それは心の叫びだったのか。
苦悩の中から生まれた
ジョー・コッカーの傑作
『アイ・キャン・スタンド・
ア・リトル・レイン』

全曲シングルカットできそうな
粒ぞろいの曲(超豪華作曲家陣が提供)

そう、冒頭のほうで先にセッション参加者の凄さを先に書いてしまったが、楽曲、その提供者も圧巻なのである。シングルカットされる名曲「ユー・アー・ソー・ビューティフル」はビリー・プレストンの作品で、言うまでもなく彼の名はビートルズ関連でも多くに知られるが、結果、なんとビルボードホット100で5位までのぼる大ヒットを記録している。それからジョン・レノンの飲み仲間のひとりとして、このアルバムでは「ドント・フォーゲット・ミー」を提供しているハリー・ニルソンの名前もある。演奏にも参加しているジミー・ウエッブは「イッツ・ア・シン・ホエン・ユー・ラヴ・サムバディ」を、アラン・トゥーサンは「パフォーマンス」、オープニングを飾る「プット・アウト・ザ・ライト」を書いたダニエル・ムーアといった偉人たち名が並ぶ。それにしても、よくぞこんな豪華なソングライターの作品を揃えたものだ。捨て曲が一つもないのだ。それらの佳作を、コッカーが暑苦しく…いや情感たっぷりに歌い上げる。リリース当時、アルバムをフルで聴かせるラジオ番組があり、そこでこのボーカルの説得力と楽曲の素晴らしさに参ってアルバムを入手したのだが、コッカーがアル中で精神的にボロボロであったことなど全く知らなかった。事情を知った今となっては、アルバムのエンディングに選んだランディ・ニューマン作「ギルティ」を深く、思いを込めて熱唱するコッカーは、自らの身を罪深いと思い、まるで懺悔するかのようだ。数々の風評、スランプを払拭するような成功だったが、コッカーはその頃のことを「地獄だった」と語っている。改心し、生活を見直すかと思いきや、いっそう泥沼にはまっていったというのだから、鬱との闘い、依存症は恐ろしいというか…。

その後も、アルコールとの付き合いは長く続いたようだが、コッカーは崖っぷちのところで踏みとどまる。1982年にコッカーがジェニファー・ウォーンズとのデュエットで歌った「愛と青春の旅立ち(原題:Up Where We Belong)」がアカデミー歌曲賞、 ゴールデングローブ賞 主題歌賞を受賞し、全米1位を記録する。ウッドストックのパフォーマンスではなく、この曲および MTVのヴィデオ等ではじめてコッカーのことを知った人も多かったと思う。歌の上手さ、シャウターぶりは健在だったが、すっかり老けた風貌からはドラッグ、アルコールとの厳しい闘いをうかがわせた。

ピーク時の圧倒的な存在感、パフォーマンスを越えることはできなかったかもしれないが、コッカーは困難なサバイバルに勝ち、アルバム制作を続け、1993年にはブリット・アワードの最優秀英国人男性部門にノミネートされたほか、2007年に故郷のシェフィールドの名誉市民に選ばれ、また音楽への貢献で大英帝国勲章を得ている。そう、今では立派に正式名称は「John Robert Cocker OBE」と表記されるわけである。コッカーは2014年、肺ガンのため、70歳の生涯を閉じている。

一度聴いてみてほしい。ジョー・コッカーの熱い歌を。

TEXT:片山 明

アルバム『I Can Stand a Little Rain』1974年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. Put Out The Light
    • 2. I Can Stand A Little Rain
    • 3. I Get Mad
    • 4. Sing Me A Song
    • 5. Moon Is A Harsh Mistress, The
    • 6. Don't Forget Me
    • 7. You Are So Beautiful
    • 8. It's A Sin When You Love Somebody
    • 9. Performance
    • 10. Guilty
『I Can Stand a Little Rain』('74)/Joe Cocker

OKMusic編集部

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