遥海

遥海

【遥海 インタビュー】
悲しい時、楽しい時、
ちょっとどん底の時も私は側にいたい

映画『科捜研の女 -劇場版-』とテレビ朝日系木曜ミステリー『科捜研の女』Season21の主題歌となった2ndシングル「声」。遥海の4オクターブを操る歌唱力は圧倒的で、歌に命がみなぎっている。それなのに、なぜ彼女の歌は聴く者の心にスッと染み込んできて側に寄り添っていくのか。その秘密を紐解いた先にあったものとは…

軽い気持ちでは
絶対に歌えない

映画『科捜研の女 -劇場版-』の公開にあたって舞台挨拶にも出演されたそうですが、出演してみていかがでしたか?

主役の榊マリコを演じる沢口靖子さんが気さくに話しかけてくださった時は、画面越しでしか観たことがない大女優さんだから“どうしよう、どうしよう”って、後ろに下がっちゃいそうになるぐらい緊張しました! 目が合わせられなくて、息をするのも忘れそうでしたよ。ああいう感覚を味わったのは初めてでしたね。しかも、新型コロナウイルス感染対策の影響で私は歌えないかたちでの舞台挨拶だったんです。だから、“歌わないでちゃんとしゃべれるかな?”というところでも緊張しました。当日、会場に「声」が流れた瞬間、本当にこれが各地の映画館で流れるのかと思うと不思議な感じがして。私、映画が公開になってすぐに友達と映画館に観に行ったんですよ。

映画の中で聴いてみてどうでした?

流れた瞬間、ぶわーっと全身に鳥肌が立っちゃって、髪の毛までグンと立っていた気がします(微笑)。それで“ヤバいヤバい! どうしよう”って泣きそうになったんですけど、友達がいたから私は我慢したんですね。だけど、パッと隣を見たら友達がめっちゃ泣いていて(笑)。映画が終わったあともしばらく立てないぐらいでした。それで“流れたね。遥海の名前が出てきたね、よく頑張ったね!”と私の頭をポンポンしてくれて、ふたりで泣きながら外に出ました。

ほっこりするエピソードですね。では、最初に「声」という楽曲を聴いた時、どんなことを考えました?

自分が歌ったものが世に出るわけだから、まずは自分がどう感じるのか。その気持ちと曲をどうリンクさせるか。…というのを考えていきました。《目に見えるものが全ての世界の中で/何を掴み何を捨てて 何処へ向かえばいいと言うのだろう》とか、この曲が世の中に訴えているものが私の気持ちに重なったんです。コロナ禍で個人的にものすごく勉強になったのは“手放す勇気”だったんですね。今までいろんな人の言葉、声を気にしすぎて、ある意味自分を見失っていたんです。

人に言われたこととかが気になるタイプ?

ものすごく気になります。そのちょっとしたことで眠れなくなるタイプなんですよ。

普段はこんなに明るくて天真爛漫なのに。

そうなんです(微笑)。普段はワ〜って感じなのに、SNSとかのちょっとした投稿でも気になると、一瞬にして気分が真逆になってしまうんですよね。でも、そうやって自分で自分をコントロールできなくなるものは手放すべきだというのを、このコロナ禍で知りました。私はその気持ちをこの歌詞が訴えていることとリンクさせて歌いたいと、まず考えたんです。

遥海さんの場合、歌う前にそうやって自分との接点を見つけて歌詞の解読をやっていくわけですね。

はい。しかも、この歌詞は簡単そうに見えて難しいんです。《乾いた心の奥で》というのは何もない心? 空っぽの心ってこと? 私は乾いた心になったことがある? …とか。“蒼穹の光”って? 蒼穹って私が使ったことがない言葉だな…とか。

そんな細かいところまでチェックを?

私は日本生まれじゃないから日本語を歌う時は、自分の解釈が合っているかどうか言葉のひとつひとつを気にしちゃうんです。音楽が流れてきた時に歌が聴こえるだけじゃなくて、日本語の美しさや深さがそのままみんなに伝わってほしいと思うので、「声」は特に歌詞の解釈を考えながら…

自分の気持ちとリンクさせていったと。

はい。そのあとは、レコーディングの前に映画を5回ぐらい観たんです。主人公の榊マリコは事件で亡くなってしまった人の“声”に耳を傾ける人で。私はアーティスト・遥海になった時は自分の気持ちを歌うけれども、それは聴いてくれている人たちの“声”を代弁する気持ちで歌っているよね? 主人公とは立場的には一緒だよ…と映画と自分をリンクさせていって。

毎回毎回、ひとつの楽曲を歌うためにそこまで歌詞を細かく読み解いていって自分とリンクさせて歌っているんですか?

はい。

なぜそこまでやるんだと思います?

アーティストとしての責任感です。いろんな人がこの曲を聴いているわけで、もしかしたらこれが誰かのライフソングになるかもしれない、誰かを救えるかもしれないと考えた時、“今はこんな気分だからノリで歌っちゃえば大丈夫だわ”とか、そんな軽い気持ちでは絶対に歌えない。

そう思うようになった理由は?

私がひとりの人間としてどん底に堕ちた時、いろんな曲に支えられたからです。音楽に対するリスペクトですよね。だから、私は簡単には歌えない。しかも、自分が書いた曲じゃないからこそ、そこはなおさらですね。

えっ、それはどういうことですか?

この楽曲ひとつが生まれるために作家さんは何杯コーヒーを飲んで、この曲と何日向き合ってきたんだろうか? そうやって作家さんたちが身を削って生み出した楽曲に対して私は何ができる? …と思うんです。だって、音楽を聴いた時、最初に思うのは“誰が歌っているんだろう?”ってことじゃないですか。“誰が作曲しているんだろう?”とは思わないから、これを作ってくれた作家さんに失礼がないように。しかも、今回は歴史あるドラマ作品の主題歌だから簡単に歌っちゃったら、その歴史にも失礼だし。あとは、楽器たちにも失礼がないようにと。楽器のレコーディングも見に行ったんですよ。目の前であのストリングスの迫力を感じました。そこで、この人たちがこの曲に懸ける想いはこんなにも大きいんだということを受け取って。その想いをあとは私が歌に全てぶち込んでやるぞ!って。それで、「声」をレコーディングする時、目の前に紙をいっぱい貼って歌ったんです。この楽曲に携わった人たちを紙に見立てて、この人たちの想い、気持ち、全部を背負って歌ってやる!という感じで歌いましたね。(スマホを取り出して写真を見ながら)あった! これです! これだけ見たらキモいですよね(笑)。

そんなことないですよ。こんなにも熱量を持って真摯に楽曲と丁寧に向き合っている人とは初めて出会いました。ただ歌えばいいってものではないんですね。

絶対にそうは思われたくないですね。

そうやって生まれた「声」の歌唱を聴いて、歌い出しは遥か海の底のほうで歌っている感じがしました。

ポツンといる感じですよね。《乾いた心の奥》は乾いているんだから、喉が渇いてウーってなる時の声で。でも、歌の主人公は強くなりたいと思っている。その強くなっていく過程を出そうと思って1サビが50パーセントだったら2サビは65パーセント、最後のサビをバコーン!と歌って。人間って強くなりたいと思った瞬間から強くなれるということも、歌を通して伝えるんですよ。
遥海
シングル「声」【初回生産限定盤】(CD+Blu-ray)
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OKMusic編集部

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