Zepp Tokyoラスト3デイズ初日――年
末恒例『GT』が復活でフレデリック、
アルカラ、BIGMAMAら競演

Zepp Tokyo Thanks & So Long!

Livemasters Inc. 10th Anniversary presents “GT-Z 2021”
2021.12.29 Zepp Tokyo
1999年の開業以来、約22年間での催事数は約6,000公演。来場者数は約1,300万人。音楽ファンに惜しまれがらも営業終了したZepp Tokyoが、2021年12月29・30・31日にラストイベント『Zepp Tokyo Thanks & So Long!』を開催した。初日にあたる12月29日に開催されたのは『Zepp Tokyo Thanks & So Long! Livemasters Inc. 10th Anniversary presents “GT-Z 2021”』。2018年末にファイナルを迎えたLivemasters Inc.主催の年末ライブイベントシリーズ『GT』が一夜限定で復活し、歴代『GT』を作り上げてきたバンドからこれからの活躍が期待される新鋭バンドまで、計7組が集結した。
Lym
最初に登場したのは、オープニングアクトのLym(リーム)。2018年に活動開始、現在の4人になったのも初ワンマンを行ったのも2021年とまだ若いバンドだ。これまでの『GT』出演者の中には‟「GT」で初めてZeppに立った”というバンドも少なくなく、Lymもまたそうだったが、大舞台に物怖じしている様子はない。たかぎれお(Vo/Gt)の歌、そしてシューゲイザー/ポストロック寄りの分厚いサウンドをしっかりと響かせ、自分たちの音楽を堂々と鳴らしきった。4人で共に呼吸し、緩急をつけながら、一つひとつを丁寧に鳴らす演奏に観客もじっと聞き入っている。
Lym
‟僕らの始まりの歌”と紹介されたバラード「ノンフィクション」のあと、シンバル4発で場面転換すると、「俺は幸せになりたくて、報われてたくて音楽を始めたんですけど、こういうでかい舞台に立てたことはアーティストとして幸せなことだと思います。でも、どんな幸せになったとしても、僕はこの歌を唄い続けます」(たかぎ)と決意表明としての「終わらない話」へ。同曲による疾走感を経て、最後には「ダリア」を演奏。日常を愛おしむ気持ちを唄った曲だが、<終わるから美しいとあなたが言う/その言葉の裏側を分かりきれなかった>というフレーズには今と重なる部分もあり、余韻を残すラストとなった。
SPiCYSOL
Lym同様『GT』初出演、かつ最初で最後のZepp TokyoとなったSPiCYSOLは、挨拶代わりの「Mellow Yellow」からスタート。茅ヶ崎発のサーフミュージックがここお台場のライブハウスを満たしていく。ミラーボール回る「Traffic Jam」はリズムが心地よく、揺れる観客のテンションも演奏するメンバー自身のテンションもぐいぐいと上がっていく。上着を脱いだKENNY(Vo/Gt)は、バンドが曲間を繋げている間、「よっしゃ、まだまだいけるでしょ!」「そのままhands up!」とフロアへ投げかける。そうして始まった「The Night Is Still Young」では、観客がリズムに乗って手のひらを上下させ、フロアがゆらゆらと波打った。続くは、KENNYのアカペラから始まるバラード「Coral」。友人の結婚式に送った愛の歌を今日はZepp Tokyoに捧げる。
SPiCYSOL
4月にメジャーデビューし、“Def Techと一緒に曲を作る”という結成当初からの目標を叶えるなど、充実の2021年を過ごしたSPiCYSOL。後半では、Def Techとの共作曲でレゲエを取り入れた「THE SHOW feat. Def Tech」に、サッカー選手・槙野智章との共作曲でスタジアムロック的な音像が新鮮な「LIFE feat. 槙野智章」を重ね、この1年で得たものを見せた。ラストは「あの街まで」。「Zepp Tokyoは今年で終わるけど、きっとここでの思い出は一生消えないでしょう。そして俺たちが鳴らし続ける限り音楽は鳴り続けるし、みんなが信じ続ける限り明日は来ます」(KENNY)という想いをその演奏に込めた。
