佐藤千亜妃が選曲・構成、パフォーマ
ンスの全てで魅せたZepp Haneda公演

佐藤千亜妃“KOE”Release Tour 2021 『かたちないもの』 2021.11.18 Zepp Haneda
佐藤千亜妃のニューアルバム『KOE』のリリース・ツアー『佐藤千亜妃“KOE”Release Tour 2021 『かたちないもの』』全5本のうちの4本目=東京公演が、2021年11月18日(木)、Zepp Hanedaで開催された。
新型コロナウィルス禍以降、無観客配信ライブや単発のライブ等は行って来たが、バンド編成でツアーを行うのは、佐藤千亜妃にとって、ファースト・フルアルバム『PLANET』の時以来なので、約2年ぶりになる。
『KOE』のオープニングと同じように、<Adjustな世界を 泳ぐ泳ぐ泳ぐ>と、アカペラで佐藤千亜妃が歌い始める「Who Am I」で、ライブはスタート。以降、『KOE』の12曲すべて、『PLANET』からは「STAR」「You Make Me Happy」「空から落ちる星のように」の3曲、その前の最初のソロ作品であるミニアルバム『sicksicksicksick』からは「Summer Gate」とアンコールの「Bedtime Eyes」の2曲、以上の全17曲が披露された。
1曲目「Who Am I」から6曲目の「リナリア」までは、ボーカル佐藤千亜妃・ギター真壁陽平・ギター木下哲・ベース種子田健・ドラム柏倉隆史、キーボード宗本康兵の6人で、パフォーマンスする。7曲目「Love her…」は、佐藤千亜妃、ドラム柏倉隆史、ベース種子田健の3人になり、8曲目「棺」から10曲目「愛が通り過ぎて」までは、6人編成に戻る。続く11曲目「橙ラプソディー」は、ひとりでアコースティク・ギター弾き語り。次の12曲目「空から落ちる星のように」は、キーボードとふたり。
13曲目の「転がるビー玉」は、そのままギターを弾きながら歌い、そこにバンド全員が加わる。ギターを置いた14曲目「STAR」から本編ラストの16曲目「カタワレ」までと、アンコールの「Bedtime Eyes」も、6人全員でプレイされた。
佐藤千亜妃は普段から、バンド、ひとりでの弾き語り、ピアニストとふたり、の三形態でライブを行っている。今回はそれに、リズム隊との3人編成も加えて、今の自分のライブのやり方をすべて、1本のライブで見せていく内容だった。
全体として、最も驚いたのは、選曲・構成のすばらしさ。たとえば、前半はこうだ。
1曲目「Who Am I」の、曲終わりの残響音がまだ響いている間に、ドラムのカウントから「rainy rainy rainy blues」に入り、その「rainy rainy rainy blues」が終わると同時に、佐藤千亜妃が「ありがとう!」と言うと、それが合図のように、柏倉隆史がビートを叩き始める。
それに乗って「音楽はかたちがないものですけど、最後までそのかたちのないものを、楽しんでいってもらえたらうれしいなと思います」と、短くMCしてから「甘い煙」を歌い始める。その「甘い煙」から、曲間なしで「Summer Gate」が始まり、「みなさんは今年はどんな夏を過ごしましたか?」と佐藤千亜妃が問いかける──。
というふうに、まるでDJプレイのように、曲がシームレスにつながっていく。ちゃんとMCする時間以外は、曲と曲の間が空かない構成。曲の並びも、次の曲が始まるたびに、「あ、そうか」「うん、なるほど」と言いたくなる流れで、組まれている。
そうすることで、ライブ全体を使ってひとつの大きな物語を描こうとしているようにも思えたし、音楽を浴びて幸福な時間に浸っているオーディエンスが、我に返ってしまう瞬間を作らないようにしたい、という意志も感じられた。
それから、もうひとつは、ライブ・パフォーマーとしての佐藤千亜妃の進化。
ロック・バンドのメンバーとして、ギターを弾きながら歌う時と、ソロ・アーティストとして、ギターを持たず、ハンドマイクで歌う時というのは、まるで別のパートを担っているくらい、というか、まるで別人格にならなければいけないくらい、違うものだ。
というのは、ライブを観ている人はあまりピンとこないかもしれないが、バンドでボーカル&ギターをやったことがある人ならわかると思う。あの「ギターを弾きながら、マイクスタンドの前から動けない状態で歌う」というのは、ある意味、楽なのだ。やれることに制限がある分(実際、そういう話を、何人ものプロのバンドのボーカリストからきいたことがある)。
以前は典型的な「バンドのメンバーとして、マイクスタンドの前でギターを弾きながら歌う人」だったにもかかわらず、そして、新型コロナウィルス禍で、2年近くの間、本来のライブができなかったにもかかわらず、この日の佐藤千亜妃は、その一挙手一投足で、オーディエンスの視線をすべて引き受けるパフォーマーになっていた。
歌っている時の視線の動き。「リナリア」の後に、マイクを両手で握ってMCするさま。「愛が通り過ぎて」で、スタンドマイクで直立不動で歌う時の感じ。などの、ちょっとしたアクションや、その時々の表情まで含めて、観る側の気持ちを惹きつけて離さない。
繰り返すが、コロナ禍だったので(今もそうだが)、ライブの本数を重ねることで鍛えらたわけではない。本人の中で何かきっかけががあったとか、それで意識が変わったとか、そういうことなのではないだろうかと思う。
で、それによって、1曲1曲が、歌詞のひとことひとことが、よりリアルに深く伝わるものになっていた。
四度設けられたMCも、いずれも真摯でとてもよかったが、特に印象に残ったのは、「橙ラプソディー」を歌う前の曲紹介だった。
次の曲は、岩手にいた時代、田園風景の中、夕日を見ながら畦道を帰るシーンが記憶に残っていて作った曲である、と説明する佐藤千亜妃。コロナ禍に入った直後の、ミュージシャンが弾き語りの動画をリレーしていく「歌つなぎ」で、順番が回ってきたのでこの曲を歌ったら、「当時の帰り道を思い出して感動した」というDMが、中学時代の同級生から届いたそうだ。同じ帰り道を見ていた旧友が、曲を聴いてそれを思い出してくれたことが、とてもうれしかったという。
個人的に、この曲に関しては、「夕陽」や「橙」の側面よりも、気持ちの疎通がうまくいかないまま終わった恋愛を描く、哀しいラブソングの側面を重点的に捉えながら聴いていたもので、ちょっと意外だった。でも、納得した。

取材・文=兵庫慎司 撮影=Shun Komiyama
なお、この日の模様は12月18日より「uP!!!」にて配信されることも決定。あわせてセットリストのプレイリストも各サブスクリプション・サービスにて公開されている。詳細は下記情報欄をチェックしてほしい。

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