安斉かれん『現実カメラ』7作連続リ
リースで見つける自分らしさ

ドラマ『M 愛すべき人がいて』での主演抜擢もまだ記憶に新しい安斉かれんが、2021年半ばからシングルを連発している。9月の『18の東京』を皮切りに、2022年春4月までに計7作をリリースするという。しかもこの7作は、以前に発表された彼女の楽曲とは大きく印象の異なる作品ばかり。たとえば、昨年12月にリリースされた『現実カメラ』はVaporwaveや次世代City Popの要素を盛り込むなどの新しさを感じさせ、90年代リバイバルの文脈で登場した最初期の作品を歌う彼女とは別人のようにも見える。

では、本当の“安斉かれんらしさ”とは何なのだろうか? ミュージシャンとしての足場を固めつつある安斉かれんの、これまでとこれからについて話を聞いた。

とにかく楽器が好きで、音楽漬けだった
デビュー以前

――まず、音楽をはじめたきっかけから教えてください。

安斉かれん(以下、安斉) : 小学1年生から、ヤマハ音楽教室でエレクトーンを習っていました。まわりにピアノを弾ける女の子が多くて、わたしもピアノをやりたいと思ったんです。でも教室に行って初めてエレクトーンを見たら「二段も(鍵盤が)あるし足もある! こっちの方がカッコ良くない!? こっちがいい!」と思って。

――いつ頃まで習っていたんですか?

安斉 : 4年生ですね。先生がやめて、グループレッスンで一緒に受けていた子もやめることになって、じゃあわたしもやめようと。習い事はたくさんやっていたんです。水泳、塾、書道、英会話、お囃子……。

――お囃子を習うのは珍しいですよね。

安斉 : 近所のおじさんが神社で教えていたんです。それで、近所に住んでいた友達が習っていて、「家近いんだし、一緒にやろうよ」と誘われて。行ってみたらめっちゃ楽しくて、お祭りとかでやってました。お囃子は中3まで習ってましたね。
――中学時代は吹奏楽部でサックスにかなり力を入れていたようですね。

安斉 : 体育会系文化部で、マジでゴリゴリなんですよ。腹筋もするし、走らされるし。サックスって筋トレが大事なんです。朝5時くらいに家を出て、朝練して、放課後の部活が終わってから、夜にお囃子の練習に行ってました。

――音楽漬けの毎日だったんですね。当時、クラシックのプロになりたいとは思いませんでしたか?

安斉 : 思ってました。クラシックというより、元々はジャズをやりたくて、サックスのインストラクターになりたいと思っていました。

――今、その気持ちは?

安斉 : いや、もう無理ですよ(笑)。ブランクがあるし、当時の方が絶対うまかったと思います。1日空いちゃうだけで3日戻ると言われているので。

――なぜサックスに惹かれたんでしょうか。

安斉 : 小学校を卒業して中学に入学する直前に、お父さんがThe Rolling Stonesのライブに連れて行ってくれたんです。その時に、バックバンドのサックスがカッコ良く見えたんです。当時は歌に興味がなかったし、ギターはお父さんがやっていたから身近に感じられて、ドラムもお囃子と近いところがあって、でもサックスは見たことがなくて新鮮だったのかもしれません。ソロも超カッコ良かったし、やりたい!と思って。それで中学からサックスをはじめました。

――あるインタビューでは、当時ドラマーを志望していたようなこともおっしゃっていました。

安斉 : お囃子の延長だったのかもしれないし、ロック方面に行きたかったのかもしれないですね。でも吹奏楽部の顧問の先生に「あなたはサックスが向いてる」と言われてサックスにしました。今でもドラムはやってみたいです。「ドラムやりたい!」ってよく言ってるし。

7作連続配信リリース。「なんでアルバ
ムが必要なんですか?」

――現在、2021年9月の『18の東京』を皮切りに、7作連続配信リリース中です。7作連続でやる理由は何でしょうか?

安斉 : 安斉かれん第二章ではないですけど、これまでのイメージと違う自分も表現したいのと、いろんな曲に調整したい思いもあり今回のリリースに向けて準備してきたので、7作連続でリリースすることになりました。
――7ヶ月空いたのは理由があったんですか?

安斉 : ただ、この7作、完成したからリリースするわけじゃないんです。まだ全然できてないんですよね。その時その時でやりたいことが変わってくるので、今やりたい曲をつくって完成したら、じゃあ次どうしようか考える。そうやってリアルタイムで変えていく感じですね。

――7作に共通のテーマはありますか?