そしてこれ以降は『GT』常連組によるステージが続く。まずは、『GT2017』から4回連続出演となるサイダーガール。初々しいMCをしていた初出演時がはるか昔に感じられるほどバンドサウンドは骨が太く、“不朽の名作”と名付けられたメジャーデビュー曲=「エバーグリーン」の輝き様にもバンドの成長を感じた。また、打ち込みやサンプリングを取り入れるようになり、曲によっては知(Gt)がPCを操作するなど、ライブパフォーマンスの在り方も前回出演時から大きく変化。しかしあくまでロックバンドとしてのアンサンブルに軸足が置かれていて、フジムラ(Ba)とサポートドラム・吉田雄介(tricot)による切れ味抜群のプレイが随所で光っていた。メンバーが全開で鳴らす音にシーケンスまで加わった情報量の多いサウンドにも押しつぶされることなく、まっすぐに突き抜けていくYurin(Vo/Gt)のボーカルも頼もしい。
サイダーガール
中盤では「待つ」、「トロール」といったダークな雰囲気の曲も披露。いずれも最新アルバム収録曲で、その年にリリースした曲をメインに据えたセットリストで毎回『GT』に臨んでいたこのバンドの攻めの姿勢を思い出させられた。この日が2021年のライブ納めだったサイダーガール。MCではYurinが、観客とまだ一緒に唄えない状況だが、2020年に比べて、地方へライブをしに行ける機会やフェスの開催が増えてきたと振り返る。「来年のことは分からないけど、ちゃんと、以前のライブハウスが戻ってくるように祈りを込めて」とラストは「シンデレラ」、そして「週刊少年ゾンビ」。カラフルかつ躍動的なサウンドで未来へと橋を架けた。
4組目はTOTALFAT。Bunta(Dr/Cho)が踏むバスドラに合わせて手拍子が自然発生。Jose(Vo/Gt)の「Zepp Tokyo、パーティーするぜー!」と聴き慣れたカウベルのリズムを合図に1曲目の「PARTY PARTY」が始まった。モッシュ・ダイブはできずとも、フロアではそれぞれがそれぞれにハイになっている。コロナ禍以前にはシンガロングが起きていた「晴天」では、きっと心の中で唄ってくれていると信じ、無音を恐れず、観客にフレーズを託す3人。すると今度はバンドの気持ちに応えるように、フロアから強い手拍子が返ってきた。
TOTALFAT
そうして「World of Glory」までを終えた頃、Shun(Vo/Ba)が興奮気味に言う。「俺ら22年になるんですけど、こんだけやってると初めての人って分かるんですよ。そういうやつらが(腕を上げてノリノリになりながら)こんなふうになってるのを見るとアガるわけ。初めて観るやつらと俺らを求めて来てくれたやつらが化学反応をバチコン起こす日になるんじゃないかと、最初の3曲で確信しました!」と。こうなれば後は楽しいだけ。「夏のトカゲ」や「Overdrive」などで盛り上がり、「1年間ライブハウスを支えてくれてどうもありがとう。拍手を!」と自分自身に拍手し合った。最後のMCで語られたのは、音楽のいいところは‟時が経ってもなくならないこと”であり、だからこそ、Zepp Tokyoの鳴りをみんなにも憶えていてほしいんだという気持ち。その記憶が在る限りこのハコは死なないのだと、君はひとりじゃないのだと、ラストの「Place to Try」が伝えてくれた。
『GT』といえばトリのアルカラによる深夜の爆裂ライブだが、今回は17時台に早くも登場。走り出しは「はじまりの歌」、「アブノーマルが足りない」、「チクショー」の3連投で、すごい音圧のサウンドに息もつかせぬ展開で場をグッと掌握。これが『GT』に欠かせないバンドたる所以、そう思わせる凄まじさだ。なお、「チクショー」の直後には「2021年ならびに2020年はみんなのチクショーがいっぱいの年になったかもしれない。でもそのチクショーをまとめて、空に浮かべて、あのミラーボールが爆発すればエネルギーが降り注ぐ。そういうふうにみんなのチクショーをプラスのエネルギーに変える曲があります。さっきやった曲です。チクショー、チクショー!」(稲村太佑・Vo/Gt)と再び同曲を演奏。そういえば過去には「チクショー」を3回連続で演奏した年もあった。
アルカラ
そんな具合にふざけることもあるが、いざ演奏が始まればえげつないほどカッコよく(新曲の「Dance Inspire」が最高)、“高低差ありすぎて耳キーンなるわ”と言いたくなる感じは相変わらず。そんななか、「あのミラーボール辺りにいると思うので」とみんなで“Zeppの神様”に拍手を送った場面はずっと忘れたくないシーンだった。「まだ自由に動けんかもしれないけど、音楽の神様はその時を待って楽しみにしてると思います」「最後の日はロック界の青鬼と赤鬼が来るし、今日は和田アキ子さん来るかもしれないけど……」といったMCを経て、『GT』名物・全編アカペラの「春の海」でシュールな空気感を作ったあと、「ミ・ラ・イ・ノ・オ・ト」で締め。たくさんの汗と涙が染み込んだステージに‟別れそれはスタート”と刻む。
