圧倒的なエネルギーに満ちた
ブルース・スプリングスティーンの
3rdアルバム『明日なき暴走』

『Born To Run』(’75)/Bruce Springsteen

『Born To Run』(’75)/Bruce Springsteen

コロナ禍での開催で賛否両論が渦巻いた東京オリンピックが終わった。オリンピック開催前から国民を顧みない与党政治家たちの醜さは露見していたが、それでもやはりアスリートたちの熱のこもったパフォーマンスは素晴らしく、毎日手に汗を握りながらテレビの前で応援した人は多かっただろう。そんな中、乗馬の団体競技でブルース・スプリングスティーンの娘がメンバーとして銀メダルを獲得したという話を聞き、かつて大阪城ホールで彼のハンパない熱量のライヴを85年に観たことを思い出した。そんなわけで今回は、彼の模索が実を結んだ3rdアルバム『明日なき暴走(原題:Born To Run)』を取り上げる。

ディランズ・チルドレンとしてデビュー

スプリングスティーンは73年に『アズベリーパークからの挨拶状(原題:Greetings From Asbury Park)』でデビューした。当初はレコード会社の思惑で“ディランズ・チルドレン”というキャッチフレーズが売りになっていたのだが、彼はディランというよりはヴァン・モリソンのような歌い回しであり、しっかりロックしていたから“ディランズ・チルドレン”の言葉につられてこのアルバムを購入した人はピンとこなかったはずである。生ギター中心のナンバーは、おそらくレコード会社の指示によるものだ。何と言っても、このアルバムがデビュー作なのだから、彼自身レコーディングでは緊張の連続だったに違いない。このアルバムでは「反抗期(原題:Growin’ Up)」と「町で聖者は楽じゃない(原題:It’s Hard To Be A Saint In The City)」が白眉であるが、すでに彼らしいスタイルが随所に見られる佳作である。

より熱いロックンロールへ

彼はのちの自伝で「ボブ・ディランのような詩を書き、フィル・スペクターのようなサウンドを作り、デュアン・エディのようなギターを弾き、何よりもロイ・オービソンのように歌おうとした」と語っている。まぁ、要するにウェルメイドのロックンロールが演りたいということだろうが、それに一歩近づいたのが2作目の『青春の叫び(原題:The Wild, The Innocent & The E Street Shuffle)』(’73)である。冒頭の「E・ストリート・シャッフル」はソウル/ファンク的なテイストで、彼がバンドサウンドを楽しんでいるのがよく分かるナンバー。このアルバムには彼のライヴではお馴染みの「いとしのロザリータ(原題:Rosalita(Come Out Tonight))」(彼の曲を1曲選べと言われたら、僕はこれ!)や、ストリート感覚に溢れた熱いロックがぎっしり詰まっている。裏ジャケットに彼を含む6人のメンバーが写っているが、この写真は彼の目指すグループでの音楽制作を表わしていると思う。

OKMusic編集部

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