【西片梨帆 インタビュー】
自分が愛情を持てる作品が
できたということが嬉しい
“表現家”として音楽はもちろん、自身でZINE制作やデザインなど多彩な表現を行なっているシンガーソングライターの西片梨帆。新曲やライヴで披露してきた思い入れのある楽曲をパッケージした、待望のメジャー1stフルアルバム『まどろみのひかり』が完成! 初のフルアルバム制作に挑んだ想いなどを語ってもらった。
すごく幸せな時って、
どこかまどろんでいる
初のフルアルバム制作はいかがでしたか?
アルバムを作るって、こんなに大変なんだって思いました(笑)。曲数が多いだけじゃなくて、なんか“よいしょ!”と頑張らなければいけないような感じだったというか。これまでのミニアルバムやEPは感覚的に作っていたところも多かったんですけど、今回は作る前にメモをとって、それをもとにひとつの道筋を立てていくような感じで制作しました。
そのきっかけは何だったのですか?
きっかけになったのは、昨年秋に祖父が亡くなったことでした。当時、コロナ禍でライヴもしていないし、メジャーデビュー作(2020年9月発表のミニアルバム『彼女がいなければ孤独だった』)をリリースしたけれど、デビューした実感もなくて。これからのことを考えちゃうと不安でもあったので、映画を観たり、本を読んだり…他のことに没頭することで考えることをやめていたんです。そんな時に、“人の終わり”を初めて知ったんです。そして、火葬の時に供養のひとつだからと家族でご飯を一緒に食べることを知ったり、みんなが集まっている部屋から見た庭園が不気味なくらいきれいだったり…その日の出来事が衝撃として私の中に入ってきて、帰り道でも通り過ぎていく人たちを見ながら“みんな同じ時代を生きているけど、いつかは終わらないといけないのかな?”と思ってハッとしたんです。“いつか終わる”と考えると自分が悩んでいることがすごく小さなことに思えて、“あれもこれもやってみたい!”とそれまで止めていたクリエイティビティーみたいなものが湧き出てきて。
そこからどうやって道筋を立てられたのですか?
私は今まで幸せなことよりも悲しいことやしんどいことを歌にしてきたし、“苦しいことが楽しい”みたいな逆説的なものを自分の中で大切にしていたんですけど、何もなく平凡であることだって幸せに感じるのかなと思ったんです。平凡で幸せであることは退屈であったりもするけど、それがひとつの光になるんじゃないかと。そして、その光の中に私の歌や言葉があればいいなと思って、この『まどろみのひかり』というアルバムを作っていきました。すごく幸せな時って、どこかまどろんでいる感じがして…
その道筋で生まれた今作は疾走感のある軽やかな「まちのなか」で始まり、曲順も含め、多彩な楽曲が心地良く進んでいきますね。
「まちのなか」は会社員になった大学の時の友達がいて、仕事で疲れて帰ってきた時に、言葉が入ってくる音楽を聴くと疲れちゃうからインストゥルメンタルの曲ばっかり聴いているという話をしていたことがきっかけで作ったんです。言葉を大切にしている私にとってその話はびっくりだし、音楽のとらえ方が人それぞれで違うっていうのを感じたんですね。なので、疲れている時に音楽が癒しになるように、その友達のために作りたい、その人に聴いてほしいという想いで作ってみました。いざ作ってみたら他の曲に比べると私らしさは30パーセントぐらいで(笑)。今までの西片っぽい曲より、そういう曲を1曲目にしたほうが少し新しさがあっていいんじゃないかと。
曲順で意識されたことは?
自分の言葉についてはすごく考えていて、「そのままでいてね」や「愛は4年で終わる」は“私の言葉だな”っていう感覚がありました。ただせっかくアルバムを作るんだったら、そんな西片100パーセントの曲がずっと続くと、きっと聴く人もすごくエネルギーを使うと思ったので、緩く聴けるような曲を前に持っていきたいという想いがあったんです。1曲目もそうですけど、M2「白昼夢」やM3「ゆるゆる」も気軽に聴ける曲になっていると思います。そこから“いざ西片の言葉”みたいなM5「そのままでいてね」とかM9「愛は4年で終わる」につながるようなアルバムになったらいいなと。「水槽の脳」「耐えがたいアイロニー」「まどろみのひかり」は真ん中に入れたんですけど、それらは祖父が亡くなってから作った曲なので、そのあたりに入れたいと思って。
これぞ“私の言葉”という「そのままでいてね」や「愛は4年で終わる」は先行配信というかたちでリリースしていましたね。
「そのままでいてね」は「問題ないわ」(2019年11月発表の配信楽曲)とかの曲調に近い、今までの西片梨帆な曲だと思います。激しい曲調の「愛は4年で終わる」はパンクロック精神というか…私は高校生の時に音楽を始めたんですけど、その当時は思春期だったこともあって、いろんなことに対してすごく反抗していたんですよ。だから、そういう曲が多かったし、昔から知ってくださっている方には“昔の梨帆っぽい”と言われるんです。でも、これから聴いてくださる人には、きっとこの曲が新しい西片梨帆になるのかなって。10月20日には「まちのなか」と「白昼夢」も先行配信されるんですけど、気軽に聴けて耳が心地良い感じになればいいなと思ってこの2曲を選びました。例えばいろんな人と話していると、その日の体調だったり空気感だったりで、話すことや出る言葉も少し違うと思うんです。それと一緒で、西片梨帆にもいろんな側面があることをアルバムを通して知ってもらいたいと思って制作したところがあるので、それが伝わればいいなと思っています。