1曲「Back in My Dreams (Guitar Session)」は、今お話に上がったKiyomaroさんとのセッションで生まれた作品だそうですね。
Sincere:この曲は家族への思いを綴ったリリックが先にできていたので、エモーショナルなバラードにしたかったんです。現実とは違うけど、“こうあってほしかった過去”について歌っています。想いが強すぎて歌う度に少し泣いちゃうんですけど(笑)。
「つっかえていたもの、感情をだいぶ吐き出せた」
――EPを完成させた今、ご自身の今後の活動についてはどのようなヴィジョンを描いていますか?
Sincere:さっきお話したことと被っちゃう部分もあるんですけど、より自然体、ありのままでいられることを目指しています。自分を隠さずに表現できるようになりたいなと思いつつ、自分に浸り過ぎるのも嫌なので、もっと聴いてくれる人が共感できるような曲を書きたいです。より楽しい雰囲気というか、ノれる曲だったり、外へ開けた作品を作りたいです。
――確かに、Sincereさんがこれまでに発表された曲って、切なかったり悲しかったり、もしくは怒りだったり、どちらかというとネガティブな感情が元になっている作品が多いですよね。そこは今後、変わっていくかもしれないと。
Sincere:私がそういう性格なことも大きいと思うのですが、そもそも人ってネガティブな記憶の方が強く印象に残ると思うんです。楽しかったり幸せな記憶はついつい忘れてしまったりする。ただ、今回のEPで自分の中につっかえていたもの、感情をだいぶ吐き出せた感覚があって。EPを作って以降、感謝の気持ちやふとした幸せを前よりも敏感に感じられるようになったなと思うんです。なので、それを作品にも反映させていければなと。
――なるほど。
Sincere:あと、他人にもうちょっと興味を持つことを心掛けていて。
――これまでは興味なかったんですか?
Sincere:自分ではそんなつもりはないんですけど、人からそう言われることが多くて(笑)。自分のことで精一杯だったのかもしれません。もっと他の人のことも気にかけるようになって、ちゃんと周りを見れるようになれば、自然とポジティブになるのかなって思っています。
――ちなみに、ライブなどの予定はありますか?
Sincere:5月20日(金)に大阪でイベントに出演します。Sincereとして初の有観客ライブとなるので、ぜひ遊びに来てほしいです。EPのリリースだけで満足することなく、今後もアクティブに活動していきたいです。
――最後に、最近はどのような音楽を聴いているか教えてもらえますか?
Sincere:自分の作品にもっとメジャーなテイストというか、ポップな要素を入れたいと思って、Ariana Grandeなどを聴いています。実はちょっと前までガラケーを使っていて、ストリーミング・サービスも契約していなかったんです(笑)。音楽も主にCDで聴いていたので、触れられる範囲も狭くて。それはよくないぞと思って、ストリーミングも使うようになりました。
――ガラケーを使っていたのはなぜですか? このご時世、意識的に選択しないと辿り着かないですよね。
Sincere:“自然体でいる”ことが私のポリシーで、テクノロジーなどを意識的に遠ざけていたんです。ただ、今の時代において“自然体でいること”って何なんだろうって考えるようになって、ちょっと今迷っています(笑)。Seihoさんには「テクノロジーを使うことも自然体でいることの一部や」って言われました。
【リリース情報】

02. Miss the Light

作詞:Sincere
作曲:Sincere / Mizu Asobi
編曲:Shin Sakiura

03. 月夜

作詞:Sincere
作曲:Ryota Nozaki
編曲:Jazztronik

04. Reminder

作詞:Sincere
作曲:Sincere / Mizu Asobi
編曲:Chocoholic

05. You’re Always Right

作詞:Sincere
作曲:Sincere / Kiyomaro / The Burning Deadwoods
編曲:The Burning Deadwoods

06. All I See feat.Nenashi

作詞:Sincere / Hiro-a-key
作曲:Sincere / Hiro-a-key / Kibunya
編曲:Hiro-a-key / Kibunya

07. Back in My Dreams (Guitar Session)

作詞:Sincere
作曲:Sincere / Kiyomaro
編曲:Kiyomaro
【配信情報】
【イベント情報】
※Sincere 初の有観客ライブ出演

・入場チケット

オフィシャル先着先行受付(e+)(https://eplus.jp/sf/detail/3491460001-P0030002P021001?P1=1221) :3月26日(土)12:00~4月15日(金)23:59
一般販売:4月16日(土)10:00~5月17日(火)18:00
■Sincere: Twitter(https://twitter.com/sincere_tanya) / Instagram(https://www.instagram.com/sinceretanyaa/)
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