安斉 : 全部違うジャンル感のものにしたいんです。なので、強いて言うならテーマは「バラバラであること」ですね。

――現時点でかれんさんはまだアルバムを出していませんが、理由があるんでしょうか? というのも、すでにシングルを8曲リリースしているし、ストックデモは100曲近くあるとも聞きました。この7作連続リリースがなくてもアルバムはできると思うんです。

安斉 : 正直に言うと、なんでアルバムが必要なのかなと。アルバムってそんなに特別なものなのかな、と思っちゃうんです。今わたしがやるべきことは「いろんなことに挑戦する」「いろんな曲調を頑張る」だと思うので、アルバムにこだわらなくてもいいと思っているんですよね。

――たしかに、アルバムにこだわらないのはひとつの時代の流れですよね。かつてはアルバム単位で音楽を聴いていた人が多かったけれど、今は、わざわざアルバムを買う人はそんなに多くない。特に若い世代なら尚更そうなんじゃないでしょうか。

安斉 : そうですね、ほとんど買わないですね。でも「この曲順で聴いてほしい」みたいなのが出てきたらアルバムを出したいなと思います。

――ちなみに、かれんさんは普段どうやって音楽と出会っていますか?

安斉 : やっぱりアプリやYouTubeで聴くことが多いので、関連動画から飛んで行ったり、街中で良い曲が流れてたらShazamしたりしています。流行りの曲はTikTokで知ることも多いですね。ひとりで音楽を探す時間が好きで、少し前までは、関連動画で適当に飛んで見つけたPHARAOHというロシアのヒップホップをよく聴いていました。でも最近は元々好きだったOasisをよく聴いています。

――かれんさんのベースはロックなんですね。

安斉 : ロックが好きなんでしょうね。あとはジャズとクラシック。それこそ中学時代はクラシックしか聴いてなかったし。音楽をお仕事にするようになってからは全部聴くようになりました。J-POPをはじめ、ラップもR&Bも、オールジャンルで聴いてます。

「安斉かれんっぽさ」を見つけたい

――これまで発表されたすべての楽曲で、かれんさん自身が作詞を担当していますね。

安斉 : そうですね。自分で歌うなら、自分の歌詞じゃないと感情を乗せづらいし自分自身に響かない気がするんです。

――でも、作曲もできるんですよね? 6作目の『GAL-TRAP』だけは、作曲にかれんさんもクレジットされています。

安斉 : できると言っていいかわからないけど、遊び程度ではよくやります。『GAL-TRAP』は本当に遊び感覚で、スタジオに入ってぱらぱらっとつくったんです。そしたら「良いじゃん、リリースしようよ」ってなりました。
安斉かれん / GAL-TRAP

――それまでのかれんさんのイメージとまったく違う曲だったので驚いたし、個人的には、今のところいちばん好きな曲です。

安斉 : わあ、ありがとうございます! 作曲はやりたいですし、今後はもっとやります!
安斉かれん – 現実カメラ (Official Video)

――自分で作曲しない場合、どの程度完成されたデモを受け取るんでしょうか? たとえば連続配信3作目『現実カメラ』の場合はどうでしょう?

安斉 : アレンジ含めほぼ完成された状態でした。音数が多くてキラキラしていて、かわいい曲だと感じて。曲を聴いてから歌詞を書き始めました。

――「現実カメラ」という言葉の由来は?

安斉 : iPhoneの純正カメラのことで、わたしが普段からよく使う言葉なんです。1年くらい前の話なんですけど、スタッフさんが写真を撮ってくれる時、加工アプリではなく普通のカメラで撮ろうとしていたので、「え、待ってそれ現実カメラじゃん」みたいなことを言ったら「そのワード面白いね、いつか曲にしようよ」と言われて。この曲が来た時、「現実カメラ」という言葉をタイトルにしようと思ったんです。

――その言葉は、友達同士だけで使っていたんですか?

安斉 : と思ってたんですけど、調べたら出てくるんですよね。ということは、どこかで誰かが使っていたのを聞いて覚えたんだと思います。内容としては、現実と加工とのギャップに戸惑う女の子を描いています。

――かれんさん自身にそういう戸惑いがあるんですか?

