Analogfish、3年ぶりのニューアルバ
ム『SNS』が、「今の時代に必要な音
楽に」なった理由

2021年12月8日にリリースされた、Analogfish、3年半ぶりのニューアルバム『SNS』がすばらしい。自分の生活の断片を切り取ることで、世界の動きを描く。自分の気持ちをメロディに載せることで、世の中の空気を表す。その、自分へ向ける目線や、世の中を見る視点を変えることで、思考や行動の新しい可能性を探り出し、発見していく──新型コロナウィルス禍という未曾有の事態に見舞われている今だから、ではなくて、インディー時代から常にそのようにして音楽を作ってきたバンドだが、シンプルでコンパクトでキャッチーな形で、それが極まった感すらある、このアルバムは。

2022年2月〜3月には、名古屋・大阪・東京・京都・沖縄を回る、リリース・ツアーも控えている。このアルバムのこと、現在のAnalogfishのことなどについて、PCの画面上で3人に集まってもらい、訊いた。
■コロナ禍でわりと困難な状況でも、止まらずに動けた(佐々木健太郎)
──この時期にアルバムを出そうというのは、どんなふうに決めたんでしょうか。
佐々木健太郎:事務所から独立しようという話になって、2020年2月24日の(渋谷クラブ)クアトロ、20周年記念のライブから自力でやっていくことになったんですけど。それが終わってすぐ、コロナ禍になっちゃって。そんな中で、州(斉藤州一郎)から「毎週ZOOMでミーティングをしよう」って提案があって。そのミーティングの中で、「25周年に向けて2枚はアルバムを出したいね」っていう、先の話をするようになって。
──州さんがそれを言い出したのは?
斉藤州一郎:コロナで最初はリハも入れなかったし、会わないので。あと、それまでも、いつも音楽しかやってなかったから、スタッフも含めたミーティングとかも、ほんとにたまにしかやってなかったんですよ。これから自分たちでおカネを稼いでいくにあたり、自分たちのことを話し合わないのは、僕は疑問で。それで「やろう」って言いました。
──そもそも事務所から独立したのは?
下岡晃:僕が言い出して。キャリアも永遠じゃないから、自分たちで思い通りにやる時があってもいいんじゃないか、と思って。っていうと、事務所に思い通りじゃないことをやらされてたみたいですけど、そんなことはなくて。この世でいちばんいい条件で、俺たちのマネージメントをやってくれてたんだけど。
佐々木:そうだね。
──要は、自分たちでやりたくなったってことですね。不満があったというよりも。
下岡:うん。
佐々木:だからそこからは、物販とか、ライブを決めたりとか、そういうのも全部自分たちで……コロナ禍で、リアルなライブができなくなっていったんですけど、江ノ島で配信ライブをやったりとか(2020年10月10日に有料配信した『”Town Meeting by the Sea” at 江ノ島OPPA-LA』)、リモートでレコーディングしてみたりとか。毎週ミーティングして、3人で先のことを話せたから、コロナ禍でわりと困難な状況でも、止まらずに動けたかな、っていう感じはしてますね。
下岡:何かをやりたいと思った時に、採算のこととかが見えているので。「これはやりたかったけど無理だな」とか、「ここをこうすればやれるな」とか、自分たちで判断できる。そういうストレスがないな、と思います。
──で、コロナでこれだけライブ活動が阻まれている中で──。
下岡:でも、なんだかんだ言って僕たち、2021年は25本ぐらいライブやってるんですよ。
佐々木:そうだね。
下岡:だから、打ち合わせもしてましたけど、リハでも顔を合わせてるし。曲作りとかも……健太郎さんは、宅録で曲をすごい作ってて。
佐々木:コロナ禍だったから、家にいる時間も長くて。今までgaragebandで作ってたんですけど、Logic Proにしたりとか。宅録でデモを作って、バンドでセッションして、それをまたDTMに流し込んで、みたいな。
──エンジニアリングも始めたんですよね。
佐々木:それは、自分らでYouTubeチャンネルも持つようになって、ライブの動画とかもアップしていこうっていう中で……これも州が「健太郎さんミックスしてみない?」って提案してくれて、チャレンジしてみよう、と。
『”Town Meeting by the Sea” at 江ノ島OPPA-LA』(2020年10月10日配信)より
■サビのきらびやかな感じまで、コロナに侵食されたくない、って思った(佐々木健太郎)
──で、アルバムを作ろうってなった時には、曲はけっこう揃っていた?
佐々木:いや、けっこうギリギリまで、曲が決まんない、みたいな感じで。
下岡:僕が、曲を書くスイッチが入るのが、遅かったのもあるし。「Saturday Night Sky」ができたの、いつだったっけ?
