TOWA TEI

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【TOWA TEI インタビュー】
劇伴として新しく作るものは
ミニマムで、再利用がマックス

DCコミックスやマーベルコミックの人気作品で知られる脚本家、マーク•ミラー原作のアニメ『SUPER CROOKS』がNetflixで全世界配信される。そして、TOWA TEIが担当した、そのサウンドトラック『SUPER CROOKS(SOUNDTRACK FROM THE NETFLIX SERIES)』が到着! TEIの大ファンという同作品監督の堀 元宣の直訴によって実現した、かつてない画期的コラボ作品となった。

『SUPER CROOCKS』と
『LP』と同時期に
生まれた子供たちという気がする

今作はアニメーション作品のサウンドトラックですが、サントラってご自身のオリジナル作品とは臨み方も違うんじゃないかと思うのですが。

もちろん、そうですね。ずっと自分の音楽を何の制約もなく作っていて、まとまってきたら出そうかなという感じで、1年だったり2年だったりという大きなサイクルで常に動いているから、こうやって頼まれてものを作るというのは根本的に違う。いわゆる職業音楽家として自分はかなり変わり者だと思っているし、不器用なので(苦笑)、本当に自分ができることしかできないから、それを分かった上でオファーしてくれないと…っていう。今回で言えば、監督の堀 元宣さんの強い要望だったんです。最初のブレストの時、堀さんが僕が個展を開いた時に出した画集にサインの入ったものを持っていて、“TEIさんにサインしてもらったんですよ”と言うから、“じゃあ、お会いしたことがあったんですね”って(笑)。で、いろいろと話をしていくうちに、『SUPER CROOKS』のストーリーも面白そうだし、原作は『キングスマン』や『キック・アス』のマーク•ミラーということで、両方好きな映画だし、珍しくお受けしてみようかなと。そうしたら、監督が僕以上に僕の楽曲に詳しくて! 例えば、僕が主観で作っている時には泥棒のこととかは考えていないんですけど(笑)、“TEIさんのあの曲は、登場人物が一致団結して泥棒するシーンに合っていると思います”とか、“危機感が迫っている時にはあの曲が合ってるんじゃないですか?”とか、そういう堀さんの客観的なイメージを聞いて、僕自身が“そんな曲あったっけ?”って思うくらいで(笑)。通常のサントラでは主軸になるテーマは数曲としても、そのバリエーションを20~30個も作るというし、もっと多く作る人もいる話も聞くんですけど、“僕が主観で作ったオリジナル曲の中から使えるものは使ってください”と。そこが今回の画期的なところだと思いますね。

なるほど。そのお話には納得ですね。と言いますのは、これは私の感想ですが、『SUPER CROOKS』がアニメーション作品のサウンドトラックであることを知らされていなかったとしたら、今年3月にリリースされたTEIさんのオリジナルアルバム『LP』に次ぐ新作だととらえる人が多いんじゃないかと思うんですよ。言ってしまえば、サウンドトラックっぽくないという印象が強かったです。

それは残念ですね(笑)。

すみません! 大変失礼なことを申し上げました。

いえいえ、全然大丈夫です(笑)。タイミング的に今作はほぼ2020年にできちゃったものなんですよ。本来だったら昨年の11月くらいに画ができてきて、そこから作り出す予定だったんですけど、それがコロナ禍のせいで僕が忙しくなくなっちゃったから、逆に余裕を持ってできたんです。昨年の暮れには僕の手を離れてエンジニアに渡っていましたからね。なので、同時期に『LP』を完成させているんです。スタートしたのは『LP』が先なんですけどね。だから、『LP』に次ぐ新作ということはないですけど、すごく近しい時期に作った…双子とまではいかないけれども、同時期に生まれた子供たちという気はしますよね。

具体的に楽曲を上げますと、7曲目に「MOSS COVERED ROOTS」は後半、いったん終わりかけますが、再び楽曲が展開していきます。失礼ながら劇伴であれば、こういう展開はいらないとも思うわけです。ですから、“オリジナル曲の中から使えるものは使ってください”とおっしゃられたという話にはすごく納得しました。

