阿部顕嵐×板垣瑞生『ツーアウトフル
ベース』インタビュー 無敵のバディ
がたどり着いた「生きているだけ」の
芝居

一発逆転をかけた男たちの躍動が痛快な映画『ツーアウトフルベース』が公開中だ。本作は、『ミッドナイトスワン』の内田英治氏がおよそ20年前に書き溜めていた脚本を、藤澤浩和監督のメガホンにより映像化したもの。名バッテリーを組んだ高校球児のイチとハチが、甲子園の道を断たれたことから落ちぶれ、10年後堕落した生活を送る。そんなふたりの人生サイアクな1日を、アップテンポに描き出した。
七転八倒を繰り返し、物語の色を鮮やかに作り出すイチ&ハチをバディとして演じたのは、本作で映画初主演を果たした阿部顕嵐(7ORDER)と、朝ドラ『エール』や大河ドラマ『麒麟がくる』、『君が落とした青空』など話題作への出演が相次ぐ板垣瑞生。ふたりは、リアルとコメディのニュアンスを混ぜた絶妙な演技で、初共演とは思えぬ息の合った芝居を見せている。阿部と板垣ペアは、インタビューでのスチールセッションから和気あいあい。劇中さながらバディのような空気感を醸した両者の心をノックすると、熱い俳優魂が覗いた。
「何をしていても楽しかった」ふたりの特殊な出会い
左から、板垣瑞生、阿部顕嵐 撮影=鈴木久美子
――おふたり、すごく仲良しですよね?
阿部&板垣:すっごく仲いいです!
――撮影のどのタイミングから、ここまで仲良くなったんですか?
板垣:いつくらいだろうね? 現場に入った日には仲良くなっていた気がします。不思議でしたよね。
阿部:うん。こんなこと、あまりないですね。
板垣:距離の縮め方としては、僕としても、とても新しかったですね。
――どんな感じでしたか?
板垣:時間が経過して、いろいろな話をしていくうちに仲良くなっていく……という感じではなくて、普通に友達として入ったというか。撮影前の衣小合わせで、「ちょっと一緒に衣装見に行かない?」という感じが、もうすごく友達っぽくて。
左から、阿部顕嵐、板垣瑞生 撮影=鈴木久美子
――ノリが合う、とでもいうんでしょうか。
板垣:確かに、ノリが合うということなのかもしれません。
阿部:仕事を通しているんだけど、何かがあったよね。
板垣:仕事だけど、ね。顕嵐には「みんなで一緒に作ろうよ」という感じが最初からあったので、初対面だったのに不思議ですが、すごく最初から波長が合いました。
阿部:確かにそうだね。不思議な仲良くなり方だったよね。仕事を通しているけど、普通に人として仲良くなるというか。現場を通して仲良くなる方もいると思うんですけど、それよりはもっと違う次元での仲良くなり方だった。言語化が難しいから、僕たちにしかわからないかもしれませんが……。
板垣:友情というものなんでしょうか。 それが!
阿部顕嵐 撮影=鈴木久美子
――阿部さんは普段グループ活動をしていらして、メンバーとの仲良くなり方は(個人同士とは)違うんですか?
阿部:全然違いますね。グループは徐々に仲良くなるほうに近いというか。仲はいいんですけど、またちょっと違う仲の良さなんですよね。ちょっと構えるところもあるというか。
板垣:ずーっとその先も仕事で一緒になるわけだから、また違う感覚だよね。
阿部:そう。その先も一緒だからね。
――板垣さんから、阿部さんに「みんなで一緒に作ろうよ」という気持ちがあったという話がありました。最初からそうした気持ちで臨まれたんですか?
阿部:はい。藤澤(浩和)監督が、いい意味で自由にやらせてくださったので、一緒に作っていく感じがすごくありました。だけど、本番やリハーサルでは「こうしようぜ」とか、話しあいはしませんでしたね。
板垣:本当に1回もなかったですね。本番で急にお尻をバッて叩いてきたり(笑)。逆に僕が「わー!」とやったことに返してくれたりもして。本当に、ほとんどがその場で起こったことでした。
阿部:よく、「苦労したシーンはどこですか?」と聞かれますが、本当に苦労したところがないんです。全部のシーン、全力でできたので。
板垣:反対に、全部のシーンで苦労したと言えば苦労したというか。でも、苦労だと思わないふたりが揃ってしまったんですよね! ある意味、コテコテした作品でもあると思いますが、ドキュメンタリーを撮っているような感じだったんです。「本番、よーい、アクション!」で、“役で生きる”という感じでした。「こうしてやろう」とかではなくて。
板垣瑞生 撮影=鈴木久美子
――自由度の高い演技を求められたということだとも思います。そのほうがおふたりにとってはやりがいがあるというか、楽しかったのでしょうか?
阿部&板垣:はい、楽しいです!
阿部:普段、お互いに「こうやってほしい」と求められるような仕事をすることが多いと思うんです。それもいいことだとは思うけれど、そういう仕事が多いからこそ、「僕だったらもっとこうやってできるのにな。こうやりたいな」という気持ちが沸々とあって。この作品で「どっ!」と出せたな、というところがありました。何をしていても楽しかったですし。夜中に終わって、次の日の朝からの撮影とかも、全然苦労じゃなかった。楽しいから。
板垣:楽し過ぎて、「早く現場に行きたいなー」みたいな感じでしたね。
左から、板垣瑞生、阿部顕嵐 撮影=鈴木久美子
――クランクアップのときは、淋しくなったんじゃないですか?
