Z世代の気鋭やアクリル板アート作家
など12名の作品が集結! FACE受賞作
家展『絵画のゆくえ2022』鑑賞レポー

公益財団法人SOMPO美術財団が2013年から毎年開催している公募コンクール「FACE」。その2019年から2021年までの受賞作家12名の作品を展示する企画展『絵画のゆくえ2022』が、1月14日(金)から2月13日(日)まで東京・新宿のSOMPO美術館で開催されている。
FACEでは「年齢・所属を問わず、真に力がある作品」をテーマに毎年公募を行い、「将来国際的にも通用する可能性を秘めた作品」約80点を入選作品に選出。その中で特に優れた1名にグランプリを、3名に優秀賞を授与している。本展では過去3年間にグランプリ、優秀賞に輝いた12名の作家の近作を計109点展示し、受賞後の彼らの活躍に迫っている。
会場風景
紹介されている作家は、庄司朝美、古橋香、松崎森平、奥田文子、大槻和浩、齋藤詩織、松浦清晴、小俣花名、魏嘉、鈴木玲美、高見基秀、町田帆実の12名。ここでは当日、作家本人に話が聞けた展示を中心に会場の様子をお伝えしていきたい。
Z世代の若者が眠れない体験を投影した世界
幅広く優れた作家を募るコンクールだけあり、受賞作家の年齢や経歴も様々だ。例えば、鈴木玲美はFACE2021にて歴代最年少の21歳で優秀賞を受賞したアーティストである。現在も大学に通う鈴木は、コロナ禍の影響によってキャンパスで学べないという厳しい状況に直面してきた学生の一人でもある。
鈴木も大学のある町を一時離れ、実家のある浜松で長い時間を過ごした。そうした生活の中で眠れない夜を過ごし、その体験をもとに描き始めたのが今回展示されている「夜は静かに眠りたい」シリーズだ。眠る前は人間関係のことで頭が一杯になってしまうという彼女。自身を投影したのであろうベッドに横たわる人物の周りには、身近な存在と思しき人々が配置されている。
鈴木玲美《ファミリー&フレンズ》
人々は一見してにっこり笑っているように見えるが、皆似たような顔をして並んでいる様子は少し奇妙でもある。作品ごとに色彩もまったく異なり、その時々の心情を映し出しているかのようだ。ちなみに最新作の《そばにいる》では、大きな人物の姿はなく、布団に包まれてすやすやと眠る人物が描かれている。ようやく静かに眠れる夜が来たということだろうか。きっと、そうなのだと思いたい。
鈴木玲美《ともにおやすみ》
魏嘉(ウェイ・ジャ)は台湾・台北出身のアーティストだ。2012年に台湾芸術大学を卒業後に来日し、多摩美大と東京芸大の大学院に在籍。FACE2021で外国人として史上初のグランプリを受賞した。
左:魏嘉《nowhere》 右:魏嘉《Up in the mountain,but where? I cannot tell, for there the clouds are deep and dense as be.》
「今は自分に対して大切なものが何かを考えている状態」と語る彼女。伝統的なものが好きで伝統文化や文学などにアンテナを張っているという。今描いているものに主なテーマはないというが、FACE展の受賞作である《sweet potato》、ミクストメディアによる《nowhere》などの作品の中には台湾の名産品であるパイナップルや南国らしい樹木など、おそらく彼女のアイデンティティの中にあるものが描かれている。日本人からするとこれは何だろうと想像をかきたてるものもあり、台湾の活き活きとした生活が浮かんでくるかのようだ。
見ているうちによだれが出てくる(?)食アート
幸運にもSOMPO美術館の目玉常設展示であるゴッホの《ひまわり》と並んで展示される機会を得た町田帆実は、食の記憶をテーマにした作品を描いている。「味覚に訴えることを意識している」と言い、大胆な筆遣いと明るい色彩で描かれた作品の数々は食の楽しさを伝えてくれる。