唯一の『GT』皆勤賞バンド=BIGMAMAは、毎年母の日にこの会場でワンマンを行うなどZepp Tokyoとゆかりが深い。この日は、バイオリンによるイントロにフロアが「……!」という空気になった「I Don’ t Need a Time Machine」、観客が色とりどりのタオルを掲げた「until the blouse is buttoned up」、「特別な場所に、特別なライブハウスに、特別なあなたに」と紹介された「SPECIALS」など、これまでのライブで特別な光景を生み出してきた曲たちを多く披露した。金井政人(Vo/Gt)のボーカルにはいつにもまして気持ちが入っていて、星が瞬くように、パチパチと火花を散らすバンドサウンドも痛快。「ライブマスターズに、Zepp Tokyoに、年末にライブハウスに来ちゃうあなたに、ありったけの愛をこめてお送りします」(金井)と年末にぴったりの「No.9」も演奏。第9から引用したフレーズをバンドが奏でると、そのメロディに誘われて観客が飛び跳ねた。バケツ頭のドラマー・Bucket Banquet Bis(Dr)の目にはZeppの文字が光っている。芸が細かい。
BIGMAMA
しかし何より重要だったのは、現体制になってから作った新しい曲「PRAYLIST」でライブを始め、リリース前の最新曲「Let it Beat」でライブを終えたこと。そこにバンドの意地と誇りが表れていたように思う。今が史上最高だと示すことで、さらに最高になるであろう未来へ繋げるライブをしたBIGMAMA。アルカラの稲村同様、ステージに深く頭を下げてから去っていった金井の姿が印象的だった。
Zepp Tokyo最後の3日間、初日のトリを務めたのはフレデリック。アルカラのMCで和田アキ子の名前が出たのは、TikTokを中心に話題の「YONA YONA DANCE」がフレデリックのプロデュースした曲だから。彼らのライブはその「YONA YONA DANCE」のセルフカバーから始まった。トリを任せられたからには本気で臨もうとワンマンツアーのステージセットをそのまま持ち込んだとのことで、レーザーなどによる照明演出もバッチバチ。歌詞にぴったりのタイミングでミラーボールが回る演出も粋だ。
フレデリック
バンドの演奏で曲間を繋げながら、<例えあなたの時計止まってもまた会えると信じて止まらないから>というフレーズにZepp Tokyoへの想いを託した「シンクロック」、間奏に高橋武(Dr)のソロを組み込んだ「シンセンス」などを続けて披露。「全部音楽で返します」という発言通りの展開のなか、4人は高ぶる気持ちにダイブするように演奏。特にボーカルはいつになく熱が入っている。その熱量が頂点に達したのは、ちょうどこの日未明にMV再生数1億回を突破したメジャーデビュー曲「オドループ」が「何回来たとか、何回観たとか関係なく、今、この1人に届いてほしい!」(三原健司・Vo/Gt)という想いで鳴らされた瞬間。盛り上がる観客を前に満面の笑みを見せるのは三原康司(Ba)。お立ち台の上、上体を大きく反らしながらソロを披露するのは赤頭隆児(Gt)。高橋のプレイがバンドをさらに勢いづけ、フロアのテンションも上がるなか、健司は観客の表情を確かめて頷いている。
フレデリック 撮影=佐藤広理
アンコールで語られたのは、ライブ中はいつも様々な思い出――この日の場合は、金沢や福井でアルカラとA(c)と対バンしたこと、TOTALFATのShunがバックヤードで熱い話をしてくれたこと、フェスで空回りしていた時期にBIGMAMAの金井から愛ある叱りを受けたことなど――を思い返している、という話。「1個でもいいから思い出を連れて進めたらと思います」(健司)とラストには「名悪役」が選ばれた。今を生きるバンドとして音楽を鳴らすことで、思い出は思い出を超えて、自分たちの糧、血肉、身体の一部になる。それはすなわち、忘れないということ。これからも共に生き続けるということ。この日7バンドが体現した想いを象徴するような1曲で、『GT-Z 2021』は幕を閉じたのだった。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=高田梓(SPiCYSOL、TOTALFAT、BIGMAMA)/佐藤広理(Lym、サイダーガール、アルカラ、フレデリック)

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