Wキャストの違いを解説! 話題のミュ
ージカル『フィスト・オブ・ノースス
ター〜北斗の拳〜』観劇レポート

累計発行部数1億部超えの伝説的コミック『北斗の拳』を日本発のオリジナルミュージカルに仕立てた『フィスト・オブ・ノーススター〜北斗の拳〜』が日生劇場にて上演中だ。今回は12月10日(金)昼に劇場にて行われた通し稽古の様子を写真と共にお伝えする。
初日を控えた7日(火)夜に行われたゲネプロの様子はすでにレポートしているが(ページ下部の関連記事参照)、今回は別のWキャストでの上演(ユリア役:May'n、トキ役:加藤和樹、シン役:上田堪大、レイ役:上原理生、ジュウザ 役:伊礼彼方、ラオウ役:宮尾俊太郎)。すべてのキャストを見た上でそれぞれのWキャストの印象や、演出面を中心にレポートしていきたい。
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まず、主人公のケンシロウ役を演じるのは、大貫勇輔。そのたたずまいのみならず、闘いの場面やソロダンスはまさに芸術の域。シングルキャストでこの役をやり抜けるのは、大貫のほかいないのではないかとさえ思ってしまう。そして、身体表現のみならず、繊細な芝居も印象的。哀しみを背負い、懸命に生き抜くケンシロウの“心の叫び”に注目して欲しい。

ユリア:May’n
ケンシロウの婚約者で、ラオウやトキ、シンからも愛されていたユリア役を演じるのは、平原綾香とMay'n。ユリアは出番も台詞もあまり多くはないのだが、失意の中で歌う「死兆星の下で」や、ケンシロウとラオウについて歌う「氷と炎」など、作品の中でもとりわけメロディアスな曲を担う。平原もMay'nもその確かな歌唱力で、観客を惹きつけた。個人的な印象を言えば、平原は女性らしさと母性も感じるユリアで、May'nは芯の強さがありつつも可憐さが残るユリア。なぜユリアがここまで愛されるのか、二人それぞれに答えが見えた。

トキ:加藤和樹
三兄弟の次兄で、華麗な技と天賦の才を持つが不治の病を患うトキ役は、加藤和樹と小野田龍之介。変わり果てた兄ラオウにかつての優しさを取り戻してほしいという思いを込めた「願いを託して」をはじめ、心動かされる役どころ。加藤のトキは、とりわけ血の繋がったラオウとの関係性の描き方が見事。闘いのとき、ラオウに向かって「忘れたか、私があなたのすべてを目指していたことを!」ということに、全てが詰まっているような気がした。一方の小野田のトキは、残りわずかという命のカウントダウンが明確で、泣かせる。祈るような優しい歌声もいい。
シン:上田堪大
南斗孤鷲拳の伝承者であるシン役の植原卓也、上田堪大。シンがラオウにつく展開は、原作にはないミュージカルのオリジナルの部分なので、それゆえに自由度が高く、役づくりも難しかったかもしれないが、植原も上田もユリアへの一途な愛が見えた。その死に際までユリアへの愛を貫く姿は、無様で、弱くて、美しくて、格好いい。
南斗水鳥拳の伝承者であるレイ役と、我流の拳での戦いを得意とするジュウザ役は、伊礼彼方と上原理生が交代で演じる。全体的に伊礼はエネルギーを外に発する芝居で、上原は内でぐつぐつ煮込む芝居という印象。「これぞWキャストの醍醐味!」というぐらい全くアプローチが違うので、ぜひ見比べてみて欲しい。とりわけ分かりやすいのは、ラテンのリズムで魅せる「ヴィーナスの森」のナンバー。伊礼ジュウザは心底楽しそうに踊り歌うし、上原ジュウザは自らもヴィーナスのようにセクシーに仕上がっている。
レイ:上原理生
ジュウザ:伊礼彼方
三兄弟の長兄で、世紀末覇者“拳王”として覇を唱えるラオウ役は福井晶一と宮尾俊太郎。福井は圧倒的な歌唱力でその力強さを見せつけ、宮尾はその恵まれた肉体から並々ならぬ存在感を醸し出す。福井は、心の揺らぎを芝居の中ではっきり出すことで、後半にかけてラオウが抱えている孤独を浮き彫りにする。一方、宮尾は、逆に感情を露わにしないことで、愛も哀しみも知らない男という説得力があったし、強くなることへの異常なまでの執着を感じさせるラオウを体現。どちらも違いが明確で、いろいろなキャストと組み合わせて見たいと思った。
ラオウ:宮尾俊太郎
そのほかのキャストも実に魅力的。リュウケン(川口竜也)の威厳ある歌声と、無駄のないキレのある動きに魅せられたし、もう一人のヒロインと言ってもいいマミヤ(松原凜子)の強さの理由には涙するし、青年期のラオウ(一色洋平)とトキ(百名ヒロキ)は、ここまでの三兄弟の絆を思わせる大事な回想シーンを全力で演じ、胸を熱くさせる。リン(山﨑玲奈/近藤 華)とバット(渡邉 蒼)が強くなって成長していく過程も、ミスミ(安福毅)が忘れない明日への希望も、心動かされる場面と言える。また、トウとトヨという全く異なる女性像を演じる白羽ゆりの芝居にも注目してほしい。
これだけの登場人物がいながら、主人公のケンシロウだけではなく、それぞれの宿命と愛を思うことができるのは、練られた演出と脚本があるからだろう。名もなき人々にも生活があり、悲しみも喜びもあることを、省かず、見事に描き出している。アンサンブルでも「個」で見える瞬間がたくさんあった。
それに、確かにフライングや映像を使ったスペクタクルな演出も見どころではあるのだが、全体を通してみれば、必要以上に過大な演出はない。胃もたれしない、ちょうどいい塩梅。例えば、素手で戦う時も、ありがちなSE(効果音)を極力つけることなく、俳優同士が肉体と肉体をぶつけあう様をあえて見せる。物足りないと感じる人もいるかもしれないが「人間ドラマを見せたい」という演出の石丸の狙いなのかなと個人的には感じた。ラオウの愛馬である黒王号や、ケンシロウとラオウが対峙する虎など、原作にも登場した象徴的なシーンが演劇的な手法で、しかも効果的に描かれていたのも印象に残った。その演劇的な想像力を大いに刺激する演出にも、石丸らしさを思った。
上演時間は1幕85分、20分の休憩を挟んで、2幕75分の計3時間(予定)。世界初演をぜひ目撃して欲しい。
取材・文=五月女菜穂

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