大橋ちっぽけ

大橋ちっぽけ

【大橋ちっぽけ インタビュー】
好きな音楽は悩まず
取り入れることがアイデンティティー

UKロックやオルタナをはじめ、現行の海外のバンドミュージックやインディーR&Bからの影響も反映する23歳のシンガーソングライター・大橋ちっぽけ。アーティストネームが示すとおり、飽くまでも自身が実感できる範囲の出来事や感情をテーマにすることで、サウンドの多彩さも個人のリアルに収斂する。早くも4作目のミニアルバム『you』もまた然りだ。

自分の中にあるものだけで
言い表したものが本当の想い

前2作の『LOST BOY』(2020年4月発表のミニアルバム)と『DENIM SHIRT GIRL』(2020年9月発表のミニアルバム)は連作的な感じがあったかと思うんですけど、2作を出したあとに大橋さんには次のイメージはありましたか?

出した段階では正直あまりなくって。『LOST BOY』は自分の失恋があってとか、続く『DENIM SHIRT GIRL』もアルバムとしてのコンセプトがあったんですけど、そこからは“じゃあ、次はこういうアルバムを出したいな”とかはなく、純粋に自分の中でいいなと思うようなポップな音楽とか、ちょっと悲しい雰囲気の曲が今まで多かったので、なんとなく“明るい雰囲気の曲を書けたらいいかな?”ぐらいはあったんですが、あんまりアルバム単位での続きのイメージはなかったです。

世代的に時代やジャンルを問わずにいろんな音楽を聴いていると思うのですが、過去のインタビューを拝見してると清 竜人さんが好きだったり、The Smithsも好きだそうで。印象としてはさらにフランク・オーシャン的なものや、The 1975とかコナン・グレイの世代感覚とかも感じられて。

それこそThe 1975は好きですね。初めてアルバム単位で聴いてすごくいいなと思えたバンドっていうか、いろいろ海外の音楽を好きになるきっかけのアーティストのひとつではありました。

挙がったアーティストは共通して“悲しみ”もありますね。

すごいポップな音なのにすごい悲しいことを歌っていたり、ハッピーな感じで実はドラッグの話しをしていたり…僕は薬はやんないですけど(笑)。バランス感覚はすごいし、自分も好きですね。共感する部分は大きいと思います。

バンドでもソロでも一枚のアルバムの中にバラエティーに富んだ曲が入っていることに違和感がない世代なのかなということは感じていて。

僕は最初から自分のイメージとかはあんまり意識していなかったので、自分が好きだと思う音楽は取り入れたいし、それに乗せて表現したいと思って、そこは悩まずにやってきたタイプだから…確かに今作もそうなんですけど、マスタリングが終わった時に“幅が結構出ちゃったな”と思いましたね(笑)。それはもうそうやってやってきたし、それが自分のひとつのアイデンティティーになりつつあるのかなと思っています。

メロディーにフックがある曲が多いですよね。

ありがとうございます。やっぱりメロディーは大事にしたいというか、いろいろなジャンルの曲をやっていきたいですけど、メロディーのキャッチーさみたいなものは自分の中では大事にしているし、そこは一貫したいと思うので、そう言ってもらえて嬉しいです」
ーメロディーは降ってくるんですか?
例えば“こういうフレーズを歌いたいな”と思ったら、とりあえずヴォイスメモを出して、それに対して即興でメロディーを歌っていって、“今、すごくいいのが録れたな”と思ったら、それを中心にそういう構成で曲を書く…みたいな。“狙う”というよりかは偶然を待つタイプかもしれないですね。

ちゃんとした歌詞になる以前の言葉も残っていたりするんですか?

曲にもよるんですけど、今作のリード曲「常緑」のサビの《端的に言うとね、君の全部が愛おしい》は、メロディーを考えてる時にパッと出てきた言葉なんです。で、メロディーを即興で歌ったら、それがピタッとハマったという。なんてことはない、めちゃくちゃストレートな言葉なんですけど、なんかいいなと思ったんで、それをそのままフックにして曲を作っていきました。そういう曲が結構ありますね。

先行配信された「By Your Side」と他の曲は並行して作っていたんですか?

ドラマのエンディング(テレビ東京系ドラマParavi『理想のオトコ』)としてのテーマをいただいた上で書いた曲なので、そのお話しが最初にあったんですけど、他の曲はあんまりアルバムとかを意識せずに、いろいろ作っていく中でいいものができたらスタッフに聴いてもらって、レコーディングを進めて、結果的に集まった…みたいな感じですね。

「By Your Side」は分かってほしい人に分かってほしいんだけど、言葉じゃない何かで伝えようとしてるところがリアルでした。

そうですね(笑)。“明るいテーマで”っていうお題をいただいていたんですけど、何の屈託もない底抜けの明るさって自分の中にないと思っていて。もどかしさとか切なさを伴う喜びとか明るさみたいな、自然とそういう表現につながっていったかなと、書き終わってみて思いましたね。

今、Twitterなどで文末に“語彙力…”と書いて、伝えたいんだけど自分には伝える言葉がないって言っている人が多いと思うんですよ。

僕も自分の中にある言葉でしか感情を言い表せないし、最初の頃はそれを何と言えばいいのかを知りたくて、めっちゃ調べたりしていましたよ。“こういう気持ちって何と言うんだろう?”とか“こういう言葉遣いってどういうふうに使うんだ?”とか。でも、それって違うかもなと。知ってる言葉とか自分らしい表現とか、自分の中にあるものだけで言い表したものが本当の想いというか、距離感だと思うんです。だから、“知らない”とか“分からない”っていうのを前提に書いてるというか…まぁ、語彙力もあんまないですけど(笑)、それはそれでいいんじゃないかと思いますね。

話を「常緑」に戻すと、前2作に一貫したテーマがあったので、「By Your Side」を聴くと、これまでとは違う何かが歌の主人公に起こったのかなと思ってしまうんですよ。

この曲は自分の中の穢れとか不安とか悩みとか、そういうの取り払った、ふたりだけの完璧なラブソングというか、屈託のない愛みたいなところを歌いたい気持ちがあって書ききったんで、“君の全部が愛おしい”という…

盲信的な感じですね(笑)。

そうですね(笑)。結局、恋をしちゃうとそうなるというか、ズブズブにハマっちゃっているんですけど、“それもいいよね、それも愛おしいよね”って。今までは幸せの中にも憂いみたいな曲が多かったけど、この曲は最後まで幸せ一色で書ききっちゃおうと思って。そういうポップさ、明るさみたいなものを歌詞にも求めながら書いた曲ではありますね。そう言う意味では、確かに考え方はこれまでと全然違うかもしれないですね。

“常緑”って英語だと“エバーグリーン”じゃないですか。この曲はエバーグリーンというものの大橋さんのひとつの切り口なのかなと。

恋愛を花と結びつけている曲って多いと思うんです。「ドライフラワー」とか。そういう儚さや美しさみたいなのもすごく素敵ですけど、枯れない緑の青々さがずっと続いていく、広がっていく美しさや強さ、そういう恋愛も素敵じゃない?って。そんな日々を過ごしたいっていうことで“エバーグリーン=常緑”と。あとは、サウンド的にも自分の好きな音楽とか、自分がエバーグリーンだと思うような音楽をちょっとオマージュしたり、サンプリングしたりしながら作ったので、音楽としても自分の中のエバーグリーンを追求した一曲になったと思いますね。
大橋ちっぽけ
アルバム『you』

OKMusic編集部

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