安斉 : いや、あんまりないです。だってそれが今の世の中のデフォルトじゃないですか。加工しない写真なんてみんな絶対載せないし。「”あなた”のシャッターだけ押しておいてよ」という歌詞がありますけど、これはカメラのことではなくて、心や目で見たり感じたりしたことです。実際に会って話して感じたことが本当のリアルだから、「大切なあなただけはリアルを見ていてね」という意味なんです。
――なるほど。人称が使い分けられているのが面白いと感じました。「ワタシ」と「”私”」、「キミ」と「”あなた”」。すべて同じ表記ではダメだったんでしょうか?

安斉 : 時と場合によりますね。わたしの歌詞では「僕」が出てくることもあるんですけど、全部、感覚なんです。はっきりとルールを決めているわけではなくて。

――かれんさんの作品で「ワタシ」が出てきたのは、『GAL-TRAP』だけでした。

安斉 : 本当に自分のこと、つまり、かれんのことを言っている時は「ワタシ」にしているかもしれません。

――では「”私”」は加工された自分?

安斉 : そうなりますかね、たぶん。で、「”君”」も加工された君で、「キミ」がリアルなキミ。ただ、なんとなくこうなった歌詞なので、はっきり決めて書いたわけじゃないんですよね。

――ちなみに「満たされない」という歌詞もありますが、自分の話ではないんですよね?

安斉 : 自分ではないです。この歌の主人公の子が満たされていないということで。歌詞はストーリーを書くように書いているんです。自分のことをそのまま書くことは、あんまりないですね。日記みたいに歌詞を書いていた時期もあったんですけど、それだけだとネタ切れになると思って。映画を観て「この主人公が自分だったら……」と考えてふくらませたりしています。
――次作の『一周目の冬』も、「一周目」という言葉遣いが面白いですよね。

安斉 : これは、付き合って初めての冬を迎えたカップルのお話です。

――「最初の冬」や「一年目の冬」ではなく「一周目」にしたのは?

安斉 : これも会話の中で生まれた言葉ですね。わたしが「一周目の冬ね」って言ったら、スタッフさんが「それタイトルでいいじゃん!」と言ってくれて。歌詞を書いているのはわたしだけど、チームでつくっている感覚ですね。

――今回連続配信されている楽曲は、以前のかれんさんとは別のアーティストが歌っているような印象を受けるほど、雰囲気が異なっています。ご自身では「安斉かれんっぽさ」とは何だと考えていますか?

安斉 : 「安斉かれんっぽさ」はないと思っています。でも、今はなくていいんです。それを見つけたくていろいろな曲に挑戦しているので。この7作の中でも、まだどれがいちばん自分にハマっているかもわからないんです。

もっといろんな自分を見せていく

――改めて、2021年を振り返ってみると、どんな1年でしたか?

安斉 : 自分と向き合えた1年だったと思っています。2020年はバタバタしていて、初めてのことだらけで何もわからないまま進んでいました。2021年は、前半は比較的ゆっくりと音楽をつくったり絵を描いたり、自分の好きなことをして、いろいろ考えられた年でした。

――ちょっと気になっていたんですが、いろんなインタビューで「夢や目標を持つのが苦手」とおっしゃっていますよね。

安斉 : 去年までずっとそう言っていたんですけど、今は小さい目標を持つようにしました。今日はこれをしようとか、1ヶ月でこれをできるようになろうとか、そういう小さなことを積み重ねようと。夢や目標がないのは昔からで、あまり考えないようにしてきました。

――それはなぜ?

安斉 : 考えたくなかったんですかね。なんか、回り道をしちゃうから嫌なんです。「この夢のためにはこれをしなきゃいけない、これも、あれも……」と考えはじめたら止まらなくなっちゃうから。そうじゃなくて、「今これがしたいからこれをする」という考えで目の前のことを頑張って、それが何かにつながればいい。そういう考えの方がラクなんです。

――逆に言えば、やりたいことがいつも目の前にあったと。

安斉 : たしかにそうかもしれません。いつも目の前にやりたいことがあったから夢や目標を設定しなくても頑張れたのかも。今の目標は、7作連続リリースを頑張る。そのあとのことは、何も考えていないです(笑)。でも、新しく挑戦することはいろいろあるので、2022年はもっともっといろんな自分を見せていければいいなと思っています。

7作連続配信シングル 第4作「一周目の
冬」1月19日配信

配信はこちら
https://kalenanzai.lnk.to/1shumenofuyu
MVはこちら

第3作「現実カメラ」配信中

安斉かれん

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安斉かれん『現実カメラ』7作連続リリースで見つける自分らしさはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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