「見てください。これ海老なんですよ」と教えてくれた《踊り》は海老の踊り食いをモチーフにしている。確かに、今まさに食べられようとしている海老は、断面が厚く塗られていてプリップリとしている。いや、実際には絵なんだけど、プリップリと瑞々しい海老の姿が浮かんでくる。
町田帆実《踊り》
コロナ禍に伴う食の風景の移り変わりは町田の制作にも変化を与えた。「誰かと食卓を囲む時間が減って一人で食と向き合う時間が増えた」と感じて《records》のようなグリッドで分割した作品を描き始めたという。まだ今後も食の風景は変わっていきそうだが、「これはこれで食と向き合う良い機会になっている。料理を趣味にする人も増えているので、時代に沿った作品を残していきたい」と語ってくれた。見ているうちにお腹が空いてくる作品の数々は、いわばアートな“食テロ”だ。
町田帆実《records》
茨城県を拠点に活動する古橋香は身近な自然を描いた作品が多い。格子のような白線の先に風景が描かれているのが特徴で、「フェンスのようなものが前にあって遠くの景色を見るとフェンスはぼやける。そういう感覚をモチーフに描いてみたいと思った」と語る。
左:古橋香《A Hundred Mornings》 右:古橋香《汽水域のドローイング》
FACE2019で優秀賞を受賞した後、質感や色の重さなど試行を重ねながら、これまでよりも表面的ではない表現に推移してきているそうだ。あまり遠方には出かけないそうだが、もっと壮大な景色と出会った時、どんな作品が生まれるのだろうかと期待を抱かせる。
今の時代性にも通じるアクリル板アート
FACE2019でグランプリに輝いた庄司朝美は、今ではいたるところで目にするアクリル板を支持体にして不思議な世界を描いている。もともとは紙やキャンバスに描いていたが、イメージに合う素材を探す中でアクリル板に出逢ったという。「透明な中に絵が浮かび上がるような質感に描きやすさを感じた」そうだ。
庄司朝美の展示風景
透明な板のこちら側と向こう側。隔たりがないようだけど境界線は確かにある。昨今の新しい生活様式において、壁があるけどないように振る舞う存在として機能しているアクリル板と、作品の支持体としてのアクリル板のあり方に近いものを感じるという。
作品に映し出される神話的世界にはレントゲン写真のように骨が透けて見える人物も描かれており、人間の内面を映し出すかのような畏怖に近いものを覚える。
庄司朝美《百目の鳥_1》
高見基秀の作品は何とも不思議な存在感に満ちている。《対岸で燃える家》では、まるでジオラマのような静かな景色の中に屋根から炎が噴き出た家が描かれている。昼間なのか夜なのかも曖昧な風景だ。
高見基秀《三界の火宅》
石川生まれの彼は、当時通っていた大学のある山形県で東日本大震災を経験した。その経験を経た彼は「怖さとは何か」を捜索のテーマにしている。怖さとは燃えている事象そのものだけでなく、それらを対岸の火事として捉えて忘れ去っていく人々の無関心の中にもあるということを痛烈に伝えている。
高見基秀《-33.79の正しさ》
なぜ「怖さ」なのか気になったのは《-33.79の正しさ》だ。タイトルにある「-33.79」とは、世界各国の賃金水準を比較する際に参考となるビッグマック指数の日本の数字である。本作は経済格差がある社会の中でも、それに対して行動を起こさない人々の無関心を表現しているという。真ん中にハンバーガーが置かれた構図が日本国旗と同じ形になっているというのは、隠されたブラックユーモアである。
会場で話を聞いた作家たちの目はみんなキラキラとしていて、こうした厳しい時代にあっても“絵画のゆくえ”に明るい希望を見られた気がした。ここで紹介した以外の作家の作品も新風を感じるものばかりだったので、ぜひ皆さんも会場で新たな出逢いを楽しんでほしい。『絵画のゆくえ2022』は、2月13日(日)まで東京・新宿のSOMPO美術館で開催中だ。

文・撮影=Sho Suzuki

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