板垣:いや、そんなことは……。
阿部:淋しくなかったな、まったく。
板垣:うわー!終わったー!みたいな。
阿部:そう。達成感がめっちゃあった。
板垣:その先もまた会う気がして。僕たち、いい意味でさっぱりしているふたりだったので。
阿部:そうだね。なんかネチネチしてないっていうか。
板垣:「また、ほんとに一緒にやろうね~!」とかじゃなくて。
阿部:「ほんと~?連絡してね~!」とかも言って……ないからね(笑)。
(c)2022「ツーアウトフルベース」製作委員会
「適当にいること」の難しさと重要性
左から、板垣瑞生、阿部顕嵐 撮影=鈴木久美子
――『ツーアウトフルベース』には、この年の男子ならではの良さみたいなものが詰まっていますよね。
阿部:確かに、そうですね。
――今この作品に巡り合ったことの運命といいますか、やってよかったという充実感や、得たものなどはありますか?
板垣:僕、ありましたね。すごく人生が変わったなと、心から思える作品です。かといって「何が明確に変わったんですか?」と聞かれたら……すぐには答えられないんですけど。でも、明確に変わったんです。僕の人生において、今後多大な影響を及ぼす作品だった確信だけはあります。
――これから先、振り返ったときに、旗が立った作品のひとつになったと思えるような?
板垣:そうですね。それまで、自分の中でもやもやしていた演技に対しての考え方に、ひとつ答えが出たというか。役者として、ある意味まったく考えさせられない作品であり、考えさせられる作品でもあったんです。作品自体がすごくやりやすかったので、そういう意味で“勇気”に近いんですかね。すごく“いい自分”をもらえたな、というのはあります。
阿部顕嵐 撮影=鈴木久美子
――もやもやしていた演技に対しての考え方は、どういう解決に至ったのでしょうか?
板垣:言語化が難しいです(笑)。お芝居というものについて、自分の中で“適当”というのがハマったんですよね。「お芝居って“適当”だよね」と感じられたのが、この作品をやって変わったところです。結局、役者には理論やメソッドとかはたくさんありますし、それを埋めることもひとつの方法だと思います。全部裏付けもあって役としての感情がある前提の話ですけど、やっぱり「本番って“適当”だよね」というのが素敵だな、と思ったんですよね。今までいろいろな役者さんの意見を聞いていて、「僕はこう生きるんだ」と言葉にできていなかった部分がありました。でも、この作品が終わったときに、「あ、“適当”なのかも?」と。その時空で、その場所に生きていたら、自然とそういう人間になるのかな、という感じがしました。
板垣瑞生 撮影=鈴木久美子
――阿部さん、今の板垣さんのお話にものすごく深くうなずいていらっしゃいました。
阿部:僕も同じことを思っていました。ハリウッドの演技メソッドを読んでいると、すべてが身体表現だから、声もそのひとつとして計算してやる、といったことが書いてあるんです。でも、結局はそれをすべて頭に入れた上で何も考えず、“現場にいる”というのがお芝居だと思うというか。僕もそれが一番素敵だな、と思うんです。今回、考えないで現場にいられることが初めてしっくりきたのが、瑞生とすごく近い感覚で。
板垣:幸せだよね。
阿部:どうしても考えちゃう自分もいるんです。「こういう作品だから、自分の立ち位置はこういうことだし、このために呼ばれている」って。これまでは、やっぱり、自分の役割を意識して演技をしてしまうことが多かったんですね。それも大事なんだけど、すべて計算した上で何も考えずにいることが一番難しい。「適当にいる」というのが実は一番難しいと思うから、僕も言いたいことは本当に瑞生と同じ。びっくりした。
阿部顕嵐 撮影=鈴木久美子
――「適当」とは、すべて準備も終わった上で、本番で手放すということでしょうか。
阿部:そうです、準備はめちゃくちゃします。
板垣:準備はもちろん大事なことですが、本番が始まったら“無”というか。ふわっと立っているだけ。その前の情報と後の情報があるだけなので、その場に生きているだけだなと思います。
阿部:「生きているだけ」マジで思う。歌もダンスも、表現はすべてつながっていると思うんです。すごく尊敬しているダンサーさんが、「練習は150%でやって、本番は50%でやれ」と教えて下さって。3分の1ぐらいの力で「適当」にやるのが一番いい、ということなんですよね。確かに「力が入っちゃうからな」と思いました。自然にいられるのが一番強いというか、魅力的に見えるらしくて。お芝居に対してもそうありたいな、と思っています……難しいですけどね。
板垣瑞生 撮影=鈴木久美子
――本作に関しては、まさに体現できた現場だったということですよね。
阿部:そうですね。だからプライベートのまま現場に入れたというか、撮影に入れたことが、それに近いことなんだと思います。
板垣:そうだよね!
――ありがとうございました。おふたりとも真剣な俳優としての思いもお話できるし、面白いこともお話できるので、リアル無敵のバディですね。
阿部:無敵です! あ、でも今言っていたことは全部冗談ということで(笑)。
板垣:はい、それっぽいことを言っているだけということにしておいてください(笑)。
阿部顕嵐 撮影=鈴木久美子
『ツーアウトフルベース』は公開中。
取材・文=赤山恭子 撮影=鈴木久美子

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