鳥越裕貴らが名作を熱量と魅力たっぷ
りに演じる 『いとしの儚』公開稽古
レポート

扉座の横内謙介が生み出した名作『いとしの儚』。20年以上にわたって愛されてきた本作に、新たなキャストとスタッフが挑む。演出は、俳優としても活躍する石丸さち子。2.5次元舞台などでも活躍する鳥越裕貴を主演に、ヒロインは鎌滝恵利。さらに、辻本祐樹や中村龍介、原田優一と、久ヶ沢徹といった実力派が顔を揃えた。2021年10月6日(水)の初日を前に行われた公開舞台稽古の様子をお届けしよう。
【あらすじ】
三途の川で、青鬼(久ヶ沢徹)が、あるロクデナシの男について語る。男の名は件鈴次郎(鳥越裕貴)。女にも金にもだらしない最低のクズだが、博打の神様に気に入られ、サイコロだけを信じて一人で生きてきた博打打ちだ。
そんな鈴次郎はある日、人間に化けて賭場に来ていた鬼シゲ(辻本祐樹)と勝負をすることになる。勝ちが続いて大金をかける鈴次郎に対し、負けが込んでいた鬼シゲは「俺に勝ったら最高の女をやる」と約束。
そして、知り合いの鬼婆(原田優一)から、墓場の死体を集めて、ついさっき生まれて死んだばかりの赤子の魂を入れて作った女を貰うことになる。ただし、この女は100日の間、女として抱いてはならない。100日経てば人間になることができるが、魂と体がくっつく前に抱くと水になってしまう。
見た目は大人だが、生まれたての赤子同然の女・儚(鎌滝恵利)を育てることとなる鈴次郎。自分を慕う儚と過ごすことで、ロクデナシに少しずつ変化が訪れる。しかし、鈴次郎との間に因縁がある博打打ち・ゾロ政(中村龍介)との戦いによって、2人の運命は大きく狂っていく――。
鈴次郎を演じる鳥越は、粗野で悪名高い博打打ちという救いようのないロクデナシを熱演。鈴次郎のダメ人間ぶりがこれでもかと伝わってくるからこそ、儚に見せるささやかな優しさや愛情が際立ち、魅力ある主人公となっていると感じた。
また、儚との出会いで少しずつ変化していく鈴次郎。生まれたての彼女に振り回される様子は微笑ましいが、いっときの感情に任せて暴力を振るったり、博打をやめられなかったり。簡単に生まれ変わることができないもどかしさや葛藤といったリアリティに引き込まれる。
鈴次郎の過去が克明に描かれているわけではないが、台詞や表情から「件鈴次郎(くだんすずじろう)」という人間の人となりが伝わり、彼のこれまでの人生や経験してきた苦労への想像が膨らんだ。
鎌滝は、生まれたての赤子から成熟した女性へと成長していく儚の姿を鮮やかに見せてくれる。無垢な赤子のように大声で泣いていたかと思えば、無邪気な子どもらしい奔放さを見せ、一途な少女に成長し、さらには男たちを手玉に取る妖艶な美女へ。鈴次郎に対する思いと「人間になりたい」という願いは一貫しており、芯の通った優しさと強さ、純真さに胸を打たれる。
変わることができずに一人でもがく鈴次郎と、人間らしさを手に入れていく儚の対比が切なく美しい。
儚の境遇を知って心を動かされ、教育を申し出る妙海和尚(原田)とそれを手伝う三木松(辻本)のあたたかさ、二人のもとで健やかに育つ儚の姿にも和まされる。
さらに、身勝手な理由で儚を捕らえる殿様(辻本)や金のために儚を売り飛ばす女郎屋の女将たちの下劣さ、鈴次郎と同じ博打打ちであるゾロ政の生き様といった、人間が持つ様々な感情をイキイキと描いているのも本作の大きな魅力だろう。
人間たちの業と、人ならざる生き物でありながら情を感じさせる青鬼や鬼シゲの存在が、鈴次郎の歪さを浮き彫りにしている。
キャストは6名だけだが、入れ替わり立ち替わり様々なキャラクターが登場するため、少人数であることを感じさせない賑やかさがある。配役が「その他たくさん」となっている原田を筆頭に、辻本や中村、久ヶ沢も5役以上を演じ分けており、圧巻だ。幅広いキャラクターたちが次々に現れ、小ネタも挟みながら進んでいく贅沢な芝居を見ることができる。
辻本は、博打好きの鬼・鬼シゲをはじめ、気立ての良い男娼の三木松、わがままな殿様など、キーとなるキャラクターたちを魅力たっぷりに好演。
中村は鈴次郎のライバルとであるゾロ政を中心に、印象的な脇役をいくつも演じ、物語をグッと引き締めていた。
原田は女郎屋や賭場の女将役で妖艶な女性を演じたかと思うと、迫力ある鬼婆になったり、スケベだが面倒見のいい和尚になったり、地蔵菩薩としてリサイタルを行ったりと、縦横無尽の活躍を見せる。
そして、語り部のような立ち位置にいる青鬼を演じる久ヶ沢は、花売りや鳥など、鈴次郎と儚にとって印象的な事柄も担い、確かな存在感を放っていた。
一人のキャストが一瞬で別のキャラクターに変わるなど、大忙しな場面も多いが、無理なく成立するのは実力派が揃っているからこそ。大きな見所のひとつだと言えるだろう。また、シーンによっては同じキャラクターを別のキャストが演じており、個性の違いが見えるのも楽しい。
100日間という短い期間で急成長を遂げる儚と、彼女の影響を受けて変わっていく鈴次郎。ラストまで観ると分かる事実もあるため、何度か観ることで印象が変化しそうだと感じた。ささやかで歪な二人の愛が辿り着く結末と、二人が思い描いた夢の行方を、ぜひ劇場で確かめてほしい。
本作は10月17日(日)まで、六本木トリコロールシアターで上演される。なお、10月17日(日)にはアーカイブありの映像配信も行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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