佐々木:あれは、今年(2021年)の3月から、ライブでやり始めた。
下岡:「Saturday Night Sky」ができてから、健太郎さんがすごいノリだして。
佐々木:そうだね。あれが形になったから見え始めた、っていうのはあるかもしんないね。
下岡:その時期に健太郎さんが「Saturday Night Sky」とか「Moonlight」とか、あげてきたんで。どっちもあきらかにすごいじゃないですか? だから、「もうこれは健太郎さんアルバムにしようよ」って。健太郎さんのいい曲を、みんなで触りだした時に、その勢いで、自分もちょっとノッて来たっていうか。
──「Saturday Night Sky」は、どんなふうにできあがったんですか?
佐々木:えーと、「Saturday Night Sky」に関しては、サビがけっこうきらびやかなんですけど。プロデューサーの吉田仁さんから、「コロナがなくて、東京オリンピックが普通にやれてる世の中だったら、この曲はすごく響くかもしれないけど、いま世の中がこうなっている中で出すと、攻撃対象になっちゃうんじゃない?」みたいな意見があって。それでけっこう考えたんですけど……サビはこれじゃないとダメだな、サビのこのきらびやかな感じまで、コロナに侵食されたくない、って思ったし。逆に今、こういう、現実にないきらびやかなことを歌って、聴いてる人に酔ってもらうのも、音楽の役割だと思ったし。だから、サビはこのままいきました。でもAメロは、ちょっと書き換えて。コロナ禍で感じてることが入ってますね。「Moonlight」も──。
──そうですね、直接的なことは一切言ってないけど、感じられるものがとてもあります。
佐々木:直接は、コロナ禍のことは歌ってないんですけど、コロナ禍で感じたことしか書かれてない、と、自分では思ってます。
──音の面でも、コロナ禍による作品への影響って、あったりします?
佐々木:生活で感じてることは、もちろん自然に音にも入っていると思うんですけど、それ以外も……コロナが関係あるかはわかんないんですけど、サブスクで聴かれることが、前のアルバムを出した頃よりも、多くなっていて。最近、タイとか台湾とかインドネシアのリスナーの人も、すごく増えてて。だから、言葉がわかんなくても、サウンド的に「日本のこのバンド、おもしろい」って思ってもらえるようなものにしたいな、っていうのは、考えてました。
──州さんは? リリース時期の提案やミーティングの提案もそうだし、独立してから、バンドの事務的なことや運営的なことをいちばん担っているのは、州さんですよね。
斉藤:はい。まあでも、独立する前から、わりと僕がやってたんですよ。だから、大変になったとかは、思ってなくて。まあ……配信にせよ、ライブにせよ「なかなかチケットが伸びないなあ」とか、「あ、伸びてきた」とか、そんなことばっかり考えてました(笑)。それがリアルかな。音楽に関しては、もちろん前と変わってないです。ただ楽しくやっている。
『”Town Meeting by the Lake” at Lake Oogute』(2021年12月26日配信)より
■健太郎さん、コロナ禍の世の中の同調圧力に、へこたれない(下岡晃)
──下岡さんは? もともと、世の中の動きや世界の状況がバキバキに作品に反映されるタイプで、世の中がそうなる前に、予言みたいに先に曲に出たりすることもありましたよね。
下岡:ああー。でも、そういうバキバキなものは、『Still Life』(2018年7月リリースの前作)の前ぐらいから、今バンドでやることじゃないのかもな、って思うようになって。
──それはなぜ?
下岡:今回の健太郎さんのソングライティングが、すごくよかったし。俺の曲、べつに健太郎さんの曲と近くないですけど、それでもまあ、アルバムのトーン的にまとまった曲を選んだ。そういう方が、今は聴いてもらえるっていう感じがしている。「Saturday Night Sky」の時の、仁さんと健太郎さんの話、俺もメールで共有して見てて。で、健太郎さんが、「俺がやりたいのは、このキラキラな街なんです」って言っているのを見てて、健太郎さん、すごいなと思って。っていうのは、コロナでしんどかった中で、途中から、同調圧力がつらいな、っていう気持ちがすごいあって。
──ああ、世の中のね。ありますよね。
下岡:健太郎さん、そこを気にしてない……気にしてるんだろうけど、へこたれないというか。ここで健太郎さんが歌おうとしていることは、過去にあった自分の好きな生活なのか、コロナが終わったあとに来たるべき普通の生活なのか、わかんないけど。そういうものじゃない?
佐々木:うん。
下岡:だから俺も、そういうことをなるべくやろう、って思った気がします。
──で、そういう曲を書いた。
下岡:つもり。あ、でも、そうは言ったものの、「Miharashi」は、東京オリンピックの曲だ。この状況でオリンピックに出る選手の気持ちは……とか、考えてたから。その中で言える希望、みたいなことを歌ったし。で、「Is It Too Late?」は、モロにコロナ禍のことだし。「うつくしいほし」はべつに、コロナ云々という気はしてないですけど──。
──この曲もすごいですよね。2015年の「No Rain(Now Rainbow)」に近いものを感じました。君と僕の日常生活を描くスケッチが、同時に今の世界を描いている。
下岡:でも、俺の、『荒野』(荒野/On the Wild Side。2011年のアルバム)の曲とか、みんなそういうふうにきこえますよ?