あぁ、そうですね。最後まで音響監督、サウンドデザイナーにはお会いすることはなくて、エンジニアを通して…エンジニアはいつも一緒にやっている人で、彼に5.1インチのセッションファイルというもので渡して、“自由に始めてください”と。全部のタイムラインが並列していて、“この曲は頭のほうでドラムがいらないと思ったら、ドラムなしで始まってもらって、途中からドラムを立ち上げるとか、そういうのは好きにやってくれていいよ”と伝えて、歌は歌でまとまっているんだけど、それも使わないでいいしって。そこら辺はかなり融通が利いていて、これ以上ないというくらい自由度があったし、作品として良くも悪くもアニメーションに寄り添っていないものになりましたね。しかも、さっき言ったように作品進行のスケジュール的に、僕は画を観て楽曲を作っていないんですよ。脚本を読んでイメージする…言葉からきたイメージで作るしかなかったという。まぁ、画ができていく上で必要があれば直しもある程度あると思っていたんですけど、一切なかったんですよ(笑)。

それもすごい話ですね(笑)。私、アニメーション制作のことは詳しくないですが、画が出来上がる前に声を録音することもあるとは聞いたことがあります。中には絵コンテの状態で声優さんが先に収録することもあるとか。でも、『SUPER CROOKS』の音楽に関してはそれ以上というか、ものすごく進化した分業制だったんですね。

そうですね。最初に観た画は本当に線だけみたいなもので、その時点ではほぼ音ができちゃっていたし、監督が必要そうな音…“こういうシーンにはこういう音が欲しい”というのを、“僕の過去の音源にそこまでお詳しいんだったらリストアップしてみてください。権利的に使えるかは、あとで自分の音源を管理している者に確認しますので”と。今回のサウンドトラックが実現できたというのは、僕がずっと原盤を持っていて、レコードメーカーさんからお金をもらわずに自分のポケットマネーで作っていたからでもあるんです。僕が“オリジナルの曲を使ってもいいですよ”と言っても、それを使っていいか決めるのはレコード会社だったら、こうはいかなかったと思います。だから、僕の曲で使っていいものは使うけど、それに当てはまらないものがいくつかあって、10曲欲しいということだったので、10曲作ってそのうちの9曲をCDに入れたんです。あとは、オープニングとエンディングですね。だから、劇伴として新しく作るものはミニマムで、再利用がマックスという。

堀監督がTEIさんのファンだったことで、これまでになかった面白いコラボレーションができた感じなんですね。

そうですね。映画『大日本人』以来、サウンドトラックを久々にやってみて、やっぱり僕には普通の劇伴はできないことが分かりましたよ。自転車で高校に通っている女子高生と怪我した少年の話とか無理です(笑)。いくらお金を積まれても(笑)。

あははは。音楽家がイメージするものと映画監督が欲するものが必ずしも一致するわけではないので、その摺り合わせはすごく難しいということですね。

そうです。ブレストの時に堀さんは“こんなシーンには既存曲のあんな感じで〜”と作ってもらおうと考えていたと思うんだけど、“原盤を持っているから使えるものは使ってください”と。そのほうが不労所得というか、30曲、40曲作るより楽だし(笑)。というか、アルバムのクオリティーを持ったものを作るのって、他のこともちょっとやりながらになるからから、正直言って2年くらいかかるし、それだけに集中してやっても1年くらいはかかると思うんですよ。10曲作るにしてもなかなか大変ですからね。結果的に既存曲32曲と新曲10曲で42曲が使われているので…32曲が不労所得でした(笑)。

それは素晴らしい(笑)。それもそうですし、監督が欲しかった音楽がTEIさんの既存曲と合致したというのが素晴らしいんでしょうね。

何でもかんでも泥棒のシーンや殺しのシーンで使われたらちょっと嫌ですけどね。まずそういうイメージで作っていないんで(笑)。でも、僕はそこを楽しんでいるというか。アーティストによっては“それは絶対にやってくれるな!”という人も多いと思うんですよ。“我が子が生まれた時の気持ちを曲にしているんだから、なぜ大泥棒が寝ているシーンで使うんだ!?”って言う人もいると思うんですね。だから、不労所得って冗談で言いましたけど…何て言うかな? ミュージックや作家の人たちってカラオケ印税があるじゃないですか。僕、ほとんどないんですよ。カラオケ向きの曲じゃないんで。ただ、全世界のテレビやラジオで、“さて、問題です”とかいう時にかかったりしているようで。日本以外だとヨーロッパが多かったり、自分が全然知らないエストニアとか、聞いたことがない国もあったり、いろんなところで使われているのは非常に嬉しいんですけど、どういうシーンで使われているのかは分からない…出産シーンなのか殺しのシーンなのか分からないんですけど、それはもう自分のアウト•オブ•コントロールじゃないですか。だから、いろんなシーンに使ってもらえるのはラッキーだと思っています。
TOWA TEI
アルバム『SUPER CROOKS (SOUNDTRACK FROM THE NETFLIX SERIES)』

OKMusic編集部

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