──(笑)。そうですね、もともとそういうソングライターですね、下岡さん。だからやっぱり、今の時代の記録なんだな、と思います。
下岡:確かに。健太郎さんがキラキラの街を歌いたいってこと自体も、現状への──。
佐々木:逆にね。あえて、っていうところは、あったかもしれないですね。そこは避けて通れないところでもあったし。
下岡:まあでも、常に、今ここで起こってることを、歌ってきたわけだから。
──あと、江ノ島の配信ライブといい、(2021年の)12月26日に配信した長野のおおぐて湖キャンプ場で収録したライブといい、非常に冴えている映像作品ですよね。ロケーションの選び方といい、撮り方といい、センスいいなあ、これは配信する価値があるなあ、と。
下岡:よかった。ありがとうございます。それ、いちばんうれしい。江ノ島の配信ライブは、この間、スガシカオさんが──。
──ああ、見た見た。インタビューで褒めてくれてましたよね。
下岡:うれしかったです。
──優秀な映像スタッフがいるんですか?
下岡:ロケーションは僕たちで考えますけど。映像は、須藤(中也)くんていう、昔からやってくれてる人におまかせで。
佐々木:江ノ島も、おおぐて湖も、毎週のミーティングで出てきた話で。おおぐて湖は、5月にイベントに呼んでもらって、僕と下岡の地元なんですけど、最高の場所で。下岡が「ここで配信やりたい」って閃いて。
下岡:ほんとは、「僕たち、ここでこの日に撮るので、みなさん、無料なので好きにキャンプしに来てください」っていうアナウンスをして、やろうと思ったんですけど。撮ったタイミングが、コロナがまだ感染がひどかった時だったから、できなかった。
──あと、2021年6月12日に、赤羽のReNYでやったライブ。1日ハコを借りて、昼間にAnalogfish、夕方からSPARTA LOCALSがやって、経費をシェアするとか。
斉藤:ああ、はい。
──確かに、コロナ禍だからこそのアイディアをいろいろ考えて、実行していますよね。
佐々木:独立して自走し始めたから……配信とかもそうだし、物販ひとつにしても、通販の梱包作業をして、これが誰に届いて、いくら入って来るとか、そういうのも自分でわかるようになったし。自分が今やっているこの作業が、誰に届けているものなのか、自分たちの活動が、誰に向けているものなのか、っていうのが、わかることができた。この前の、江ノ島のDVD(※配信後にDVD化)の梱包作業も、メンバーみんなで1日かけて……そういう作業も、バンドのセッションと違わないというか。3人しかいないし、すごい話が早くなったような感じがして。そういうのもあって、曲作りも、晃が作詞で僕が作曲という、「Is It Too Late?」みたいな曲も作れたし。
──この長いキャリアで初ですよね。
佐々木:そうです。こういう分業で曲を作ったのは、初めてです。
■『SNS』という言葉が今持っている重みが、3人ともピンときた(佐々木健太郎)
──州さん、できあがったアルバム全体を聴き通した時、どんなことを感じました?
斉藤:あっという間に終わるので。ここ最近、10曲いかないのがAnalogfishのアルバムの定番なんですけど、今回も9曲で、僕はこのサイズ感がすごく好きで。9曲目の「Can I Talk To You」が終わって、リピートで1曲目の「Miharashi」が始まった時に、すごくいいな、と思いました。いろんな曲が入ってるし、自分がドラム叩いてない曲もあるし。ずっと聴いていられる、いくらでもリピートできる。
佐々木:うん。あの、僕は、前のアルバム、『Still Life』を作った時に、けっこう燃え尽きた感じがしてて。「もう曲作れないかも」って思ってたんですね。なんでなのかわからないけど、そのあと、なんか曲できない、曲を作る気持ちになんない、っていうのが3年ぐらい続いて。州がアルバム作ろうって言ってくれたから、締切が設けられて、そこで「やんなきゃ」ってなって、「Saturday Night Sky」ができたら、あとは早かったんですけど。だから、久々にアルバムを作って、また血が巡って来た感じがしてるんで、この感じがなくならないうちに、新しい曲を作りたいな、って今はすごい思ってます。
──『SNS』というタイトルは──。
佐々木:「Saturday Night Sky」の『SNS』。
下岡:思わせぶりでしょ?
佐々木:でも、このコロナ禍で、ウィルスで生活が変わったっていうのもあるんですけど、SNSで起きたことっていうのも、いっぱいあったなと思って。東京オリンピックにまつわるいろんなこととか、ツイッターデモとか、ちょっと誰かが何かすると大炎上する流れとか。それを象徴してることが、この2年間ぐらい、多かったと思って。このタイトルを考えた時は、ほんとに深い意味はなくて、「Saturday Night Sky」を略しただけだったんですけど、この言葉が今持っている重みが、3人ともピンときたというか。そういう、今を象徴しているタイトルになった、と、僕は思っています。

取材・文=兵庫慎司

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